「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。   作:会澤迅一

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第27話 俺とコハルの赤点回避作戦(フユミもいるよ)

 

 昼休みが終了。

 名残惜しげに特進クラスへ戻るフユミを俺とコハルの二人で見送り、俺たちは教室へ戻った。

 

 カロリーとともにチャージされた幸福は、予鈴と本鈴のチャイムにかき消された。

 

 手作り弁当の風味。温かな憩いの時間の余韻。

 

 それらを反芻しながら迎えた五限目は、よりにもよって数学Ⅱ。

 

 卵焼きが甘くったって、現実はそう甘くない。

 

「はい、日村。……ギリギリだったな」

 

 初老の数学教師が、答案用紙を俺に手渡す。

 恐る恐る視線を落とすと、そこには『32点』という数字が書かれていた。

 

 赤点ラインは30点。まさに首の皮一枚だ。

 

「あっぶねぇ……」

 

 俺は深く息を吐き出した。身の毛がよだつ。数学だけはマジに鬼門だ。今回はヤマが当たったから助かったものの、次はどうなるかわからない。

 

 教師は真剣な顔で俺を見ながら、何か言い含めるように深くうなずいた。

 

 続いて何人か呼び出し、やがてコハルを呼び出した。

 

火伏(ひぶせ)。……お前は、もう笑うしかないな」

 

「えー? ウソ、そんなヤバい感じです?」

 

 コハルが軽い調子で答案を受け取る。

 その指先がピタリと止まった。

 

「あっちゃ〜〜……」

 

 コハルは頭をポリポリとかきながら、舌をペロリと出した。

 

 答案用紙には、鮮烈な赤ペンで『4点』と記されている。

 

「マジかぁ。ヤバいなぁ、これ。名前書いてたときはイケると思ったんだけどなー」

 

 コハルはケラケラと笑っている。危機感の欠如。

 

「おい、お前ら」

 

 数学教師の声色がワントーン低くなる。

 

「今回は小テストだからまだいいがな。今月末の期末テストで赤点を取ったらどうなるか、わかってるよな? 文化祭の準備時間が補習に当てられるぞ」

 

 その言葉は、俺たちにとって死刑宣告にも等しかった。

 

 カメラマンの俺と監督のコハルが動けなくなれば、PV制作は確実に破綻する!!

 

 

◆◆

 

 

 放課後。

 

「どうすっかな〜」

 

「んね〜」

 

 俺とコハルは、隣り合って廊下を歩いていた。

 

「実行委員が補習で準備期間すっぽかすってのは、流石に良くないからなぁ」

 

「それなー。かと言って、数学得意な友達あんまおらんくない?」

 

「そこがネックなんだよな〜……」

 

 俺とコハルが「どうしよっかねー」と相談しながら廊下を歩いていると、向こうにフユミが見えた。

 

「おっ、いいところに」

 

「フユちゃん特進だもんね。数学もデキるの?」

 

「あいつ全部デキるよ。何なら実技も全部デキる」

 

「えースゴ、天才じゃん。したら頼むしかないね」

 

 そうしましょう、という話になり、俺たちはフユミに声をかけた

 

 

 

 

「見てられないわ、二人とも」

 

 フユミは俺とコハルの答案を一見して、深くため息をついた。

 

 あきれ顔だが、その表情には母性があった。助けてくれそうだ。

 

「百歩譲ってトーマはともかく……火伏さん。4点はさすがにマズいわよ」

 

「んー、だよねー。いやぁ、数字とか見ると眠くなっちゃってさ〜」

 

「笑い事じゃないわ。こうなったら、勉強会をやる必要があるわね」

 

「おぉ〜、トーマと二人っきりで?」

 

「んなっ、別にそんなつもりないわよ!」

 

 フユミはあわてて否定した。

 

「火伏さんの成績改善が最優先なんだから、三人で……ハッ!」

 

 コハルが、にま〜っと笑っていた。ちょっぴり邪悪な表情である。心なしか歯がギザついている気がする(強めの幻覚)。

 

「だよね! いや〜安心したわ〜。あの特進クイーンのフユちゃんがトーマの家の合鍵を持って入り浸ってるって聞いて以来、なーんか『校則にひっかかるような不純異性交遊かぁ〜?』なーんて心配しちゃってたからさぁ。やましいことは無いって確認できて、ホントのホントに安心したよ〜〜!」

 

 ギャルの(よど)みない詠唱、コワッ……。

 コハルは巧みな話術で、フユミから言質を取ったのだった。

 

「じゃあ、三人で勉強会するとしてー」

 

 フユミは何か言いたげだったが、劣勢を悟り退いた。

 

「場所はどうするー?」

 

 続くコハルの問いに、フユミは腕を組んで考え込む。

 

「自習室や図書室、図書館は夕方には閉館しちゃうし……」

 

「カラオケとかカフェとかファミレスは!?」

 

 意気込むコハルの提案は、

 

「集中できないだろ。カラオケは特に」

 

 俺が即座に却下した。

 

 コハルもフユミも名案は思い浮かばないようだ。

 となると、選択肢は限られてくる。俺はなんの気なしに提案した。

 

「だったら、俺ん()で勉強会するのはどう? 家族は基本いないし」

 

 その瞬間。

 天使が通ったような、静寂の間。

 

 フユミは金髪のおくれ毛を耳にかけ、碧眼を細める。

 

「…………へぇ」

 

 コハルは、つやめく口角をゆるめ犬歯をちらりと覗かせる。

 

「…………ふぅ〜〜ん」

 

 二人とも表情こそ平常運転だが、目がギラついている。

 

 まるで獲物を前にした肉食獣のように。

 

 ──しまった!

 

 俺の心臓がギアを上げる。

 

 美少女たちと密室に収まってはならない。

 誘惑に耐えることなど不可能なのだから。

 昨夜、コハルとナツキと過ごして学習したはずだったのに。

 

 キスとハグとで暴発して賢者タイムに陥ったから何とかなった(最後までイかずに済んだ)が、次はどうなるかわからない。

 

 もしフユミとコハル、二人の美少女に迫られたら……

 

 自信を持って言える。俺は絶対に耐えられない。

 

 まずい、撤回しないと。俺の命に関わる――。

 

 そのとき。

 

 ピロリン♪

 俺とコハルとフユミの携帯が、示し合わせたかのように一斉に鳴った。

 

 LINEの通知音だ。

 俺たちは顔を見合わせ、それぞれスマホを取り出した。

 

 画面には『七曜祭実行委員』のグループLINE通知が表示されていた。

 

 送信者は、生徒会長の木南《きなみ》 秋葉《あきは》先輩だ。

 

『皆さんに連絡事項がございます。第三会議室へお越しください』

 

 短く簡潔な召集命令だった。

 

 

 

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