10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第47話 ストレス改善

 例の深夜番組は放送翌日には完全に“社会現象”になっていた。SNSでは、【009-7様を乱したい】 【009-7親衛隊、羨ましい】 【004は危険】 【009は絶対初心】 などというタグが飛び交い、日本中がおかしな熱狂に包まれていた。そして、その熱狂に最も敏感に反応したのは夜の業界だった。都内有数の高級ソープ店。豪奢なシャンデリアの下、店主がカメラの前で堂々と宣言した。 「我々は009-7親衛隊を応援します!」 背後に謎の巨大ポスター。そこには神々しい加工を施された 009-7 の姿が。 「中東自由連邦支店を開店!親衛隊手帳をご提示いただければ特別割引を適用!国家と世界平和のために尽くす皆様に癒やしを!」 テレビスタッフが爆笑した。 「何なんですかその制度!?」 「社会貢献です!」 結果、本当に行き始めた。しかも親衛隊員たちは、妙に満たされた顔で帰ってきた。 「……世界は美しい。」 「任務への集中力が向上した。」 「腰痛が治った気がする。」 「笑顔が増えた。」 基地の空気が微妙に明るかった。医療班は困惑していた。 「ストレス値が減少している……?」 「睡眠の質まで改善しています。」 「なぜだ。」

 

 部隊の一室で、一人の男が深刻な顔で座っていた。元・革命防衛隊員。かつては反西側思想の闘士として戦い、今は 009-7 の親衛隊員として活動する青年だった。彼は苦悩していた。 「……これは西側資本主義の堕落ではないのか。」 机を叩いた。 「快楽に溺れれば魂が腐敗する!」 だが、その脳裏には同僚たちの異様に晴れやかな顔が浮かぶ。 『すごかった……』 『人生観が変わった。』 『世界を守ろうって気持ちになった。』 意味が分からなかった。本当に分からなかった。しかし彼もまた健康な若者だった。悩めば悩むほど意識はそちらへ向かった。 「いや、しかし……!」 その時、食堂のテレビに009-7が映った。国際難民支援会議の中継だった。白い軍服姿の009-7は静かな声で語っていた。 「人は誰でも幸福になる権利がある。」 会場が静まり返った。 「神は、人間が幸せになることを妨げない。」 その赤い瞳はどこまでも穏やかだった。 「苦しみだけを尊び、幸福を否定する思想は、人を救わない。」 青年は息を呑んだ。 「人生に安らぎは必要だ。笑顔も必要だ。」 そして009-7は少し考えるように首を傾げた。 「……あと、適切なストレス発散は健康に良い。」 隣の外交官が吹き出しかけていた。青年は固まった。 「009-7様が……そう仰るなら……」 三十分後、彼は高級ソープ街の前に立っていた。顔は真っ赤、脚は震えていた。 「これは任務の一環……。」 受付嬢が微笑んだ。 「親衛隊の方ですね♡ 割引適用です♡」 「ぐっ……!」 理性が揺らいだ。だが彼は覚悟を決めた。 「……دخلت المعركة(戦場に入る)」 二時間後、彼は夜風の中を歩いていた。ふらふらと、魂が半分抜けたような顔で。 「……天国だ……。」 空を見上げた。 「この世に……こんな場所が……。」 遠くでネオンが瞬いた。人々の笑い声、平和な街。彼は静かに涙を流した。 「私は……狭かった……。」 翌日、彼は基地で誰よりも働いた。 「補給線を再確認しろ!」 「民間人保護を優先!」 「009-7様の理想を実現するのだ!!」 士気が異常に高かった。同僚が呆然とした。 「どうした急に。」 青年は真剣な顔で答えた。 「人類は守る価値がある。」 「いや何があった。」 彼は胸に手を当てた。 「幸福を知った者は強い。」

 

 司令室でその報告書を読んだ003が頭を抱えていた。 「……なんでこうなるのよ。」 009-7は紅茶を飲みながら言う。 「良いことでは?」 「親衛隊の士気向上の理由がおかしいのよ!!」 004は無言で煙草を揉み消した。009だけが、ものすごく複雑そうな顔をしていた。数日後、フランソワーズ・アルヌールは深いため息をついていた。 「……男って本当に馬鹿。」 ソファに座る00ナンバーたち。002は新聞を広げたまま肩を震わせていた。見出しは、【親衛隊員、夜の街でストレス改善】 【任務効率向上の謎】 【009-7経済効果】 「経済効果って何だよもう!」 007が笑い転げた。004は無言でコーヒーを飲んでいた。003は額を押さえた。 「そもそも何なのこの流れ。世界平和組織でしょう私たち。」

 

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