★★★
それは他人より少しだけ欲望を前面に押し出している以外は、いたって平凡だった少年が主役の物語であった。
ある日唐突に、少年はその身に宿した
そして少年は一人の優しい少女と友達になった。
少年は主となった少女を代償と引き換えに救った。
少年は復讐のために生きていた少年と親友になった。
少年は己が血に嫌悪していた少女の家族の絆を取り戻した。
少年は自身の力と姉の影に怯えていた少女を支えた。
少年は新たな生活を謳歌しようとしている少女と約束をした。
少年は、少年は、少年は……。
そして最後に少年は――――死んだ。
★★★
掛け布団越しに伝わってきた、上に何かが落ちてきた衝撃で少年は目を覚ました。
ゆっくりと瞼を開き、その何かの正体である、馬乗りの状態で自分を見下ろしている少女と目を合わせる。
少女はいつもと変わらぬ無表情のまま口を開く。
「おはよう。イッセー」
「ああ、おはよう。今何時?」
「七時、朝食、もう出来てる」
「わかった」
少女が退くと、少年――兵藤一誠は曇った顔色のままのっそりと起き上がる。
彼の様子に思い当たる節があったのか、少女は一誠に問いかける。
「また、あの夢?」
「…ああ」
「どこから、どこまで?」
「最初の『あいつ』が死ぬところから最後の『あいつ』が死ぬところまで」
「そう」
朝食を食べに階段を下りる前に、眠気覚ましにと軽いストレッチをする。
その際に一誠は自身の左腕、正確には自身に宿る存在に声を掛ける。
「ドライグ、おはよう」
『おはよう。…またあの夢だったな、相棒』
ドライグ。かつて猛威を振るったという二天龍の片割れ。
にその魂を封じられ、現在、兵藤一誠という人間に宿りついていた。
ドライグは今の在り方ゆえに、宿主である一誠の夢の内を見ることが出来ていた。
一誠は首を回しながら言う。
「小さい頃から見続けてるから見慣れた気がしてたけど、そうでもないみたいだ」
『無理も無い。あれだけ濃密でリアルな夢だからな。相棒が成長したとはいえ、精神に負担もあるだろう』
「ほんとに、あの時オーフィスが来てくれて助かったよ。オーフィスが居なかったら、俺はどうなってたかわかんねえ」
「ん」
少女―――オーフィスは胸を張ってドヤ顔(無表情)を披露すると、ちょうど頭が低い位置にあった一誠の頭を撫でる。
それはまるで気にするなとでもいうような、気遣いが伝わってくる手つきだった。
お返しに撫で返し、一誠はオーフィスを伴って一階へと下りていった。
駒王学園。それが一誠の通っている高校である。
この学園は女子校から共学に変わった経緯があることから、現在も女子の割合が多い状況である。
…それを狙った輩も極一部存在しているが、それは今はどうでもいいだろう。
その二年生の教室にて、一誠は机に頬杖をついて窓から空を見上げていた。
特に意味はない。強いて言えば、ただぼんやりしたいという考えからだ。
一誠が誰と話すこともなく朝の時間を過ごしていると、校門の方角が賑わい始めたのが視界に入った。
「おお、毎朝飽きないことで」
その方向へ視線を向ける。
見えるのは、一人の女生徒が自身のファンを伴って校舎へ歩いてくる光景。
中心人物である女性徒は学園のお姉さまと呼ばれ、絶大な人気をほこる人物である。
紅髪を揺らしながら悠然と歩く女性徒を遠目から見て、一誠は微かな声で呟く。
「…リアス・グレモリー」
一誠の脳裏に長年見てきた夢の光景が浮かび上がる。
『あいつ』の隣にいた『彼女』。『彼女』は女性徒――リアス・グレモリーと瓜二つだった。
いや、もしかしなくても同一人物なのだろう。
けれど一誠は夢の彼女を見知っていたとしても、リアス・グレモリーとは一切面識は無い。
だから、何もすべきことは無い。
一誠は視線を外すと、腕を枕代わりにして顔を埋めた。
自身の教室に向かう道中、リアス・グレモリーは思い返す。
それは今、そして今に至るまでの経緯を。
何もおかしいところはない。これまでの全ては自分で決めて歩んできた。
何も間違っていないはずだ。
「…はず、なのにね」
リアスの表情に影が差す。
彼女の心がどうしようもないほどの不安に覆われていく。
自分は自分だ。それは間違いない。その証拠に様々な点で違いもある。
けれど、もしかしたら自分は『彼女』の歩んだ道を、または『彼女』自身を真似しているのではないかと、今のように時々自分で自分を疑ってしまう。
正直、あまり自分に自信が無い。
『彼女』に今の姿を見られたら、きっと笑われてしまうのではないか。
考えれば考えるほど淀みの海に沈んでいく。
リアスが鬱屈とした気持ちになっていると、突然彼女の携帯が軽快に鳴り響く。
その音で我に返ったリアスは携帯を手に取り、送られてきたメールを確認した。
『今日は熱が出る予定だから休んで良いかにゃ?』
メールの内容を見て思わず頭を抱える。
どうして自分の
いや、確かに自分を良くサポートしてくれるし、周りを良く見てるし、真面目な時は本気で真面目だから頼りになるのはわかっている。
それなのに如何せん、平時では自由に行動する。悪いとまでは言わないが。
リアスは仕方ないなあとでも言う風に溜め息を吐くと、返信をした。
もちろん許可ではなく、しっかり登校しろという意味合いで。
結局のところ、彼女が欠席をしたと確信したのはリアスが一時限目のチャイムを聞いた時だった。