ポケットモンスターSV スグリとアオイと鬼様と 作:lambdazero
狂信は、危険だと思う。
此度の騒動で、よく分かった。
取り憑かれたようにのめり込む程、今を見失いかけがえのないモノを取りこぼす。
これは知られざる出来事。
パルデア地方を託され、守った少女の後日談。
少年と伝承を巡る物語。
(おかしい。相変わらずパラドックスポケモンが減らない。何故でしょうか。タイムマシンが停止した以上、理論上は増えないはずなのに。いえ、ペパーも言ってましたね。タイミングが変だった。タイムマシンが稼働したのはつい最近。なのに本には既に奇書と呼ばれるほどの過去に記載がある。何が起きているんです、この特異点は……?)
今日も秘境、エリアゼロの最深部に来ている少女。
アカデミーの夏服を着ている、最深部では気温が低いのに気にせず秘密裏に調査を依頼されている、当事者。
アオイという、銀髪のボブカットの少女だった。
「ツツミ、周囲の索敵を」
傍らには嘗て、最初にエリアゼロに来たとき捕獲したパラドックスポケモン……テツノツツミがいる。
薄暗い洞窟の中。野生のポケモンにも異常は無い。
いや、相変わらずパラドックスで溢れている以外は。
人工知能の依頼でタイムマシンを停止させた一行が戻ったのは半月前。
こっぴどく怒られた。此処は立ち入り禁止区域。
本来であれば、トップのオモダカの許可が必要なのだが、一行は依頼で無断で立ち入って自分から危険を冒した。
そりゃ怒られる、と思い返して思う。
ペパーが一度ある程度まで案内してくれなかったら、今頃生きて帰っていたか。
当時のメンツは機械に強い陰キャ、最強のバトルジャンキー、博士の息子に新しいチャンピオンの四人だけで来た。
ご指名であったと言えども、大人に相談をする方が良かっただろう。
冷静に判断すると、無謀も良いところだった。
(我ながら戯けた事をしたものです。然し……変ですね。此処は電波も通じない圏外。それは良いとして……何故だか見たことの無いポケモンが増えている?)
アオイは基本冷静で、滅多なことでは慌てない。
ツツミが周囲を索敵して一方的に見つけて記録する。
後でデータを移せば良い。
パラドックスポケモン。分類はそう区別される、タイムマシンを通じた来たポケモンという手前のよく分からない生き物? と推測される。
但し上記の通りタイミングが明らかにおかしいが。
矛盾と言うだけあって生態は不明。
出自すら曖昧で、アオイもツツミ以外にも所持しているが生き物のようで飲食こそするが、発電か何かで動いている節のあるポケモン。
こっちは良い。暴走した人工知能曰く、未来のポケモンという区分だから。
だが問題は、最近捕獲している訳の分からないパラドックスだ。
タイムマシンが停止した直後、エリアゼロの仕切りをぶち抜いて脱走した個体が居た。
それはドンファン……に似た個体で、先祖帰りしたような巨体で暴れていた。
よりにも寄って近場の街の郊外。昼間であった。
少なくとも、アオイは専門家では無いけれど、担任の教師が言うには恐らく本当に先祖のポケモン。
ジムリーダーが四人がかりで抑えて捕獲して検査した結果、古来のドンファン種であったらしい。
他にも飛べないウルガモス、自立歩行のレアコイル、雄叫びを上げるプリンなど。
古来の種が目撃されるようになった。
未来のポケモンという連中は見た目が機械化した工業製品のように見えるが、こっちは普通のポケモンだ。
但し凶暴で、とてもじゃないが最初は言うことは聞かないし一度叩いて屈服させないと本能的に動いているのか上下関係が分からないと見た。
ツツミを引っ込めて、本日のタスクを終えるアオイ。
今日も異常あり。過去種が何故か彷徨いている。
報告に戻ろうと、移動用のポケモンを取り出す。
そのまま飛び乗り去って行く。
これが後処理。残務の仕事だ。
他の三人は、まだそれぞれ片付ける事がある。
ネモはアカデミーの雑務、ペパーは研究所の整理、ボタンは……確かオモダカの下でエンジニアの手腕を振るっているんだったか。
アオイしかエリアゼロの調査を出来る人材がいない。
リーグの依頼で変化する生態系の観察と報告。
場合によっては捕獲も入れる。
(本当に、ここは魔境ですね……。電波も通じない、得体の知れないポケモンが彷徨く。これが生きていた博士の言う楽園なら、とんだディストピアですよ)
盲信した研究の結論が生態系の破壊という答えをそれもアリと言うような大人だ。
去って行きながら、思う事は誰の楽園なのか。
よく考えろという問いであった。
その後、アカデミーに戻る頃には夕方だった。
校長室に向かい、ドアをノックする。
「どうぞ」
許可を得て名乗って入室。
中は広く、モニターで誰かと対談中だった。
「おや、クラベル校長。すみません、お邪魔でしたね」
アオイは出直すと言うが、よく見たらモニターの相手はオモダカだった。
このままで良いとクラベルが言うので同伴する。
『アオイさん、ご苦労様です。本日も調査の報告ですか?』
「はい」
モニターのオモダカ……この人はアカデミーの理事長にして、リーグのトップ。色々な立場の責任者だ。
彼女の采配に文句は無い。
人使いが荒いと部下のサラリーマンが言うが、彼の場合はサボり癖があるからだと思う。
ダメな大人と出来る大人の混合。
アカデミーはそう言う場所だ。
「ツツミからデータを送ります」
出したツツミに命じて、データを送受信する。
本当に未来のポケモンは機械化しており、何故こうなったのか。
それは現代では知れず、旅立った人工知能が今頃見ているだろう。
『……困りましたね。古来のパラドックスが増え続けています。生態系が余計に拗れていく可能性が見えてきている……。それに、アオイさんが最近エリアゼロで捕獲したポケモンの解析が終わりました。アレは古来のシンオウ……ヒスイと呼ばれた時代のポケモンであることが分かりました。古来のパラドックスよりは近代ですが、此方も過去のポケモンになります』
「時の流れが逆行しているのでしょうか……?」
分からない。エリアゼロはバリアで覆われた特異点。
時空の流れすら狂っていてもおかしくは無い。
『生態系が完全に隔絶されている以上は問題は無いのですが。バリアの強化も、ボタンさんのおかげで綻びを補強しています』
「流石は独学であの域まで行った機械の出来るボタン。頼りになりますね」
本当に友人として誇らしい。
独学で専門家顔負けで機能を弄くれる天才だとアオイは思う。
モニターの向こうで、
『アオイ助けて! オモダカさんにうちが消耗品にされるんよぉ!!』
と遠くで聞こえたが、気にしない。
才能のある彼女は今のうちに社畜の道を行くのであろう。
ツツミを引っ込めて、今回の調査で分かったことを伝えて、校長室でいつも預けている手持ちに変える。
エリアゼロは遭難すると本気で死ぬ魔境だ。
圏外だし、調査は基本的に単独。
常に手持ちは、強いポケモンと調査に適したポケモンで固めて、いざとなったら脱出できるように多めに持っていっている。
今回で言えば、前の調査で発見したガチグマなどがいる。
とても利口で、頼りになる。
力も強く、乗っかって走ることも多い。
ツツミは強さも申し分ないし、小回りが利いて素早くセンサー類が優秀なので相方である。
クラベル校長は校長室に一度ネモがアカデミーの事で来訪して、付き添いで出て行った。
『ボタンさん、今日のノルマは終わってませんよ。何処に行こうと?』
『もう嫌だぁ!! 定時になったんだから帰るんだ! うちはアオキさんみたいになりたくないんよ!! あんな草臥れたサラリーマンみたいになるのは絶対に嫌だー!!』
何か向こうで逃げようとしていたらしいボタンの悲痛な訴えが聞こえた。
定時で上がれるのはノルマ終わったらであろうに、何を言っているんだ彼女は?
『……。アオキ、ですか。またサボっているんですね彼は……』
頭痛がするのか頭を悩ませるオモダカ。
ダメな大人は本当にダメだ。
アレでもジムリーダーと四天王兼ねているのに、よく逃げるらしい。
(ボタンは大人に恵まれませんね)
オモダカが鬼みたいに言わなくても良いだろう。
現に同意を求めるようにこっちに叫ぶボタンに一言。
「ボタン、エンジニアなら最低限のやることはやりましょうよ。私だって調査はやってますよ?」
『アオイの裏切り者ぉ!! 人の心ないんか!!』
「呪い合ってなさい、アニオタ」
『カントー編の続きを見るんはうちやー!!』
最近ハマってるアニメの名言を言いながら、ドタバタと足音が聞こえた。マジで逃げたようだ。
『私の部下は……何故こうもストライキを起こすのでしょうか。アオイさんはキッチリとやるのに……』
溜め息をついて、オモダカはちょっとノルマを減らすと言った。
負担が大きいのは認める。人員不足だから。
実際アオイも今は後始末の一員として、片付ける訳だし。
「ボタンはただ趣味の時間が欲しいだけですよ。オタクなので」
『モチベーションを下げる行為は作業の効率が下がるので、やりたくないんですけども。本当にアオイさんは文句も言わずによく動いてくれています。大丈夫ですか?』
「私はほら、私的にどうせやることの無いタイプです。お仕事があるなら優先しますよ』
『有り難いと同時に申し訳ない気分になりますね。……では今晩、お時間があれば共に会食などどうでしょう? アオイさんが宜しければ』
意外な誘いだった。
多忙なオモダカから会食を言われた。
マナーとかネモでも無いから分からないと言うが。
『大丈夫、ただの夕飯を共にするだけです。外食チェーンなら、気軽に行けるでしょう?』
「お気遣い感謝します、オモダカさん」
経費で落とすので、言った時間にアカデミー正門で待ち合わせするという。
歩いて行ける範囲に、外食チェーンがあるという。
『……少し、内密なお話もありますので。アオイさん、よろしくお願いしますね』
「はい」
なるほど、新たな仕事の話か。
だから直接会って話そうと。
上司に恵まれたアオイは制服のまま、校長室を後にする。
私室に帰り、荷物だけ置いていつも通りツツミを出す。
『……』
首を伸ばして周囲を探っているのか動き回るツツミ。
ツツミは私室でいつも出しっぱなしにしている。
アオイの癖を記憶させておくのと、交流を兼ねて。
「ツツミ、お疲れさま。大丈夫?」
『……』
こっちを見るツツミのディスプレイは特に変化は無い。異常なしと。
未来のポケモンは機械化している以上、ディスプレイがついている。
他のエリアゼロの個体は、個体にも寄るが冷徹という風に奇書と記されているが、基本的に人を見ても襲ってこない。
機械的に判断していると自分では思う。
敵対関係と判断した場合、攻撃してくる。
こっちから不用意に近寄る、妙な行動を取る。
そういう事をするから襲われる。
逆に古来のパラドックスは見たら襲いかかる猛獣。
大半がそういう気性の荒さがあるのが古来のパラドックスの特徴。
撃退するのに苦労するので、見つけたら記録するだけで無視だ。死にに行くほどバカでは無い。
「今夜、居ないけど留守番お願いしますね」
『……』
要件を伝えツツミは首肯して、座ってスリープ状態に入った。
これがポケモンというから未来で何が起きたのか、分からない。
それまでは、アオイは少々部屋を出て野暮用を済ませてきた。
夜、正門前で制服で待っていると。
スーツ姿でオモダカが来た。
「おや、すみません。お待たせさせてしまいましたか」
「いいえ。此方が勝手に早く来ただけです」
オモダカに言われてついていく。
大通りの近場のファミレスに入って、案内されて席に座る。
好きに頼んで良いと言うのでお言葉に甘えてそこそこ頼む。
オモダカもそれなりに頼んで、注文。
待っている間に、話を切り出した。
「……アオイさん。林間学校、というイベントはご存じですか?」
オモダカが切り出したのは、野外授業の一環で林間学校があるというモノだった。
林間学校。何でも姉妹校として、提携している学園との交流を兼ねて行うイベントらしく。
そこにアオイを推薦するという。
「……何の調査でしょうか?」
率直に聞く。お仕事であるなら行くという前提で。
素直すぎる彼女に苦笑するオモダカ。
「場所は、キタカミと言うのですが。そこでは、面白い民間伝承があるんです。そして。これは調査では無く、休暇。調査の息抜きに、アオイさんに行って頂こうと思うのです」
「大丈夫ですか? エリアゼロの調査員、代行居ます?」
何と休暇だと言われた。
居ない間の調査員の確保は、大丈夫だと笑うオモダカが言う。
少しばかり、アオイは休んだ方が良い。
ずっとエリアゼロの関係で毎日働いている。
それこそブラック企業みたいに。
「いい加減、貴方も休暇を取りましょう。エリアゼロで神経を使う調査を続ける上で、必要な処置です」
「なるほど」
少しやり過ぎたか。
何時も暇な人間だから別に良いんだけど。
「そう、長い期間ではないですが」
「ありがとうございます。お休みのご好意に感謝いたします」
本分は学生なのにずっと働いている彼女。
此処いらで一回休んで欲しいという気遣い。
そう言われて、承知するアオイ。
直々の息抜きだ。……それにしても、民間伝承。
歴史担当の教師が、そういう歴史は面白いと言っていた。
(気になりますね。行ってみましょうか)
そう、トップからのお気遣いで休暇を貰ったパルデアの新たな最強の少女と。
キタカミに帰省していた少年の、出会いの物語。