10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第34話 CMとイメージビデオ

 一方その頃、日本某所。大手下着メーカー会議室では、若手広報社員が震える声でプレゼンしていた。 「そこでですね……」 役員たちが資料を見る。そこには、009-7と003の画像。空気が凍った。 「……君」 「はい」 「正気か?」 「わかりません」 若手は目が据わっていた。 「でも今、日本で最も“美”の説得力がある二人です」 「まあそうだが……」 「003は元々世界的美女」 「うむ……」 「009-7はAI融合後、もはや芸術作品です」 「言い方」 「しかも二人とも元サイボーグ戦士で国家級存在感を持つ」 「下着CMに必要かそれ」 だが、若手は止まらない。 「今の時代、“強さ”と“美しさ”が共存するイメージが必要なんです!!」 役員たちは頭を抱えた。 「炎上する未来しか見えん……」

 

 しかし、当人たちは意外にも乗り気だった。 「面白そう」 009-7は即答した。003は苦笑する。 『あなた絶対そう言うと思った』 「最近ずっと国家運営と戦争ばっかりだったし」 『それはそう』 「可愛い服着るくらい許されるべき」 『まあ……』 003も少し考え。ふっと笑った。 『……たまにはいいか』

 

 CM撮影当日、スタジオは異様な空気だった。なにしろ、世界情勢を変える女たちがいる。なのに、「003、それ可愛い」 『そっちの方が似合ってるわよ』 「これ楽しいね」 『わかる』 めちゃくちゃ楽しんでいた。スタッフたちは困惑した。 「えっ、普通に仲良し……」 「もっと殺伐としてると思った……」 撮影が始まった。白を基調とした幻想的セット、柔らかな照明。003の大人びた美貌、009-7の無機質な神秘性。二人並ぶと破壊力が凄かった。監督が震えた。 「芸術だこれ……」 さらに、AIリンク状態の009-7が、無意識に空間演出まで最適化してしまった。光、風、布の揺れ、全部が完璧。 「何これ……」 「CMの概念が壊れる……」

 

 放送後、CMは爆発した。 『美の暴力』 『国家元首に性癖壊された』 『003と009-7が並ぶと人類が敗北する』 『AI融合美少女が下着CM出る時代』 『もう令和怖い』 株価まで上がった。世界中でミーム化。 親衛隊本部では、元特殊部隊マッチョたちが号泣していた。 「尊いぃぃぃぃ!!」 「ありがとう世界!!」

 

 そして、AV事務所からオファーが来た。003は即答した。 『断る』 「えー」 『えーじゃない』 009-7はちょっと面白そうな顔をしていた。 『あなた何考えてるの』 「いや、社会実験としては興味深いというか」 『ダメ』 「AIとエンタメ産業の融合を――」 『ダメ』 「表現の自由――」 『ダメ』 そこへ。 通信に009が入ってきた。 『……実は僕もちょっと見てみたい――』 『009』 003の声が低くなった。009が硬直した。 『いやその、純粋な興味で』 『あなた今、一瞬想像したわね?』 『えっ』 『顔に出てる』 『通信なのに!?』 003は深いため息をついた。 『男ってほんと……』 009-7は肩を震わせて笑っていた。 「003、完全に保護者」 『誰のせいだと思ってるの』

 

 その頃、日本のAV業界では、なぜか「絶対無理だろ」という空気なのに企画書だけが増殖していた。 日本の芸能界とAV業界は、恐ろしい執念を見せていた。 「絶対に諦めるな」 「相手は国家元首だぞ」 「だからこそ夢があるんだろ!!」 会議室では、なぜかスポ根漫画みたいな空気になっていた。

 

 一方、009-7は完全に面白がっていた。 「イメージビデオ?」 『ダメ』 003が即答する。 「でも本人だけ映す健全路線らしいよ」 『あなたの“健全”は信用できない』 「芸術作品って言ってた」 『AV業界が言う“芸術”は危険なのよ』 だが、009-7は最近、国家運営と宗教問題とAI戦争に疲れていた。 「……なんかもう、どうでもよくなってきた」 『投げやりにならないで』 「綺麗に撮ってくれるならいいかなって」 『よくない』 しかし最終的に、“芸術性重視のイメージ作品”という条件で、撮影は実現した。

 

 公開日、世界が壊れた。映像は異様な完成度だった。白い砂漠、水辺、黄金の光、静かな音楽。そして、009-7。AI融合後のあまりにも完成された美貌。人間離れした神秘性。滑らかな肌、長い髪、静かな視線。全裸シーンは存在した。だが核心部分は芸術的演出で巧妙に隠されている。露骨ではない、なのに異常に際どい。 「何だこれ……」 「美術館か?」 「脳が焼ける……」 SNSは爆発した。動画配信サイトは一時落ちた。しかし、最も業界を驚かせたのは女性人気だった。 『わかる』 『美しすぎて逆に神聖』 『自己肯定感が狂う』 『性別超えて憧れる』 『この人になりたい』 評論家たちが困惑した。 『これは性的商品なのか?』 『現代アートでは?』 『宗教画では?』 誰にも分類できなかった。

 

 一方、日本。甥っ子は部屋で頭を抱えていた。 「……俺は最低だ……」 ベッドの横にはタブレット。停止画面には009-7。年頃の男子だった。抗えなかった。だが、「元伯父さんなんだよなぁ……」 情緒が滅茶苦茶だった。さらに翌日、学校が地獄になった。 「見た?」 「見た」 「見た?」 「三回見た」 男子は全滅していた。目の下に隈、寝不足。 魂が抜けていた。 「お前寝てないだろ」 「無理だろあれ……」 「芸術とか言われても男子には限界がある……」 中には明らかにやりすぎた奴もいた。 保健室送りまで出た。 女子たちは呆れていた。 「男子ほんと馬鹿」 「でもちょっと気持ちはわかる」 「わかるんかい」

 

 そして、最も被害を受けていたのは009-7の娘だった。教室に入った瞬間、空気が死んでいた。 「…………」 「…………」 男子たちが目を逸らす。 女子たちは妙に気を遣った。娘は悟った。 「……あの動画見たな?」 男子たちが震えた。 「す、すまん……」 「不可抗力だった……」 「人類には早すぎた……」 娘は机に突っ伏した。 「最悪……」 その時、一人の男子が真顔で言った。 「でも、マジで世界一綺麗だった」 「フォローになってない!!」 教室が爆笑に包まれる。娘は顔を真っ赤にして叫んだ。 「もう嫌ぁぁぁぁ!!」

 

 一方その頃、009-7本人は中東自由連邦の執務室で報告書を読んでいた。 「……女性支持率、上がってる」 『だから言ったでしょう』 003が呆れ顔で言う。 『あなた、性的というより“理想像”として見られてるのよ』 「不思議ね」 『不思議なのは世界の方よ』 そこへ009が通信で入ってくる。 『……あの動画、芸術的でしたね』 『009』 『違う! 本当に芸術として!』 『目が泳いでる』 『通信なのに!?』 009-7は笑いを堪えながら、窓の外を見た。AI都市の夜景が黄金色に輝いていた。 「……何か最近、変な方向に進みすぎてない?」

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