土曜日の午前10時ごろ。自室にて宿題を終えた俺は、ペンを机に置いて息をついた。
これですることはあらかた終わったけど……どうしようか。誰かのとこに遊びにいこうか。アポ無しでいいんだっけ? 昔は確か──。
そう思案していると、玄関の戸が開く音と、かーさんの「あら、れんげちゃんいらっしゃい!」という声が聞こえ、俺は自室から玄関へと向かった。
「颯にぃの部屋、初めて入るん。お邪魔しますなん」ぺこり
「おう。いらっしゃい、れんげ」
自室にて、机を挟んで座布団に腰を下ろす俺とれんげ。
「つか、俺の部屋でよかったのか? テレビとかゲームは居間にあるけど」
すると、れんげは「颯にぃとふたりで遊びたかったん」と嬉しくなる言葉に次いで、持っていた手さげからスケッチブックやらクレヨンやらを取り出す。
「お絵描きするのか?」
「はいですん。颯にぃをたくさん描けば、昔のことをもっと思い出せるかもしれないのん!」
おお、と声が漏れた。俺と2人で遊びたいというだけでなく、俺のことをもっと思い出そうとしてくれていることが嬉しくて。
「そりゃ妙案だな! なら俺はれんげが描き終わるまでメデューサと目が合ったようにジッとしてりゃいいんだな!」ガッチーン
「お願いしますん! ところで颯にぃ、目はいくつ欲しいのん?」
「目? そうだな〜。……ん? 目?」
「そうなん。颯にぃを四角くして丸めて延ばして天日干しして裏から見た感じの絵にしますん」
……れんげはさも当然かのように話す。
再会してから少ししか経ってないがわかる。この子は天才だと。それもぶっ飛んだタイプの。会話の端々に滲み出る語彙力、図工の授業や絵日記で見せる画力、小2とは思えぬ達観ぶり……。
俺としては普通に描かれた俺の似顔絵が見たいが、こういう才能は否定しないように……。
「じゃあサードアイと第六感を合わせた4つでオナシャス!」
「あいっ!」
「それとさ、れんげ」
「?」
「今かられんげが描こうとしてる絵と、もうひとつ『俺をそのまま描いたバージョン』も描いてくれないか?」
「? ……わかったん。普通に描くのはつまらないですが」
よっしゃ。上手くいった。『つまらない普通の描き方』で小鞠を描いてコンクールで賞を取る才能だ。可能性の芽を摘まないようにせねば。
そして静止すること、しばらく。
「できたん!」
「お! 待ってました! 見ていい?」
「どうぞなん」
れんげからスケッチブックを丁寧に受け取る。そこには……。
【自主規制】された俺が【自主規制】され、【自主規制】状態で天日干しされているさまが描かれていた。
「…………」
「どうですか、ウチの渾身の絵は」
「……奥浩哉もビックリだぜ。とんでもねえ画力だな」
「むふー。じゃあ次は、そのまんまの颯にぃを描くん」
そうして、再びお絵描きを再開したれんげ。『普通に描くのはつまらないですが』という話通り、少しテンションが控えめなようにも映る。
「できたん」
「お、お疲れ様ー」
そして手渡された絵を見てみると……。そこには、俺が描かれていた。
いや、似顔絵なんだから俺が描かれているのは当たり前なんだが。まるで鏡写しかのように正確なのだ。赤髪のグラボブに人によっちゃ『目つき悪い』と言われる赤い目、わりかしシュッとした輪郭。鼻も口も、そのまんま俺だった。
「……すげえ。ありがとな、れんげ」
「こちらこそなん」
「しかし本当にプロ並みだよな……。コンクールで賞取ったのも納得だわ」
すると、れんげが自身のお腹に手をやった。
「どうした? お腹痛い?」
「違うん。コンクールって聞いたらお腹減っちゃったん」
「あっ! わかるぞれんげ、なんかエクレア思い浮かべちゃうよな!」
「なーっ!? これが分かるとはさすが颯にぃ! エクレア買いに行くん!」
「いいや、買いに行かんでいい! 材料はあるはずだからお昼のデザートに手作りエクレアだ!」
「エクレアなーん!」
こうして、れんげの圧倒的才能を目の当たりにしたこの日。そして、俺、母さん、れんげの3人で手作りしたエクレアはめちゃくちゃ美味しかった。