時空改変型ゴーストライター   作:黒影時空

20 / 26
第20話『影生?NO』

 あれからどれくらい経った? まだ何日も経ってないかもしれないし、感覚的には何年も経ったような気がする。

 これからどうすればいいのか分からなかった、ホワイトナイトがこの時代に来てからどれだけ経った? 25話近くはジャンプに毎週載せていたので結構経っているように感じる。

 

 あれから……少年ジャンプに載せることは出来た、多くの人を喜ばせる漫画を作ることもきっと出来た。

 きっとこれだけのことが出来たのは単なる偶然じゃない、未来人が手を出したことも含めて自分に大きな運命があった、そうして藍野伊月に巡り会えたことも、彼女が自身と対になるように過去に消えたジャンプを与えられたことも何か関係があるのだろう。

 

 だが今は……哲平はもはや漫画を描くことさえもままならない状況となっていた、肉体的に描けなくなる寸前まで行った藍野の場合とは違う、このまま描いたところで自分の中でこれ以上何か変わるとも思えない。

 人を喜ばせる漫画を作る事とはなんだったのか? 何年もそういう作品を作りたかったはずなのに、今の自分には何が出来るのか。

 

 少年ジャンプはどうなるのだろう? 大御所が少し前に抜けて、ホワイトナイトも続けられるかも分からない状況……まさか、もう一度消えてしまうのか? とも考えていたが……少年ジャンプの面子は気がつけば少し前と比べて信じられないほどに連載陣のレベルも上がってくるのを感じている、ホワイトナイトの居場所が無くなったとしても問題ないというかのように。

 

 ホワイトナイトという名作を世に届けたことにより、それと同じものを求め続けて周囲もそれに答えた結果、少年ジャンプの敷居もかつてのように大きく広くなった、きっと自分の出る幕はなくなったと悟ったことで『ビタミンマン』も重い腰を上げて若手に譲ったのか?

 彼らも特別問題を起こさなければジャンプがまた終わってしまうこともない。

 

 ジャンプに場所もない、漫画も載らない……振り出しに戻ってしまったのだろうか。

 佐々木哲平という人生の物語はここで終わる?

 そんな風に、やることも思いつかなくなって気がつけば押し問答ばかりが哲平の中で続いている。

 

 そうして影生も相手をせずに停滞した日々を送っていたその時……久しぶりにスマートフォンの着信が入る、あの一件以来誰かに連絡が入ったこともないのに、それが突然来た……なんと、この距離から影生がかけている。

 

「哲平くん、たまには外に出たら? ほら、顔も汚くなったから整えてさ」

 

 ……

 

「外……外か、今の俺がどんな立場なのか分かってるの?」

 

「なんで? ネットミームが服着て歩いたって大したことないじゃん、皆笑ってる、皆哲平くんの行動一つ一つを期待している、喜んでくれる、ピエロだろうが漫画だろうが関係ないでしょ? 哲平くんなら」

 

 考えてみれば影生と一緒に散歩すること自体なかなか無かったかもしれない、影生といえば部屋でダラダラ過ごしているし、何かご飯を買いに行くときも一人でコンビニ、一緒に外食店に行くことも無かった、哲平が外出する時には留守番を任せていた……つまり、二人きりが初めてのように感じられる。

 

 影生の顔をじっと見ている、哲平はあまり人の顔を見れなかった、ホワイトナイトの読者だった彼らが今では自分だった物の作品を無作為に眺めて、自分の一挙手一投足をエンターテイメントという形で消化する。

 これは違う、自分が求めていたものではなかったような気がする。

 自分は何故こんな生活を送っている? ただ失敗しただけではない、努力が結ばれなかったのではない、それよりもっと惨めな結果になっているように見える。

 

「なにがしたかったんだ未来人は、藍野さんを救うように俺を選んだんだよな……? その為に罪を受け入れたのに、なんでこんな仕打ちまで受けないといけないんだ、俺は漫画を書くどころか何かに挑戦することさえ出来なくなったんじゃないのか? そこまですることも」

 

「そうかな? まだなんとかなるでしょ、コンテンツショックと違って消えたわけじゃないし、哲平くんは石を投げられてるわけでもない、憎まれてるんじゃなくて茶化されている、まだリトライはいくらでも出来るじゃないか」

 

「影生くんはそんなことになったことないから言えるんだ、これから先俺はどうやって自分の身を守りながら藍野さんの命まで……」

 

「うーん、ずっと世話になって見てきたけどさぁ……哲平くん、もうはっきり言うんだけど」

 

 

 

 

「ちょっと真剣に受け止めすぎじゃない?」

 

 ふらっと入った飲食店、影生は諭すように……しかし哲平にとっては耳に入れたくないような言葉がとんできそうな予感がすることさえ予測できた、影生の顔がよく見えずまるで深い闇のように感じるように直視出来ない。

 

 

「これまでのことを振り返って、哲平くんが凡人かどうかはどうでもよくてね、なんか使命感に燃えてるみたいだけど、なんで哲平くんが赤の他人に運命感じて全力出して救世主になろう! なんてやり方してるの?」

 

「それは……俺のところにホワイトナイトが載ったジャンプが来て……それが未来から……」

 

「ホワイトナイトを盗作したことは未来人の思想と関係があったの? 偶然事故って辿り着いただけの物もありえるし、そのまま通ったのは哲平くんでしょ」

 

「その時は夢だと思っていたから……まさか現実世界にタイムマシンなんてものが存在して、本物の未来のジャンプが存在するなんて」

 

「実際それはそうだとして少年ジャンプに連載することを決めたのは哲平くんでしょ? 罪の十字架とか言って未来のジャンプを書き写して」

 

「あんな名作を世に放たないなんてもったいない話だ……この時代で俺の作品になった以上、責任を持って……」

 

 

「それピクシブでも出来るよ、しかし哲平君の中でエラーが起きた、10年後に藍野が死ぬという途中で餌がもらえなくなる」

 

「違う! 俺はアレだけの名作を作る前に亡くなってしまう藍野さんを止めたくて……」

 

「なんで藍野に直接それを言わなかった? 未来のジャンプを使ってトレースまでして、仕事にも持ち込んで……真相を頑なに語らなかったのは? 半年も……」

 

「タイムマシンの事や真相を伝えたら、藍野さんに強いショックを受けて筆を折ることになり、それが過失になるかもしれない、としたら……」

 

「タラレバもレバニラもない、どうでもいいじゃん君の世界線の漫画のアイノイツキはとっくに死んでて、こっちの藍野は理由も分からず同じネタを赤の他人が持っていただけなんだから」

 

「そんな言い方することないだろ! 影生くんはなんなの、ホワイトナイトをドパガキとかいって見ている読者までバカにするような言い方をしたり、藍野さんが死ぬ直前の内容にケチをつけたり……」

 

 

 繰り返される押し問答、止まらない議論、哲平がここまで影生と話していることがあったか? ここが公共の場であることをすっかり忘れて影生にくってかかる哲平。

 その光景を誰が見ているのかもわからないのに……。

 

 

「1回冷静になって現実をみて、タイムマシンがどうとか藍野の命がなんだとか、俺は夢みたいな話が好きだから哲平くんの好きなようにさせてみたけど君はなんなの? 一向に展開が進歩しないじゃん、全部自分のなかにしか世界がないから、何をしても自分の想定しか見えてない」

 

 

「何か起きれば何かを原因にして、自分がただそう思っていただけの理論を正解としてそのまま突き進んで、その結果がただ自爆しただけの第20話? そういう話も好きだけど、君にやってもらいたかったのは破滅とかじゃなくてさあ……」

 

「もうそろそろ……何が言いたいのかだけはっきりしてくれよ!!」

 

 

 

「ちゃんと全人類が喜ぶ漫画を作りたいって目的は叶っただろう? 自分にしか出来ないものなんて何一つないくせに創作なんてしたんだろ?」

 

 

「それっぼいものお絵描きして描いて周りに評価されてワンピースやドラゴンボールの作者みたいな夢を見れただけで満足するような作者だったんでしょ?」

 

 

「俺みたいに評価を求めない姿勢を見せながら好きな作品を好きなように作れる環境を作って幸せになれるかは分からない作者だったからね、観察したかったけど……頭打ちを判断するのが遅かったかな?」

 

 影生は淡々と佐々木哲平に対する『悪意』を告げてくる、まるで自分が何も成長していないような、たびたび昔から菊瀬達に言われていたような『空っぽ』とはまた違う発言……それはそう、虚栄。

 ネットで散々哲平のことを酷く言っている者をたまに見る、……彼は描きたいものがないから求めているのは利益と実績だけ。

 全人類を喜ばせるという建前で貪欲にチヤホヤされたいだけの欲求だけ野郎、俺達消費者の事を見下しているようなそれっぽいだけの錯覚を見せる作者。

 読者の意見として近頃見るようになったことを、そのまま影生が口にして語っているだけだ……。

 

「影生くんがやっているのは、ただのエコーチェンバーだ」

 

「そうかもしれない、だが哲平君が見ている『全人類』の一部はそういう意見なんだよ、全部を見たってこんな景色は目を反らせない、哲平君がホワイトナイトを描いたことでそんな風にさせたんだ」

 

「ホワイトナイトは何も悪くない!」

 

「悪いよ、悪いから君はすり抜けている、漫画を描くという動機が動機のまま何年も生きていた君のストーリー性は立派だよ」

 

「前とは違う! ANIMAだって描いたんだ、まだ俺は漫画家として」

 

「ホワイトナイトが面白かったからメビウスの星を載せてもらった温情とは思わないの、そのメビウスの星も番組がなくても想定外を越えられず同じようにつぶれていただろう、他の連載用に作った作品だってサンデーとかマガジンのやり方は知らないでしょ」

 

「俺は! 俺がアイノイツキを救うように未来人からジャンプと言葉を託されて今の今までここまで頑張ってきて」

 

「誰が哲平君にそんなことをしろって頼んだ? 自分が見たものを自分として解釈した……ほら、君が大事にしてただろ? 客観視客観視!」

 

 影生の言葉で初めて手が出そうになったところで足音がする……ここしばらく会ってなかった、藍野の姿。

 まさかこんなところで会うなんて思ってもいなかったが……ここに来たという事は自分に会いに来たのだろうと冷静になる。

 

「ごめん、ちょっと喧嘩しかけて……こんな時でも気配を消すなんて全く影生くんはさ……」

 

「影生……?」

 

「ほら、前に軽く話したよね? 俺のルームメイトがいるみたいな話、ほぼ俺のアパートに居座ってて……ほぼ家にいるけどこういう所だと気配を完全に遮断しているから知ってる人は少ないと思うけど」

 

 藍野の様子が変だ、何か様子がおかしくて自分の所に来たのは何となく感じられるのだが、今起きている光景に対して理解ができない状態だ、哲平は知らぬことだが藍野はもうすでに佐々木哲平のやってきたことを把握している、しかし現実に起きている今の彼の状態を慎重に理解しなくてはならない。

 

 

「佐々木……先生? あの、本気で言ってるんですか? まさか、本当にそばにいる感覚で……?」

 

 藍野は一旦逃げ出すことにした、哲平のところに来たのはSNSサイトで哲平が一人で何かブツブツ言ってるところを撮られたところを見て嫌な予感がしたからだ。

 急いでジャンプ編集部とシエル、一通り知ってる関係者に連絡して情報を下に哲平の起きていたことを報告する……これがきっかけで哲平周りはまだとんでもないことになる。

 

 

 なんてことだ、本当に『黒幕』がいた……それもシエルが言うような異質な存在であり、絶対に見つからない形で。

 ここまで存在が出てこないはずだ、そして……ケジメをつけるように、前準備のように……哲平にメールをそっと送る。

 

『いいですか、佐々木先生……私はあれから色々と調べましたんですが、先生はこのときこそ向き合うべきです』

 

 

 

『冥道影生という人間なんてこの世に存在しません!! 貴方のアパートにはルームメイトなんていないし、貴方は誰とも話していないし、何もしていません!!』

 

 

『佐々木先生、冷静になってください! いいですか、私のメッセージを見てください、先生は空想に囚われているんです!!』

 

 ここにきてかなりややこしいところがあるので佐々木哲平にも理解できるようにまとめる、

 ここでまず覚えなくてはならないのはこれまで非現実的な事が多すぎて、成果を出せない凡人漫画家が気が狂って妄想にふけったように……感じるようで違う。

 

 まずあの落雷事故でアパートにある電子レンジが変化してタイムマシンになった……これは、本当だ。

 そこから転送されてきたのか10年後の少年ジャンプであり、将来アイノイツキがデビューする作品であるホワイトナイトが載っている、これも本当。

 

 そして……佐々木哲平がそれを夢だと思って読み切りを送り、結果的にホワイトナイトを自分の名前で公開することで盗作してしまったのも事実。

 

 ……自分が将来死んでしまうという未来も、おそらくは本当。

 右腕を負傷したこともホワイトナイトがここまで売れたことも、少年ジャンプがあんなに盛り上がったのも、そこから一気に転がり落ちたことも全部現実。

 

 上がっていったことも下がったことも全部現実に起きたことで奇妙な妄想ではない。

 哲平に起きたものは実際に視認出来る確かなリアル……それでも本当じゃないことが一つだけ存在する。

 

 それこそが新人時代から続く冥道影生との共同生活である。

 影生はとてつもなく気配を消せるのではない、本当に存在しないし声は哲平にしか聞こえていない、食事だって実際はしていないし留守番もほぼ空き家の状態にしている。

 ずっと彼は一人で暮らしていた、影生という男がいつから彼のそばにいたのか分からない。

 

「影生くんが……存在しない?」

 

 哲平も信じられなかった、だって目の前には……今でも、あの席に影生がいる。確かにいるじゃないか。

 今でもあの場所で笑って……。

 

「家に帰ろう……影生くん」

 

「え? うん、別にいいけど?」

 

 まさか……これまで変なことがあったが、それに比べたらよっぽど現実的だ、タイムマシンが存在しないと言われるより信じられない。

 哲平は5年間ずっと彼と過ごして、自分がホワイトナイトを当てるまでの苦難を共にして……ずっと、ずっと一緒に暮らしてきた。

 だからちゃんといる、影生の手の感触だって現実的だ。

 

 ほら、こうして家に帰れば……また明日から何をすれば考えて……。

 

『客観視』

 

 その言葉が哲平の中で脳裏に浮かぶ、個人的なものを抜きにして今の状況を顧みろ……そこに何がある?

 そう強く意識してアパートの扉を空けた先に待っていたのは……これまで目をそらしてきた、哲平の本当の部屋だった。

 

「あれ? 影生くん?」

 

 手を握っていたはずの影生の姿はまるで煙に巻かれるように消失しており……ゆらりゆらりと目が冴えてくる。

 その先に見えたものは……二人以上暮らしていたのならあり得ないことに、中身が少なすぎる。

 あの原稿の山が無くなってから改めて部屋を見ると……あまりにもがらんどうに感じる、二人過ごしていたからにはもっと活気があったはずだ、もう一つの寝床、食べた痕跡……残されたのは番組に映すために綺麗に整頓されてまるで引っ越し前みたいになっている部屋と、もはやガラクタの壊れた電子レンジ。

 

「……」

 

 哲平はそれでも気付かなかった、影生でもいない日があるのだろう。

 明日また影生に会いに行こう……時間はまだ自分にはある、ほとぼりが覚めたらまた探しに行こう。

 だがそうやって寝ても、日が経っても……この日から影生が現れることがなかった、まるで現実から覚めたかのように。

 

 それは奇しくも、雪吹が消えたときと同じような感覚であった。

 

 ──

 

 そして佐々木哲平抜きで行われるジャンプ編集部による立て直しの方もだんだん冷静になってきた、ホワイトナイト以外に出てくる作品のクオリティが結構上がっていることに今になって気付く、ホワイトナイトの形のないドパガキじみた面白さが他の作品に対して正確に判断できないほど脳がドバドバと叩き込まれていた弊害がありこれでホワイトナイトの面白さは危険さがあることも理解する。

 

 そして、哲平がこんなことになったのには遠からず責任があるため復帰させるより火消しの方を優先するようになる。

 そこには藍野の姿もあった。

 

「すまない……我々のせいでせっかくの君のデビューまで台無しにすることになって」

 

「いえそれに関してはあまり気にしてませんので……それよりもです、こうして話を簡潔に言うと佐々木先生はおそらく最初から詰んでいたんです、以前から見えないルームメイト……寂しさが産んだイマジナリーフレンドと呼ぶにはあまりにもおぞましいものに支配されています」

 

「ううん……当時の佐々木くんは結果も残せない形で孤独に働いていたわけだからな……心労や現実逃避のためにそういったものが生まれてもおかしくないか」

 

「問題は深刻なんですよ、その影生という人について話を聞いてみると、メッセージが未来から届いて宝くじの番号が書いてあって大金が当たったなんて言うんですよ」

 

「宝くじ!? そんなのありえないじゃないか、だって宝くじなんてものは情勢の変化によって2065年くらいに廃止されたじゃないか!」

 

「そうなんです、おそらくですけど佐々木先生……存在しないはずの宝くじが当たってるものを想定としていますから、今お金ないんですよ!!」

 

 あの宝くじの結果も影生がそう言っていただけ、つまりあれは未来人のメッセージでもなんでもなく……宝くじの大金は本当にただの幻覚。

 ホワイトナイトの印税は全部藍野家に名も残さず置いていた哲平は……新人時代の細切れのような資金のままと気付いておらず、収入も伸びていない……?

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告