「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。 作:会澤迅一
キーンコーンカーンコーン。
放課後のチャイムが響く。
それは本来、俺たち学生にとっては自由を告げる鐘の音のはずだ。
だが、今の俺にとってはドナドナも同然である。
帰りのホームルームが終わった瞬間、俺のスマホは不気味に震えた。
画面に表示されたのは、『木南先輩』の四文字。
ラインで送られてきた文面は、「第二会議室 全員集合」。
マッド・ティーパーティー第二弾の開催だ。
「トーマ、行くよ!」
コハルの細腕に引きずられるようにして、俺は教室を後にした。
これから美少女四天王に囲まれ、四人の仲を取り持つ必要がある。不意打ちでアプローチされることもあろう。そのときは、当人にも他三人にも禍根を残さぬよう、爽やかに受け流す必要がある。
緊急S級クエストである。
俺の胃がストレスでマッハ!!!
だが逃げるワケには行かない。
これは俺が望んだ事態なのだから。
ゆうべ見た夢の中で、俺は確かに能動的だった。
フユミの肩を抱き、コハルの腰を引き寄せ、シミズの首筋に顔を埋め、アキハ先輩を押し倒し……。
淫獣。性欲モンキー。伊藤誠の生まれ変わり。
脳内を駆け巡る罵倒語に足取りをフラつかせながら、俺は第二会議室のドアへ近づいていく。
一呼吸。二呼吸。
もしこのドアの向こうが昨夜の夢の続きなら、極楽浄土のようなものだ。
しかし現実は、一手のミスで“Nice boat.”一直線の詰み盤面である。
頑張れ俺。ミスるな俺。死ぬな俺!!
覚悟を決め、ドアノブを回した。
「……失礼します」
部屋に入った瞬間、のしかかられたような重圧を感じた。
上座。
完璧な所作でティーカップを傾けている、
たおやかな美貌は神々しく、まるで菩薩のようだ。実際には閻魔大王みたいな人なんですけどね。
窓際。
背筋をピンと伸ばして座るフユミ。
俺が入ってきた瞬間、フユミの碧眼がチラリと俺を一瞥した。二人して顔を見合わせ、0.2秒で目をそらす。土曜日のあのキスの感触を、俺もフユミも忘れられずにいた。
その対面。
澄まし顔で茶菓子を食っているシミズ。
雰囲気こそ落ち着いているが、俺が入室した瞬間に耳の先がほんのり赤くなり、さりげなく横髪で隠していた。日曜日に俺の耳を甘噛みしたことを思い出したらしい。俺も思い出した。ヤバい前かがみになりそう。アキハ先輩、早く俺を座らせてください。
「アタシ、どこ座ればいいですかー?」
コハルが問うと、
「
アキハ先輩は、フユミの隣の空席を手掌で指し示した。
「ありがとうございまーす! あ、フユちゃんお隣よろしくねー」
「ええ。よろしく、コハルさん」
コハルが指示に従う。必然的に、俺はシミズの隣、一番の下座に着いた。
コハルが元気いっぱいなおかげで、沈黙の法廷と化していた第二会議室も、なんとなく和やかな空気になっている。今日ずっとコハルに助けられてるな。コハルありがとう!!
一方、アキハ先輩は俺が座るのを確認し、静かに書類を整えた。
「さて、全員揃いましたね。……日村さん、お体の具合はいかが? 今日は少し優れないようですが」
え、なんで知ってるんですか?
もしかしてクラスにアキハ先輩の手の者がいるのか!?
生徒会長の監視網、マジで洒落になっていない。俺の不意立ちが危うく生徒会案件になるところだったようだ。
「い、いえ。ちょっと低血圧だっただけで、今はもうピンピンしてます」
「そう。なら安心しました。では、本題に入りましょう」
アキハ先輩は、プロジェクターのリモコンを操作した。
スクリーンに映し出されたのは、『七曜祭・公式PR戦略案』という文字。
「パンフレットや公式サイト、そんな手法だけでは、今の若者を惹きつけきれません。必要なのは『ライブ感』と『個のカリスマ性』です。……そこで、皆様による潜入リポート動画をシリーズ化し、SNSで大々的に展開します」
「潜入リポート動画?」
思わず問い返した俺に、アキハ先輩が微笑んで返す。
「ええ。
そして、私たち生徒会および実行委員会のリポート。
それぞれ曜日ごとにローテーション実施する予定です。いかがでしょうか?」
「よさそうですね」
「さっすがアキハ先輩!」
「特進クラスの屋台も見てもらえるのは助かりますね」
「映像で文芸の魅力を伝えるというのは、やりがいがありますね」
四天王の反応は良好だった。
「企画構成は広報担当の火伏さん。そして、動画の顔となるリポーターも彼女にお願いします」
「いいんですか!?」
「ええ。コハルさんはフォロワーも多く知名度が高いので、ぜひお願いしたいのです」
「やたー! せいいっぱいガンバります!!」
コハルのテンションが最高潮に達する。
ヨシ!
これで俺は、一歩引いて機材の運搬でもしていればいいわけだ。
「そしたら、カメラマンは誰にしましょうかね」
俺は呑気に問いかけた。
生真面目で器用なフユミか、口達者で博識なシミズが良さそうだが……。
どちらも美少女なので、大いに映えるはずだ。
しかし、アキハ先輩の視線は俺をまっすぐ貫いていた。
「日村さん。あなたにカメラマンをお任せします」
「……え、 俺ですか?」
「ええ。これは生徒会長命令、兼、実行委員長としての公務です。