10人目のサイボーグ   作:れぷとん

52 / 53
第50話 003と009の仲直り

 その夜、009はベッドの上で悶々としていた。 「……はぁ。」 眠れなかった。003の顔が頭から離れなかった。怒った顔、拗ねた顔、少し傷ついたような顔。 「……嫌われたかな。」 胸が苦しくなった。すると、部屋のドアがそっと開いた。009が顔を上げると「003……。」 立っていたのは003だった。普段より少し弱ったような顔をしていた。 「……起きてたの。」 「うん。」 少し沈黙。003は視線を逸らした。 「……ごめんなさい。」 「え?」 「言いすぎた。」 009は目を瞬かせた。003は小さな声で続けた。 「ジョー、優しいから……女の人に好かれるの、当たり前なのに。」 「003……。」 「でも、なんか嫌だったの。」 ぽつり。 「……嫌いにならないで。」 その瞬間、009はたまらなくなって003を抱きしめた。 「そんなわけないよ。」 003もぎゅっと抱きつく。 「だってジョー、すぐ他の人に優しくするんだもの。」 「003が一番だよ。」 003は顔を上げた。互いの鼓動が伝わる距離。そして自然に二人は唇を重ねた。長い間、戦い続けてきた二人。互いを失う怖さも、孤独も知っている。だからこそ、その夜、二人は互いの温もりを確かめ合うように寄り添った。

 

 翌朝の食堂。002がコーヒーを飲みながら目を細めた。 「……あれ。」 009と003が入ってきた。妙に距離が近かった。空気が柔らかかった。003の機嫌が明らかに良かった。 009は照れていた。007がにやっと笑った。 「なるほどねぇ。」 004は無言で煙草をくわえる。 「……仲直りしたか。」 006が頷いた。 「分かりやすい。」 009と003は顔を赤くした。 「な、何よ。」 「別に普通だよ!」 002が肩を震わせる。 「はいはい。」 そこへ009-7が現れ、二人を見比べた。 「ふむ。」 「な、何。」 「人類の和解と融和は素晴らしい。」 003が真っ赤になった。 「言い方ぁ!!」 基地には久しぶりに穏やかな笑い声が響いていた。

 

 数日後、親衛隊内部ネットワークはとんでもない話題で持ち切りだった。 【00ナンバー、キャバクラ視察】 【003、009を説教】 【009-7、“付き合いも必要”と擁護】 【009、正座】 なぜ漏れたのか、誰が流したのか。全員、だいたい犯人の見当はついていた。 「002だろ。」 「002ですね。」 「002様だな。」 満場一致だった。だが、不思議なことに、親衛隊内部の空気はむしろ柔らかくなっていた。若い隊員たちは盛り上がった。 「なんか急に親近感湧いた。」 「わかる。」 「世界的英雄なのに、“彼女に怒られて正座”って。」 「急に人間味ある。」 「009さん普通にいい人すぎる。」 009の株が妙な方向に上がっていた。特に男性隊員たち。 「付き合いで行っただけなのに怒られるの、わかる……。」 「断れない時あるよな……。」 「でも正直に話したの偉い。」 「逃げなかったの漢だ。」 なぜか同情が集まっていた。一方、女性隊員側。こちらは意見が割れていた。 「003さんが怒るのも分かる。」 「わかる。」 「でも009さん悪気なさそう。」 「そこが余計に罪深いタイプ。」 「天然人たらしだよね。」 「しかも本人無自覚。」 結論。 【どっちも悪くない】 だった。

 

そして、今回最も評価を上げた人物は、やはり 009-7 だった。食堂では隊員たちが熱く語っていた。 「009-7様は理解がある……。」 「大人の付き合いを分かっておられる。」 「器が広い。」 「接待文化への理解が深い。」 「社会経験がある。」 元サラリーマン勢から絶大な支持。さらに、「“怒られるタイプの善人”発言、深すぎる。」 「あれ刺さった。」 「人生経験を感じる。」 「やはり009-7様……。」 どんどん神格化されていった。ある若い親衛隊員などは真顔で言った。 「009-7様は、我々の“理解ある上司”の理想像では?」 「それだ。」 「わかる。」 完全に変な方向へ進んでいた。

 

 一方その頃の当人たち。 「……なんでこんなに広がってるの。」 003が頭を抱えた。009はもっと悲惨だった。 「僕もう基地歩けない……。」 通りすがる隊員たちが妙に優しいのだ。 「頑張ってください009さん!」 「負けないでください!」 「003さん大事にしてくださいね!」 009は真っ赤になった。 「うわあああ!!」 002は笑い転げていた。 「人気者じゃねえか!」 「002のせいでしょこれ!!」 004は煙草をくわえながら静かに言った。 「……まあ悪い空気ではないな。」 実際、隊員たちは00ナンバーを以前より身近に感じ始めていた。完璧な英雄ではない。悩みもする。恋人と喧嘩もする。付き合いで夜の店にも行く。怒られて正座もする。それでも世界を守るために戦っている。だからこそ、彼らは余計に慕われ始めていた。

 

 夕方、廊下を歩いていた009-7は若い親衛隊員たちに敬礼された。 「009-7様!」 「お疲れ様です!」 妙に熱量が高かった。009-7は首を傾げた。 「……?」 一人の隊員が真剣な顔で言った。 「我々も社会人として頑張ります。」 「?」 「付き合いを理解できる大人になります!」 「……そうか。」 009-7は少し考えたあと頷いた。 「ただし節度は大事だ。」 「はい!!」 隊員たちは感動していた。遠くで見ていた003が呟いた。 「なんで人生訓みたいになってるのよ……。」 009はまだ顔を覆っていた。親衛隊基地の空気は、ここしばらく驚くほど穏やかだった。隊員たちの士気は高かった。00ナンバーサイボーグたちへの距離感も縮まり、笑顔が増えた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。