10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第51話 薬物汚染

 最初の異変は、あまりにも小さかった。夜、基地の中庭。004アルベルト・ハインリヒは煙草をくわえたまま立ち止まった。 「……?」 風に混じる匂い、煙 微かな甘い臭気。 004の目が細くなった。 「これは……。」 ゆっくり振り向いた。若い親衛隊員たちが数人、慌てて隠すように煙草を消した。 「な、なんでもありません!」 004は無言で一本を取り上げた。匂いを嗅いだ。そして低く言った。 「……大麻だ。」 空気が凍った。

 

 一時間後、00ナンバーサイボーグたちは緊急招集されていた。会議室の空気は重かった。 009が険しい顔で言った。 「どこから入ったんだ。」 006が資料をめくった。 「最近、繁華街で急速に広まっているらしい。」 003の顔色も悪かった。 「親衛隊員にも……?」 「既に数十人規模だ。」 沈黙。007が珍しく真顔だった。 「……ブラックゴーストか。」 その名が出た瞬間、空気がさらに冷えた。かつて世界中に戦争と混乱を撒き散らした闇の組織、ブラックゴースト。009-7が静かに言った。 「平和と安定が生まれた時、人は“別の弱点”を狙われる。」 004が煙を吐いた。 「酒、女、薬……昔から同じだ。」 009は拳を握った。 「放置したら壊される。」 「うむ。」 009-7は頷いた。 「これは戦争だ。」

 

 現地は想像以上だった。繁華街、裏路地、クラブ、夜の市場。若者たちの間に既に薬物は静かに浸透し始めていた。しかも厄介なのは、「“ただのリラックス用”として広めている。」 003が資料を見ながら言った。 「軽いドラッグだって。」 005が低く唸った。 「入口にする気か。」 004は既に確信していた。 「……手口が古典的だ。」 最初は軽い快楽、依存、借金、犯罪、組織支配。ブラックゴーストはいつもそうやって社会を腐らせる。

 

 対策会議で009-7は世界地図を見ながら言った。 「我々だけでは限界がある。」 「だな。」 002が頷いた。 「捜査ノウハウが必要だ。」 そこで名前が挙がったのがアメリカだった。麻薬問題で長年苦しみ続け、巨大な取締機関と実戦経験を持つ国。数日後、中東自由連邦空港に一機の政府専用機が降り立った。タラップを降りてきたのは、鋭い目をした男女だった。防弾ベスト、連邦捜査官バッジ。アメリカ麻薬取締局――DEA。先頭の男がサングラスを外した。 「協力要請を受けた。」 英語、低い声。 「麻薬カルテル相手なら慣れてる。」 009が前に出た。 「ありがとう。」 DEA捜査官は00ナンバーたちを見回した。 「……本当にいるんだな、“サイボーグ”。」 004が煙草を揉み消した。 「お互い仕事だ。」 捜査官は苦く笑った。 「違いない。」

 

 その夜、009-7は中東自由連邦の街を見下ろしていた。光が広がっていた。平和になり始めた街、笑う人々。だがその裏で静かに毒が広がっていた。009が隣に立った。 「守れるかな。」 009-7は静かに答えた。 「守る。」 その声に迷いはなかった。 「人間の幸福を壊させはしない。」 遠くでサイレンが鳴っていた。新たな戦いが始まろうとしていた。戦いは静かに始まった。銃声も爆発もない。だが確実に人を壊していく戦争だった。

 

 中東自由連邦全土で大規模な麻薬摘発作戦が始動した。夜明け前、親衛隊特殊部隊が繁華街を包囲した。 「突入!」 扉が破られ、売人たちが悲鳴を上げた。 「動くな!」 「武器を捨てろ!」 だが00ナンバーたちは単なる“摘発”では終わらせなかった。009-7 は明確に命じていた。 「中毒者を犯罪者としてだけ扱うな。」 隔離施設、医療棟、カウンセリング、社会復帰支援、仕事の斡旋、教育、再発防止。009-7は医療チームに言った。 「依存は弱さではない。」 若い患者たちは泣いていた。 「戻りたい……。」 「人生をやり直したい……。」 003はその手を握った。 「大丈夫。」 005は施設建設を手伝い、006は温かい食事を作り、007は子供たちを笑わせていた。そして004は、静かに売人を追い詰め続けた。

 

 だが、調べれば調べるほど事態は根深かった。援助物資、難民支援、医療コンテナ、食糧輸送。そこに紛れ込む麻薬。DEA捜査官が険しい顔で言った。 「プロの手口だ。」 009が資料を見た。 「内部協力者がいる。」 そして、裏切り者は見つかった。旧政府軍幹部、 かつて中東自由連邦に降伏し、“協力者”として受け入れられた男だった。男は薄暗い地下室で笑った。 「平和国家ごっこは楽しかったか?」 009は怒りを抑えていた。 「なぜだ。」 「人は欲に勝てない。」 男は嘲笑した。 「理想だけで国家は回らん。」 その瞬間、009-7の赤い瞳が冷たく細められた。 「だから貴様は敗北した。」 空気が凍った。男は震えた。 「ひっ……。」 数日後、その組織は完全に排除された。内部協力者も摘発、物流ルートも封鎖。一時的に麻薬流通量は激減した。街には安堵が広がった。だが、DEAの責任者は重い顔をしていた。 「……終わってない。」 会議室の空気が沈んだ。巨大スクリーンに映し出される衛星写真。南米、密林、武装集団、巨大なコカイン精製施設。 「供給元だ。」 DEA の責任者は低く言った。 「カルテル本体は無傷。」 004が煙草をくわえた。 「尻尾を切っただけか。」 「そうだ。」 アメリカ側は率直だった。 「奴らは国家並みの武装を持つ。」 装甲車、地対空ミサイル、私兵、買収された政治家、巨大資金。 DEA捜査官が苦々しく言う。 「下手な軍隊より強い。」 沈黙。そして、アメリカ側代表は真正面から言った。 「我々は00ナンバーサイボーグの協力を求める。」 空気が重くなった。002が顔をしかめた。 「……つまり。」 「カルテルとの戦争だ。」

 

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