「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。 作:会澤迅一
「こっちこっち〜」
コハルに手招きされるままに、俺はおっかなびっくり卓に着いた。
フユミの隣。対面にナツキ。ナツキの隣にコハル。上座にアキハ先輩。
テーブルの中央には、半玉のスイカ。赤い果肉は陽射しを受けて、きらきら瑞々しく光る。
ナツキが岩塩をしゃかしゃかとかけた。コハルはスイカをしゃくしゃく食べる。
フユミは「コハル、タネ飲み込んじゃってない?」と聞いた。コハルは「栄養になるから」と返した。
ナツキは「お腹で種が芽を出しますよ」と笑う。コハルは「それ都市伝説でしょ〜」と笑う。
するとアキハ先輩が「いえ、実例がありますよ」と真顔で言った。
コハルが「えっ」と固まった。
フユミが笑う。「アキハ先輩、からかっちゃ可哀想ですよ」と。コハルは「ああビックリした!」と胸をなでおろす。
しかし俺は気が気じゃない!
平静を装いつつ、さりげなく四人の様子をうかがう。
なんでみんないるの……?
普通に考えたら、それぞれ別々のことをしていたはずだ。
フユミはアメリカ独立記念日を祝っていたはずだし、コハルは自宅で弁当を作っていたはずだし、ナツキは文芸部室で寝ていたはずだ。
しかし今は全員が海沿いのコテージに集まり、和気あいあいとスイカを食べている。
聞くに聞けなかった。あまりにも自然な雰囲気だったから。
そんな俺を、隣のフユミが横目で見る。
「アキハ先輩が招待してくれたのよ。タカさんが車でお迎えに来てくださって。ありがたかったわ。横田からここまで、けっこう遠いから」
「そ、そうか。それはよかった」
俺は曖昧に頷いた。
やっぱりアキハ先輩か。そりゃそうか。こんなことを段取りできる人は、アキハ先輩をおいて他にいない。水着に着替えたタイミングで連絡したのだろうか。
「ほら、トーマもスイカ食べなさい。アキハ先輩が高いの用意してくれたから」
「あ、ああ」
俺が曖昧に頷くと、ナツキがひと切れ差し出してきた。
「塩が掛かってるので良ければ」
「ああ、ありがとう」
受け取って、かぶりつく。甘い。普通のスイカより果肉がキメ細かくて、しゃりしゃりとした歯触りの後に、強い甘みがじんわり広がる。後味はすっきり爽やか。
「うまいなぁ」
「でしょ〜」
コハルがえへんと胸を張る。
「アキハ先輩のチョイスは外れないよね!」
なんで我が事のように得意げなんだ、コハル。
「ふふ、熊本産の大玉です」
アキハ先輩は少しだけ得意げに笑い、麦茶を一口含んだ。紅茶以外を飲んでいるアキハ先輩は珍しいな、と思った。
ナツキとコハルが「さすがですね」「ねー」と首を傾げ合い、顔を見合わせてくすくす笑った。
そうして四人が自然に会話を続けていく。
フユミは、スイカの種をスプーンで取り除きつつ言う。
「お夕飯、何にしますか?」
その問いにアキハ先輩が答える。
「近くの鮮魚店から仕入れを頼んであります。お刺身と、焼き魚と、あとは皆さんのご希望を」
言うが早いか、
「じゃあ貝っ!」
コハルが勢いよく手を上げた。
ネイルチップが夕日を受けて、きらきら光っている。
「貝焼きたいです! 貝!」
そんなコハルを横目にナツキは麦茶を一口飲む。そして、
「私は何でも」
と、静かに言った。
最後にフユミが俺を見る。
「トーマも貝で良い?」
俺が頷くと、フユミは「ん」とだけ返した。
少ししてから、ふと気がついた。
「え、みんなで夕食を食べるんですか?」
四人が一斉に俺を見た。
フユミは呆れたように眉を上げる。コハルは困り顔で首をかしげる。ナツキは無表情のまま。アキハ先輩は涼しい顔でお茶を傾ける。
「当然でしょ、ここに泊まるのよ」
フユミが澄まし顔で言った。
「そうですよ。先輩どうせヒマですよね」
ナツキも淡々と乗っかった。こいつ素で俺をナメてるんだよな……。
ってか、明日は月曜日じゃないか?
俺の疑念を察したのか、
「明日は文化祭明けだから、休日だよ〜」
コハルが言った。言われてみればその通りだった。
「ええ。ですから五人で楽しく過ごしましょう」
アキハ先輩が総括した。
俺は展開についていけず、放心状態だった。
五人で仲良くやっていこう、もうわだかまりもないのだから一度全員で顔を合わせよう、そう思っていた。
思っていたが、こんなに早く全員集合するとは思っていなかった。
と、ここで俺はあることを思い出した。
(一応、そろそろ母が帰ってくる頃なんだけど……)
母は出張続きで、家にいないことがほとんどだ。でも、近日中に帰宅すると言っていた。
一応、迎えておきたいと思った、そのとき。
「お母様には許可を取ってあるから大丈夫よ」
フユミが俺の考えを読んだ。
「え、連絡してくれたの?」
「そうよ。アキハ先輩から連絡もらったときにね」
「あ、ありがとう……」
俺の感謝の言葉に、フユミは少しむっとする。
「何よ、その怪訝な反応」
「いや、気が利きすぎてて、ありがたくて……俺、このままだとダメ人間になっちゃいそうだな、って」
「アンタもうダメ人間でしょ」
「うっ」
俺が固まると、
「ふふん、なっさけない顔」
フユミはサディスティックに微笑んだ。
「まあ、浮気者ですよね」
ナツキは当然のように言った。
「4股してるからね」
コハルも頷いた。
「駄目な人ではありますね」
アキハ先輩は涼しい顔で肯定した。
俺は返す言葉も無いが、それでも何か言わねばならない。
「俺は──」
「先輩、スイカもう一切れどうぞ」
ナツキがソルトミルを差し出した。黒曜の瞳から放たれる視線には、独特の圧力があった。
「あ、ありがとう」
俺はもう一切れのスイカを受け取り、塩を振って口をつけた。
甘くて、しょっぱい。
窓の外、海は午後の日を受けて、ギラギラと輝いていた。