「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。 作:会澤迅一
前回のあらすじ。
文化祭のPR動画を撮ることになった。
コハルと校内を探索し、撮影場所をチェックした。
いつもと違って真剣なコハルの表情が妙に気にかかって、その日の夜も悶々としていた。
で、次の日。
五月十三日の水曜日。
ぼんやり授業を受けていたら、いつの間にか放課後になっていた。
「よし。行くよ、トーマ!」
コハルは相変わらずのテンションで俺の背中をパンと叩いた。
自宅や部活へ向かうクラスメイトたちの中、コハルだけが抜群にイキイキしている気がする。
「トーマ、今日の撮影は楽しいよー? なんてったって、フユちゃんの手作りクレープ食べられるんだからね」
そう。今日のロケ地は家庭科室。
文化祭の出し物、C組の『クレープ・ド・セブン』のPR動画撮影だ。
俺はアタッシュケースを抱え、コハルに引きずられるようにして廊下を進む。
アタッシュケースの中には、オーバースペック気味の撮影機材が入っている。アキハ先輩から支給されたものだ。
これ、物々しすぎる。持ち運ぶだけで周囲の視線が痛い。背景モブが持っていい装備品じゃないんだよ。村人Aが伝説の武器を装備したみたいになってる。
家庭科室の重い扉を開けると、甘い香りが立ち込めた。
上質な砂糖と、芳醇なバターの香り。
そして、その中心に立つ金髪碧眼の聖女。
幼なじみのフユミが、制服の上にフリル付きのエプロンを纏い、調理器具を手に立っていた。
パティシエのお姉さんといった感じだ。
「遅いわよ、トーマ。……それから、火伏さんも」
フユミがこちらを向く。
その表情は、いつもの真面目な鉄面皮……を装っているが、その頬は、かすかに紅潮している。俺にはわかる。この紅潮は家庭科室の熱気によるものだけではない。
俺はカメラを家庭科室の入り口付近に設置した。
「フユちゃんマジ気合入ってんじゃん! いいねぇ」
コハルは快活に笑ってから、すぅっと目を細めて、
「そのエプロン、自前? 新妻感エグいんだけど」
「……文化祭のための試作品を作るのだから、清潔感のある格好をするのは当然だわ。不純な意図なんて、全然まったく一ミリもないわよ」
フユミはそう言いつつ、視線を泳がせながらクレープ鉄板に生地を流し込んだ。
流れるような所作。均一な厚み。完璧な真円。
その手さばきは熟練している。
「フユミのクレープ、いつぶりだろうな」
何気なく呟くと、
「小六のバレンタインでしょ。そのときアンタがクレープにハマってたから」
フユミがあっけらかんと答えた。
「あー、そうだったな。アレ美味かったなぁ」
「今と比べたら全然よ。思った通りの味にできなかったし」
いやいや。
まさかぁ。
気付けば自然に談笑していた。
「うーん、いい
コハルは指でフレームを作り、片目で俺たち二人を眺め笑う。
「やっぱフユちゃんは自然に笑ってるのが一番カワイイなー」
それは俺も同意見。
「あら、ありがと」
サラッと受け止めるフユミ。女子には褒められ慣れているのだ。
「トーマも、そー思うよね?」
急に振られた俺は一瞬固まる。
が、ごまかしたくはないので即答する。
「いつどんなときも一番だよ」
「んなっ」
フユミが片手の甲で口を覆う。
「わーお」
コハルは両手のひらで口を覆った。
「ヒューッ! トーマの天然ジゴロ〜!!」
「天然ジゴロなんて今日び聞かないっての」
そして俺にそんな属性はないってーの!(鬼父アイリ)
フユミはというと、うつむいて黙々とクレープ作りを続けている。
なにか気に障ったのか……いや違う。照れてる。表情は前髪に隠れて見えないが、チラ見えしている耳が真っ赤だ。
「よし、トーマ。カメラ持って。まずはフユちゃんの調理の様子から押さえるよ。フユちゃんの指先の動きにフォーカスして」
「りょっ、了解……」
俺はカメラを構える。
液晶画面越しに見るフユミは、肉眼で見るよりもさらに破壊力が増していた。
真剣な眼差し。結い上げられた金髪から覗く白いうなじ。生地を彩る、しなやかで細い指先。
正直に言おう。
めちゃくちゃ綺麗だ。
「……はい、カット!」
コハルの声で現実に引き戻された。
今の今まで、完全に見とれてしまっていた。
「いいよいいよー、フユちゃんビジュ最強だよ」
「ありがとう。次は何をするの?」
フユミの質問に、コハルはにやりと笑って応える。
「次からは『本番』。演出いれるよ」
「演出? 何をすればいいのかしら?」
小首をかしげたフユミに、コハルはビッと親指を立てた。
「テーマは『放課後の新妻、愛の試食タイム』だよ! フユちゃんは、手作りクレープがちゃんと美味しいか不安なの。だから、一番信頼してる幼なじみのトーマに、『あーん』して食べさせてあげるワケ」
「は、はあああああ!?」
フユミの叫び声が家庭科室に響き渡った。
手に持っていたトンボがカタカタと震える。
「何を……何を言ってるのよ、不潔だわ! 学校よ!? ここは学びの園なのよ!? そんなハレンチな真似ができるわけ……」
「えー。でもさー、これPR動画だよ? 視聴者の皆さんにさ、『自分もクレープ食べたいなー』って、思わせたいワケ。トーマを自分に投影させてさ。……それとも、フユちゃん、トーマに『あーん』するの、イヤなの?」
コハルの悪魔的な誘導。
『イヤ』という言葉選びに、フユミが目に見えて動揺した。
「い、イヤだなんて、言ってないわ。ただ、その、手順として適切かどうかを議論すべきだと……」
「じゃ、決定ね!」
コハルは勢いよくそう言った。
ギャルは空気を読まない。読