「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。   作:会澤迅一

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第21話 ☆ギャルからオタクへ協力要請

「アタシら二人で協力しない?」

 

「……はい?」

 

 シミズの手が止まった。

 鏡の中のコハルは、真剣な目をしている。

 

「単刀直入に言うけどさ。アタシもナツキちゃんもフユちゃんも、多分アキハ先輩も、みんなトーマのこと好きじゃん?」

 

「え゙」

 

 シミズが固まった。

 

 火の玉ストレートの指摘。

 それだけではなく、自分以外の美少女たちもトーマを想っていると知らされ、脳が情報を処理しきれない。

 

(え、あの一軍女子の月澄さんも? あの絶対権力者の木南会長も? 先輩、私とおんなじボッチ陰キャだと思っていたのに、一体いつの間にそんなハーレムを……?)

 

「隠さなくていーよー。バレバレだし、みんな同じだし」

 

 コハルはリップを馴染ませるために唇を合わせながら淡々と続ける。

 

「でさー、このままだと絶対揉めるじゃん? 女の子四人で一人の男の子を取り合うとか、バチェラーかよって話だし。なにより、それでトーマを振り回しちゃうの、かわいそーじゃん」

 

「……それは、まあ、同意します」

 

「かと言ってさ、アタシもイイ子じゃないからさ。『他の子に譲ります』なんて、ぜーったいに言えないわけ。トーマのこと、ちょーちょー好きだし。本音を言えばひとりじめしたいし」

 

 コハルはパチンと音を立ててコンパクトを閉じた。

 

 その小気味よい音が、交渉開始の合図のように響く。

 

「だからこそ考えてるの。なるべく揉めないで、全員が納得できて、一番トーマが幸せになる方法を。……そのためにはさ、協力してくれる人が必要なんだよね」

 

 コハルはくるりと振り返る。プラチナブロンドの髪がふわりと広がり、甘いココナッツの香りが漂う。

 

 シミズは少し考えてから問うた。

 

「でも、なんで私なんですか? 自分で言うのも何ですが、私はいろいろと取っつきにくく、端的に言えば面倒くさい人種です」

 

 シミズには友人らしい友人はいない。人と揉めた記憶こそないが、避けられるのはしょっちゅうだ。

 

 コハルの真意がわからなかった。

 

「女の子はみんなメンドくさいよぉ」

 

 コハルは甘ったるい声でころころ笑った。

 

「理由はいろいろあるけど、一つは消去法だね。乗ってくれる可能性があるのは、ナツキちゃんだけだから」

 

「そうなのですか?」

 

「うん。たとえば、フユちゃんは絶対このアイデアに乗ってくれない。幼なじみとして積み上げてきた時間にプライドがあるから、誰にも譲れないと思ってる。もともと真面目でイイ子だから、ちょっと卑怯な恋の駆け引きとかもイヤがるだろうし」

 

「……確かに。月澄さんは潔癖なところがありますね」

 

「でしょー。で、木南(きなみ)先輩も無理だろね。あの人、なんでも一人で出来ちゃうチートキャラだから。夢や目標があるときに他人と協力するって発想自体がなさそう。全部自力でコントロールしようとするタイプだし、実際そう生きてきたっぽい」

 

 コハルの分析は、驚くほど的確だった。

 シミズは眼鏡の奥の瞳を細める。このギャル、ただ者ではない。

 

「ギャルにあるまじき人間観察力ですね……」

 

「人間観察できなきゃギャルなんてやってられないよぉ。空気読みサバイバルの世界だし」

 

 はーやれやれ、とコハルは肩をすくめた。

 

「その点、ナツキちゃんはあたしと同じくらいのタイミングでトーマと出会ったし、立ち位置が近いじゃん? それに、こうやって仲良くなれたし。……だから、ナツキちゃんと協力したいなって」

 

 コハルが右手を差し出す。

 綺麗にネイルアートが施された指先。

 普段のシミズはネイルアートを『爪なんてどうせ切り捨てるし誰も興味ないのに』と冷笑していたが、今はひどく興味深いと感じている。

 

 シミズはその手をじっと見つめ、そして小さく息を吐いた。

 

「……驚きました。火伏さんは享楽的なだけのトリックスターかと思っていましたが……予想を遥かに超えてクレバーですね」

 

「えー? そお?」

 

「まるでギャンブル漫画の策略家のようです」

 

「あはは! アタシ、福本先生も迫先生も追ってるからね。カイジと嘘喰い読めば誰でもこーなるよ!」

 

 コハルがけらけら笑った。

 その笑顔に、裏表はない。だが、その底には確かな知性と計算がある。

 

「一つだけ、聞きたいことがあります」

 

 人差し指を立てたシミズに、コハルは無言で続きをうながす。

 

「私に見返りはありますか?」

 

 当然の疑問だった。

 シミズには、全員で仲良くする自信がない。フユミとの親睦は多少なりとも深まったが、まだまだ距離がある。木南 秋葉とも、すごく仲が良いというわけではない。

 

 先のことが何もわからない状況でコハルに協力するメリットを、具体的にイメージできなかった。

 

 それに、気になる点はもう一つある。 

 

 最初から、この協力のために優しくしてくれたのではないかという点。

 

 昨日のお弁当も、今日のカラオケも、全てはこの同盟のための布石だったのか、という疑念。

 

 シミズが鋭く投げかけた問いに、コハルは柔らかな微笑で応える。

 

「もちろん見返りあるよ。私と同じやつだけど」

 

「何ですか?」

 

「趣味の合う女友達が一人できる」

 

 いたずらっぽく緩んだまなじりに、シミズは虚を突かれたように目を見開き、そして口元をほころばせた。

 

「……ふ、ふふ」

 

 差し出された手を握り返す。

 

「いいでしょう。その提案、乗ります」

 

 握手。

 奇妙な同盟が結成された瞬間だった。

 

「この『四天王』のレースにおいて」

 

 シミズは眼鏡を光らせて補足する。

 

「開始地点は不平等です。月澄さんには幼なじみとしての歴史があり、木南先輩には絶対的な権力がある。個々の力で挑んだ場合、我々は不利に過ぎます」

 

「だよねー。あの二人、強すぎ」

 

「だからこそ、我々が手を組むことで勢力を均衡させる。……いや、一歩先んじることすらできる。合理的です」

 

「んね! じゃ、これから改めてよろしく!」

 

 コハルは強く握り返した。

 

「さ、戻ろっか。そろそろトーマとフユちゃんが良い雰囲気になってるかもだし、邪魔しに行こ」

 

「魅力的な提案ですね」

 

 二人は顔を見合わせて笑い、化粧室を後にする。

 廊下を歩く二人は、同じことを考えていた。

 

(まあ、ナツキちゃんには悪いけど)

 

(しかし、コハルさんには悪いですが)

 

 双方ともに、一抹の罪悪感と、その裏で膨らむ特別な優越感に駆られていた。

 

(トーマは私で童貞捨ててるんだよね……)

 

(先輩は私で童貞を捨てているんですよね……)

 

 とにもかくにも、ここに世にも珍しいギャルとオタクの同盟が成立した。

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