10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第56話 いじめ

 人が集まれば、必ず影もできる。クラスに一人、面白くない女子がいた。名前は沙耶。 元々、自分がクラスの中心だった。男子にも人気があった。だが今、全部、009-7の甥、拓也の周りの三人に持っていかれていた。 「……何なのあいつら。」 しかも、男子たちは妙に三人を特別扱いした。教師すら一目置いていた。気に入らなかった。

 

 最初は小さな嫌がらせだった。机に落書き、陰口、靴を隠す。だが、エミリーは気づいても笑うだけ。 「子供っぽい。」 アーニャはそもそも気にしない。 「効率が悪い。」 そして詩織。彼女が最も狙いやすそうだった。日本人、優しそう、大人しそう。だから沙耶は詩織をターゲットにした。だが、何をしても、詩織はまったく動じなかった。公安エージェント、嫌がらせ耐性が高すぎる。盗聴、脅迫、心理誘導、政治家の圧力。それらを経験してきた女に女子高生の陰湿さは効かなかった。むしろ、時々、詩織の目が怖かった。

 

 そして事件が起きた。放課後の階段。沙耶は苛立ちのまま、後ろから詩織を突き飛ばした。 「っ!」 普通なら転がり落ちていた。だが、詩織は空中で体勢を変えた。手すりに軽く触れ、一回転。音もなく着地した。周囲が静止した。 「……え?」 沙耶の顔が青ざめた。詩織がゆっくり振り返る。その目から一瞬だけ本物の殺気が漏れた。公安特殊訓練、対テロ任務、修羅場を潜った人間の目だった。目が光ったような気がした。沙耶は腰を抜かしかけた。 「ひっ……。」 詩織はすぐに表情を戻した。 「危ないから、やめた方がいいよ。」 優しい声だった。だが余計に怖かった。

 

 その夜、三人は相談していた。 「……さすがに放置できない。」 エミリーが真顔だった。 アーニャも頷いた。 「エスカレートする。」 詩織は困った顔。 「でも大事にしたくない。」 「だから脅すだけ。」 エミリーがにっこり笑う。 「軽くね♪」 その笑顔が一番怖かった。翌日、校舎裏。沙耶は呼び出されていた。三人が並んでいた。空気が重かった。 「……な、何。」 エミリーが微笑む。 「詩織に嫌がらせしてたよね?」 「……。」 アーニャが静かに前へ出る。 「次はやめろ。」 低い声、冷たい目。沙耶は震えた。詩織は困ったように言う。 「本当は仲良くしたかったんだけどな。」 その時、風が吹いた。三人の髪が揺れる。妙に絵になった。そして、エミリーがふと言った。 「私たち、009-7に助けられたの。」 「え?」 「だから今度は、誰かを守りたい。」 その言葉に沙耶は呆然とした。009-7、世界を救った英雄、中東自由連邦の象徴。その関係者たち。しかも、自分はそんな人たちに本気で怒られていた。急に現実感が消えた。 「わ、私……。」 エミリーが肩に手を置いた。 「悪い子じゃないでしょ?」 沙耶は泣きそうになった。 「ご、ごめんなさい……。」

 

 翌週、沙耶は変わっていた。 「009-7様って本当に凄い人なんだね……。」 「え?」 「世界平和とかやばくない?」 「急にどうした。」 しかも、三人に妙に懐いた。 「詩織ちゃん、ごめんね!」 「う、うん。」 「エミリーちゃん髪綺麗!」 「ありがと♪」 「アーニャちゃん怖かった!」 「知ってる。」 さらに、009-7グッズまで集め始めていた。拓也は頭を抱えた。 「なんでこうなるの……。」

 

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