時空改変型ゴーストライター   作:黒影時空

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第6話『タイムパラドックスゴーストライター』

 

『ホワイトナイト』の連載が始まってから、その勢いは留まることを知らなかった。

 少年ジャンプの売れ行きは爆発的に広がり、かつての黄金期すら彷彿とさせる熱狂を生み出している。

 ホワイトナイトの読者層は従来の少年たちだけに留まらず老若男女、様々な形の人々の手に取られるようになっていた。

 その巨大な引力は、ジャンプに掲載されている他の漫画たちにも好影響を与えた。雑誌そのものが多くの目に触れるようになった結果、比例して他の作品も話題に上るようになり、雑誌全体がコンテンツショック以前のかつてないほどの活気を取り戻しつつあった。

 

 そんな狂騒の渦中にいる哲平たちの仕事場はどこまでも静かだった。

 今週掲載される第6話の作業が無事に終了し進行は極めて順調。ストックにもまだ十分な余裕がある。

 落雷事故以来、哲平の元に現れる未来のジャンプは来る頻度を増しており、今やアパートの一角を埋め尽くすほどの量になっていた……話数にして、最大45話分。これだけの未来が、物理的な質量を持って彼の手元に存在しているのだ。

 

 アシスタントたちとの関係も良好で、特にトラブルはない。ホワイトナイトは無事に世に届けられ続けている……少なくとも、哲平の中ではそう思っていた。

 藍野伊月も、ここしばらくは怪しい動きを見せていない。彼女が未だに『盗作』の疑念を抱いているのは確かだろう。自分が本来描くはずだった作品なのだから当然だ。

 だが哲平自身もまた、何故自分がこんな途方もない出来事に巻き込まれたのか、その理由を全く理解できていなかった。

 

 一ヶ月以上が経過した今も、未来から漫画が送られてくる原因は謎のままだ。

 だからこそ、その真実を知るその時までは、藍野には何も伝えず描き続けるしかない。彼女に対しては、推測ではなくなるべく正確な真実を共有したいからだ。

 いつか、自分や藍野にも納得のいく説明を送れる日が来るはずだ。

 その時まで、この『未来からの盗作』という罪の十字架は、彼の中で静かに、だが重く残り続ける。

 

 しかし全てを抱え込んでいるつもりの哲平は、全く気付いていなかった。

 原稿を見られたわけでも、証拠となる情報を調べられたわけでもない。ただ純粋な観察と直感によって、アシスタントの能登蓮が『佐々木哲平はホワイトナイトを考えた作者ではない』と勘付き、静かに行動を始めていることに。

 

 蓮は作業の手を動かしながら、哲平の背中を盗み見ていた。

 あの日、焼肉屋で哲平は語った。漫画家になる上で「多くの人間を喜ばせたい」「大勢の人が見てくれたらそれで満足だ」と。

 その言葉に嘘はないのだろう。

 だが蓮にはわかっていた。哲平の言葉には、本当に『それ以上の意味』が存在しないのだ。

 

(佐々木先生は、好きなものとか、やりたい事とかが無いんだ。ただ、読者が喜ぶ顔を見たいから漫画を描いている。志で言えば立派なんだよな……志は)

 

 蓮の胸中で、違和感が渦を巻く。

 どれだけの読者を想定しているのかもわからない、周囲に見せつけるための漫画。

 哲平自身が言っていた通り、彼の中には描きたいものも、表現したいテーマもないのは見て分かる。

 人が喜んでくれるならそれでいい。彼にとって漫画を描く事は、喜びを提供するための『ただの手段』で終わっている。

 クリエイターとして、何か見せたいものが見えないどころか、最初から存在しないような形の作品、ゲームクリエイターの両親のもとに育った蓮にはそれに覚えがあった。

 

 なら、どうして『ホワイトナイト』という、削ぎ落とされた個性が絶妙なバランスで成立している傑作がこの世に存在するのか?

 ここまで連載の作業に付き合ってきて、蓮は1つの恐ろしい仮説に辿り着きつつあった。

 

 佐々木哲平は、一字一句正確に『何か』を書きなぞっているのではないか?

 つまり、盗作。

 いや、ただの盗作ではない。通常、何か別の作品を参考にしたとしても、そこには必ずその人なりの個性や特徴、手癖のようなものが滲み出るものだ。趣味でゲームを作る蓮自身がそうであるように、作り手の『我』は無意識のうちに作品へ混ざり込む。

 ……まさか?

 何かを参考にしたとして。もし、自身の中に表現したいテーマが何1つない哲平だとしたら?

 彼なら、作者名だけをすげ替えた形で、純度100%の模倣をしてしまうのではないか?

 寸分違わず、そっくりそのままの形で。

 

(ま……まさか。そんなの、人間業のはずがないだろ? 生成AIですら出力にはある種の独自の個性が見えるっていうのに。生身の人間が、パソコンのコピー機能みたいな真似を、完璧に出来るわけが……)

 

 蓮は身震いした。

 藍野伊月が抱く疑念とも、哲平自身が抱える罪悪感とも違う。蓮はこの現場に漂う異様な違和感から、密かに真実の尻尾を掴もうとしていた。

 だが、蓮にとって恐ろしいのは、何かを隠しているという事実そのものよりも、哲平のあり方だった。

 自我を完全に消し去り、ただの出力装置(プリンター)になりきっているかのような佐々木哲平という男の人間味の無さ。その行動自体が、蓮には不気味で仕方なかったのだ。

 

 ──

 

 その日、蓮は藍野やダザクを連れてファミレスに向かい話をする、哲平は普段から忙しいのか気を遣っているのか、一応誘ってみたのだが忙しいので自分抜きでもいいと謙遜するように語っていた……あの自己を見せない所が今は助かっている所がある。

 

「メニューのこのページからここまで一通りちょうだい、僕ちゃんとお金あるからさ」

 

「ダザクさんのアレも中々不思議ですよね……人間越えた食欲してるんじゃ」

 

「まあ僕はそういう普通の人間じゃないからね……さて能登くん、面倒かもしれないのにわざわざ僕達を誘ったという事は何かあるんだね?」

 

「そ……そんなまた、意地悪ですよダザクさん、まるで避けてるみたいな」

 

「いえ、人付き合いが悪いことは自覚してますから……」

 

 藍野はなんというか、表情変化が多いタイプの人ではあるのは確かだが少し溝を作っており、機嫌が悪いわけでもひねくれてるわけでもなさそうだが、藍野は無理して愛想を悪くしているようにも見える、こんな中で仕事の話をするのも気が重い話ではあるが、自分の中でケリをつけるためにも話しておきたい。

 

「その……なんかさ、今の所『ホワイトナイト』の連載は凄く順調で、佐々木先生どころか俺達も結構期待されるようになってて……嬉しい話ではあるんだが、作業をしていて妙な所もあるんだ、聞いて欲しくて」

 

「構いませんよ、私も変だと思いながら描いてたりすることもありますので」

 

「え? そうなの? どうやら楽観的だったのは僕だけみたいだな」

 

 ダザクは本気にしてないような笑みを浮かべながらも年長者として余裕の振る舞いを見せ、蓮と藍野の相談に乗ることにした……一人で五人前は頼むんだ、それまで時間もたくさんある……。

 

 ──

 

「まず前提として、佐々木先生がよく言っていたこと……自分の作りたいものや表現はない、ただ多くの人を喜ばせたいだけだって、それを事実として話すけど……それにしては、佐々木先生のこだわりが強くないか?」

 

 これまで色んなエピソードを手掛けてきたが、自分の作品に伝えたいものがないはずなのに哲平は自身が考えた内容から1ミリもズレたりテコ入れをすることを望まなかった、編集者への持ち込みやベタ入れ中などの雑談でストーリーに何かしらの要素や展開の盛り上がりどころを軽く提案することはあるのだが、哲平はそれを全て突っぱねている。

 

 自分の作品にそれだけ自信があるか曲げたくない物があるうちはそうなのだろう、しかしそのわりには番外編で下手に動かしは崩れてしまうと難航したり、哲平の場合ホワイトナイトに特にメッセージは込めてない。

 では哲平は実際は何かを表現したいのか? それもありえない……ホワイトナイトという作品に何の個性もない、何か強調したいものも無いのに一度決めたストーリーを変えようとしないのが現状だ。

 

 そして一切揺るぎないその内容は全部大ヒットの絶賛に収めている……裏があると疑うよりは気になって仕方ない、何故ここまで話を変えようとしないのか?

 それだけの時点で藍野も頷く。

 

「その点は私も引っかかってはいたんですよ……それに、佐々木先生には悪いと思って蓮さん達には黙っていたことがあったのですが……関係あることかもしれないので続けてください」

 

「ああ……それでつまり、描きたいテーマ性がないのに特定の話にこだわり続けるのか、それは恐らく絶対に面白いと確信しているものがあるから……作者として当然のことなんだけど、ちょっと違うというか……その」

 

「目線が違う、とか?」

 

 ダザクは核心に近づくことを狙うような発言をする、哲平は客観視が苦手で面白いものの判断がつかない、それでボツ続きの人が突然誰でも面白い物を作れるようになるには簡単な方法がある。

 自分で自分の作品の出来栄えが分からなくても、他人の読んだ作品なら遠慮がなくなる、特に自分の表現がないくらいに透き通った人ですら『面白い』の一言が出てくるような作品。

 

 蓮は一般的に恐ろしいことを口に出そうとしている、とても……もしこんなことを公表すれば自分達だってただでは済まないことを、蓮は怖い訳では無いが周囲にこれを言えば後戻りが出来ない。

 だが前に進まなくてはならない、自分以上に……藍野が覚悟を決めたように聞き入っている。

 

「……そうだな、もしダザクさんの推定通り……いや、そんな言い方をしたら俺の思い過ごしであってくれなんだが、もしかしたら佐々木先生は……」

 

「大丈夫です、やっぱり蓮さんもそう思いますか……すみません、佐々木先生の様子を見るため、蓮さん達を混乱させないために黙っていたんですが……私も、私も描いていたんです、ホワイトナイトを」

 

 藍野は……全てを話した。

 ホワイトナイトは読切が載る前に自分が描いていたこと……哲平が自身の作品を盗作しているのでは? と突撃したこと、しかし哲平は悪意を持って盗作したわけでもなく不可解なことも多いため、アシスタントとして情報を集めていたこと。

 

「どういう事だ? 藍野さんとは元々無関係なのに盗作出来た……というのも妙な話だが、佐々木先生が描いた方はそれよりずっといい出来なんだろ?」

 

「そうです、ストーリー構成も設定も一連の流れも、私が考えたものにほぼそっくりですけど……佐々木先生のものはそこから更にブラッシュアップされてるんです、まるで商業用の連載作品として最初から精密に作られてるように」

 

「うーん……関係ない人な上に上位互換の盗作? なんか、途端に複雑になってきたな……いや、盗作って決まったわけじゃ……」

 

「いいえ、佐々木先生はあの……時確かに私に言ったんです、自分のところに漫画が送られてきたと」

 

「でもそれを連載まで回したんだろ!? 魔が差したって……なんでそのままの形で連載なんて」

 

「ホワイトナイトが大事だから……作品を愛してはいるんじゃない? それが多分、非人道的な手段としても伝えたいくらいには」

 

「いや……だからって、面白いからって自分が考えたものでもない物勝手に広めるとか、大きな御世話じゃ……」

 

 哲平が素直に打ち明けなかったのはこうやって混乱を招くからだ、罪の十字架はデリケートに扱わなくては落としどころも見つからない。

 しかし罪の償い方というものは罰を受ける人間が都合よく扱えるものではなく、軽はずみなことをすればその影響は深く及ぶ。

 

 ここで『盗作』という可能性を踏まえて藍野は……哲平によって罠を仕掛けられていたことに気付く、それが意図的なものか、哲平がネタが思いつかない故に無自覚に考え付いたタチの悪い悪意のないものだとしたら。

 

 罪の十字架は気が付かない間に蓮達の方にも……!

 

 それは哲平が急遽決められて、がむしゃらに作り出した番外編。

 それは哲平が自分の中で話を作れないと、周りにアシスタントの紹介のつもりで差し出したページ、それを……書かせた。

 

 そう……描いたんだ、自分達もまたホワイトナイトを。

 

「もしかして俺達……加担させられた? 俺達も利用して作ることで……」

 

「うーん、例の先生が意図していたのか分からないけど、あの番外編の存在によって僕らは謎の盗作? とやらの共犯者として加わったわけか」

 

 蓮もダザクも、なんなら本来作者であるはずの藍野ですら、場合によっては哲平と同じ盗作という枷に巻き込まれてしまったことになる、番外編が世に出回った以上世間は自分達アシスタントも分かったうえで協力したと解釈するだろう。

 

 まさかバレた時に哲平はそこまで想定していたのか? もししていなかったとしたら……それはそれで恐ろしすぎる!

 話していると、ようやくダザクが注文していた料理が一通り届き始めて、とてもファミレスのテーブルに収まりきれないほどの料理が既に待機している。

 

「ああごめん、ちょっと待っててね」

 

 ダザクはウェイターが困っていることに気付くとフォークを軽くひねるだけでスパゲッティを全部巻き取って詰め込んだり、パフェを口直しのドリンクのように全部入れて、フライドポテトを指の隙間に挟んでちょっと振るだけで全部掴み取り……食べることに全力を尽くしているかのように器用に食べている。

 

 

「ダザクさんがご飯に関する漫画描いたら、めちゃくちゃ個性的な作品になりそうだな……」

 

「それで……私は佐々木先生が言うようにこのような事態になった黒幕を探しているのですが、中々尻尾を掴めなくて……」

 

「黒幕……か」

 

 ダザクは藍野の言葉に一瞬だけ真剣な眼差しになるが、すぐに食べ直す。

 そうして今後の事を聞いていると、蓮達のテーブルを覗く者が。

 

「ちょっと話は軽く聞かせてもらったけど、いいかな?」

 

「貴方は?」

 

「ああ僕はね……哲平くんともちょっとね、君達の話がもしも事実なら見過ごせない事態なんだ」

 

 ──

 

 アシスタントたちがファミレスで得体の知れない真実に近づきつつあった頃、哲平たちの住むアパートでも、彼自身の運命を決定づける異変が起きていた。

 

 深夜の静寂を破り、いつものように電子レンジが唐突に異音を鳴らし始めた。

 落雷事故以来、この古い電子レンジはタイムマシンとして機能し、未来の『週刊少年ジャンプ』を哲平の元へ送り届け続けている。

 送られてくるジャンプの年代は少しずつ進んでおり、今は2078年の終盤の号が届いていた。数週間分がまとめて届くこともあったため、そろそろ2079年版に突入する頃合いだろう。

 

「……よし」

 

 哲平は静かに電子レンジの扉を開け、熱を持った真新しい未来のジャンプを取り出した。

 いつも通り、アイノイツキ版の『ホワイトナイト』が載っているはずだ。

 自分が背負うべき「罪の十字架」の先を確認するため、そして読者を喜ばせる最高の漫画を届けるため……哲平は慣れた手つきでページをめくった。

 

 しかし。

 パラパラと全体をめくっても、一向に目当てのページが現れない。

 巻末、中盤、巻頭……どこを探しても、見慣れたあの緻密で圧倒的な絵柄が見当たらないのだ。

 

「ホワイトナイトが……載っていない?」

 

 哲平の背筋に冷たいものが走った。

 これまでの経験からして、これは一度もなかった異様な事態だった。

 作者の都合で休載することなど週刊連載なら当然あるだろう、しかし何らかの理由で休載されている号のジャンプが送られてきたことは、今まで一度たりともなかった。

 合併号の際に少し時間のズレこそあるが、送られてくる未来のジャンプには、必ず『ホワイトナイト』が掲載されていたのだ。

 

 なぜ、ホワイトナイトが載っていないジャンプが送られてきたのか?

 指先を震わせながら、哲平はもう一度、今度は最初からゆっくりとページをめくり直した。

 

 ……しばらくして、その答えは見つかった。

 今回届いたジャンプを開いてすぐ、目次よりも前の特設ページ。

 嫌でも目に留まる白黒のページに、その文字は刻まれていた。

 

『訃報』

 

 心臓が早鐘のように打ち始める。

 訃報? 誰のだ?

 いや、考えるまでもない。

 未来のジャンプが、ホワイトナイトが載っていないこの号を、わざわざ自分に送ってきた理由。

 哲平はごくりと唾を飲み込み、その無機質な活字に目を落とした。

 

 ──『ホワイトナイト』のアイノイツキ先生が、急逝されました。

 

 未来のアイノイツキ。

 つまり、10年後の未来で正式な『ホワイトナイト』を描き、大ヒットを飛ばしていた世界線の藍野伊月が……亡くなった。

 

 哲平の中で、あらゆる感情がぐちゃぐちゃに渦を巻いた。

 あまりにも突然すぎる発表。未来の世界で彼女の作品を愛していた読者たちも、今の自分と同じように、いやそれ以上の絶望と喪失感に打ちひしがれたに違いない。

 しかし、どうして。なぜ彼女は死ななければならなかったのか。

 

 そして……あまりにも伝えるのが遅すぎるが、哲平はようやく、未来からの「意図」に気付かされた。

 未来の藍野伊月が死んだのなら、今現在の藍野はどうなるのか?

 今の彼女は、アシスタントとして哲平のそばにいる。自分がホワイトナイトの連載を奪ってしまったせいで、彼女の歩む道はすでに未来と比べて大きく変わり始めている。 

 それでも、藍野伊月はこの時代でも死んでしまう運命にあるというのか?

 ……そして、その残酷な運命を食い止める為に、自分が選ばれたのか?

 今はどんな状況か? 良い方向に進展しているのか、それとも悪化したのか?

 

 その問いに答えるように、ジャンプのページの間から一枚の紙切れがはらりと床に落ちた。

 これまでのジャンプにはなかった、直接的なメッセージ。

 哲平は震える手でそれを拾い上げ、そこに印字された文字を読んだ。

 

『死の源流は未だ消滅していません ホワイトナイトの力で《イツキチャン》を救って』

 

 息が詰まる。

 これは、ただ名作を世に送り出すためだけの現象ではなかった。

 未来に進む物語。どこかの世界線で、本来なら訪れることのなかった「明日」を目指すことになる物語。

 藍野伊月の命を奪う『死の源流』を断ち切り、彼女を救うこと。

 

 佐々木哲平は、ここにきてようやく……自分が何のために未来から漫画を受け取り、どうして『盗作』という大罪を背負わされたのか、その真の運命を知ったのだ。

 

「俺が……藍野さんを……」

 

 その時だった。

 いつの間にか起きてきていた影生が、あくびを噛み殺しながら哲平の背後に立っていた。

 彼は哲平の肩越しに『訃報』のページとメッセージを覗き込み、そして、運命の重さに打ちひしがれる哲平へ、あまりにも現実的で、最大の試練となる言葉を放った。

 

「いや哲平くんさ、盛り上がっているところ悪いんだけど……」

 

 影生はいつも通りの、どこか飄々とした、しかし鋭い口調で核心を突いた。

 

「未来の方のアイノイツキが死んだということは、もうここから先、ホワイトナイトの続きは届かないことになって……」

 

 哲平はハッとして影生を振り返った。

 影生の目は真剣そのものだった。

 

「今、手元にあるストックはまだ45話まであるけど……問題はその先だ。手本がなくなった46話以降から、どうやって今の時代のホワイトナイトを続けるつもりなの?」

 

 ──自分自身の表現も、描きたいテーマも持たない佐々木哲平が、どうやって天才・藍野伊月の『ホワイトナイト』の続きを描くのか。

 

 未来からの盗作という手段を失った今、本当の意味で『十字架』の重さが、哲平にのしかかろうとしていた。

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