009-7の娘――美由紀は不機嫌だった。理由は、従兄弟である拓也からの延々と続く自慢話であった。 『いやマジで大変だったんだって!』 「はいはい」 『アメリカとロシアと日本の美少女がさぁ!』 「うざ」 『しかも全員俺のこと――』 「はいはいモテモテですねー」 美由紀はジト目だった。だが、最後まで話を聞くと感想は一つだった。 (……結局めちゃくちゃいい思いしてるじゃん) 国家間諜報戦? 任務? そんなもの高校生男子にとっては“美少女に囲まれた青春イベント”でしかなかった。 「何で私には何もないのよ!」 つい口に出た。すると、父親である009-7が即座に反応した。 「美由紀」 「はい」 「その発言は色々危ない」 「ごめんなさい」 003が紅茶を飲みながら笑った。 『親子ねぇ』 「やめて」
その夜、結局またファミレスへ行くことになった。 「ファミレスって落ち着くよね」 009-7が普通にパフェを食べていた。国家元首なのだがパフェは好きなのだ。003も普通にドリンクバーへ行った。002は肉を頼みすぎていた。004は静かにコーヒー。009は妙に幸せそうだった。一方、高校生組は拓也と三人の美少女、そして美由紀。すぐに意気投合した。 『へぇ〜009-7さんて美由紀ちゃんのお父さんだったんだ。おっさんだね』 「言い方」 『小さい頃どうだった?』 「普通にゲームしてた」 「あと妙に科学オタク」 009-7が遠くで吹き出した。 「やめて」 さらに、エミリーとアーニャと詩織は、三人とも以前ほどギスギスしていなかった。任務は任務。でも、今は割と普通に友達だった。
CIA、FSB、日本側。それぞれ複雑な思いをしていた。 「……結果的にパイプはできたな」 009-7本人へ直接アクセス可能。しかも、完全敵対ではなかった。これは外交的にはかなり大きい。特に、009-7は“人間関係”をかなり重視した。だから、今回の件は意外と無意味ではなかった。FSBでは担当がぼそっと言った。 「まさか高校青春イベント経由で外交ルートができるとは……」 CIAでも担当が疲れた顔だった。 「世界情勢がラブコメすぎる」
一方、当の009-7はパフェを食べながら普通に言った。 「でもさ」 「こういうの、悪くないよね」 003が頷いた。 『戦争するよりはね』 009も笑った。 『うん』 004は静かにコーヒーを飲んだ。002は山盛りポテトを食べながら言った。 「結局、人間同士で仲良くなるのが一番強いんだよな」 その言葉に一瞬だけ全員が静かになった。窓の外、東京の夜景。世界は相変わらず複雑で、国家同士は疑い合い、AIは暴走し、量子技術は軍事化される。でも、ファミレスで笑い合う若者たちを見ていると、少しだけ未来も悪くない気がした。