「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。   作:会澤迅一

46 / 46
第20話 コハル、重なる唇、ナツキ、冷めた誘惑

「覚悟はできてるよね?」

 

 コハルは当然のように俺の頭を抱え、唇を重ねた。

 

 思考が、白熱した。

 返事をするスキも、思考するヒマもなかった。コハルが俺の後頭部を、小さな手で引き寄せた。

 

 とっさに目を閉じると、まぶたにコハルのまつ毛が触れた。

 

 触れた唇は、驚くほど柔らかく、熱い。

 

 味という味はないはずなのに妙に甘く感じるのは、ココナッツの香りのせいか。

 

 五感のすべてを鮮明に感じる。

 

 フユミとのときは、あまりの衝撃に脳の処理が追いつかず、正直なところ「した」という事実の重みしか残らなかった。

 

 だが、今は違う。

 

 理性を冷水シャワーで無理やり覚醒させたせいか、俺の感覚器は高すぎる解像度で情報を拾い上げてくる。

 

 押し当てられた肉体の弾力。吐息と鼻息の湿り気。重なり合う粘膜の感触。

 

 喉から流れ込む彼女の体温が、俺の心肺を灼き焦がす。

 

 ふ、と唇が離れる。

 

「……ん」

 

 コハルの喉が、名残惜しげに鳴った。

 

 ほんの数秒のことだったはずだ。

 だが、刹那の接触は、俺にとっては永遠の記憶になった。

 

 これは単なる事故じゃない。上書きだ。

 俺の中にあったフユミの残像を、塗りつぶそうとしている。

 

「……あはっ。やっば、顔あっつ〜」

 

 コハルはわざとらしく手で顔を仰ぎながら、にへらと笑ってみせた。

 

 いつもの冗談めかした口調。

 いつものギャルとしての振る舞い。

 

 だが、その耳の付け根までがリンゴのように真っ赤に染まっているた。

 

 ネイルチップで武装した彼女の指先はかすかに震え、視線は泳いでいる。

 

「罪だねぇ、罪の味だよねぇ、トーマ」

 

 言いながら、彼女は俺から少し距離を置いた。

 

 俺はと言えば、肺に溜まった酸素を吐き出すことさえ忘れていた。口元に残っただろうキスマークが、ヒリヒリと熱い。

 

 永遠に消えない焼印のようにすら感じる。

 

 鮮烈。

 そう、あまりにも鮮烈で、さっきまでの恐怖心すらどこか遠くへ吹き飛んでしまった。

 

 だが。

 この儀式は、まだ半分しか済んでいない。

 

「『求めよ、さらば与えられん』。マタイによる福音書、第7章7節です」

 

 鈴を転がすような声が、リビングの静寂を裂いた。

 

 ナツキが目の前のソファに腰掛け、俺を見つめている。

 

「言わなくても分かるはずですよ、先輩。私も、言われなくても分かります。あなたが私を求めていることは」

 

「う、お、俺は」

 

 俺が何か言う前に、ナツキは両手を広げた。

 

 ……ハグ?

 キスよりはまだ、言い訳が効く気がする。

 

 少し安堵した俺が一歩踏み込むと、ナツキはころんと倒れ込み、ソファへ寝転んだ。

 

 バスローブが寝乱れて、頼りない胸元としなやかな脚線美が剥き出しになっている。

 

「さあ」

 

 ナツキは、伏せたまつげをゆっくりと持ち上げ、試すような視線を俺へ向けた。

 

 黒い瞳は確かに俺を見上げているのに、なにか神聖なものに見下されているような、奇特な錯覚に襲われる。

 

 仰向けに横たわる無防備な少女。

 ぶかぶかのローブの襟元が重力にしたがって広がり、その奥にある白磁の肌が見え隠れする。

 

 ……だめだ。

 これは、あまりにもエッチすぎる。

 

 座っている状態ならまだしも、寝転んでいる女の子に自分から覆いかぶさって抱きしめるなんて、それはもう、ただの事故や勢いでは済まされない。

 

 踏み越えてはいけない一線というか、明確な侵襲性を感じる。

 

「……いや、ナツキ。それは、その……体勢的に、ちょっと問題があるだろ」

 

 俺の精一杯の抵抗を、

 

()()。ふふふっ」

 

 ナツキは鼻で笑った。

 

「先輩。いまさら分別や節操を装うとは、笑わせてくれますね。失われた純潔(もの)はもう戻ってこないというのに」

 

 彼女の黒い瞳が、挑発的に細められる。

 

「私は、先輩の欲望に応えます。だのに、先輩は自ら動こうとはしない。この私にかかせるだけの恥をかかせて、自分だけは綺麗でいようと言うのでしょうか」

 

「それは……」

 

「わかってますよ先輩」

 

 ナツキはただ、横たわったまま俺を見つめていた。そこには媚びるような色気も、潤んだ瞳もない。

 

 俺の本心を顕微鏡で覗き込むような、淡々とした眼差しだけがあった。

 

「ぜんぶ私に言わせて、無責任に気持ちよくなりたいんですよね」

 

 透き通り澄み渡る罵声。

 平坦で、温度も湿度もない声色。

 

「卑怯者、裏切り者、いくじなし」

 

 立て続けの三連撃が俺の胸に突き刺さる。

 ナツキは、見下げ果てたような冷たい微笑を作り、両腕を広げて寝転んでいる。

 

「ほら、私はこうして待っていてあげますから。私からは動きません。先輩の欲するところを為してください。先輩自身の、自由意志で」

 

 心底バカにした態度が、かえって俺の独占欲を刺激する。

 逆撫でされた神経はドーパミンとアドレナリンを噴き出し、加速度的に興奮を煽る。

 

 が、ここで乗るワケには行かない。

 もし乗ってしまえば、俺は我慢できない。我慢できなくなったら、四人全員と仲良くし続けることは難しい……現時点ですでに難しいが、もっともっと難しくなる。

 

 公平になれなかった俺のミスなのだから、公平性を保たねばならない。

 ナツキに対しては、「姿勢を戻してからキスしよう」と言わなければならない。

 

 そのとき、妙なことが起こった。

 「私からは動かない」と言っていたナツキが、どんどん近付いてくる。

 

 いや、違う。

 俺が、自分から近づいて──。

 

「ふふふ」

 

 腕の中でナツキの笑い声がして、柔らかい感触が伝わって、ほの甘い香りが広がる。

 

「我慢できませんでしたねぇ。先輩は『待て』ができないケダモノですからねぇ。イヌ以下ですねぇ」

 

 抱きしめたナツキの腰はひどく細く、自分とは全く違う生き物のようで、少し力を込めれば折れ砕けてしまいそうに感じる。

 

 その気付きが、どうしようもない衝動と化して、俺を突き動かす。

 

 気付けば俺は、ナツキの唇をむさぼっていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【休載】好感度が見えても上手くいくとは限らない(作者:かませ犬S)(オリジナル現代/恋愛)

好感度が見えたら家族が崩壊した。そんな話▼※複数サイト様にマルチ投稿しております


総合評価:839/評価:7.05/連載:25話/更新日時:2026年05月06日(水) 07:04 小説情報

火遊びはよくない(作者:竹藪焼けた)(オリジナル現代/恋愛)

金の絡んだ火遊びをするのが大好きだった一人の男が、大変なことになる話。▼


総合評価:1577/評価:8.83/連載:8話/更新日時:2026年06月04日(木) 21:34 小説情報

数多の世界のヤンデレ親友とのバッドエンドを見届けた俺、全ての記憶を引き継いでもう一週……え?!バッドエンドの方の親友達も記憶引き継いでるんですか?!  (作者:ハンノーナシ)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

▼とある男、ライア・リーベルには愛する親友達が居た。▼個性的で、才能があって。▼そんな親友に囲まれた幸せな人生は、大人になるにつれ転機を迎える。▼親友達との才能の差、立場の差。▼そんな物がライアと、親友達さえ苦しめる。▼そんな些細な事から始まり、終わった『バッドエンド』達。▼ライアは過去に戻り、親友達を救う……。▼「えっ、別々の世界が過去に逆流した事によって…


総合評価:586/評価:7.91/連載:11話/更新日時:2026年05月31日(日) 20:49 小説情報

いやだ!!俺はマヨヒガに引きこもるんだ!!!(作者:ガチャ運を寄越せ陸八魔ァ!)(原作:東方Project)

▼キャラが濃い幻想郷のメンツvsマヨヒガで引きこもりたい男vs森近霖之助▼※いきなりタグが増えることがあります※▼質問箱↓▼https://marshmallow-qa.com/lgch4omhugbc00i?t=nF9V1U&utm_medium=url_text&utm_source=promotion


総合評価:616/評価:8.06/連載:25話/更新日時:2026年06月09日(火) 00:00 小説情報

男女比3:1でも貞操逆転世界なのに「もう少し大きくなったら結婚しよう」でとうとう引き返せなくなった奴(作者:陽波ゆうい)(オリジナルファンタジー/恋愛)

男女比3:1の世界に転生した。▼って、おいこれ、男がチヤホヤされる貞操逆転世界ってやつじゃねーじゃん!?▼野郎が多くなったら、寝取りが増えるだけだろっ。▼だから俺は、女の子にモテることを諦めることにした。▼※カクヨムでも掲載しています。


総合評価:3328/評価:7.94/連載:24話/更新日時:2026年06月01日(月) 22:22 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>