10人目のサイボーグ   作:れぷとん

44 / 44
第42話 CIA工作員

 ワシントンD.C.。地下深く。CIA分析局。会議室の空気は重かった。 「問題は軍事ではありません」 「では何だ」 大型スクリーンに映った。モスクワ、雪。そして、ロシア人若手研究者と並んで歩く009-7。 「……ロマンスです」 沈黙。だが、誰も笑わなかった。中東自由連邦。AI、量子技術、エネルギー。今や超大国ですら無視できない存在であった。その元首である009-7が、もし感情的にロシア寄りになれば地政学バランスが変わる。 「国家は、時に個人感情で動く」 「特に天才は」 分析官が真顔で言った。 「009-7は合理主義者ですが、“研究者として理解される”ことに非常に弱い傾向があります」 スクリーンに大量のデータ。過去の会話、脳波傾向、SNS分析、好きな話題、苦手な態度。 全部解析済みだった。 「……対抗馬を投入します」

 

 数週間後の中東自由連邦で開催された国際科学フォーラム。そこへ、一人の男が現れた。 米国人、三十代後半、元MIT。量子神経工学の第一人者。しかも、ほどよく無精ひげ、知的、ユーモアあり、オタク気質。完全に“009-7好み”へ調整されていた。004は一目で察した。 『……臭いな』 002が首を傾げた。 「何が?」 『出来すぎている』 004は男を見て目を細める。 『視線』 『歩き方』 『会話の間』 『訓練されている』 スパイの匂いだった。だが、009-7はこういう方面は壊滅的に鈍かった。

 

 「えっ、その理論知ってるの!?」 『もちろん』 「うわぁ話せる人いた!!」 数時間後、普通に意気投合していた。003が頭を抱えた。 『チョロい』 002が爆笑した。 「009-7、研究者相手だと警戒心ゼロだな!」 009-7は楽しそうだった。 「だって面白いんだもん」 004だけが険しい顔をしていた。

 

 そこへ001が来た。赤ん坊の姿の超能力者。静かな瞳で001はそのCIA工作員を見た瞬間、全部読んだ。そして、夕食会。各国研究者が集まる穏やかな場で、突然、001が静かに言った。 『CIAの任務は順調ですか?』 全員停止した。空気凍結。CIA工作員の顔色が変わった。 『……何の話です?』 001は無表情だった。 『“009-7の対露感情中和計画”』 沈黙。 『恋愛傾向分析』 『親密度誘導』 『接触時間調整』 『好感度最適化会話』 全部読み上げた。CIA工作員は完全硬直。002が吹き出した。 「うわ本当にCIAだ!!」 003が額を押さえた。 『最悪……』 009は青ざめた。 『またロマンス工作!?』 009-7本人だけが 「えっ」 「……えっ?」 本気で理解していなかった。CIA工作員は観念したようにため息をついた。 『……半分事実です』 「半分!?」 『最初は任務でした』 009-7が固まった。周囲も静まり返った。だが、男は少し困ったように笑った。 『でも、あなたと話すのは本当に楽しかった』 それは嘘ではなかった。001も、それを読んでいた。 『……そこは本物』 妙にややこしかった。004は深いため息をついた。 『だから言った』 「もっと早く教えてよ!」 『お前が楽しそうだったからな』 「うぅ……」 009-7は本気で落ち込んだ。003は少し複雑な顔をした。 『……でも』 『?』 『国家とか任務とか抜きで、好かれるのは仕方ないと思う』 009-7が止まった。002も珍しく真面目だった。 「実際、お前めちゃくちゃ魅力あるしな」 「面倒くさいけど」 「危険だけど」 「変だけど」 「でも放っとけない感じある」 「褒めてる?」 「たぶん」

 

 その夜、009-7はホテルの窓から夜景を見ていた。ロシア研究者、CIA工作員。世界中の思惑。全部ぐちゃぐちゃだった。 「……恋愛って、面倒だなぁ」 そこへ通信が入った。ロシアの若手研究者だった。 『今、時間ありますか』 009-7は少しだけ笑う。 「……うん」 少なくとも、あの青年の言葉は最初から本物だった。モスクワの深夜、雪が降っていた。ロシア科学アカデミーの若手研究者――セルゲイは研究室で一人量子演算ログを見つめていた。だが、頭の中は全く別のことで埋まっていた。009-7。未来みたいな女性。AI融合、国家元首。なのに、研究の話をしている時だけ妙に人間くさい。目を輝かせて、楽しそうに理論を語った。セルゲイは自分でも笑ってしまった。 「……本当に好きになってしまったな」 国家戦略でも打算でもない。純粋に、一人の研究者として惹かれていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

聖戦士アムロ(作者:くまぷーⅢ世)(原作:聖戦士ダンバイン)

 バイストン・ウェルの物語を覚えている者は幸せである。▼ 心、豊かであろうから……▼ 私達はその記憶を記されてこの地上に生まれてきたにも関わらず、思い出すことのできない性を持たされたから……▼ それ故に、ミ・フェラリオの語る、次の異なる物語を伝えよう。▼ シャアとの最後の戦いの中、地球へ落下するアクシズをνガンダムで止めようとしていたアムロ・レイは眩い閃光に…


総合評価:3133/評価:8.63/連載:9話/更新日時:2026年02月12日(木) 23:46 小説情報

真祖吸血鬼、まだ存在しないアメリカに寄生する 〜合法的な血液供給のため、建国前から国家運用保守を始めました〜(作者:パラレル・ゲーマー)(オリジナル歴史/冒険・バトル)

アメリカ建国250年おめでとうございます記念小説です。▼欧州の吸血鬼貴族ヴァレンシュタイン家に転生したルカは、始祖の血を濃く継ぐ「真祖の中の真祖」だった。▼霧化、影操作、自己再生、記憶読取、そして前世の記録から現代の物品や情報を引き寄せる力。▼無法なまでのチートを持って生まれたルカだったが、両親の価値観は最悪だった。人間牧場、血統管理、血の風呂。現代日本人の…


総合評価:709/評価:6.79/連載:19話/更新日時:2026年07月12日(日) 19:41 小説情報

地球連邦軍上層部はいつも多忙です。(作者:はにわはにわ)(原作:機動戦士ガンダム)

宇宙世紀0083年。核攻撃で観艦式が壊滅する中、地球連邦軍最高司令部の苦労人大将は、コロニー落とし阻止のため胃薬片手に奔走する。▼第二章スタートしました。0083年から機動戦士Zガンダム本編開始直前の0087年までを描きます。


総合評価:5899/評価:8.42/連載:24話/更新日時:2026年07月03日(金) 01:00 小説情報

愛と勇気と正義にかけて、市民をお守りいたします!(作者:イングラマン)(原作:機動警察パトレイバー)

某巡査の娘が特車二課第二小隊に配属される、原作再構成二次小説です。▼自分が読みたいがために投稿しました。▼・TVアニメ版を軸にOVA、漫画版や小説版をミックスしています。▼・転生オリ主最強です。▼・一部キャラクターの生年と経歴を変更しています。▼・作者は警察組織や軍事関係、コンピュータについてはネットで調べた程度の知識しかありません。▼以上の点を踏まえて、本…


総合評価:3103/評価:9.04/連載:17話/更新日時:2026年07月10日(金) 18:00 小説情報

銀河腐れ伝説(作者:ウヅキ)(原作:銀河英雄伝説)

キガ ツク トワ タシ ハギ ンガ テイ コク ノキ ゾク ニナ ッテ イタ▼ソレ デモ ワタ シハ カツ テノ ユメ ヲワ スレ ナイ▼今更ながら原作キャラの血縁者に生まれたオリジナルキャラクターを主人公に、銀河英雄伝説の二次創作に挑戦してみました。クロスオーバー作品ですが片割れはほぼ出番がありません。▼本作品はらいとすたっふ規定(2015年改訂版)を遵守…


総合評価:5031/評価:8.76/連載:30話/更新日時:2026年07月12日(日) 11:17 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>