事の発端は、誰にも予想できなかった。009-7のファングループ。最初は一つの高校の女子生徒たちの集まりだった。しかし、SNS、動画サイト、ファンアートで広がり、気が付けば全国区になっていた。 「戦場のお姉様」 「最強で美しい」 「助けられたい」 「叱られたい」 最後のは009-7には理解できなかった。ある日、一通の手紙が届いた。差出人、宝塚歌劇団。 「……。」 009-7は三回見直した。 「いたずらか?」 004も確認した。 「本物だ」 「なぜだ」 「知らん」 後日、正式な説明を受けた。宝塚側の担当者は真剣だった。 「今、女性人気が凄まじいのです。」 「そうなのか?」 「そうなのです」 担当者は熱弁した。 「強く」 「美しく」 「気品があり」 「女性から憧れられる」 「完璧なお姉様像です」 009-7は頭を抱えた。 「私は元おっさんなんだが」 担当者は即答した。 「問題ありません」 「問題しかないよ」
しかし、最終的に「一回だけ」 という条件で出演することになった。娘は大喜びした。003は面白がっていた。002と007はすでに笑いを堪えていた。004だけは遠い目をしていた。 「嫌な予感しかしない。」 予感は当たった。本番当日の楽屋で009-7は鏡の前に座っていた。男装衣装、白い軍服、マント、長靴、剣。そして、宝塚のプロが仕上げたメイク。鏡を見た本人が絶句した。 「誰だこれ」 003が見た瞬間「反則」 そう言った。 娘はスマホを落とした。 「お父さん?」 「うん」 「本当に?」 「うん」 「信じたくない」 その頃の客席。チケットは即日完売、転売価格は大変なことになっていた。
開演。物語は架空の王国の英雄譚。009-7の役は若き将軍。 舞台中央でスポットライト。ゆっくりと現れる009-7。客席は静寂。一秒。二秒。三秒。 「きゃあああああああ!!」 大爆発した。劇場が揺れた。009-7はびくっとした。 「なんだ!?」 演出家は泣いていた。 「勝った……」 何に勝ったのかはよくわからない。舞台は進んだ。剣を抜いた。客席では悲鳴があがった。微笑む。悲鳴。部下を励ます。悲鳴。ただ立っているだけ。悲鳴。009-7は途中で理解した。 「何をしても悲鳴が上がる。」 終演。スタンディングオベーションが止まらない。SNSは完全に崩壊していた。トレンド一位。 【009-7様】 二位【お姉様】 三位【宝塚が本気を出した】 翌日、全国の女性ファンが大騒ぎした。ファンアート、小説、考察、動画が無限増殖した。 「時代が来た!」 「お姉様万歳!」 娘は頭を抱えた。 「なんでこうなるの……」 数日後、宝塚から再び連絡が来た。 「次回公演の件ですが」 009-7は即答した。 「断る」 「まだ何も言ってません」 「断る」 「三か月公演で」 「断る」 「全国ツアーで」 「断る」 「海外公演も」 「断る」 電話を切った。そしてソファに倒れ込んだ。 「戦争より疲れた……」 その横で002と007は爆笑していた。004は新聞を読みながら呟いた。 「お前」 「なんだ」 ⸻ 「世界征服できるな」 009-7は本気で嫌そうな顔をした。