「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。   作:会澤迅一

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第12話 木南秋葉の悪魔的ハーレム計画

「わ、わかったわ! すぐに入る! つまさきから耳の裏まで念入りに洗うから!」

 

 フユミは叫ぶや否や、着替えをひっつかんで脱衣所へとダッシュした。

 

 バタム! と勢いよくドアが閉まる。

 

 ……エグい誤解を招いてしまった。

 

 まあいい。これで少し落ち着ける。

 

「ふぅ……」

 

 俺が息をつくと、隣からくすくすと笑い声が聞こえてきた。木南先輩である。

 

 彼女はコントローラーを置き、持参のティーカップを手に取る。

 

「罪づくりな人ですね」

 

 紅茶の香りを楽しみながら、木南先輩はそう言った。

 

「え?」

 

「今の、『先に体を清めてベッドで待っていろ』という意味に受け取られていましたよ?」

 

「い゙っ! や、やっぱりですか……」

 

 フユミの奴、色ボケしやがって──いや、俺のせいか? 俺のせいか。俺のせいだわ。ごめんフユミ。

 

「……さて。いよいよ二人きりですね」

 

 木南先輩の声色が、変わった。

 

 さっきまでの柔らかさが消え、冷徹で怜悧で玲瓏なトーンへ変わる。

 

 彼女は俺の方へと体を寄せた。

 ほんのほのかに大人っぽい香水の匂いがする。俺と一歳違いとは思えない色香だ。

 

「本題に入りましょうか。()()()さん」

 

「ほ、本題……?」

 

「ええ。単刀直入に聞きましょう。あなた、この状況をどう収拾するおつもりですか?」

 

 木南先輩の瞳が、俺を射抜く。

 

月澄(つきずみ)・フユミ・エインズワースさん。火伏(ひぶせ) 琥春(こはる)さん。冷水(しみず) 夏希(なつき)さん。そして私、木南秋葉」

 

 彼女は指を折りながら、淡々と名前を挙げた。

 

「全員が、あなたとの『特別な関係』を主張している。記憶がないとはいえ、あなたは四人の女性の心を弄んだも同然の状態ですよ」

 

「うっ……返す言葉もございません……」

 

 正論パンチが鳩尾(みぞおち)に突き刺さる。

 

「まあ、それについての責めは本題ではありません。いま想定できうる未来について考え、備えましょう」

 

「未来?」

 

「ええ。まずは直近の未来から。例えば、もし今夜、あなたがフユミさんに誘惑されたとしましょう。あなたは、それを拒めますか?」

 

 想像してみてください、という木南先輩の指示に従う。

 

 ほわんほわんほわんほわん……

 

 

 

 バスタオル一枚のフユミが俺の寝室にいる。下ろした金髪は、タオルとドライヤーで乾かしたものの、まだ湿り気を帯びている。

 

「トーマ、私……」

 

 抱きついてくるフユミのしなやか肉感、漂うラクトンの甘い香り、上気した肌、潤む碧眼の上目遣い、震えるブロッサムピンクの唇。

 

 そして、90cmは上回ろうかという胸部装甲……!

 

 

 

 

「ふへっ、へっ、へっへ、へへへェへへへへ……」

 

 TV版のアンデルセン神父みたいな笑い声が出た。

 

色魔(しきま)……」

 

「はっ!」

 

 現実に戻ると、木南先輩が俺を見つめていた。恐らくイヌの糞を見ても、彼女はここまで冷たい目はしないだろう。そのくらいの軽蔑がこもった絶対零度の視線であった。

 

「す、すみません、木南先輩」

 

 先輩は返事をしなかった。

 

「トーマさんは絶対に月澄さんの誘惑に負け、既成事実をこしらえます。そして、『その次』も我慢できません。恐らくトーマさんご自身から誘うでしょう。月澄さんは、トーマさん一筋の私から見ても美しく魅力的な方です。トーマさんのような盛りのついたお猿さんが我慢できるはずもありません」

 

 さらっと激ディスをかまされたが、事実の摘示であり反論の余地はない。

 

「朝から晩まで、あなたの心は淫らな欲望で満たされ、あなたの体は、その欲望を叶え続けるでしょう。……いえ、欲望を叶えるのは月澄さんの体のほうですかね?」

 

 木南先輩は俺の耳元で囁く。

 

「しかし、そう頻繁に事に及べば、まず間違いなく関係は露見します。『四天王』の均衡は瞬く間に崩れる」

 

 ゾクリ、と背筋が凍る。

 

「結末がどうなるか、想像してみてください」

 

 またもや指示に従う俺。

 

 ほわんほわんほわんほわん……

 

 

 

 

 

 [暴力描写][残酷描写]

 [ゴア][スプラッタ][ピーーー]

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「……阿部定(あべさだ)かスクイズみたいな事件になりそうです」

 

「ええ。そのときは私がトーマさんの一部をボートに乗せて差し上げます」

 

 木南先輩は心の底から愉しげに、無惨な未来を予言した。この人マジモンのサディストだ。冗談じゃない。やると言ったらやる、その凄みが伝わってくる。

 

「トーマさん。あなた、誰にもバレず、誰にも訴えられず、誰にも刺されず、この修羅場をくぐり抜けられると思いますか?」

 

 俺は首を横に振った。残像を残すほどのスピードで。

 無理だ。絶対に無理だ。俺のキャパシティをはるかに超えている。

 

「助けてください、木南先輩……!」

 

 俺は情けなくもすがりついた。

 

 しかし、木南先輩は眉の毛一本動かさない。真・スルーである。

 

 数秒考えた俺は、ようやく理由を理解した。

 

「アキハ先輩、助けてください!」

 

 途端に彼女の頬が緩み、見たこともないほど柔らかな笑顔になった。

 

「まあ、及第点としましょう。お昼にもお願いしたとおり、二人きりのときは名前で呼んでください。あのときみたいに呼び捨てでもいいのですけれど」

 

 言いながら俺の頬に手を添え、強引に視線を合わせる。

 

「いいですか? 一人を選べば阿鼻叫喚、下手を打てば屍山血河です。なら、答えは一つ」

 

「こ、答え……?」

 

「ええ。全員と仲良くなればいいのです」

 

 アキハ先輩の提案は、あまりにも突拍子もなかった。

 

「はぃ……?」

 

「まずは、私たち四天王同士の親睦を深めるのです。お友だちとして友情を築く。その後で、あなたとの関係を明かします」

 

 アキハ先輩は、とんでもないことをサラリと言ってのけた。

 

「目指すは『公認』です。全員が納得した上での、平和的な四股」

 

「なっ……!?」

 

 俺は絶句した。

 公認の四股? ハーレムエンド?

 そんな都合のいい話が現実に成立するわけがない。ラブコメでもまずありえない。そんなのは官能小説の世界だ。

 

 本作はあくまでR15なんだぞ!?

 

「く、狂ってますよ……」

 

「狂ってるのは一週間で四人に手を出したあなたですよ」

 

 ぐうの音も出ん、この人レスバ強すぎん?

 

「もはや沙汰の外、正気も狂気もありません。生き残るためにはそれしかないのです」

 

 アキハ先輩は妖艶に微笑んだ。

 

 シャワーの音が止まる。

 フユミが上がってくる気配がする。

 アキハ先輩はパッと身を離し、何食わぬ顔で茶菓子を手に取った。

 

 俺は震える手で膝を抱える。

 とんでもないことになった。

 俺は、悪魔と契約してしまった。

 

 俺の高校生活は、詰んだ。

 いや、ここからが本当の『地獄(ハーレム)』の始まりだったのだ。

 

 

 

 

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