時空改変型ゴーストライター   作:黒影時空

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第5話『共犯者』

「頼むっ影生くん!! 番外編のストーリーを考えることを手伝ってくれえええええ!!」

 

「アシスタントじゃなくて真っ先に俺に聞くんだ〜〜お前〜〜」

 

 番外編という大きな壁、哲平は帰ってすぐに頭を影生の方へ擦り付けるように下げる、影生はというといつの間にか共犯として結託させられそうな予感がしながらも哲平のやること自体は肯定することに決めたので、巻き込まれることのない程度に付き合うことにした。

 

「いや、話を決めてほしいとかじゃなくてね……今後のホワイトナイトに支障が出ない程度に当たり障りがない話を作る必要があって」

 

「何? ありとあらゆる特定の層に配慮したみたいな話書かされるの俺? てかきみそれなにがおもろいんや」

 

「その上で面白いのがあのホワイトナイトだったんだよ! まさかそんなこと急にあるなんて……」

 

「……というか、俺じゃなくて藍野にこっそり聞いてもよかったんじゃないの? この頃からホワイトナイト描いてるんだから」

 

 藍野伊月はこの時代の時点で既にホワイトナイトの元になる作品を描いている、それはつまり一通り練っているし脳内ではホワイトナイトのキャラ達の設定が一通り詰まっていることになる、正解を知っているのは間違いなく彼女だ。

 だから下手に話を作れば何か言われることは目に見えているので影生に頼ったわけだ。

 

 対して哲平はホワイトナイト以外ではこれまでネームが通ればいいと思っていたので読み切り作品の山のなかで設定を掘り下げたことなんて一度もない、1から考えてもいいものでもない……そこで、二次創作に慣れてる影生の手を借りたい。

 

「でも俺に聞くのなんてチャットAIに相談するのとさほど変わらないと判断してるけど?」

 

「最近のチャットAIはほぼ人と話しているみたいなものだから……多分未来では番外編なんて作ってないよ!」

 

「作ってないってことは変わり出している……いや、それどころか意図しなくても変えられるんじゃないのか?」

 

 影生曰く、未来なんてものはあくまで数々の行動の結果、動画でいえば最後辺りまでシークバーを一気にグッと奥の方まで進んでみたに過ぎないのが今の哲平だ、だが行動を積み重ねれば塵も積もれば山となる、ちょっと晩ご飯やバスの時間変えたりするだけで容易く変わる。

 こんなターニングポイントを知った藍野は当然、未来のジャンプのことを知らなくても大きく未来を変えるような事は意識しなくても可能だろう。

 最終的にはF1とかレースゲームのドリフトカーブの如く大胆に曲がっていくことになるが、今は曲がってでも前に進むために番外編のネタを考えなくてはならないのだが……影生はここで番外編を作る上で見えてこなかった大きな欠陥が見えてくる。

 

「これ掘り下げるまでもなくない? 個性がないまま面白いで突っ走っているから下手の掘り下げたら、却って魅力を落とすことになるよ」

 

 そう、ホワイトナイトの特徴は透き通っているかのように個性を削り取って人を引き離す物がなく、それでいて面白いという精巧でデリケートな作品、良くも悪くも無駄が無いので必要最小限の掘り下げで読者を満足させられるが、これ以上付け足すような余地もない。

 まるで上出来なワインに泥を一滴でも注げばそれは泥に等しいという例えを思い出す、どうする? 余計な設定を出さずに番外編として成立させるには……。

 既存の設定を掘り下げて茶化してもそれは連載早々でやるような事ではない、哲平は完全に行き詰まっていた……。

 

「あっ、そうだ! 番外編の代わりに二話を掲載してもらうようにまた頼めば……」

 

「いくらホワイトナイトが神作だからってどこまでも贅沢言えるわけじゃないよね、第一アシスタントさん達の労力もあるし」

 

「はあ参ったな……」

 

 ──

 

 

 

 そうして、かつて無数のネームの山を書いていた時のように数々のネームを持って行った上でため息を吐いて扉を開ける哲平だったが……。

 

「ギャ────ッ!!!」

 

 仕事場で鋭く重いものが目の前に一直線に跳んでって原稿をデスク全体にぶちまけながら倒れ込む、気がついて視界を確認するとそれは尻だ、それもこの体全体が沈むほどの大きな重みは……。

 

「ダザクさん!?」

 

「あっごめんビックリしてえげつないくらい吹っ飛んじゃった」

 

「いやこっちもリアルで漫画みたいな吹っ飛び方して逆にびっくりしたよ……」

 

「人ってあんな垂直で飛んだりするんですね……あっ、というか佐々木先生原稿が!!」

 

 藍野が散らばった原稿を回収し、哲平も起き上がろうとするがビックリするくらい身体が上がらない、見立てはモデル体型だが想像以上に乗っかっているダザクの尻が重い。

 

「あっごめん僕これでも体重90キロはあるから」

 

「その身体にどれだけの質量が!? というか、一体何があったの!?」

 

「ダザクさんがこの仕事のために色々勉強しておいたほうがいいっていうから、付き合おうとしたら凄い勢いで飛んだ」

 

「ああ……ホラー系か何か見せたの?」

 

「俺の最高傑作『大恐慌! スプラッタブラッド』を試しにダザクさんに」

 

「何その色んな意味で身の毛がよだちそうな作品!?」

 

 ダザクはなんというかポワポワしているところがあるので蓮が趣味で作ったゲームを触れさせて反応を確かめようとしたらミサイルとなってたまたま開けた哲平に突っ込んだらしい。

 

「と……とりあえず番外編になりそうなネタを徹夜で考えてきたから、良さそうなもののベタとトーンを頼もうかな」

 

 哲平はネタをアシスタントに選ばせて自分も何かネタになるものがないかといかにもヤバそうなゲームに手をつける、本当に徹夜続きで思考がまとまらないのでなんでもいいから刺激が欲しいというのもある。

 

「これどんなゲームなの……? なんか怖いのはわかるんだけど」

 

「インディーゲーっていうか趣味の二次創作なんだけど、ペンションの中で最大30体異常の色んなホラー映画の怪異から生き延びるって作品なんだけど……まだ調整不足でなぁ」

 

「え? でも結構出来はいいよこのゲーム」

 

「色んなもの詰め込んだら面白くなると思ったんだけど……やることが多くなったりで忙しくて怖さがなくなってなぁ……似たようなゲームは上手くやってるだけに、またまだってところさ」

 

「ああ……一周回ってホラー作品としての魅力が無くなったって……ある意味では今の状況にも似通っているな……」

 

「え? 番外編進まないんですか?」

 

「いや、やろうと思えば出来そうなんだけど……」

 

 哲平は影生と共に夜中まで語った、無個性で連載内で既にまとまっているホワイトナイトを下手に掘り下げるとかえって魅力を落としかねないという事情をアシスタントにも話した。

 ホワイトナイトの絶妙なバランス感はペン入れを行っている二人にもよく分かるものではあるが、蓮はまだイマイチよく分からない。

 

「ん──、でも下手に掘り下げるとまずいなら、そもそも下手じゃない形で描けばいいんじゃないんですか? 佐々木先生が()()()()()()()()()()なんですから、先生が一番よく分かってるんじゃないです?」

 

「う……あのね蓮くん、俺はホワイトナイトの作者以前にこれまで読み切りのネームしか作ってなかったし、これだってまだ間もないんだから……」

 

「なるほどなぁ……案外頭空っぽのほうが絶妙にバランスのいい作品作れるのか? でもなんか、それだけで設定が完結するってさみしいような……」

 

「さみしいって?」

 

「だってなんかさ……無個性で誰でも面白いっていうのはあるよ? 実際、俺もめちゃくちゃホワイトナイトハマったし、日本各地にそんな人はいると思う……その、クリエイター目線なので何様と思うかもしれませんが、作品を伝える時に『面白い』だけで完結しちゃうのは、なんか届けたいものが届かなくて……みたいになって」

 

「……そういう思想が、時に人を寄せ付けなくなるんじゃありませんか? ……いえ、これは私の意見に過ぎませんが」

 

 藍野が間からポツリと言う、やはりホワイトナイトの作風で分かっていたが……全ての人に見てもらう漫画を作るため、藍野は現在の時点で個性を消しながら作品を作る方向性を決めている、嫌うものがなくならないように……だが、そうしてあの作品を将来作り出すしアシスタントとしても自分以上どころかプロ顔負けの結果を出しているのだから桁外れの才能の持ち主だろう。

 

 だが空気も乱れつつあるこの番外編の作業……乗り越えるためには……?

 

「佐々木先生……その、なんというか俺たちで選んでいいんですか?」

 

「うん、なんというか俺……客観視とか苦手なタイプだからむしろ君たちに判断してもらいたいぐらいなんだよね」

 

「ふーん……そういうのこそ編集さんに聞けばいいのに」

 

「こっちの方は『本筋とは関係ないんだから適当にやっていいんだよ〜』って軽く流されたからアテにならない」

 

「これでマジでアテにならないことあるんだ」

 

「ああ……うん、僕がホワイトナイトを書くとしたらもっとのびのびとした形になるのかな……?」

 

「うーん、のびのびとか……あっ、そうだ!!」

 

 哲平はダザクの独り言を聞いて……この番外編をなんとかする方法をここで思いつく……それはまさに起死回生の一手、哲平はそんな風に見えたのだった。

 

 ……少し時を端折って、『ホワイトナイト』の連載が始まる少年ジャンプが発売してしばらく経った時の事。

 

 ジャンプは復活後で見れば類を見ない勢いで雑誌が売れ、ネットの各地でもまた大きな話題となり、既に成功が約束された存在になりつつあった。

 編集部を訪れた哲平は、担当編集者を前に深く息を吐いていた。

 第2話の持ち込みも、これまでのネーム持ち込みの苦労からは信じられないほど順調に進んでいる。

 

「いやぁ大盛況だし今回の話も良かったよ『ホワイトナイト』! 第2話もアンケート期待していいからね」

 

「は……はは、ありがとうございます」

 

 一つの困難を乗り越えたことに安堵する哲平。

 また番外編という無茶振りが来るかは分からないが、少なくとも今回やったことが人気を博したなら、また頼まれる度に同じことを繰り返すことも選択肢に入れられるようになった。

 しばらくは未来のジャンプから送られる話のストックもある。何事もなく、この名作を人々に送り届けられる……。

 

「それにしても思い切りましたね佐々木先生! 突然番外編を持ちかけたときは悪いなと思いましたが、まさか作品の掘り下げではなく再編集するなんて! 結構話題になってますよ」

 

 哲平が閃いた番外編を乗り切る手段……それは、ダザク、蓮、藍野という各アシスタント3人に、3ページずつホワイトナイト第1話の好きな部分を全て描かせるということだった。

 するとアシスタント達は、内容はほぼ合わせながらもそれぞれ独自の描き方をしており、同じ3ページの該当シーンでも雰囲気や与える印象が全く別に映る。

 

 それは、元になった『ホワイトナイト』が、個性が削ぎ落とされているからこそ誰が読んでも面白いという、とりたてて個性と呼べるものが存在しない作風だったからこそ成立したものだ、下手に設定を掘り下げて魅力を落とす危険を、見事に回避した形となる。

 

 しかしこれによって印税も多く入り、なんとかアシスタント代なども問題なく支払える。

 特に藍野伊月は、現在の時点で既にホワイトナイトの元になる作品を描いており、元々将来彼女のものとなる作品を使っているのだ。どんな形であれ彼女に還元できるのであれば、全力を尽くさなくてはならない……。

 現在もまだ、未来からの『ホワイトナイト』は届き続けている。罪の十字架を背負いこの傑作を人々に届けながら、自分の元に何故ジャンプが送られ続けるのか、その真相を知るためにも……。

 

「ああそういえば、あの人が佐々木先生に久々に会いたいって言ってたよ」

 

「え? あの人って一体……?」

 

「ほら、七篠権兵衛先生から」

 

「師匠から!?」

 

『七篠権兵衛』、ホワイトナイト登場前の少年ジャンプ代表作品『ビタミンマン』の作者である。

 哲平は漫画専門学校を卒業した後、アシスタントなどで食いつないでいた時にそのまま指南してもらっていた関係だったのだが……振り返ってみれば、ホワイトナイトの読切が載った時点で何かしらの挨拶も送っていなかった。

 

「なるべく時間は用意する、と伝えておいてください……」

 

 思わぬ名前の登場に一抹の緊張を覚えながらも、哲平は静かにそう答えるのだった。

 

 ──

 

「哲平! お前も連載が決まるどころか一気に私を追い抜く勢いとは随分と生意気になったものだな、ははは」

 

「は……はぁ、恐縮です、師匠」

 

 後日、哲平は七篠先生に焼肉店にアシスタントごと誘われて少し遅れた形でホワイトナイト連載開始の打ち上げが行われようとしていた。

 藍野とダザクは遠慮なしに肉を食べており、蓮は噂に聞くジャンプの七篠権兵衛が、まさかの女性であったことに驚きがあり……哲平としては、関係ないのに影生が来ておることに気になって仕方ない、ここまで来ても全員気付かないレベルの気配を消す力半端ない。

 

「……ま、まさか師匠、圧力ですか?」

 

「なんだ分かるか、もう既にジャンプの代表みたいなものなんだ、いつまでも弱腰では先駆者の私が困る……というよりはな」

 

 これまでの師匠ぶったはきはきとした態度から打って変わって真剣な顔をしている。

 ここまで踏み込んだ話はこれまで一度もなかったのかもしれない。

 

「私として見れば『ビタミンマン』ですらあの頃のジャンプの輝きに比べてばまだ遠い出来栄えだ、友情・努力・勝利……黄金期とも呼ばれたあの名作たちが載っていたジャンプが、それ以外の作品も消えてから生まれたのは、消失を悪用して生まれた粗悪品の山だ、どこの界隈でもそうだ」

 

(うっ……なんか胸が痛い……)

 

「だからな哲平、私は本当にお前がどこの誰かの真似ではなく自分としての面白いと扱われる作品を作ったこと、良かったと思っている」

 

(違うんだよ全然俺の作品ではないんだよ! でも今師匠にこの流れでは言えない! ……それに……ホワイトナイトですらまだ)

 

 哲平はホワイトナイトのことをこれ以上ない傑作と思っていた、しかしかつてのジャンプ……2020年代頃のコンテンツショック前の少年ジャンプはこれと同等の存在がもっとたくさん存在していたというのか?

 まるでバトル漫画のインフレに直面しているかのような現状だが、哲平はついていくのに精一杯だ。

 改めて影生を見ながら思う、自分はこの傑作を最後まで背負い切れるのか……?

 

 遠慮もなしに肉を食べている藍野を見ていると少なくとも今は不安に感じることは早々ないとはいえ……これからも漫画を作っていこう、藍野の為にも……。

 蓮はこの間にも熱心に勉強しており、七篠に質問する。

 

「佐々木先生ってどんな人だったんです?」

 

「ホワイトナイトを描く前の目線で言えば、その辺の有象無象、夢だけは持ってて実ることはなくすぐ消えるタイプ」

 

「酷くないですか!?」

 

「経験談だ経験談、お前は特別実ったがそうやっていなくなった卵も山ほどあるってだけ、そういう厳しい世界のなかでお前は登ったんだぞ」

 

(七篠先生その人あの日雷が落ちなかったら実ってませんよ)

 

(影生くんはとりあえず皆帰るまで気配消してて!!)

 

 蓮は七篠から話を聞いたあと、今度は哲平の方に聞く……極めて真剣に、輝いていそうな眼差しで。

 

「じゃあ……どうして哲平さんは漫画家になろうって思ったんですか?」

 

「子供の頃、漫画のマネをしてたら褒めてもらえて……そこから本気でなってみたいと思ってジャンプを目指すっていう……まあありふれた流れだよ、どこかの街の『ゴクレンジャー』って作品からリバイバルブームが来てたのも功をなして新人賞取ったりしてね……そういう意味では藍野さんと同じ、多くの人間を喜ばせる漫画を作りたいってことは」

 

「へぇそういう意味では同じなのか……それで、藍野もだけど具体的にどういう物を作りたいと?」

 

「え? どういう物って言われてもなぁ……そんなものずっとないよ、自分だけのものとかずっと決まってなくて、ホワイトナイトも含めて大勢の人が見てくれたらそれで俺は満足するなって」

 

 哲平はここまでの言葉に嘘偽りはない、ホワイトナイトに対する思いもこれからの漫画との付き合い方も……全部、包み隠さず伝えられた。

 

「うん、ここの肉僕も好きなんだよね……相変わらず味変わらないな、品種に自信があるのかな」

 

 ダザクに関しては漫画とか関係なく相変わらずのようだが……少なくともここから喧嘩したり、意見の対立がなさそうでほっとする哲平。

 

 

「……え!? いいんですか師匠奢りなんて!」

 

「どうせ私も使う機会早々ないからな、弟子の成長くらい奮発させてくれ」

 

「いやー、僕も金は結構ある方だけど最近は貰って食べるのもいいものだよね」

 

「ダザクさん、私たち以上に結構食べてましたよね……ほぼキャベツしか食べてない佐々木先生を見てください」

 

「いや僕はあんまり食べる資格とかなかったから……じゃあ皆、第2話からも皆よろしくね」

 

 こうして哲平はアシスタント達とのわかだまりも無く無事に話を送り出せる……そういうものだと思っていた。

 しかし、ネーム投稿でも言われていたことであり自虐的に語っていたことでもあるが、哲平の欠点は客観的に見た感覚を掴めない……というよりは何もかも全て自己完結して彼の中で話を進行している。

 

 それは人に状況が伝わらない以上に……。

 

 

「うん母さん、俺の方はうまくやってる、見てくれたか? 俺の漫画がジャンプに載るなんて凄い経験だったよ……でもさ」

 

 

 

「やっぱり佐々木先生、自分でホワイトナイトを作ったとは思えないんだよな」

 

 哲平にとって想定外の意見を、隠しているものが見えてこない。

 哲平の知らないところで淡々と『佐々木哲平は本当にホワイトナイトを思いついたのか?』という疑問が周囲から広がっていく……。

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