ある夜の中東自由連邦本部。002は一人で酒を飲んでいた。 「……おかしくね?」 誰に言うでもなく、ただ虚空を見つめた。周囲を見れば、まず009、003と完全に恋人同士、最近は隠す気もなかった。たまに二人でいなくなり空気が甘かった。腹が立った。次、009-7。ロシアの研究者とのロマンス。亡命劇。国家規模の愛。スケールがおかしかった。さらに004。あの男ですら最近なんかいい感じの女性がいた。煙草吸いながら電話していた。時々ちょっと優しい顔をしていた。なんなんだ。そして、009-7の甥っ子。ただの一般高校生だったのに、CIA、FSB、公安から美少女三人。ラブコメだった。最終的に彼女までできた。002は机に突っ伏した。 「……何も無いの俺だけじゃね?」
もちろん、ニューヨーク時代の幼馴染はいた。だが、長年微妙な関係のまま50年。今さら遅すぎた。002は悩んだ末、とんでもない行動に出た。 「……婚活するか。」 006が吹き出した。 「本気アルか!?」 「真面目だよ!」 007は腹を抱えて笑っている。 「お前が婚活サイト!?」 003まで笑いを堪えていた。 「でも意外とモテそう。」 002は真顔だった。 「真剣なんだよ俺は。」 数日後、日本の婚活サイト運営会社では社員たちが困惑していた。 「これ……。」 「いたずら?」 「本人確認どうします?」 プロフィール。 【名前:ジェット・リンク】 【職業:パイロット】 【特技:飛行】 怪しい。だが、添付された身分確認書類と国際機関認証コード、中東自由連邦経由の正式照会。そして最終的に判明した。 「……本物だ。」 社内が凍った。
結果、サイトが爆発した。 【えっ002本人!?】 【あの空飛ぶ!?】 【世界的英雄!?】 【年収どうなってるの!?】 【イケメン!?】 アクセス集中が集中しサーバーがダウンした。SNSトレンド入り。運営会社は地獄だった。しかも、応募が殺到した。 「世界救った男とか無理。」 「でも会いたい!」 「夢ある!」 芸能人、モデル、社長令嬢、なぜか大量。002は困惑していた。 「怖ぇよ!!」 さらに問題は誰も彼も“002”を見ている。 ジェット本人を見ていない。高級レストラン、高級ホテル、玉の輿狙い、ブランド、政治利用。002はどんどん疲弊していった。 「……違うんだよなぁ。」 本当に欲しいのは、もっと普通の自然な関係だった。
数週間後、002は完全に燃え尽きていた。 「ダメだ……。」 いつもの店でキャバクラ嬢たちが優しく囲んだ。 「元気出して〜。」 「002さん十分モテるって!」 「ていうか顔良すぎるし。」 002はテーブルに突っ伏した。 「でもなんか違うんだよ……。」 お姉さんたちは察していた。この男、遊びたいわけじゃない。本気で寂しいのだ。一人が頭を撫でた。 「恋愛って難しいよねぇ。」 002が情けない顔で言った。 「009とかズルくね?」 別のお姉さんが笑った。 「あれは003ちゃん一筋だし。」 「009-7は国家規模だし。」 「004さんはなんか渋いし。」 「甥っ子くんは主人公体質。」 002は机を叩いた。 「俺だけジャンル違う!!」 店内が爆笑に包まれた。
冬の夜、ネオンの光が滲む繁華街で002は最近よく同じ店に来ていた。最初はただの気晴らしだった。婚活騒動で疲れ果て、世界を救う英雄だの何だの言われながら、結局うまく恋愛できない自分に落ち込んでいた。そんな002を、いつも優しく迎えてくれる女性がいた。キャバクラ嬢の芽依。明るくて、よく笑って。でも人を見る目が優しかった。最初、芽依は002を“テレビの向こうの人”だと思っていた。空を飛ぶ英雄、世界中で戦う男、爆発の中を突っ込む人。遠い存在だった。でも実際の002は違った。 「……また婚活失敗した。」 「まだ言ってるの?」 「だってよぉ……。」 不器用だった。寂しがりで、人懐っこくて、時々、子供みたいな顔で笑う。芽依は少しずつ気づいた。 (この人、普通に恋したいだけなんだ。) 世界を救う英雄なのに、誰かに理解してほしくて、誰かに好きになってほしくて、それが切ないほど伝わってきた。
いつの間にか002は芽依にとって特別になっていた。店に来る日が楽しみになった。ニュースで戦闘映像が流れるたび心配した。怪我していないか気になった。ある日、芽依は思い切って00ナンバーサイボーグの住所へ差し入れを送った。高級なお菓子。そして小さな手紙を入れた。 【いつもお疲れ様です】 【無理しないでください】 名前は書かなかった。恥ずかしかった。だが、気づいた人がいた。003 だった。003は小さく微笑んだ。 「……あの子、002のこと好きなんだ。」 009が驚いた。 「えっ。」 「声でわかるもの。」 差し入れの箱を撫でながら003は笑った。 「いい子そうね。」 002本人だけはまったく気づいていなかった。 「この菓子うめぇな!」 「鈍感……。」 003は生暖かい目で見守ることにした。