*響視点*
なんで?どうして?
さっきまでは普通の人たちだったのに。
「ひびき、ついてきなさい」
「お家に帰らないの?」
「いいから、来なさい」
「痛っ、お姉ちゃん!」
2人がひびきちゃんを無理矢理連れていった。
「──っ待て!!」
急いで追いかけようとするが、
『待つのは君だ!ここに来る前の約束を忘れたか!
ビーストの反応があった以上、深追いするのは認めん!』
「師匠、でも....」
『撤退するんだ!』
.....ごめんなさい、それでも私は。
「あの子に呼ばれたんです。じっとしてなんていられません!」
『行くんじゃない!響君!!』
かなりのスピードで追いかけているはずなのに、なかなか距離が縮まらない。
後を追って走り続けていると開けた場所に出て、そこに3人の姿が見える。
「その子を返せ!」
私の声でようやく2人が立ち止まった。
どうにかしてひびきちゃんを取り戻さないと。
「なら力ずくでやってみるといい」
「誰!?」
いつの間に近くに現れたの!?
「私はダークメフィスト。アイツから聞いているだろう?」
そうか、あなたが。
「あなたがひびきちゃんの両親をこんな風にしたの!?元に戻して!」
「私じゃない。やったのは──コイツだ」
ゴゴゴゴゴ
地面が揺れる。
その正体はすぐに現れた。
「グオオオオッ!!」
【フィンディッシュタイプビースト ノスフェル】
「ビースト!それにあの腕は!?」
「力強い、いい腕だろ?」
両親と同じ腕をしている。
あのビーストがやったっていうのは間違いなさそうだ。
「おお!来てくださいましたか!!
さぁひびき、お前も私たちと同じようにしてもらうんだ」
「嫌だ、怖いよパパ」
「我儘を言ってはダメよ。受け入れなさい!」
「させない!」
ひびきちゃんにそんな事は絶対にさせない!
私は両親の方へと走っていった。
「フッ、相手をしてやれ」
「シャアアアッ!」
お母さんが異形となった右腕で攻撃してきた。動きも普通の人とは思えないほどの身軽さだった。
「くっ、お願いです!正気に戻って!」
私は攻撃を避けて必死に呼びかける。だけど向こうに私の言葉は届かないみたいで、苛烈な攻撃を仕掛けていく。
とても避け続けられる速さじゃなくて、ついに蹴りをくらってしまった。
「あぐっ!」
「お前から攻撃をしないと一方的でつまらないな」
「私は、絶対に助けるんだ。誰も傷つけたくない!」
もう一度お母さんと向き合った時に、空から光がやってきた。
「ウルトラマンさん!」
「思っていたよりだいぶ早かったな。向こうのビーストには逃げ回るよう指示していたんだが。しかし、無理をしてきたようだな。それなら少しばかり早めるか。
お前の相手は私とノスフェルだ。それと──おい、その子どもを始末しろ」
え?いま、なんて。
「分かりました」
お父さんの左腕がさらに凶悪な姿に変わっていく。
「パパ?」
「今すぐやめさせて!」
「ならどうすればいいか分かるだろ?」
「デヤアッ!」
「お前は邪魔をするな」
ウルトラマンさんが来ようとするのをビーストと一緒に止めている。
なら、私がするしか。
もう腕を振り下ろそうとしている。止められるのは、私しか。
「ぐっ、うぉおおおお!」
お願い、届いて!
私はお父さんの背中を少し殴り飛ばすくらいのつもりだった。
ひびきちゃんを助けるにはそれしかないって。
それなのに──
グチャッ!
「あ、嘘...なんで....」
私の拳は、お父さんを貫いていた。
「パパぁぁぁぁ!!」
「グアッ!」
「ここで見ておくがいい、ウルトラマン。ノスフェル、抑えておけ」
ウルトラマンさんがビーストに踏みつけられている。でも、今はそんな事を考えている余裕なんてなかった。
私が、殺した?
拳が抜けた体は支えを失ったかのように崩れ落ちていく。
私の手は、赤く染まっていた。
「いい攻撃だったじゃないか。どうだ?人を貫いた感触は」
「違っ、私、こんな事をするつもりなんかじゃ」
「パパっ!パパっ!起きてよパパ!」
「あ、ひびきちゃん...。私は、その──」
「人殺し!!!」
──『人殺し』
昔、私が言われたこと。あの時のせいでお父さんは私たち家族を捨ててどこかへ行ってしまった。
私はそんなんじゃないって思ってたのに、私──本当に『人殺し』になっちゃった。この手は、血で濡れて。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「それにしてもこの男も哀れなものだな。こうなる前はこんなに立派な父親だったのに」
そう言うと、私の頭の中に知らない記憶が流れていく。
『お前も早く逃げるんだ!くそ!こっちへ来るな!家族には絶対に手を出させないからな!』
体も声も震えているのに家族を守ろうと身を挺して守っている。
『グオオッ!』
『うわああああァァ!』
「はっ!これは....」
「この男の記憶だ。勇敢な父親だっただろう?お前の父親と違って」
「え....」
「お前の父親ならどうしただろうな?死ぬわけでもないのに逃げ出したんだ。きっと我が身可愛さでお前や母親を置いて逃げ出すだろうな」
お父さんなら、きっと──
『響君!相手の言葉に耳を傾けるな!』
司令が何か言っている。
けど、私はその言葉より────悪魔の言葉がよく聞こえる。
「ついでにこっちの記憶も見せてやろう」
「うっ....」
『あなた!!』
『グルル』
『...神様、どうかお願いします。あの子だけは。あの子だけは助けてください。お願いします』
『ガアッ!』
『きゃあああああ!!』
「もういい!やめてぇ!!」
限界だった。これ以上は見たくない。どうしてこの家族がこんな目に合わなきゃいけなかったのか。
「なんだ、もういいのか。なら続きを始めようか」
「どういう...こと?」
「私はこの子どもを始末しろと命じたんだ。次はお前がやれ」
「はい」
お母さんがひびきちゃんに向かって歩き出した。
「なんで、どうしてこんな酷いことを」
「早くしないと間に合わないぞ」
「お願い!お母さんにひびきちゃんを襲わせないで!」
「ほら、あと少しで目の前だ」
少しずつ近づいている。また私がやらなくちゃいけないの?
嫌だ。あの記憶を見て、私はもうこの人と戦いたくない。
止めたいのに、体はもう.....
その時、ビーストに踏みつけられながらも必死に抗おうとしているウルトラマンさんと目があった。
「たす...けて..」
「──ッ!オオオオオオオ!」
「グガァ!」
「なんてやつだ」
踏みつけていたビーストを力だけで無理矢理押しのけた。
そして、少し躊躇ったように見えたけどお母さんに向けて鋭利なエネルギー波をくりだした。
その攻撃をくらったお母さんは上半身と下半身に分けられてしまった。
「ママぁ!」
「ハアッ!ハアッ!」
「余計な邪魔が入ってしまったな。戻れ、ノスフェル」
そう言うとビーストはどこかへ消えてしまった。
けど、ひびきちゃんの両親はもう.....
「安心しろ。この2人は、最初から死んでいたんだ」
「え.....死んでたって、どういうこと..」
「そのままの意味さ。お前が出会った時には既に死んでいた」
「でも、会った時に会話もちゃんとして──」
「俺がコイツらの生前の記憶通りに動かしていただけだ」
その言葉を聞いて、私の中で何かが切れた。
「どうだ?ビーストが憎いか?──私を殺したいか?」
「──ッ、イグナイトモジュール!抜剣!!」
『ダメです響さん!今使ってしまっては!』
憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!
必ず殺す!人の命を、家族の愛をなんだと思って!!
「ガアアアアアアアッ!!」
「フッ、脆いな」
「グアアッ!!」
メフィストに叩き潰される。
その攻撃でギアも解除されてしまった。
「やはりその程度、本気を出すまでもない。
目的も済んだ、私も戻るとしよう。またな、ウルトラマン。次会う時が本当の戦いだ」
そう言い残してメフィストも消えていった。
「グッ、アァ」
ウルトラマンさんも限界がきたのか姿が見えなくなっていく。
残されたのは私とひびきちゃん、そして物言わぬ体となった2人のみ。
彼女の泣き声だけが、静かな夜に響いていた。
...私は嫌われてもいい。せめて、2人が守ったひびきちゃんだけでも助けないと。
「ひびきちゃん....」
「触らないで!パパを殺したくせに!」
「.....ごめんね」
「人殺し!!」
ひびきちゃんの敵意を含んだ目が突き刺さる。
ダメだ。もうボロボロなのに、これ以上は心まで耐えられない。
ビー!ビー!
え、なに?まだいるっていうの?
『.....響君の、目の前だ』
「え....」
『反応が、響君の目の前から出ている』
私の目の前には、もう1人しか。
.....嘘だ。そんなことって。
-これはおまけだ-
また記憶が流れ込んでくる。
『はっ、はっ、はっ、はっ。
パパ、ママ』
この声は、ひびきちゃんの。
『きゃっ!......あなたは、誰?』
目の前にはメフィストが立っていた。
『私はダークメフィスト。お前の家族のところに連れて行ってやろう』
『ほんと?』
『ああ、これでずっと一緒だ』
そう言うとアイツの手が迫ってきて──
「じゃあ、もうひびきちゃんは....」
「私のパパを殺したんだから.....お姉ちゃんも死んでよ!」
彼女の両腕が異形の手へと変わっていく。
その光景を見て、私は足に力が入らなくなり涙を流すことしか出来なかった。
*S.O.N.G.内*
「やはり、生体反応が確認できなかったのはビーストのせいなんかじゃなかったんだ。既にあの一家は....」
「ボクはもう見てられません!」
「どうしてだよ!くそっ!!」
「響ちゃん!お願い逃げて!!」
『おいおっさん!そっちは何がどうなってるんだ!』
『響さんに何かあったの!?』
「これは...あまりにも....」
*深淵の竜宮内*
「チッ!!」
ドガーン!
「ひいっ!」
「マスター、一体どうしたのですか?」
「.....胸糞の悪いものを見た!これ以上ないほど最悪の気分だ!!」
*響視点*
何も考えることが出来ない。
この夜のうちに私の手は血で濡れて、父親の違いを見せつけられて、守りたかったものは既に死んでいた。
もう疲れちゃった。ひびきちゃんが近付いてきても逃げようとも思えない。
私.....何と戦っていたのか、全然分かってなかったんだ。
...目の前にひびきちゃんが立つ。
あの小さかった手がこんなにも変わっちゃった。あの綺麗だった目は憎悪に染まっている。
死んじゃうのかな、私。生きるのを諦めたくないって思ってたはずなのに、もう受け入れてしまっていた。
ひびきちゃんが腕を引いている。私の心臓に突き刺そうとしてるのかな?
『響君!逃げるんだ!』
ダメです、師匠。
『生きるのを諦めるな!』
すみません、奏さん。
──ごめんね、未来。
ドスッ!
「ぐっ!」
「あ.....リアン...さん?」
私に向けた攻撃をリアンさんが体を張って受け止めていた。
「.....すまない」
「ぎゃっ!」
そう言ってひびきちゃんのことを攻撃した。
『.....ビースト振動波の消滅を確認』
それじゃあ彼女は完全に──
「響、遅くなってすまなかった」
「私の事はいいです!それよりリアンさんの方が!」
攻撃を受けた箇所から血が流れていた。早く手当てをしないと!
そう思って触れようとすると、私の手が血で濡れているように見えて咄嗟に手を引っ込めてしまう。
「.....先に、聞きたいことがある。
響は、こんなことがあって...もう戦いたくないか?」
「.....分かりません。どうしたらいいのか分からないんです」
「なら、ビーストたちが憎いか?」
「.............はい」
「それで振るう拳はどうだった?」
「今は、とても虚しいです」
「そうか。
なら、もう憎しみを持って戦うな」
「じゃあ!こんな事をされても何も感じるなって言いたいんですか!!」
「違う。悲しむのも、怒るのもいい。だけど、そこに憎しみを込めるな。
お前は、そんな気持ちで誰かに手を差し伸べることが出来るのか?
それが、立花響が開く手だったのか?」
「でも、私の手はもう血で汚れて....」
パシッ
リアンさんが手を握ってくれた。いつもつけている手袋も外して。
.....温かい。
「お前の手は汚れてなんてない。
その手は、いつも誰かを助けようとしている。それを汚れているなんて俺は思わない。俺以外のみんなもそう思っているよ」
「ひっ.....く.....っ、う.....うぅ....」
一度零れた嗚咽は止められず、私は泣き出してしまった。
「.....ぁぁ.....っ、うわぁ.....っ」
──
────
私が泣き止むまで、リアンさんはそばにいてくれた。
「もう大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます。
あの、質問してもいいですか?」
「どうした?」
「リアンさんならこんな時、どう思ってるんですか?」
「.....もし今みたいにビーストの犠牲者が出た時は、こんな悲劇が起きない未来を必ず作ると誓って、これからも戦おうと思っているよ。
自己満足だがな。亡くなった人の無念も、平和になった世界を見せることで少しはマシになるんじゃないかって」
「未来を....」
「そうだ。平和な未来を作ることが、俺の戦いだ。
だから響も、この家族のような被害者を出さないために、もう一度立ち上がって欲しい」
「.....そう、思いたいんですけどね」
「まだ何か不安が?」
「実は、明日お父さんと話をしに行くんです。でも、ちょっと怖くて。
ひびきちゃんのお父さんがビーストに立ち向かう姿を見て、私のお父さんと比べてしまったんです。
それで今度会ったら、取り返しのつかないほど失望しちゃうんじゃないかって心配になっちゃって」
こんな事を言われても困りますよね。
何言ってるんだろう、私。
「俺には、お前の父親がどんな人なのかは分からない。それに、世の父親が全員この父親のように立ち向かえるとも思っていない」
それはそうなんだろう。
私が高望みをしているだけで、お父さんが普通なのかもしれない。
「それでも話をしたいと思うのは、昔は良かったと思っているからなのだろう?」
「.....はい」
「なら、信じてみるといい。昔好きだった父親を。
そう思っていたのなら、必ず大切なものを受け取っているはずだ」
「本当に、あるんでしょうか?そんなものが」
「それを確認しに行くといい」
「はい!」
「俺は、少し休む」
リアンさんが倒れ込みそうになるのを受け止める。
「リアンさん!しっかりしてください!」
かなり血を流してる。
こんなになるまで付き合ってくれてたんだ。
私が慌てていると空から謎の物体が飛んでくる。
「もしかして、あれが前に言ってた乗り物?」
近くまで来ると彼が中に吸い込まれていった。
そしてどこかへ飛び立っていく。
「リアンさん....」
私には無事でいてくれることを祈るしかなかった。
これって曇らせタグ付けた方が良いんですかね?