10人目のサイボーグ   作:れぷとん

61 / 63
第59話 002が婚活

 ある夜の中東自由連邦本部。002は一人で酒を飲んでいた。 「……おかしくね?」 誰に言うでもなく、ただ虚空を見つめた。周囲を見れば、まず009、003と完全に恋人同士、最近は隠す気もなかった。たまに二人でいなくなり空気が甘かった。腹が立った。次、009-7。ロシアの研究者とのロマンス。亡命劇。国家規模の愛。スケールがおかしかった。さらに004。あの男ですら最近なんかいい感じの女性がいた。煙草吸いながら電話していた。時々ちょっと優しい顔をしていた。なんなんだ。そして、009-7の甥っ子。ただの一般高校生だったのに、CIA、FSB、公安から美少女三人。ラブコメだった。最終的に彼女までできた。002は机に突っ伏した。 「……何も無いの俺だけじゃね?」

 

 もちろん、ニューヨーク時代の幼馴染はいた。だが、長年微妙な関係のまま50年。今さら遅すぎた。002は悩んだ末、とんでもない行動に出た。 「……婚活するか。」 006が吹き出した。 「本気アルか!?」 「真面目だよ!」 007は腹を抱えて笑っている。 「お前が婚活サイト!?」 003まで笑いを堪えていた。 「でも意外とモテそう。」 002は真顔だった。 「真剣なんだよ俺は。」 数日後、日本の婚活サイト運営会社では社員たちが困惑していた。 「これ……。」 「いたずら?」 「本人確認どうします?」 プロフィール。 【名前:ジェット・リンク】 【職業:パイロット】 【特技:飛行】 怪しい。だが、添付された身分確認書類と国際機関認証コード、中東自由連邦経由の正式照会。そして最終的に判明した。 「……本物だ。」 社内が凍った。

 

 結果、サイトが爆発した。 【えっ002本人!?】 【あの空飛ぶ!?】 【世界的英雄!?】 【年収どうなってるの!?】 【イケメン!?】 アクセス集中が集中しサーバーがダウンした。SNSトレンド入り。運営会社は地獄だった。しかも、応募が殺到した。 「世界救った男とか無理。」 「でも会いたい!」 「夢ある!」 芸能人、モデル、社長令嬢、なぜか大量。002は困惑していた。 「怖ぇよ!!」 さらに問題は誰も彼も“002”を見ている。 ジェット本人を見ていない。高級レストラン、高級ホテル、玉の輿狙い、ブランド、政治利用。002はどんどん疲弊していった。 「……違うんだよなぁ。」 本当に欲しいのは、もっと普通の自然な関係だった。

 

 数週間後、002は完全に燃え尽きていた。 「ダメだ……。」 いつもの店でキャバクラ嬢たちが優しく囲んだ。 「元気出して〜。」 「002さん十分モテるって!」 「ていうか顔良すぎるし。」 002はテーブルに突っ伏した。 「でもなんか違うんだよ……。」 お姉さんたちは察していた。この男、遊びたいわけじゃない。本気で寂しいのだ。一人が頭を撫でた。 「恋愛って難しいよねぇ。」 002が情けない顔で言った。 「009とかズルくね?」 別のお姉さんが笑った。 「あれは003ちゃん一筋だし。」 「009-7は国家規模だし。」 「004さんはなんか渋いし。」 「甥っ子くんは主人公体質。」 002は机を叩いた。 「俺だけジャンル違う!!」 店内が爆笑に包まれた。

 

 冬の夜、ネオンの光が滲む繁華街で002は最近よく同じ店に来ていた。最初はただの気晴らしだった。婚活騒動で疲れ果て、世界を救う英雄だの何だの言われながら、結局うまく恋愛できない自分に落ち込んでいた。そんな002を、いつも優しく迎えてくれる女性がいた。キャバクラ嬢の芽依。明るくて、よく笑って。でも人を見る目が優しかった。最初、芽依は002を“テレビの向こうの人”だと思っていた。空を飛ぶ英雄、世界中で戦う男、爆発の中を突っ込む人。遠い存在だった。でも実際の002は違った。 「……また婚活失敗した。」 「まだ言ってるの?」 「だってよぉ……。」 不器用だった。寂しがりで、人懐っこくて、時々、子供みたいな顔で笑う。芽依は少しずつ気づいた。 (この人、普通に恋したいだけなんだ。) 世界を救う英雄なのに、誰かに理解してほしくて、誰かに好きになってほしくて、それが切ないほど伝わってきた。

 

 いつの間にか002は芽依にとって特別になっていた。店に来る日が楽しみになった。ニュースで戦闘映像が流れるたび心配した。怪我していないか気になった。ある日、芽依は思い切って00ナンバーサイボーグの住所へ差し入れを送った。高級なお菓子。そして小さな手紙を入れた。 【いつもお疲れ様です】 【無理しないでください】 名前は書かなかった。恥ずかしかった。だが、気づいた人がいた。003 だった。003は小さく微笑んだ。 「……あの子、002のこと好きなんだ。」 009が驚いた。 「えっ。」 「声でわかるもの。」 差し入れの箱を撫でながら003は笑った。 「いい子そうね。」 002本人だけはまったく気づいていなかった。 「この菓子うめぇな!」 「鈍感……。」 003は生暖かい目で見守ることにした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。