シン・逆襲のクロト   作:皐月莢

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第二章 白い船の異物

 銃口が下ろされても、格納庫の空気は張り詰めたままだった。

 クロトはストライクの足元に立つ少女から視線を外した。

 民間人。

 コーディネイター。

 ストライクを動かしたパイロット。

 並べれば意味は通じる。

 だが、目の前の細い肩とは結びつかなかった。

 このG兵器は、ただ乗れば動くような機体ではない。

 普通のナチュラルなら、振り回されるだけだ。

 コーディネイターか、それに似たものを身体に押し込まれたやつか。

 クロトは後者だった。

 

 ストライクの周りでは、友人らしい連中がキラへ寄りかけ、軍服の女に止められていた。

 アークエンジェルの中で、レイダーは沈黙していた。

 装甲の隙間にはまだ熱があり、関節部から煙を吐いていた。

 

 兵士たちの目がクロトへ戻る。

 少尉の軍籍も、連合軍の識別信号もある。

 だが、G兵器を動かして乗り込んできたガキだ。

 それだけで信用できるなら、最初から銃など向けていない。

 

「……武装解除を確認。機体の固定を急いで」

 

 長い髪の女の声で、兵士たちが動き始める。

 

 

「少尉」

 

 ナタル・バジルールが前に出た。

 

「機体から離れてください。身元確認を行います」

「さっき言ったろ」

「申告だけでは不十分です」

 

 ナタルの視線が、クロトを通り越してレイダーへ向いた。

 

「その機体を動かせる理由も含めて、確認する必要があります」

 

 クロトは笑わなかった。

 ああ、そっちか。

 連合軍の軍服を着たガキ。追加のG。動かせるはずのない機体。

 こいつらはその答えを一つしか知らない。

 

「コーディネイターかどうか、って?」

 

 ナタルの眉がわずかに動いた。

 

「確認が必要だと言っています」

「便利だな。分かんないことは全部それかよ」

 

 声の端が掠れた。

 コーディネイターでもない。普通のナチュラルでもない。

 こいつらの知っている常識では、クロト・ブエルの存在を説明できない。

 

「僕の方が出来がいいからだろ」

 

 クロトはレイダーを顎で示した。

 

「それに今ここで僕を調べて、あいつは誰が動かすの?」

「あなたを戦力として扱える保証がありません」

「じゃあ撃てば? 撃てるもんなら」

 

 沈黙が落ちた。

 少し離れたところで、金髪の軍人が肩をすくめた。

 

「おっかないねえ。けど、今こいつを放り込んでる暇はなさそうだぜ?」

「フラガ大尉」

「分かってるよ、バジルール少尉。だが、敵は待ってくれない。あの黒いのを動かせるのがこいつだけなら、縛るのは後でもいい」

 

 軽い声だった。

 だが、役に立たないやつと、使えるやつの区別はついている。

 長い髪の女の視線が、クロトからキラの方へ移った。

 

「キラさん」

 

 女が呼ぶと、少女の肩が跳ねた。

 

「あなたは、もう一度この機体を動かせますか」

 

 キラはすぐには答えなかった。

 友人たちを見ると、ストライクを見上げた。

 

「……分かりません。さっきは、動かしただけで」

 

 否定ではない。肯定でもない。

 それでも、ストライクを動かした。

 使えるなら、連合軍はガキでも兵器にする。

 クロトはそれを知っていた。

 

 艦内通信が割り込んだ。

 

『敵影確認。外壁損傷、区画隔壁閉鎖。推進準備、急げ』

 

 アークエンジェルは二つの異物を見比べていられなくなっていた。

 

「ラミアス艦長代理」

 

 ナタルが声を低くした。

 

「ザフトの反応を確認しました。識別はジンに加えて──」

 

「GAT-X303。敵に鹵獲されたイージスと思われます」

 

 キラは何も言わなかった。

 だが、手が胸元へ行きかけて、途中で止まった。

 イージス。

 クロトはその奪われたG兵器の名前を拾った。

 レイダーの兄弟機で、ジンよりは速く、硬く、面倒な機体。

 少しはましなのが来た。

 

「ストライク、レイダーの両機を戦力として運用するべきです」

 

 キラの顔から血の気が引いた。

 ラミアスはすぐには何も言わない。

 

「こんな奴、役に立つわけねーだろ」

 

 キラは顔を上げた。意味を掴めない目だった。

 クロトは彼女を見返さず、ストライクを見た。

 

「邪魔なんだよ」

 

 ナタルの目が細くなった。

 

「根拠は」

「見りゃわかんだろ」

 

 フラガと呼ばれた金髪の軍人が鼻を鳴らした。

 

「言い方はともかく、こいつの言い分も一理ある」

「フラガ大尉!」

「今、呑気に揉めてる余裕はないぜ?」

 

 マリューはすぐには答えなかった。

 

 目だけがキラとストライクの間を動いた。

 クロトには、その沈黙の方が分かりやすかった。

 非合理的な感情より、合理的な計算の方がまだ信用できる。

 

 艦がまた軋んだ。

 

「ストライクは、本艦周辺の防衛に回します。近づく敵を止めてください」

 

 キラの顔がさらに白くなった。

 前へ出ろとは言われなかった。だが、降りていいとも言われなかった。

 クロトはもう見ていなかった。

 前に来ないなら、少なくとも邪魔にはならない。

 それだけだった。

 

「レイダーは?」

 

 ナタルが問う。

 クロトはレイダーを見上げた。

 灰色に戻った機体は、まだ熱を吐いていた。

 

「出すんだろ。なら、さっさとしろよ」

 

 クロトがレイダーへ向かうと、背後で小さな声がした。

 

「……待って」

 

 振り返らなくても、誰の声かは分かった。

 キラ・ヤマト。

 

「あ?」

 

 クロトは肩越しに言った。

 キラはストライクの足元から数歩だけ離れていた。

 

「イージスは……」

 

 そこで声が詰まった。

 

「イージス?」

 

 キラは答えない。

 

「何? 僕がやられるとでも思ってんの?」

「そうじゃ、なくて」

「じゃあ何だよ」

 

 返事はなかった。

 言えないことがある顔だった。

 クロトには、それが勝てないなら逃げろ、という馬鹿げた心配に見えた。

 

「バカじゃねえの」

 

 キラの顔が強ばった。

 何かを言葉にする前に艦内通信が割り込んだ。

 

『発進準備急げ。ストライクも配置につけ』

 

 クロトはもうキラを見なかった。

 

「僕、最強だから」

 

 レイダーの昇降ワイヤーへ足をかけた。

 コクピットに身体を滑り込ませると、外の光と警報が装甲に遮られた。

 

 狭い。

 

 レイダーの中は、どこか檻のような匂いがした。

 拘束具が肩と腰を掴む。

 神経接続の負荷で、視界の端が白く弾ける。

 

 レイダー、起動。

 

 警告表示が走り、黒い機体に光が戻った。

 格納庫の固定アームが外れる。

 管制がぎこちない発進許可を出した。

 射出口が開く。

 人工の青い空の向こうに、崩れかけたヘリオポリスの街が見えた。

 

「レイダー、出る」

 

 クロトはスロットルを叩き込んだ。

 

 

 

 射出の加速が、内臓を後ろへ押し潰した。

 アークエンジェルの腹から弾き出され、レイダーは崩れかけた街の上へ出る。

 疑似太陽の光は煙で濁り、居住区の壁面には黒い穴がいくつも空いていた。

 だが、ヘリオポリスはまだ壊れきっていない。

 

 背後で、アークエンジェルが動き始めていた。

 遅い。でかい。撃ってくれと言っているようなものだった。

 その脇に、ストライクが出た。

 白い機体は盾を構え、艦の横につく。

 クロトは一度だけ見て、それ以上は追わなかった。

 邪魔な場所にいないなら、今は見なくていい。

 

 レーダーに赤い反応が走った。

 ジンが二つ。

 その奥から、ひとつだけ速い反応が抜けてくる。

 崩れた市街の影を縫うように、赤い機体が姿を見せた。

 

 GAT-X303、イージス。

 

 奪われたG。

 鋭い四肢を折り畳み、機体の輪郭を変えながら加速する。

 ジンとは違う。

 少しはましなのが来た。

 イージスの進路は、アークエンジェルへ向いていた。

 こちらには気付いていないのか、それとも相手をするつもりがないのか。

 

 クロトはスロットルを押し込んだ。

 黒い機体が斜めに落ちるように加速し、赤い機体の前へ滑り込んだ。

 

 警告音。イージスの軌道が変わる。

 赤い機体が、こちらを見た。

 

『未確認のG……』

 

 通信にノイズが噛んだ。若い男の声だった。

 

『何者だ』

「知ったところで意味ねーよ」

 

 通信が届いたかどうかは分からない。

 イージスが撃った。

 ビームが正面を裂く。クロトはレイダーを横滑りさせ、破砕球を振った。

 鉄球がワイヤーに引かれ、赤い機体の進路へ唸り込む。

 

 イージスは止まらない。

 身を捻り、破砕球の軌道を装甲すれすれで抜けると、そのまま懐へ入ってきた。

 速い。

 殺せる間合いを知っている踏み込みだった。

 クロトは盾を上げながら、防盾砲を撃った。

 光が近距離で炸裂し、赤い装甲を揺らす。

 イージスは弾けるように離れ、すぐにまた正面を取った。

 

『ミゲルをやったのは、お前か!?』

 

 名前。

 知らない名だった。

 黄色いジン。さっき落としたザフト兵。あれの誰か。

 

「敵の名前なんか、いちいち覚えてねーなぁ!」

 

 イージスの動きが変わった。

 怒鳴り声より先に、赤い機体が距離を潰す。

 正面から踏み込むと、腕先からビームサーベルを伸ばした。

 クロトはレイダーの肩を狙った刃を、防盾砲のシールドで受ける。

 

 衝撃。

 左腕部フレームに強烈な負荷。

 

「こいつ……!」

 

 推力で押し込んでくる。

 機体の動き全てが、レイダーを潰す一点に寄っている。

 他の連中よりもずっと、敵意を露わにしている。

 クロトは歯を剥いた。

 

「いいじゃん」

 

 レイダーを変形させる。

 機体の姿勢が折れ、MA形態へ移る。

 身体の向きと機体の向きがずれ、わずかに内臓が浮いた。

 

 クロトはスロットルをさらに押し込んだ。

 レイダーはイージスの頭上を掠め、ツォーンの照準が赤い影を捉えた。

 

 発射。

 

 イージスが急停止した。

 直撃ではない。左肩をかすめ、装甲片が飛ぶ。

 それでも体勢は崩れない。

 損傷などお構いなしに、イージスはまたこちらへ向いた。

 

 クロトは破砕球を引き戻す。

 背後で、アークエンジェルが離脱進路へ入ろうとしている。

 白い船体の動きはまだ遅いが、進み始めている。

 その横でストライクが盾を構え、近づいたジンの射線を塞ぐように動いていた。

 

 前には出てこない。

 記憶が正しいなら、あの機体だけで船を逃がしたはずだ。

 なら、しばらくは邪魔にならない。

 それだけ確認すると、クロトは赤いGへ機首を向けた。

 イージスが来る。

 崩れかけた街の上で、赤と黒の機体が正面からぶつかった。

 

 衝撃が、装甲越しに骨まで来た。

 レイダーの爪とイージスの刃が噛み合い、火花が赤い装甲の上を跳ねる。

 互いのスラスターが至近で噴き、煙と瓦礫を吹き散らした。

 警告表示が重なる。

 左腕部負荷。姿勢制御乱れ。近接警報。

 

「うるさいっての!」

 

 クロトは防盾砲を押しつけるように向けた。

 撃つ。

 光がイージスの胴をかすめた。

 赤い機体は弾かれ、わずかに後ろへ流れる。

 クロトはその隙を逃さず、破砕球を横から叩き込んだ。

 

 しかし、イージスは読んでいた。

 

 四肢を開き、破砕球の軌道の内側へ滑り込む。

 鉄球が背後の建物を砕いた。

 破片の雨の中で、つま先からビームサーベルが伸びる。

 

 速い。

 けれど、真っ直ぐすぎる。

 クロトはレイダーを半身に逃がした。

 刃が肩装甲を掠め、熱がコクピット近くまで走る。

 だが、その距離ならこちらも届く。

 

 レイダーは爪を振り下ろした。

 イージスが受け損ねて空中を流れる。

 クロトはツォーンの照準を合わせた。

 赤い機体の先に、崩れた街区の壁が重なる。

 

 構わず撃った。

 イージスは不用意に避けなかった。

 無理やり受け流すように防ぐと、光が肩の上を焼き、背後の壁を穿った。

 

 面倒な避け方をする。

 

『……もう一機はどこだ!』

 

 赤い機体が下から跳ね上がる。

 瓦礫を蹴り、強引に距離を詰めてくる。

 怒っているくせに、動きは雑にならないらしい。

 

「お前には関係ねーよ!」

 

 クロトは破砕球を振った。

 狙いはイージスではない。その進路だった。

 鉄球が瓦礫を巻き込み、赤い機体の足元を薙ぐ。

 イージスが跳ぶ。

 そこへ防盾砲を撃つ。

 

 光が赤い脚部をかすめ、装甲片が散った。

 イージスの姿勢がわずかに崩れる。

 

 落ちる。

 

 そう思った瞬間、赤い機体は崩れた外壁を蹴った。

 あり得ない角度で姿勢を戻し、ビームサーベルを振り下ろしてくる。

 クロトは盾を上げたが、衝撃で左腕が軋む。

 

『どけ!』

 

 イージスの視線は、レイダーだけを見ていなかった。

 その後方で動き始めた、アークエンジェルへ抜けようとしている。

 仲間の仇を見つけたくせに、船も逃がす気がないらしい。

 欲張りなやつだ。

 

「通れるなら通ってみろよ!」

 

 レイダーを押し返す。

 イージスの刃を盾で逸らし、肩からぶつけるようにクローを振り下ろす。

 赤と黒が崩れた道路の上を削るように滑った。

 

 背後で、アークエンジェルがゆっくりと離脱進路へ入っていく。

 遅い。まだ時間が要る。

 

 クロトはそれだけ見て、視線を切った。

 

 赤い機体がまた距離を潰してくる。

 今度は正面ではなかった。変形し、レイダーの側面へ回り込む。

 

 クロトは機首を振る。

 

 間に合うはずだったが、イージスは途中で止まった。

 止まるどころか、逆方向へ跳んだ。

 

「──ッ」

 

 フェイント。

 レイダーの反応が一瞬、遅れた。

 赤い機体が懐へ入る。ビームサーベルの光が胸部装甲をかすめ、熱がコクピットを揺らした。

 

 クロトはツォーンを至近距離で反射的に撃つ。

 

 照準も何もない。

 赤い影を焼き払うために撃った。

 

 イージスが急角度で離れ、左のフレームを焼かれながら距離を取る。

 

 普通なら、そこで立て直す。

 だが赤い機体は、離れた分だけまた接近してきた。

 

「うざいな」

 

 声が勝手に漏れた。

 視界の端の警告はまだ灯っているが、機体は動く。

 なら十分だった。

 

 破砕球を射出する。

 

 イージスは受けずに避ける。

 避けた先に、クロトはもう砲口を向けていた。

 

 防盾砲を連射する。

 

 赤い機体が捻れ、無数の光が背中側のフレームを舐めた。

 イージスの軌道が衝撃で乱れる。

 クロトはそこへ体当たりするような勢いで踏み込んだ。

 

 黒い機体のクローが赤い機体を斬り付ける。

 初めて、イージスが後ろへ下がった。

 

「逃げんなよ!」

 

 クロトは破砕球を引き戻した。

 ワイヤーが唸り、崩れた街灯ごと鉄球が戻ってくる。

 イージスがそれを避け、レイダーから距離を取ろうとする。

 

 逃がさない。

 そう思った瞬間、足元の街が揺れた。

 

 爆発ではない。

 このヘリオポリスそのものが崩壊し始めていた。

 人工の空に、黒い線が走る。

 道路だったものが斜めに浮き、煙が一方向へ引かれる。

 

「ちっ」

 

 レイダーの姿勢制御が悲鳴を上げた。

 イージスも一瞬止まる。

 

 だが、止まっただけだった。

 赤い機体は崩れ始めた街区を利用して、落下する構造材の影へ滑り込む。

 まだ来る気かよ。

 

 影の奥からビームが走った。

 クロトは機体を捻る。

 右肩をかすめ、装甲が焼ける。続けて、イージス本体が構造材の陰から飛び出して来た。

 

 近い。

 クロトは変形を待たずに撃った。

 

 ツォーンの光が市街を裂いた。

 イージスは直前で身を捻る。完全には避けきれず、腰部装甲が削れる。

 

 だが落ちない。

 

 落ちる代わりに、赤い機体は正面から突っ込んできた。

 レイダーが腕を上げると、刃と盾がぶつかる。

 

 衝撃。

 左腕部駆動低下。

 

 そのとき、アークエンジェルから通信が割り込んだ。

 

『本艦は離脱進路に入る! 速やかに帰投を!』

「そんな暇ねーよ!」

 

 視界の端で白い船体が揺れた。

 アークエンジェルの前方へ、巨大な構造材が崩れ落ちてくる。

 クロトはイージスへ意識を戻した。

 赤い機体も、一瞬だけ船の方を見た。その隙をクロトは見逃さなかった。

 

 破砕球を撃ち出す。

 

 イージスは反応したが、完全には避けきれない。

 鉄球が赤いフレームの端を弾き、機体の姿勢を崩す。

 クロトは続けて防盾砲を向けた。

 だが、撃つより先に周囲の空が割れた。

 轟音が遅れて来たかと思うと、ヘリオポリスの内壁が大きく裂け始めた。

 

「!?」

 

 人工の空に走った黒い線が太くなり、そこから光ではない闇が覗く。

 周囲の空気が障壁に開いた大穴に吸われ、破片と煙が一斉に流れ込んでいく。

 巨大な構造材が、二機の間へ倒れてくる。

 

「くそ──」

 

 クロトはスロットルを叩き込んだ。

 レイダーが横へ滑る。

 イージスも逆方向へ飛ぶ。

 

 次の瞬間、二機の間を、壁だったものが落ちた。

 

 視界が瓦礫で埋まる。

 警告が一斉に鳴った。

 破片が装甲を叩き、機体が弾かれる。

 レイダーの姿勢が崩れ、上下が一瞬分からなくなった。

 

 赤い反応は、まだ消えていない。

 

 瓦礫の向こうで、イージスの機影がちらつく。

 追ってくるには遠い。撃つにも、間に流れ込んでくる瓦礫が多すぎた。

 もう届かない。

 そんな距離で、通信回線がつながった。

 

『俺の仲間を奪ったのはお前だな』

 

 ノイズの奥で、若い男の声が低く震えている。

 

『クルーゼ隊、アスラン・ザラだ。お前は……俺が落とす!』

 

 名前。

 今度は、はっきり聞こえた。

 クロトは歯を剥いた。

 

「クロト・ブエル」

 

 レイダーが瓦礫の流れに押される。警告表示が赤く塗り潰されていく。

 

「黒い鳥が見えたら……僕だと思えよ」

 

 返事はなかった。

 代わりに、瓦礫の向こうで赤い反応が一度だけ揺れた。

 

 次がある。

 

 遠くに、アークエンジェルの反応があった。

 そのそばに、ストライクの反応もあった。

 上方から落ちてきた外壁片が視界を塞いだ。

 警告が赤く塗り潰される中、クロトは反射的に盾を上げた。

 

 衝突と同時に、光が消えた。

 

 レイダーは崩壊するヘリオポリスに呑まれ、闇と瓦礫の中へ引きずり込まれていった。

 




ここまでお読みいただきありがとうございます。

初日は二話同時投稿です。
旧版をベースにしつつ、展開や人物関係はかなり見直しています。

次回から、アークエンジェルはヘリオポリスを離れます。
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