10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第49話 009とキャバクラ

 その日の基地は妙に騒がしかった。若い親衛隊員たちが、なぜか009島村ジョーを取り囲んでいた。 「009さん! 一回くらい行きましょうよ!」 「社会勉強ですって!」 「別に悪い場所じゃないです!」 009は困惑していた。 「いやでも……。」 「003さんだってホストクラブ行ったじゃないですか!」 「うっ。」 痛いところを突かれた。しかも周囲が一斉に頷く。 「公平性ですよ公平性!」 「男性にも癒やしは必要です!」 「戦う男にも安らぎを!」 どこかで聞いたようなスローガンだった。すると後ろから002がニヤニヤしながら現れる。 「いいじゃねえか、ジョー。」 「002まで!?」 さらに、壁際で煙草を吸っていた004がぼそりと言った。 「……たまには付き合ってやる。」 「004!?」 こうして、なぜか00ナンバー男性陣によるキャバクラ視察会が決定した。

 

 店側は大騒ぎだった。 「本物の00ナンバー来るの!?」 「待って待って無理!!」 「え、004様って本当にいるの!?」 「009かわいいってマジ!?」 「002絶対チャラい!」 開店前なのに空気が完全にライブ会場であった。そして扉が開いた瞬間、店内の空気が止まった。002、004、009、本物。本当に本物。一秒後、「きゃあああああ!!」 悲鳴のような歓声。店長が腰を抜かしかけていた。 「今日は赤字でもいい……!!」 まず大人の余裕を見せたのは004だった。アルベルト・ハインリヒ はソファに深く座り、静かにグラスを持った。女性たちは最初こそ緊張していたが、004の落ち着いた対応に徐々にほぐれていった。 「緊張してるのか。」 「え、はい……。」 「無理しなくていい。」 低い声、自然な気遣い、キャバクラ嬢たちは内心で悲鳴を上げていた。 (ずるい。) (これはモテる。) (危険。) 一方002、ジェット・リンクは完全に場を回していた。 「ははは! それでどうなったんだよ!」 「えー! 聞いてくださいよ!」 「ジェットさん面白すぎる!」 ノリが軽い、距離感がうまい。盛り上げ方を知っている。店内が完全に002中心で回っていた。 「シャンパン入りましたー!!」 「うおおお!!」 お祭り状態である。そして問題は009だった。009はぎこちなかった。妙に姿勢がいい。真面目すぎた。 「え、えっと……大変なお仕事ですね。」 「ふふっ。」 「無理してませんか?」 「ふふふっ。」 「?」 キャバクラ嬢たちは顔を見合わせた。 (かわいい。) (何この人。) (絶対いい人。) (守りたい。) 009は本気で相手を気遣っていた。営業トークとしてではなく、本当に。 「夜遅いですし、体調とか……。」 「009さん優しすぎる……。」 しかも照れやすかった。褒めると真っ赤になった。それがたまらなく可愛かった。 「もう無理、好き。」 結果、キャバクラ嬢たちが本気で情が移った。

 

 数日後、基地の受付に大量の差し入れが届いた。 「……なんだこれ。」 007が箱を見る。 高級スイーツ、栄養ドリンク、手作り弁当、メッセージカード。 【009さんへ♡】 【無理しないでね】 【今度また来てください】 009は真っ赤だった。 「な、なんで!?」 002は腹を抱えて笑っていた。 「モテモテじゃねえかジョー!」 004は煙草をくわえながら呟いた。 「……天然だな。」 009は差し入れのクッキーを見ながら困っていた。 「でも……悪い人たちじゃなかったよ。」 「おっ。」 「みんな頑張って働いてて……。」 少し嬉しそうですらあった。

 

 その瞬間、部屋の空気が冷えた。 「……へえ。」 全員が振り向いた。そこには003フランソワーズ・アルヌール が立っていた。笑顔だが目が笑っていなかった。009が固まった。 「003、これはその……」 「楽しそうでよかったわね。」 「いや、違っ……」 「差し入れまで貰って。」 002と007がそっと距離を取った。004だけが静かに煙を吐いた。003は箱を一つ持ち上げた。 「“009さん大好き♡”」 読み上げた。009が死にそうな顔になった。 「……ジョー?」 「はい。」 「説明して?」 「ご、ごめんなさい……。」 002が小声で呟いた。 「戦場より怖え。」 004が静かに頷いた。司令室の隅で島村ジョーは正座していた。完全に小さくなっていた。目の前には腕を組んだフランソワーズ・アルヌール 。 「で?」 「……はい。」 「楽しかったの?」 「……はい、ちょっと。」 「ジョー?」 「ごめんなさい。」 完全に“付き合いでキャバクラに行ったのが奥さんにバレたサラリーマン”だった。002と007は遠くから見ながら肩を震わせていた。 「だめだ、面白すぎる。」 「完全に家庭だよこれ。」 004は静かに煙草を吸っていた。 「……平和だな。」 003は説教を続けた。 「そもそも、差し入れって何よ。」 「いや、断るのも悪いかなって……。」 「手作り弁当まであるじゃない!」 「栄養考えてくれたみたいで……。」 「そこ感心しない!!」 009はますます縮こまった。

 

 その時、「まあまあ。」 のんびりした声が響いた。一同が振り向いた。そこにいたのは 009-7 だった。 「ジョーは悪気があったわけではない。」 003がむっとした。 「でも!」 「付き合いというものもある。」 009-7はどこか遠い目をした。 「……会社員時代を思い出す。」 002が吹き出した。 「おっさんの記憶出てきた!」 「接待、付き合い、空気を読む文化……。」 009-7は妙に実感のこもった顔で頷いた。 「断れない飲み会というものは存在する。」 009が思わず顔を上げた。 「わ、分かってくれる!?」 「ジョー。」 「はい。」 「君は典型的な“怒られるタイプの善人”だ。」 「うっ。」 003はじとっと009-7を見る。 「009-7まで甘やかさないで。」 「だがフランソワーズ。」 「何。」 「君は少し嫉妬しているだけでは?」 静止した。003の顔が赤くなった。 「ち、違うわよ!」 002と007が吹き出した。 「図星だ!」 「若いねえ!」 003は真っ赤になった。 「もう知らない!!」 そのままぷいっと出て行ってしまった。009は青ざめた。 「003!?」 009-7は首を傾げる。 「……悪化したな。」 「したよ!!」

 

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