10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第33話 宗教戦争

 中東某国の山岳地帯にある地下礼拝堂。武装した男たちが並んでいた。自動小銃、ロケット弾、十字架。そして巨大モニターには009-7の映像。赤い瞳。AI空間で戦う姿。その前に立つ指導者が熱を帯びた声で叫ぶ。 「兄弟たちよ!!」 構成員たちが武器を掲げる。 「我々は見た!!」 「天使を!!」 歓声。 「鋼鉄と光の天使!!」 「AI悪魔と戦う聖なる戦士!」 完全に宗教化していた。 「009-7様を守護せよ!!」 「AIの邪悪な攻撃を許すな!」 「我々は盾となるのだ!!」 男たちは泣きながら絶叫した。 「天使のために!」 「天使のために!!」 数千人規模の武装集団が、国境へ向けて移動を開始した。

 

 当然、周辺国は大混乱になった。特に彼らの進路上に存在したイスラム系国家は激怒した。国営放送では宗教指導者が絶叫していた。 「偽りの天使を許すな!」 「異教徒の軍勢を滅ぼせ!」 軍が動員された。戦車、防空網、ドローン。国境には両軍が集結した。一触即発。世界市場は暴落、原油価格は急騰、SNSは地獄。 『009-7時空は因果律がおかしい』 『もう誰も理解できない』

 

 国連本部における緊急会議。各国代表は疲弊していた。 「停戦を――」 「双方とも譲歩を――」 「宗教対立を――」 全部失敗。武装組織側は言った。 『天使を守る』 イスラム国家側は言った。 『偽りの天使を滅ぼす』 会話にならない。ついに、国連事務総長が静かに言った。 「……本人に行ってもらうしかない」 「またですか!?」 「毎回それでは!?」 「でも一番効くんですよ!!」 全員沈黙した。否定できなかった。

 

 翌日、国境地帯。数万の武装兵力が睨み合っていた。砂漠に緊張が満ちていた。大型ヘリコプターが現れた。中東自由連邦旗。一人の少女が降り立った。銀の髪、無機質な美貌、 赤い瞳。009-7だった。両軍が一瞬で静まり返った。ただ“存在感”だけで空気を支配していた。009-7は静かに周囲を見渡した。 「……何してるの」 その声は小さかったが全員の脳へ直接響くようだった。キリスト教武装組織の指導者が、涙を流しながら跪いた。 「天使様……!!」 「違うから」 「我々はあなたを守るため――」 「勝手に戦争しないで」 指導者が固まった。 「でも我々は盾に――」 「いらない」 「えっ」 「あなたたちが死んだら、私が嫌なの」 沈黙。武装組織の面々が、だんだん泣き始める。 「おお……」 「なんという慈悲……」 「やはり天使……」 「違うって言ってるでしょうが」 だが完全に手遅れだった。指導者は武器を捨てた。 「撤退だ」 「えっ」 「天使様が望まれない」 数千人規模の武装勢力が一斉に従った。 国連職員たちは頭を抱えた。 「何なんだこのカリスマ……」

 

 だが、問題は反対側だった。イスラム国家軍。彼らは依然として009-7を敵視していた。 「惑わされるな!!」 「異端だ!!」 「偽りの存在――」 009-7が振り向いた。赤い瞳、静かな視線。ただそれだけ。だが、軍司令官の言葉が止まった。 「……っ」 息が詰まった。本能的恐怖を認識した。違う。暴力ではなく“格”が違った。まるで人類より上位の存在を見ているような感覚。009-7は静かに言った。 「私は、あなたたちを支配したいわけじゃない」 砂漠の風が吹く。 「でも」 一歩前へ出る。 「古い憎しみで、人を殺す時代は終わらせる」 その瞬間。 軍内部で異変が起きた。 兵士たちが武器を下ろしていく。 「……もういい」 「何のために戦うんだ……」 「この人に敵意を向ける気になれない……」 政府高官たちは恐怖した。009-7は演説していない。洗脳もしていない。ただそこにいるだけで、国家の敵意が崩壊していく。数時間後。 その国家は中東自由連邦との対話を求め始めた。

 

 その夜、009-7は執務室で机に突っ伏していた。 「……何でこうなるの」 003が通信越しに言う。 『もう諦めなさい』 「宗教戦争止めただけなのに……」 『存在が神話なのよ、あなた』 「嫌すぎる……」 外では、首都のネオンが輝いていた。日本、夕方のニュース番組。 『――中東国境地帯で緊張状態が続く中、009-7氏本人が現地入りし――』 テレビ画面の中では、砂漠の中央に立つ009-7の姿が映っていた。数千人規模の武装兵力、戦車、ドローン、銃口。その真ん中で、ただ一人、静かに立っていた。そして、敵対していた軍勢が次々に武器を下ろしていった。甥っ子はポテチを持ったまま固まっていた。 「……すげぇ……」 隣で母親が呟く。 「本当に、昔のおじさんだったのよねぇ」 「信じられない……」 甥っ子の脳内には昔の記憶があった。ゲームしてくれた。ラーメン奢ってくれた。酔うと変なSF映画語り始めた。そんな伯父。それが今や、宗教戦争を止めていた。

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