10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第75話 十字軍になってはいけない

 国連演説から数週間後、エレニの執務室は書簡の山になっていた。秘書が疲れ切った顔で報告した。 「また三百通です」 「今日だけで?」 「今日だけでです」 エレニは額を押さえた。内容は様々だった。 『保護を求めます』 『避難民を受け入れてください』 『医療支援を行いたい』 『孤児院建設を支援します』 その多くは善意だった。しかし、中には危険なものもあった。 『我々は戦う』 『帝国のために剣を取る』 『敵を討つ』 そうした手紙も増え始めていた。004は報告書を見ながら言った。 「予想していた最悪の展開だ」 009-7も珍しく険しい顔だった。 「俺もこれは嫌だな」 さらに、世界各地の過激な団体が動き始めた。宗教的な熱狂、歴史ロマン、SNSで増幅された物語。それらが混ざり合い、勝手に大義名分が作られていった。

 

 ある日、最も問題のある書簡が届いた。アメリカからだった。内容を読んだ004は即座に立ち上がった。 「駄目だ」 「何が書いてあるの?」 003が聞いた。 「人員と武器を送る、と」 部屋が静まり返った。009-7は即答した。 「断らなければ」 「当然だ」 004も頷いた。数時間後に緊急会議をひらいた。エレニ、009-7、004、007、003。全員が集まった。エレニは手紙を机に置いた。 「これは受け取れません」 「当たり前だ」 004が言った。 「でも向こうは善意だと言っている」 「善意で戦争は止まらない」 珍しく007が発言した。全員が驚いた。 「どうした?」 「俺は戦場を見てきた」 007は静かに言った。 「武器が増えて幸せになった国は見たことがない」 部屋は静かになった。その日のうちに声明が発表された。 『いかなる武装組織の支援も受けない』 『武器の提供を拒否する』 『我々は避難民支援、医療支援、教育支援のみを歓迎する』 『宗教戦争を望まない』 世界中のニュースがこれを報じた。一部の過激派は激怒した。 「弱腰だ!」 「使命を放棄した!」 しかし、多くの人々は安堵したのだ。誰もが最悪の事態を恐れていたからだ。

 

 エレニの都市では広場に難民支援センターが建設されていた。学校も増え、病院も拡張されていた。集まるのは兵士ではなく、教師、医師、技術者、建設作業員だった。それでも004は安心していなかった。 「危ないな」 「何が?」 009-7が聞いた。 「本人たちは平和を望んでいる」 「そうだな」 「だが支持者全員がそうとは限らない」 窓の外では歓声が上がっていた。人々はエレニを称賛していた。象徴は大きくなりすぎていた。その夜、エレニは一人で広場を見下ろしていた。遠くに見える灯、笑う子供たち、市場の賑わい。それを見ながら小さく呟いた。 「私は観光都市を作りたかっただけなのに」 後ろから004が答えた。 「もう誰も信じないぞ、その台詞は」 エレニは苦笑した。 だが、今の彼女には一つだけ分かっていることがあった。もし本当に「帝国」と呼ばれるものが生まれるなら、それは剣によってではなく、人々が平和に暮らせる場所としてでなければならない。そうでなければ、これまでの全てが無意味になるのだ。

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