「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。   作:会澤迅一

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第16話 コハル「ナツキちゃんには会えないよ」

 前回までのあらすじ!

 

 七曜祭最終日!

 先日、観劇中に観客たちの目の前でナツキとキスをした。

 そのせいで俺は、フユミのファンクラブとコハルのファンクラブの皆々様方から命を狙われている。

 

 そこでアキハ先輩の手筈に従い、用務員に変送して裏口から学内に潜入した。

 

 途中まで、誰にも見つからずに進めた──

 

 が、コハルに見つかった。

 

「恋する乙女をナメすぎだよー。アタシはずっと、トーマのことが好きで見てるんだから。──トーマが着ぐるみ着てたって、アタシはすぐに見つけられるよ」

 

 そう言って笑ったコハル。

 

 観念した俺は、変装をやめる。メガネと付け髭を外し、口の中の詰め物も取り出す。

 

 そして大きく息を吸い込み、コハルの目を真っ直ぐ見つめ返した。

 

 カラコンで拡大したコハルの瞳は、天真爛漫に輝いていた。コハルの表情は、ドヤ顔そのもの。

 

「名推理っしょ。褒めて褒めて〜」

 

 無邪気に小躍りしてみせるコハルに、

 

「ああ。完敗だよコハル」

 

 俺はお手上げだった。

 

 コハルは少しだけ目を丸くした後、ふっと口角を上げ、憐れむように目を細めた。

 

 そして一転して、飄々とした表情を浮かべる。

 

「ナツキちゃんには会えないよ」

 

 切って捨てるような一言だった。

 

「え……?」

 

 俺は驚きを隠しきれなかった。

 

 ナツキには会えない……って、どういうことだ?

 

 学校に来ていないのか?

 それとも俺を明確に拒絶しているのか?

 今は会えないのか──これから先はもう会えないのか?

 

 様々な思考と最悪の想像が、頭の中をぐちゃぐちゃに錯綜する。

 

「まあ、ちゃんと説明するから、こっち来て」

 

 パニックになりかけた俺を前に、コハルはくるりときびすを返した。

 

 俺は慌ててその後を追う。

 コハルは正門でも裏口でもなく、体育館裏に向かう。

 そして、古いフェンスの破れた隙間という抜け道を教えてくれた。

 

「ここねぇ、ヒヨリが教えてくれたの」

 

「ヒヨリってどなた?」

 

「妹。ここ最近は不良少女になりつつある」

 

「おぉ……」

 

 少々フクザツな気分だが、ともかくサンキュー妹ちゃん。

 

 そうして、コハルは俺を学園の外へと連れ出した。

 

 しばらく歩いてるうちに、俺は落ち着いてきた。

 コハルはそれを察してか、とつとつと切り出した。

 

「ナツキちゃんからの伝言……ってか、アタシが言われたことだけどね。『しばらく一人にしてください』、ってさ」

 

「…………そうか」

 

 俺は重く息を吐き出した。

 

 無理もない。

 ナツキは元々、すごくシャイで不器用だ。

 そんな彼女にとって、文化祭のステージの上、衆人環視の中でのキスなんて、精神的な限界をとうに超えた行動だったはずだ。

 

 その直後に俺が倒れた。

 今のナツキは、人並み外れた羞恥心と、『自分が無理をさせたせいで倒れた』という強烈な罪悪感との板挟みに押しつぶされている。

 

 ナツキは何も悪くないのに。

 空白の一週間の記憶を取り戻してくれた、俺の恩人なのに。

 

 フェンスを抜けた先の小道は、虚しいほど静まり返っている。

 

 学園のお祭り騒ぎが嘘だったかのように感じる。

 

 しばし、コハルと俺は無言で歩く。

 

 七月初旬。

 空は、コバルトで塗りつぶしたように青い。

 

 陽射しは強く降り注ぐ。アスファルトの照り返しが視界を白く眩ませている。

 

 夏はすぐそこまで来ている。

 でも梅雨の湿り気は確かに残っていて、肌にまとわりついてくる。

 

 前を歩くコハルが、

 

「どっちもよくないからねー」

 

 ポツリと釘を刺した。

 日の光の下、彼女のプラチナブロンドが鮮やかに煌めく。

 

 ゆるく巻かれた毛先が風に揺れるたび、湿気を吹き飛ばす。それは光の糸を束ねたように幻想的だった。

 

「ナツキちゃんも、トーマも。罪悪感とかは良くないよ」

 

 コハルは振り返らずに続ける。

 

「誰かに悪いことしたって思ったら、その人と自分が、いっしょに幸せになるためのことを考えるの。どっちかを犠牲にするような考え方はよくないから。それじゃあ全員不幸になるから」

 

 コハルは、ふう、と息をつくと、頭の後ろで両手を組んだ。

 

「……ほんと、二人とも似てるよね」

 

 無防備な背中越しに、コハルの少しだけ呆れたような、でも底抜けに優しい声が響く。

 

「悪いことするのが下手っぴ。いい子ちゃんじゃないのにさぁ」

 

 俺は胸を詰まらせた。

 

 完全に図星だ。

 四股なんていうとんでもない不誠実を働いておいて、罪悪感に押しつぶされて身動きが取れなくなっていた。

 

 ナツキもきっと、俺と同じだ。

 俺の記憶を叩き起こして引きずり出したことに、罪の意識を感じている。

 

 中途半端で不器用なのだ。俺もナツキも、揃いも揃って。

 

「……そうだよな。いい子ちゃんじゃないのになぁ」

 

「そ。いけない子なんだよ」

 

 コハルは、頭の後ろで組んでいた手を下ろす。白金の髪がふわふわたゆたう。

 

「いけない子なの。アタシらみんな」

 

 それきり黙りこくる。コハルも、俺も。

 俺たち二人の足音だけが、閑散とした住宅街の壁と路面に乱反射する。

 

 太陽はじきに、直上までやって来る。

 

 前をゆくコハルが、唐突に振り返った。

 

「アタシの家、この近くだから。ちょっと来て」

 

 

 

 

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