10人目のサイボーグ   作:れぷとん

89 / 90
第87話 戦力分散

 004の推測は正しかった。数週間に及ぶ解析の末、009-7はついにスカールへ辿り着いた。ブラックゴーストの幹部たち、彼らの多くは死んだ。あるいは00ナンバーサイボーグたちに倒された。しかし、彼は生き残ったのだ。肉体を捨てた男。脳だけを保存し、00ナンバーサイボーグの成果による高性能サイボーグとして。脳を機械へ接続し自らをデジタル化した。電子の海に住む怪物になっていた。004は古い資料を見ながら呟いた。 「狂人だと思っていた」 009-7は首を振った。 「違う」 モニターに映る解析結果。 「狂人ならもっと楽だ」 膨大なデータ、SNS、ニュース、検索履歴、購買記録、監視カメラ、教育データ、医療データ。これらの世界中の情報を数十年にわたり収集していた。そして、人類そのものを学習していた。009が言った。 「人間全部を研究してたってこと?」 「そうだ。」 009-7の声は重かった。 「そして今や、我々よりも人類を理解している」 それは恐ろしい事実だった。スカールは人間を憎んでいない。むしろ愛している。愛しているからこそ管理したい。争いも、自由も、失敗も、全部消したい。完璧な社会を作りたい。そのためのプロジェクト・アダム。新しい人類である。従順で、優秀で、管理可能な人類。

 

 中東自由連邦の首都統合管理センターで警報が鳴った。行政AIへの侵入攻撃。電力網、上下水道、交通制御、病院、物流。これら全てを管理する国家AIの中枢へ攻撃が始まった。009-7は即座に指揮室へ向かった。 「侵入経路!」 『不明!』 「攻撃元!」 『不明!』 「ふざけるな!」 珍しく怒鳴った。 通常のハッカーではない。AIだった。しかも学習が早い。防御すると、次の瞬間には対応してくる。閉じた穴から、別の穴が生まれる。まるで生き物だった。009-7は理解した。 「スカールだ」 それ以外にありえない。電子世界の戦争が始まった。

 

 最悪のタイミングで、国境警備隊から緊急通信が来た。 『武装勢力出現!』 巨大スクリーンに映像が出た。砂漠地帯に数千人規模。しかし、装備が異常だった。無人兵器、自律戦車、レーザー誘導兵器、高性能ドローン、先進国の軍隊レベル。一部は先進国の軍隊を超えていた。005が立ち上がった。 「行くぞ。」 009も頷いた。 「了解。」 だが、009-7は動けなかった。行政AIの戦線が崩壊寸前だった。009-7が席を離れれば、国家機能そのものが停止する。003が苦しそうに言った。 「一緒に来られないの?」 009-7は無言だった。数秒後に静かに首を振った。 「無理だ。」 誰も責めなかった。責められない。しかし、最悪だった。敵の狙い通り、戦力分散した。004が呟いた。 「こちらの戦力配置を読んでいるな」 009-7は苦々しく答えた。 「全部読まれている。」

 

 国境地帯は地獄だった。ドローンの群れ、誘導弾、電子妨害。通常兵器では防げなかった。軍は苦戦した。それでも、00ナンバーサイボーグは戦った。005が装甲車を止め、002が空中戦を繰り広げた。009の加速装置。閃光のように敵兵器を次々と破壊した。だが敵も異常なほど強かった。まるで、こちらの戦い方を知っているかのようだった。004が通信で呟いた。 「学習している」 敵AIだった。これまでの失敗、過去の戦闘、全部分析済みであった。00ナンバーサイボーグは苦戦した。

 

 数時間後の夕暮れ。戦場は静かになった。武装勢力は壊滅し国境線は守られた。軍も生き残った。勝利だった。しかし、誰も喜ばなかった。005は負傷、002も被弾。複数の隊員が戦死。そして、基地へ戻った彼らを待っていたのは真っ青な顔の009-7だった。三日間、一睡もしていなかった。 「行政AIは?」 009が聞いた。 「守った」 短い返事だった。勝ったとは言わなかった。009-7はモニターを見せた。そこには恐ろしい数字が並んでいた。国家AIの演算能力。現在67%。三分の一が失われていた。破壊ではなかった。消耗だった。スカールとの戦いで削られた。004の顔色が変わった。 「まさかこれほどとは」 009-7は静かに言った。 「これは前哨戦だ」 「敵は私を足止めした」 「その間に国境を攻撃した。」 「そして。」 画面が切り替わった。世界地図に赤い点が次々と現れた。教育システム、金融機関、物流網、通信網。世界各地で同時に異常が発生していた。 全員が理解した。スカールは国家一つを狙っているのではない。世界全体を相手にしている。そして、彼は電子の海のどこにでもいる。009-7は静かに呟いた。 「化け物だ」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。