「佐々木哲平版ホワイトナイト」第1話のペン入れ開始から、早くも2日が経過していた。
作業机に向かう哲平の顔には、濃い疲労の色とそれ以上の焦燥が浮かんでいる。
(くっ……やっぱり何かが違う。線一本の気迫、ベタの入り方……どうしてもあの『完成形』に届かない!)
頭の中にあるストーリーやコマ割りには一切の迷いはない。
だが……アイノイツキ版に近い思い通りの画風にならないという苦悩だけが、哲平を一人苛ませていた。
内容は既に自分の中で『答え』が出ているからこそ、今は如何にしてあの未来の傑作のように上手く再現するかに心血を注いでいるのだ、この真実を知るのが哲平と影生だけなのもあってだ。
アシスタントたちが帰り、一人きりになった深夜の仕事場。
哲平はアパートから厳重に隠していた『未来のジャンプ』を引っ張り出してわざわざ持ってきて、擦り切れるほど穴が開くほど、直接ページをめくって比較と研究を重ねていた。
(本当に……なんて凄い漫画なんだ)
読み返すたびに、哲平は『ホワイトナイト』という作品の異常性に気づかされる。
この漫画の不思議で面白いポイントは、強烈に人を惹きつける引力がありながらも、その構成要素が極めて『無個性』なところにあった。
王道のファンタジー世界。『ゴースト』や『終わらない夜』といった特別な単語こそ散りばめられているが、特定の読者が避けるような、いわゆる『尖った個性』や人を選ぶような癖が一切付けられていない。
それでいて、圧倒的に面白いのだ。
この奇跡的な組み合わせによって、老若男女、どんな人々でも純粋に「面白いもの」として没頭できる。それはまさに、佐々木哲平がずっと夢見ていた『数多くの人を楽しませる作品』の究極の理想形だった。
だからこそ、無個性ゆえに万人の胸にスッと入り込むこの作品は、哲平が見ながら描く際にもすぐに頭に入り、研究がしやすかった。
例えるなら……透明のような漫画、それがホワイトナイト。
面白いものを誰でも面白いとすぐに出力出来ることがとんでもない強みであることをここで知った。
皮肉なことに、この人知れず夜な夜な行っている未来のジャンプとの『答え合わせ』と『模写研究』が、日中の作業スピードを劇的に引き上げていた。
結果として、アシスタントや編集者の目には、読み切りやネーム持ち込みも含めて哲平が「信じられない早さで誰もが認める名作のクオリティを叩き出している突然開花した天才」として錯覚させてしまっているのだ。
そして翌日の作業中。
カカリカリ……と、ペン先が紙を擦る音だけが、静まり返った仕事場に響き続けていた。
その重苦しい沈黙に耐えかねたのか、背景のペン入れの手をふと止めて、蓮がポツリとこぼした。
「佐々木先生って……その、悪いことじゃないけど、仕事中凄い集中してるのか中々周りの人と話さないよなぁ、黙々と一人だけで」
その言葉に、ピクッと哲平の肩が跳ねる。
Gペンを握る手にじわりと嫌な汗が滲んだ。
(違う……違うんだ蓮くん! 俺だってアシスタントの皆と仲良くしたいし色々話を聞きたいよ! でも下手に何か口を滑らせたら藍野さんがどんな風に食いつくかと思うところが怖くて何も言えないんだ!)
心の中で血の涙を流しながら、哲平は原稿から目を逸らすことができなかった。
斜め後ろの席──そこで黙々とトーンを貼っているセーラー服の少女、藍野伊月の存在が、まるで背中に突きつけられた氷の刃のように冷たく感じられる。
当然の話だが、まだ藍野は自分のことを欠片も信頼していないだろう。
あの日、「今の君から盗んではいない」とアリバイも交えた苦し紛れの弁解はしたが、哲平自身も自分が潔白だとは微塵も思っていないのだし、盗作自体は事実というややこしい自体なのだから。
彼女がこの仕事場に入り込んだのは、絶対に自分を監視し、尻尾を掴むためだ。これから哲平に対してどんな罠を仕掛けてくるのか、どんな追及をしてくるのかと考えると、恐ろしくて雑談の話題一つすら口に出せなかった。
相変わらず顔にカレーをつけたままのダザクが「ふぁぁ」と欠伸をし、蓮が困ったように頭を掻く。
そんな、どこかちぐはぐで息苦しい空間の中──
ピタリ、と。
藍野伊月のカッターを動かす手が止まった。
そして、彼女は一切の感情を読み取らせない、静かで冷ややかな声で口火を切った。
「皆さんはどうして佐々木先生のアシスタントになろうと思ったんですか?」
なんの変哲もない同僚としての世間話みたいなものだが哲平はびっくりして少しピクりと反応してしまう。
どうして近づいたのか? ……要はどうして漫画を手伝おうとしているのか、それだけのことだが哲平にはとても他人事みたいに思えない。
(まっ……まま、まさか! 自然な流れで盗作を!? いやでも……ここで発言を止めるような真似をしたらいよいよ場の空気が悪くなる! ここはちゃんと聞いて、藍野さんを刺激しないようにしっかり様子を見なくては……)
作業中ながら共通の話題を作ろうとしており、哲平だけが集中出来ない形ながら藍野に釣られるように蓮が口を開いた。
「アシスタントになった理由? まあ正直に言えばホワイトナイトのファンっていうのもあるけどさ……それ以上に、俺クリエイターにめっちゃ憧れてるんだよね、ゲームとかの」
「ゲームクリエイター? ……ああ、もしかして『能登』ってあの……」
「分かるか! 俺の母さんは『白卓』の能登來暇なんだ! ……旦那も一応白卓のとこ」
「は……白卓? ごめん、俺は知らないな」
「インディーゲームのサークルですよ! 10年以上前から存在していて、奇想天外なアイデアのゲームを色々出してるんです、私も小さい頃はよく遊びましたよ!」
藍野が凄い反応するので哲平も携帯で調べてみると、確かにゲームマーケットらしきサイトでこの名前が出てくる、調べてみると確かに蓮と同じ苗字で蓮の面影がある綺麗な白髪の女性がいる。
白卓……2040年代に公開された、爆発的なアイデアを独創的に表現して形にする、ホワイトナイトとは逆に個性の塊のような作品達が揃っており、少し前には絵本作家のイラストレーターの手腕で玩具作りにも手を出しているとか。
つまり蓮はこの白卓みたいな、更に言えば母親のような……何かを作る事に憧れて漫画という手段に手を伸ばした、おおかた彼女達が手を付けてないことをやろうとしているのだろう。
実に一般的かつ深い動機だ。
「じゃあダザクさんは? いかにも漫画は興味ありませんって雰囲気しているけど」
「う──ん、まあ僕も特別好きというカタチではないね、かといってそんな眼中にないわけでも……人並み? 僕がこの仕事をしているのは、まあ……そうだね、お金が欲しいからかな、ご飯代」
この安田桜という人物は極めて謎が多い、今ここで哲平が調べているにも関わらず彼女……いや彼? 性別すら曖昧なのにこの人物に関する情報が何も出てこない。
目撃例で言えば日本各地だが、ダザクの見られる姿は食べているところと寝ているところのみ、つまりギリギリ生き物として定義される行動しか見せてない。
……逆に経歴が見えてこないが気まぐれに力を貸してくれるぐらいが、今の哲平には安全に思える、情報を見せないことでこちらにも介入してこないという表現にもなりえる、ダザク自体絵はちゃんと描いてくれる。
「お金のため……? なんかしょっちゅう何かしら食ってるところしか見ないけど、あの編集者さんもよくこんな人連れてきたなぁ」
「僕ぐらいの人が一人はいたほうが空気が重くならずに済むんだってさ、それで事の発端は? 多分君、漫画描くことに慣れてるみたいだけど」
そして遂に来た……藍野が何故ここに来たのか。
まさか『佐々木哲平が公開して今現在自分達も力を合わせて描いているホワイトナイトという作品が元々藍野伊月のもの』なんていきなり言い出すつもりなのか?
それともこの状態を利用してまた何か別のことを……?
大袈裟に哲平が考えている間、藍野は考えるように素振りをして答えた。
「私の場合は元々漫画家になりたいというのが第一ですが……少々身の上話ですけど、ジャンプで連載してしたかったんです、佐々木先生みたいに」
藍野は回想に入る……それは自分がかなり幼い時のこと、公園に謎のおじいさんがいた。
そのおじいさんはいつもそこにおり、創刊号から全ての少年ジャンプを時価で毎日買い手を求めて販売している不思議な人だった、
藍野はここで漫画というものを知り……人をここまで感動させるものがあると知って、漫画家になろうとしたとか。
「その人はよく、全人類を楽しませるような漫画を描く夢が叶わなかったと言ってました」
しかし藍野の発言に……哲平よりも渋い顔をして反応していたのは意外にも蓮だった。
「あ……あのさぁ……伊月ちゃん、それって10年くらい前? だよね」
「はい、2050……何年かだったような?」
「ないないない! そのおじいさんの夢は本物だし立派だと思うけどジャンプがノイズになってるの!」
「ノイズってどういうことかな……えーと創刊号から毎週出て、何百冊になるの?」
何も解ってないダザクが指を折って数えている中、蓮は母親から聞かされていた衝撃的な事実を聞かされる……あれからもう20年ほどになるので、知らない人も多くて当然かもしれない。
「……伊月ちゃん、その頃って少年ジャンプは存在する無いんだよ!? そのおじいさんどうやってジャンプ持ってたの!?」
「え!? そ……存在してなかったってどういう、だって過去に……」
「佐々木先生もジャンプで持ち込みしてたなら編集から聞いたことがありませんか? 『コンテンツショック』のこと……」
コンテンツショック……それは2046年に突如として全世界を襲った一大事件。
この世から『キャラクター』が存在するような作品が突如として消失、規制されたり禁じられたのではない、本当に誰も理由が分からず存在そのものが跡形もなく消えたのだ。
それはゲームや漫画、アニメといったサブカル的な媒体に留まらずお菓子やスポーツチームといった特定のキャラクターを推しているブランドも消失、結果的に数々の企業や道具までもが消えてなくなるという人類史上前代未聞の大恐慌の前触れとなった、未だに真相が掴めない大事件。
……当然少年ジャンプも例外ではなくその日のうちに一度消えた、そしてその記憶を覚えていた有志達がもう一度あの頃の友情・努力・勝利を取り戻したい、あの頃の感動を再現したいと結集して出来たのが……2060年代、今現在の少年ジャンプ。
つまり過去世代と現在のジャンプは名前だけ同じの異なる存在、二世のようなもの。
そして……藍野がそのおじいさんと会った年齢の時には、コンテンツショックによってジャンプなんて創刊号どころか最新のものすら存在しないはずだが、藍野は動揺していない……その態度は口から出任せを言っていた感覚ではなさそうだ。
「……そのおじいさんも何かしらの手を使って、ジャンプを作り直したってこともあるんじゃないですか?」
「創刊号まで? ……うーん、何人かの手を借りればもしかしたらってこともあるけど、それが本物のジャンプって保証はなくない?」
「僕こういうの聞いたことあるな、テセウスの船だっけ」
しかし哲平としては虚言で片付けられなさそうな事実、過去に消えたはずのジャンプを藍野は読んでいた? 下手すればもう誰も読むことが出来ないはずのジャンプを……それではまるで自分と逆に過去のジャンプを一人だけ読んでいたということではないか?
「ねえっ、藍野さん……そのジャンプを買ってたおじいさんってどうなったのかな……?」
「私が何冊か貰い受けたのですが……気がつけば無くなっていました、でも連載作品は何個か覚えてますよ! その時の記憶からあんな作品を作りたいなと思って漫画家へ……そして佐々木先生の」
「あ、あー! なるほど! 皆がそうして俺の所に集まってくれたというのはよく分かったから、そろそろ作業に入ろうか」
なんかそろそろまずい雰囲気がしたので話を切り上げて作業に集中させることに、どこからホワイトナイトや盗作の話を混ぜてくるか分かったものじゃないので気が気でならないが思ったより収穫はあった。
タイムマシンで未来からジャンプを届けてきたこと、過去に突如消えたジャンプの存在、それを藍野伊月が鍵を握っているということは間違いないだろう。
……では何故ホワイトナイトを持ってきたのか、影生の考えと照らし合わせて方向性を絞り出すと新たな可能性が見えてくる。
……コンテンツショック、原因が分からないということはもう一度起きるという可能性も充分にあり得る、としたら?
(まさか2070年代でまたコンテンツショックが起きるのか!? 未来人が単に将来の名作を逃がすために過去に送ってきただけとしたら!?)
……あくまで可能性とはいえ、同じ過ちを繰り返さない結果ということもあるのかもしれない。
その日の晩は自分の作業もほぼ終わっていたのでまだ夜中になったばかり頃にアパートに戻り、影生に相談することにした。
「ああ……コンテンツショックってもうそんなに昔なのか、それで哲平くんは、それが関係しているんじゃないかって?」
「ああ……ようやく見えてきた藍野さんとの共通点だからね」
「でもあいつが本気でそれが理由と思うか? 第一、コンテンツショックで消えた作品は二度と戻ってきてないのは常識というのに」
「でも嘘には思えないんだよな……状況的には未来からジャンプを読んでその情報がある俺だって、藍野さんから見れば同じようなものだし」
しかし過去のジャンプという類似した存在を持つ藍野になら、もしかしたら未来のジャンプのことを信じてもらえる可能性も出てきた。
しかし10
「分かるよ、自分の命は大事だもんな」
「いや言い方! それもあるけど……」
しかし事はそこまで綺麗に運ばない、哲平に降りかかる危機は……罪への因果は容赦なく振り注ぐ。
それは真の意味で人を喜ばせる実績を持たない哲平にとって、あまりにも最初の関門となるものだった。
連載が決まってからは珍しくもない電話がかかってきた。
「はい、佐々木です……あっ、大丈夫ですこの時間でも……えええっ!!? あっ、それは……その、わ、分かりました……なんとかします……」
「なんかワケアリだね」
「…………どうしよう、俺……番外編描くことになっちゃった」
「あらら」
──
「完成が近づいている中申し訳ないのだけど……実は昨日の夜、ホワイトナイト連載版の1話と同時掲載で、急遽番外編も制作することが決まって……」
翌日の仕事場。
張り詰めていた空気をどうにかやり過ごし、第1話の原稿がほぼ8割方完成に近づいたタイミングで、哲平は意を決してアシスタント達にそう切り出した。
昨日、アパートへ帰った直後に編集からかかってきた突然の電話。それは「第一話と同時に番外編も載せよう」という無茶振りとも言える提案だった。
虚構で出来た大きな実績のみが積まれた新人である哲平にその要求を突っぱねるような度胸も、断れる空気もなく、ただ押し切られる形で引き受けてしまって現在に至る。
「ああ、なるほどね。なんとなくそんな気はしてたよ」
哲平の報告を聞いて、蓮はペンを置きながら納得したように頷いた。
「読み切り版が載ってから連載開始までのスパンが短い上に、第一話の内容は読み切り版からほとんど変えてない構成だからさ……いくらあの『ホワイトナイト』が凄い面白いはいえ、俺達含めた読者からすれば既視感があって少し味気なく見えちゃうかもしれない。だから、第一話とは別に番外編を載せて見所を増やして、作品の魅力をさらに深堀りしようっていう編集部の狙いでしょ」
「ああ……要は、ここからおまけのページが増えるってこと? その分お金も時間もかかるわけか、佐々木先生は大変だね」
「ダザクさんは一旦とりあえず足の姿勢なんとかして。まあ、そういうことですね……でもそこまで負担がかかるものじゃないですよね? 番外編なんてちょっと日常を描いてキャラの掘り下げをしたり、4コマ漫画とかで笑える感じにして軽く次回を期待させるようにしましょう!」
蓮の的確な推測に、哲平は引きつった笑みを浮かべて頷くことしかできなかった。
アシスタント達の反応は総じて軽い。番外編と言ってもせいぜい10ページ程度の内容だ。キャラクターの日常や軽い掘り下げを描くショートストーリーにすればいい……。
作業量としては少し仕事が増えるだけで、これまでの哲平の神懸かった執筆スピードを間近で見ている彼らからすれば、「佐々木先生なら今日中にパパッと番外編のネームを上げてしまうだろう」とでも思っているのだろう。
斜め後ろの席では、藍野伊月が黙ってこちらを見つめている。その瞳の奥には、「あなたが私の作品でどんな番外編を描くのか見せてもらいましょう」という静かな、しかし確かな圧があった……誰がこんな提案をするのか、あまりにも唐突な話が入りそれが通ることになったのか……きっかけは自ずと察しがつく。
周囲の楽観的な空気とは裏腹に──佐々木哲平の内側は、冷や汗と絶望でぐちゃぐちゃになっていた。
(番外編なんてどうすればいいんだ!? そんなもの未来には載ってなかったからどう考えればいいのかも分からないよ!)
心の中で頭を抱え、絶叫する。
アシスタント達は勘違いしている。哲平が凄いスピードで原稿を仕上げられるのは、彼が天才だからではない。
未来のジャンプという『完璧な答え』をただ模写しているだけだからだし、まだそれを口に出すことも出来ない。
未来のジャンプには、物語の本筋である各エピソードこそ載っていたが、ここまでの間に番外編などどこにも存在しなかったし、今後も来ないかもしれない。
つまり……この番外編だけは、未来のアイノイツキの力を借りず、佐々木哲平自身の力でゼロから捻り出さなければならないのだ。
だが、ただ物語を作るだけならまだしも、事態はそう単純ではない。
ストーリーは哲平の中では『アイノイツキ版』と寸分違わず同じ軌道を描かなければならないという致命的な問題がある。
(俺は……アイノイツキ版のホワイトナイトの結末どころか、今後の展開すらまだ知らないんだぞ……!)
彼もまた毎週送られてくる未来のジャンプを読んで、初めて続きを知る身なのだ、ストーリーなんて全く自分の手を加えていない。
もし今、ここで適当な番外編を描いてしまったらどうなる?
登場人物の些細な過去、好きな食べ物、癖、あるいは人間関係。どんなに小さな要素であっても、一度描いて世に出してしまえば、それは『佐々木哲平版ホワイトナイトの公式設定』として確定してしまう。
もしそれが、今後未来から送られてくる本編のストーリーや設定と矛盾してしまったら?
(物語が破綻する……それがどんな影響を及ぼす? あのホワイトナイトに少しでも問題が起きるようなことはあってはならないのに……)
あの透明なまでに美しく、万人の胸を打つ完璧な世界観に、自分が不純物を混ぜ込んでしまうことになる。
『ホワイトナイト』という至高の傑作に、ほんの少しでも不備を作るような真似は絶対に許されない。他ならない、それを盗み、世に出すことを決めた自分の責任によって。
「佐々木先生? どうしました、顔色悪いですよ?」
「えっ? あ、いや! なんでもない! ちょっとネームの構想を練るから、みんなは今の作業を進めててくれ!」
蓮の言葉に慌てて誤魔化し、哲平は机に広げた真っ白なネーム用紙に視線を落とした。
未来からの盗作。
名作を人々に残していくという罪の十字架は、連載が始動したばかりの今、早くも『オリジナルを生み出さなければならない』という形で、残酷な軋轢の予兆を哲平に突きつけていた。