Another World    作:Fade

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 兵藤一誠の日課は早朝のランニングである。しかもオーフィスの協力を得て無理をしない程度で全身に負荷を掛けた状態で行う。始めた当初は弱音の一つや二つ吐いていたが、今となっては熱心にこなしている。

 そして現在、学校を終えた一誠はオーフィスをコーチ、ドライグをアドバイザーとして鍛錬を行っていた。

 

「イッセー。休憩」

「あいよ」

 

 時計をチェックしていたオーフィスの声で一誠は素早い動作からゆったりとした動作へ移る。

 呼吸を整え、横でふわふわと浮いているオーフィスへ尋ねる。

 

「このあとは?」

「我と手合せ。我に一回でも当てれば、イッセーの勝ち」

「了解。ボコボコだな。俺が」

 

 着地したオーフィスは完全に閉めていた自身のジャージのファスナーを首辺りまで緩める。

 それから肩に下げていたバッグからタオルを取り出し、座らせた一誠の顔を拭っていく。

 

「でもイッセーは強くなった」

「オーフィスに一度も当てたことないのにか?」

 

 自身の現時点での強さがいまいち理解出来ていないイッセーなのだが、それも仕方ないと言える。

 世界最強の一角の中でも隔絶した強さを持つ無限の龍神(ウロボロス)であるオーフィスと共に日常的に鍛錬しつつ、神器を通して潜った精神世界ではかつて猛威を奮った二天龍の片割れの赤龍帝ドライグと鍛錬している。

 結論から言うならば、一誠はこの二体の龍以外に相手を知らないのだ。

 自信を物差しで測ることが出来なくても無理はない。

 

『相棒、オーフィスを基準に考えるな。俺から見ても相棒は強くなったさ。保証する』

「ドライグの言う通り。我超強い」

「二人が言うなら信じるけど…」

 

 何処か納得しきれない様子の一誠。あの夢を見始めてから己を鍛え続けた一誠としてはそろそろ何かしらの実感が欲しいと思ってしまう。

 そんな彼のモヤモヤを察知したオーフィスは手を叩いて言う。

 

「なら、誰かと戦う」

「え?」

『なるほどな。相棒が俺たち以外と戦えば自ずと自分の力がわかるというものか。しかし、そう都合よく相手が見つかるのかどうかだ』

 

 そもそも赤龍帝と戦ってくれる相手が簡単にいるのかとドライグが考えていると、オーフィスは手に持ったタオルでそのまま自身の首などを拭き始め、何事も無いように言う。

 

「あてはある。今、この街によくわからない悪魔がいる。たぶんはぐれ」

『そいつはいい。決まりだな』

「二人とも俺をおいてくなって。いやまあ、戦って良いけどさ」

 

 自分の今が分かるのだと、なんだかんだで乗り気のイッセーが承諾したことでさっそく今夜に計画が実行されることが決まった。 

 そして予定が定まったことで中断していた鍛錬も再開され、やはり一誠はオーフィスに勝つことはできなかったのは言うまでもない。

 罰として彼女から要求されたおんぶをして帰る途中、一誠ははぐれ悪魔というワードと今という時期から、夢の中の出来事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアスは手に持つ書類を眺める。それは上から出された指示書であった。

 内容はリアスたちが管轄している地域へはぐれ悪魔が逃げ込んだ事と、対象の情報、迅速な対処を求めるもの。

 一通り目を通せば用済みとばかりに紙を机へと投げ、リアスは椅子の背もたれに体重をかける。逃げ込んだなどと責任逃れのような書き方にやるせない物を感じてしまう。

 だがぐずぐずしてはいられないことなどリアスは承知している。放っておけば被害が出ることは明らかだ。

 リアスは立ち上がり、ソファーで寛いでいる二人に声をかける。

 

「黒歌、白音。出かけるわよ。準備して」

「はいにゃ~」

「…了解です」

 

 並んでお菓子を食べていた二人が返事をする。片や長身で着崩した格好、片や小柄でキッチリとした着こなしと様子が正反対だがれっきとした姉妹である。

 その姉である黒歌は今にもずり落ちそうな制服を気にすることなく、意気揚々とリアスへ尋ねる。

 

「それでそれで、お仕事はなにかにゃ?」

「はぐれ悪魔の討伐よ。それと服ぐらいちゃんと着なさい」

「この部屋を出たら着るにゃ」

 

 人目が無いからと肌蹴させている黒歌への注意はこれで何度目だろうかとリアスは首を振る。処置なしだ。

 一方で妹の白音はただ静かに姉の体型を見据えていた。次に自分の身体を見下ろして、ため息を一つ。彼女の悩みはしばらく尽きそうにない。

 

「まったく。さあ、行くわよ」

 

 二人を連れて出る。リアスは目標のことを思い返していた。

 

(はぐれ悪魔バイサー。自身の欲に溺れ、生けるものを喰らう。…なぜそうなってしまったのかは分からないけど、誰かが犠牲になる前に消えてもらうわ)

 

 書類にあった名前と顔写真を脳裏に浮かべる。同時に別の光景がリアスの頭をよぎった。

 それは夢の中の出来事。『彼女』がいて、『彼女』を囲む仲間がいる光景。仲間と共に『彼女』がバイサーを討伐していた。

 リアスは一瞬、黒歌と白音を見る。『三人』足らない。いや、夢にはいない人物がここにはいる。

 あの『騎士』と『女王』はそもそも会ったことがない。けれど『兵士』はこの学校の生徒だ。会う機会を作ろうと思えば作ることが出来る。

 それにあの『三人』がいないのは寂しく感じ―――そこまで考えてリアスは首を横に振った。

 今まで頭に渦巻いていた事を隅に追いやり、リアスは現在成すべきことへ思考を傾ける。集中する。

 それは逃避なのか、それとも否定なのかは分からない。リアスも考えない。

 そんな自身の心中を察し背へと視線を向けてきている白髪の少女に、リアスが気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

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