「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。   作:会澤迅一

130 / 134
第1話 四天王、全員集合!(前編)

「こっちこっち〜」

 

 コハルに手招きされるままに、俺はおっかなびっくり卓に着いた。

 

 フユミの隣。対面にナツキ。ナツキの隣にコハル。上座にアキハ先輩。

 

 テーブルの中央には、半玉のスイカ。赤い果肉は陽射しを受けて、きらきら瑞々しく光る。

 

 ナツキが岩塩をしゃかしゃかとかけた。コハルはスイカをしゃくしゃく食べる。

 

 フユミは「コハル、タネ飲み込んじゃってない?」と聞いた。コハルは「栄養になるから」と返した。

 

 ナツキは「お腹で種が芽を出しますよ」と笑う。コハルは「それ都市伝説でしょ〜」と笑う。

 

 するとアキハ先輩が「いえ、実例がありますよ」と真顔で言った。

 

 コハルが「えっ」と固まった。

 

 フユミが笑う。「アキハ先輩、からかっちゃ可哀想ですよ」と。コハルは「ああビックリした!」と胸をなでおろす。

 

 (なご)やかだった。

 しかし俺は気が気じゃない!

 

 平静を装いつつ、さりげなく四人の様子をうかがう。

 

 なんでみんないるの……?

 

 普通に考えたら、それぞれ別々のことをしていたはずだ。

 フユミはアメリカ独立記念日を祝っていたはずだし、コハルは自宅で弁当を作っていたはずだし、ナツキは文芸部室で寝ていたはずだ。

 

 しかし今は全員が海沿いのコテージに集まり、和気あいあいとスイカを食べている。

 

 聞くに聞けなかった。あまりにも自然な雰囲気だったから。

 

 そんな俺を、隣のフユミが横目で見る。

 

「アキハ先輩が招待してくれたのよ。タカさんが車でお迎えに来てくださって。ありがたかったわ。横田からここまで、けっこう遠いから」

 

「そ、そうか。それはよかった」

 

 俺は曖昧に頷いた。

 

 やっぱりアキハ先輩か。そりゃそうか。こんなことを段取りできる人は、アキハ先輩をおいて他にいない。水着に着替えたタイミングで連絡したのだろうか。

 

「ほら、トーマもスイカ食べなさい。アキハ先輩が高いの用意してくれたから」

 

「あ、ああ」

 

 俺が曖昧に頷くと、ナツキがひと切れ差し出してきた。

 

「塩が掛かってるので良ければ」

 

「ああ、ありがとう」

 

 受け取って、かぶりつく。甘い。普通のスイカより果肉がキメ細かくて、しゃりしゃりとした歯触りの後に、強い甘みがじんわり広がる。後味はすっきり爽やか。

 

「うまいなぁ」

 

「でしょ〜」

 

 コハルがえへんと胸を張る。

 

「アキハ先輩のチョイスは外れないよね!」

 

 なんで我が事のように得意げなんだ、コハル。

 

「ふふ、熊本産の大玉です」

 

 アキハ先輩は少しだけ得意げに笑い、麦茶を一口含んだ。紅茶以外を飲んでいるアキハ先輩は珍しいな、と思った。

 

 ナツキとコハルが「さすがですね」「ねー」と首を傾げ合い、顔を見合わせてくすくす笑った。

 

 そうして四人が自然に会話を続けていく。

 

 フユミは、スイカの種をスプーンで取り除きつつ言う。

 

「お夕飯、何にしますか?」

 

 その問いにアキハ先輩が答える。

 

「近くの鮮魚店から仕入れを頼んであります。お刺身と、焼き魚と、あとは皆さんのご希望を」

 

 言うが早いか、

 

「じゃあ貝っ!」

 

 コハルが勢いよく手を上げた。

 ネイルチップが夕日を受けて、きらきら光っている。

 

「貝焼きたいです! 貝!」

 

 そんなコハルを横目にナツキは麦茶を一口飲む。そして、

 

「私は何でも」

 

 と、静かに言った。

 

 最後にフユミが俺を見る。

 

「トーマも貝で良い?」

 

 俺が頷くと、フユミは「ん」とだけ返した。

 

 少ししてから、ふと気がついた。

 

「え、みんなで夕食を食べるんですか?」

 

 四人が一斉に俺を見た。

 フユミは呆れたように眉を上げる。コハルは困り顔で首をかしげる。ナツキは無表情のまま。アキハ先輩は涼しい顔でお茶を傾ける。

 

「当然でしょ、ここに泊まるのよ」

 

 フユミが澄まし顔で言った。

 

「そうですよ。先輩どうせヒマですよね」

 

 ナツキも淡々と乗っかった。こいつ素で俺をナメてるんだよな……。

 

 ってか、明日は月曜日じゃないか?

 

 俺の疑念を察したのか、

 

「明日は文化祭明けだから、休日だよ〜」

 

 コハルが言った。言われてみればその通りだった。

 

「ええ。ですから五人で楽しく過ごしましょう」

 

 アキハ先輩が総括した。

 

 俺は展開についていけず、放心状態だった。

 五人で仲良くやっていこう、もうわだかまりもないのだから一度全員で顔を合わせよう、そう思っていた。

 

 思っていたが、こんなに早く全員集合するとは思っていなかった。

 

 と、ここで俺はあることを思い出した。

 

(一応、そろそろ母が帰ってくる頃なんだけど……)

 

 母は出張続きで、家にいないことがほとんどだ。でも、近日中に帰宅すると言っていた。

 

 一応、迎えておきたいと思った、そのとき。

 

「お母様には許可を取ってあるから大丈夫よ」

 

 フユミが俺の考えを読んだ。

 

「え、連絡してくれたの?」

 

「そうよ。アキハ先輩から連絡もらったときにね」

 

「あ、ありがとう……」

 

 俺の感謝の言葉に、フユミは少しむっとする。

 

「何よ、その怪訝な反応」

 

「いや、気が利きすぎてて、ありがたくて……俺、このままだとダメ人間になっちゃいそうだな、って」

 

「アンタもうダメ人間でしょ」

 

「うっ」

 

 俺が固まると、

 

「ふふん、なっさけない顔」

 

 フユミはサディスティックに微笑んだ。

 

「まあ、浮気者ですよね」

 

 ナツキは当然のように言った。

 

「4股してるからね」

 

 コハルも頷いた。

 

「駄目な人ではありますね」

 

 アキハ先輩は涼しい顔で肯定した。

 

 俺は返す言葉も無いが、それでも何か言わねばならない。

 

「俺は──」

 

「先輩、スイカもう一切れどうぞ」

 

 ナツキがソルトミルを差し出した。黒曜の瞳から放たれる視線には、独特の圧力があった。

 

「あ、ありがとう」

 

 俺はもう一切れのスイカを受け取り、塩を振って口をつけた。

 

 甘くて、しょっぱい。

 窓の外、海は午後の日を受けて、ギラギラと輝いていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。