10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第97話 別れ

 ギルモア邸の穏やかな日々は長くは続かなかった。ある朝、004が新聞を読んでいた時、009-7の端末が鳴った。緊急回線だった。009-7の表情が変わった。その顔を見ただけで全員が理解した。 「来たか」 004が言った。 「来た」 009-7も短く答えた。中東自由連邦と周辺諸国、武装勢力、正体不明の資金。ブラックゴースト。嫌な情報が一気に集まり始めていた。平和な時間は終わりだった。

 

 数日後には出発準備。ギルモア邸は静かだった。皆慣れていた。何度も経験していた。明日帰る保証はない。だからこそ騒がない。002も007も009も冗談は言うが、本当の意味では騒がない。そんな中、助演女優は静かに立っていた。出発する車、積み込まれる装備と戦闘服。彼女は知っていた。自分は女優、004は戦士。生きる場所が違う。映画の撮影は終わった。本来ならそこで終わる縁だった。それでも、気が付けば彼のことばかり考えていた。004は荷物を確認していた。いつも通り冷静、無表情。変わらない。だからこそ助演女優は覚悟を決めた。 「004さん」 004が振り向いた。 「なんだ」 その一言でなぜか涙が出そうになった。彼女は笑った。泣かないように。 「私」 言葉が詰まった。今まで慎重だった。迷惑をかけないように、困らせないように距離を守っていた。でも、今日は違った。 「私」 もう一度言った。 「あなたが好きです」 周囲が静かになった。002ですら黙った。誰も口を挟まなかった。彼女は続けた。 「あなたの世界に入れるなんて思ってません。危険な仕事だって知っています。私は戦えません。何もできません。」 声が震えた。それでも止まらない。 「でも、好きなんです。本当に。」 「映画じゃなくて、俳優じゃなくて、本物のあなたが」 涙がこぼれた。 「だから、忘れないでください」 静寂、風だけが吹いた。004は黙っていた。誰も動かない。そして、004はゆっくり口を開いた。 「君は」 助演女優が顔を上げた。 「変わった人だな」 彼女は思わず笑った。 「よく言われます」 004は珍しく少しだけ微笑んだ。 「ありがとう」 その言葉は短かった。しかし、004が誰かにそう言うのを見たことがある者は少なかった。助演女優は驚いた。そして嬉しかった。004は続けた。 「君の気持ちは本物だ。だから」 少し考えた。言葉を探した。 「軽く扱いたくない」 助演女優は泣きながら笑った。少なくとも自分の想いは伝わった。認めてもらえた。

 

 車が出発した。全員が乗り込んだ。最後に004が乗り込む前に一度だけ振り返った。そして小さく手を上げた。助演女優も手を振った。涙で顔はぐしゃぐしゃだった。だが笑顔だった。車列が遠ざかり見えなくなった。それでも、彼女はしばらくその場を動かなかった。009-7は車の中で静かに言った。 「いい子だな」 004は窓の外を見たままだった。返事はない。002がニヤニヤしながら言った。 「お前、感動してただろ」 004は即答した。 「していない」 「嘘つけ」 後部座席で009が苦笑した。003も少し微笑んだ。その日は誰も004をからかいすぎないように気遣った。なぜなら、あの寡黙な戦士が、ほんの少しだけ人間らしい顔を見せたからだった。

 

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