「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。   作:会澤迅一

28 / 28
第2話 ☆コハルのドキドキ大作戦

 

 火伏(ひぶせ) 琥春(こはる)は、隣の席のトーマを見ていた。

 帰りのホームルームが終わり、皆が帰り支度に急ぐその時間、コハルは前髪を整えるフリをしながら、指の隙間から観察する。

 

 トーマは安らかなため息をつき、ゆっくりと荷物をまとめている。その表情は健やかだった。

 

(ん、セラピー作戦大成功) 

 

 コハルは心の中で、自分に対して小さくガッツポーズをした。

 

 今日一日、コハルは徹底的に『癒し手』として振る舞った。

 

 からかいとボディタッチは封印。

 代わりに飲み物と食べ物を提供。

 

 トーマの精神的疲弊と孤独感。その両方を癒やす安全地帯を、コハルは『あえてアタックしない』という英断によって作り上げていた。

 

 コハルは、決して自分を『イイ子』だとは思っていない。『イイ子になりたい』とも思っていない。

 

 むしろ、自分がどれほど狡猾か、十分に自覚している。そしてそれが強みになることも、深く理解している。

 

 だが、コハルの打算の根底にあるのは、エゴイスティックな独占欲だけではなかった。

 

(……にしても、みんなわかりやすいなぁ)

 

 コハルが知っているのは、シミズからの断片的な情報のみだ。フユミがトーマの家で、せくちーな服装をしていた、ということだけ。

 

 が、それで十分。

 

(週末はフユちゃんのソロステージ。アタックに成功したなら、アタシらに見えるようにイチャついてるはず。それがないってことは、まだ慌てる時間じゃない)

 

 続いてコハルは、冷水(しみず) 夏希(なつき)について考える。

 

 彼女は土曜日の午後、コハルとの作戦会議中、ほとんど上の空だった。ぼんやりしながら「部室で、私は、禁忌の一線を……」などとブツブツ呟いていた。

 

 おおかた、勢い任せでアタックしたのを恥じているのだろう。

 

 最後に、生徒会室にいるはずの木南(きなみ) 秋葉(あきは)

 

 あの完璧超人の女帝なら、フユミとシミズが土日に何をしたのか把握しているだろう。二人がダウンしているのも分かっているはずだ。それなのに動かない。ということは、何らかの理由がある。

 

 おそらくアキハも、トーマを誘惑して失敗したのだろう。タイミング的に、金曜の夜。

 

(まあ、これは女のカンだけど)

 

 コハルは仮説的推論と直感だけで、事実の大枠をつかんでいた。

 

(それにしても、みんなホントにすごいなー。尊敬しちゃう)

 

 コハルは本気でそう思っていた。

 

 月澄(つきずみ)・フユミ・エインズワース。

 冷水(しみず) 夏希(なつき)

 木南(きなみ) 秋葉(あきは)

 

 四天王の名は伊達じゃない。才色兼備なんて言葉では足りない、圧倒的な個性の塊。

 

 そんな彼女たちが、揃いも揃って日村(ひむら) 斗真(とうま)という『一見どこにでもいそうな男子』の真価を見抜き、なりふり構わず奪い合っている。

 

 コハル自身も含めたこの四人の女子が、一人の男子を巡って火花を散らす。

 

 普通に考えれば修羅場だ。

 地獄絵図というほかない。

 

 だが、コハルの考え方は少し違った。

 

(トーマみたいにカッコいい男子なら、四股ぐらいで済めば御の字っしょ。これだけのメンツが同高(おなこう)で揃うなんてラッキー超えてミラクルだわ)

 

 コハルにとって、現状はむしろ幸運だった。

 トーマを慕う女性は何人いてもおかしくない。どれだけ魅力的でもおかしくない。

 

 しかし今は、同じ高校の女子が三人だけ。しかも、性格の良い子だけが揃っている。

 

 円満に共存できそうで本当に良かった、というのがコハルの感想だ。

 

(けど、後手に回るつもりもないんだよね)

 

 コハルはカバンを肩にかけ、トーマの肩を軽く叩く。

 

「行こ!」

 

 トーマがうなずき立ち上がる。この先のことを思うと、思わずコハルの口元が緩んだ。

 

 

◆◆◆

 

 

 

 俺が連れて行かれたのは、静まり返った保健室だった。

 

 老婆の養護教諭、通称ババちゃん先生が、老眼鏡をずらして俺たちを見た。

 

「おや、コハルちゃん。彼がウワサの?」

 

「そーそー。ちょーカッコいいトーマくんよ」

 

「過大評価にも程があるだろ」

 

 思わず俺は突っ込んだ。

 ジャスト中の下だよ俺のルックスは。 

 

「おお……」

 

 ババちゃん先生は嘆息した。

 

「よほどのことがない限り誰も入れないから、お若い二人でごゆるりとね。あたしゃ耳が遠いから、大声出しても気付かないよ」

 

 不純異性交遊を前提に、(いき)な計らいをされている!?

 

「いやあの、誤解ですよ、ババちゃんセンセ」

 

「絶対に要るヤツはベッドの横の小箱の中にあるからね。表裏を間違えないようにね」

 

 なんだ絶対に要るヤツって。

 踏み込んで聞くのがこえーよ。

 

 俺が呆然としてる間に、ババちゃん先生は奥で茶を啜りはじめた。

 

 コハルは気にした様子もなくカバンを置き、俺をベッドへ押し込む。

 

「ほら、トーマ、うつ伏せになって」

 

「え、え、なにすんの?」

 

「マッサージ」

 

「マッサージ?」

 

 俺が問い返すと、コハルはこくんとうなずいた。いちいち仕草が可愛いなこのギャル。

 

「じゃ、どんどん揉んでくよー」

 

「あの、これ本当にマッサージなんですか?」

 

「それ聞くの逆じゃないの? フツー」

 

 コハルはけらけら笑った。

 

 確かに俺もその手のコンテンツはよく見るが、男性から女性に聞くヤツはあんまり見ない。

 

「ホントにいいのか? けっこう疲れそうだけど」

 

「いーのいーの! アタシ家でもばーちゃん揉んで鍛えてんだから!」

 

 俺は強引にベッドへ押し倒される。

 うつ伏せになると、シーツから微かに消毒液の匂いがした。

 

 保健室のベッドで寝るの初めてだな、そういや。

 

 ってか待てよ……。

 保健室、放課後、二人きり。何も起きないはずもなくないか?

 俺の知識が正しければ、このシチュエーションは間違いなくスチル回収だ。

 

 期待しているワケじゃない。

 けれども相手はあのコハル。

 

 隙あらばゼロ距離まで肉迫し、耳元で甘い言葉を囁く、あの火伏(ひぶせ) 琥春(こはる)である。

 

 心臓が不必要にドクドクと鳴り始めた。

 

 こ、これはもしや、ここで……。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

数多の世界のヤンデレ親友とのバッドエンドを見届けた俺、全ての記憶を引き継いでもう一週……え?!バッドエンドの方の親友達も記憶引き継いでるんですか?!  (作者:ハンノーナシ)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

▼とある男、ライア・リーベルには愛する親友達が居た。▼個性的で、才能があって。▼そんな親友に囲まれた幸せな人生は、大人になるにつれ転機を迎える。▼親友達との才能の差、立場の差。▼そんな物がライアと、親友達さえ苦しめる。▼そんな些細な事から始まり、終わった『バッドエンド』達。▼ライアは過去に戻り、親友達を救う……。▼「えっ、別々の世界が過去に逆流した事によって…


総合評価:592/評価:7.83/連載:11話/更新日時:2026年05月31日(日) 20:49 小説情報

【休載】好感度が見えても上手くいくとは限らない(作者:かませ犬S)(オリジナル現代/恋愛)

好感度が見えたら家族が崩壊した。そんな話▼※複数サイト様にマルチ投稿しております


総合評価:835/評価:7.05/連載:25話/更新日時:2026年05月06日(水) 07:04 小説情報

男女比3:1でも貞操逆転世界なのに「もう少し大きくなったら結婚しよう」でとうとう引き返せなくなった奴(作者:陽波ゆうい)(オリジナルファンタジー/恋愛)

男女比3:1の世界に転生した。▼って、おいこれ、男がチヤホヤされる貞操逆転世界ってやつじゃねーじゃん!?▼野郎が多くなったら、寝取りが増えるだけだろっ。▼だから俺は、女の子にモテることを諦めることにした。▼※カクヨムでも掲載しています。


総合評価:3200/評価:7.98/連載:24話/更新日時:2026年06月01日(月) 22:22 小説情報

魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます(作者:異星人アリエン)(オリジナル現代/冒険・バトル)

『魔法少女マギアイリス』。それは人気がすこぶる高いアニメとして、名を馳せていたアニメタイトルであった。▼話としては、至極単純世界征服を目指す組織《ディスナンド》が、ミラクルパワーとかいう力を操る魔法少女によって倒される。そんな分かりやすい物語。▼だけど、そんな世界で生きることとなった身としてはたまったものではない。▼そんな世界に転生した男、須佐八雲は男である…


総合評価:5255/評価:8.27/連載:12話/更新日時:2026年06月06日(土) 11:11 小説情報

いやだ!!俺はマヨヒガに引きこもるんだ!!!(作者:ガチャ運を寄越せ陸八魔ァ!)(原作:東方Project)

▼キャラが濃い幻想郷のメンツvsマヨヒガで引きこもりたい男vs森近霖之助▼※いきなりタグが増えることがあります※▼質問箱↓▼https://marshmallow-qa.com/lgch4omhugbc00i?t=nF9V1U&utm_medium=url_text&utm_source=promotion


総合評価:543/評価:7.93/連載:22話/更新日時:2026年06月06日(土) 00:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>