「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。   作:会澤迅一

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第5話 四天王、再び集結

 キーンコーンカーンコーン。

 

 放課後のチャイムが響く。

 それは本来、俺たち学生にとっては自由を告げる鐘の音のはずだ。

 

 だが、今の俺にとってはドナドナも同然である。

 

 帰りのホームルームが終わった瞬間、俺のスマホは不気味に震えた。

 

 画面に表示されたのは、『木南先輩』の四文字。

 ラインで送られてきた文面は、「第二会議室 全員集合」。

 

 マッド・ティーパーティー第二弾の開催だ。

 

「トーマ、行くよ!」

 

 コハルの細腕に引きずられるようにして、俺は教室を後にした。

 

 これから美少女四天王に囲まれ、四人の仲を取り持つ必要がある。不意打ちでアプローチされることもあろう。そのときは、当人にも他三人にも禍根を残さぬよう、爽やかに受け流す必要がある。

 

 緊急S級クエストである。

 俺の胃がストレスでマッハ!!!

 

 だが逃げるワケには行かない。

 これは俺が望んだ事態なのだから。

 

 ゆうべ見た夢の中で、俺は確かに能動的だった。

 フユミの肩を抱き、コハルの腰を引き寄せ、シミズの首筋に顔を埋め、アキハ先輩を押し倒し……。

 

 淫獣。性欲モンキー。伊藤誠の生まれ変わり。

 脳内を駆け巡る罵倒語に足取りをフラつかせながら、俺は第二会議室のドアへ近づいていく。

 

 一呼吸。二呼吸。

 もしこのドアの向こうが昨夜の夢の続きなら、極楽浄土のようなものだ。

 

 しかし現実は、一手のミスで“Nice boat.”一直線の詰み盤面である。

 

 頑張れ俺。ミスるな俺。死ぬな俺!!

 

 覚悟を決め、ドアノブを回した。

 

「……失礼します」

 

 部屋に入った瞬間、のしかかられたような重圧を感じた。

 

 上座。

 完璧な所作でティーカップを傾けている、木南(きなみ) 秋葉(あきは)先輩。

 たおやかな美貌は神々しく、まるで菩薩のようだ。実際には閻魔大王みたいな人なんですけどね。

 

 窓際。

 背筋をピンと伸ばして座るフユミ。

 俺が入ってきた瞬間、フユミの碧眼がチラリと俺を一瞥した。二人して顔を見合わせ、0.2秒で目をそらす。土曜日のあのキスの感触を、俺もフユミも忘れられずにいた。

 

 その対面。

 澄まし顔で茶菓子を食っているシミズ。

 雰囲気こそ落ち着いているが、俺が入室した瞬間に耳の先がほんのり赤くなり、さりげなく横髪で隠していた。日曜日に俺の耳を甘噛みしたことを思い出したらしい。俺も思い出した。ヤバい前かがみになりそう。アキハ先輩、早く俺を座らせてください。

 

「アタシ、どこ座ればいいですかー?」

 

 コハルが問うと、

 

火伏(ひぶせ)さんは、そちらへどうぞ」

 

 アキハ先輩は、フユミの隣の空席を手掌で指し示した。

 

「ありがとうございまーす! あ、フユちゃんお隣よろしくねー」

 

「ええ。よろしく、コハルさん」

 

 コハルが指示に従う。必然的に、俺はシミズの隣、一番の下座に着いた。

 

 コハルが元気いっぱいなおかげで、沈黙の法廷と化していた第二会議室も、なんとなく和やかな空気になっている。今日ずっとコハルに助けられてるな。コハルありがとう!!

 

 一方、アキハ先輩は俺が座るのを確認し、静かに書類を整えた。

 

「さて、全員揃いましたね。……日村さん、お体の具合はいかが? 今日は少し優れないようですが」

 

 え、なんで知ってるんですか?

 もしかしてクラスにアキハ先輩の手の者がいるのか!?

 

 生徒会長の監視網、マジで洒落になっていない。俺の不意立ちが危うく生徒会案件になるところだったようだ。

 

「い、いえ。ちょっと低血圧だっただけで、今はもうピンピンしてます」

 

「そう。なら安心しました。では、本題に入りましょう」

 

 アキハ先輩は、プロジェクターのリモコンを操作した。

 スクリーンに映し出されたのは、『七曜祭・公式PR戦略案』という文字。

 

「パンフレットや公式サイト、そんな手法だけでは、今の若者を惹きつけきれません。必要なのは『ライブ感』と『個のカリスマ性』です。……そこで、皆様による潜入リポート動画をシリーズ化し、SNSで大々的に展開します」

 

「潜入リポート動画?」

 

 思わず問い返した俺に、アキハ先輩が微笑んで返す。

 

「ええ。

 月澄(つきずみ)さんのクラスでやっているカフェのリポート。

 冷水(しみず)さんによる演劇制作のリポート。

 火伏(ひぶせ)さんがSNSでやってらっしゃる企画のリポート。

 そして、私たち生徒会および実行委員会のリポート。

 それぞれ曜日ごとにローテーション実施する予定です。いかがでしょうか?」

 

「よさそうですね」

 

「さっすがアキハ先輩!」

 

「特進クラスの屋台も見てもらえるのは助かりますね」

 

「映像で文芸の魅力を伝えるというのは、やりがいがありますね」

 

 四天王の反応は良好だった。

 

「企画構成は広報担当の火伏さん。そして、動画の顔となるリポーターも彼女にお願いします」

 

「いいんですか!?」

 

「ええ。コハルさんはフォロワーも多く知名度が高いので、ぜひお願いしたいのです」

 

「やたー! せいいっぱいガンバります!!」

 

 コハルのテンションが最高潮に達する。

 

 ヨシ!

 これで俺は、一歩引いて機材の運搬でもしていればいいわけだ。

 

「そしたら、カメラマンは誰にしましょうかね」

 

 俺は呑気に問いかけた。

 生真面目で器用なフユミか、口達者で博識なシミズが良さそうだが……。

 

 どちらも美少女なので、大いに映えるはずだ。

 

 しかし、アキハ先輩の視線は俺をまっすぐ貫いていた。

 

「日村さん。あなたにカメラマンをお任せします」

 

「……え、 俺ですか?」

 

「ええ。これは生徒会長命令、兼、実行委員長としての公務です。火伏(ひぶせ)さんの魅力を最大限に、かつ、最も自然に引き出せるのは、彼女と気心の知れたトーマさんしかいません。……もちろん、撮影機材は生徒会で最高級のものを用意します」

 

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