「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。 作:会澤迅一
「俺ん
うかつな発言だった。
フユミとコハルを自宅に誘うだなんて。
「…………へぇ」
「…………ふぅ〜〜ん」
2人二の目が据わっている。瞳の奥に、昏い情欲の熾火が
ざっくばらんに言えば、二人ともムラっと来ているようだった(最低)。
ヤバい。
フユミとコハルの二人に誘惑されたら、俺は絶対に耐えられない。
今すぐ撤回しないと昨夜の二の舞になってしまう!
と、そのとき。
ピロリン♪
俺たち三人のスマホに、アキハ先輩からLINEが来た。
『皆さんに連絡事項がございます。第三会議室へお越しください』
「と、とりあえず行こうか」
「「…………………」」
応答なし。
が、俺は二人の異変に気付かないフリをして、第三会議室へ向かう。
やがて足音がついてきた。しかし俺は振り向かない。というより振り向けない。背中に突き刺さる視線だけでも、まるで炙られているかのような熱量を感じた。
◆
「失礼しまーす」
俺はフユミとコハルを引き連れ、第三会議室の扉をノックした。
「どうぞ」
扉を開けると、ダージリンの香りがふわりと漂う。
アキハ先輩は上座に座り、書類を整理している。
その横には我が文芸部の後輩、
「脚本、固まったの?」
俺が問うと、ナツキは「ええ、まあ、そんなところです」と煮えきらない返事をした。うろんに思った俺はアキハ先輩に目を移す。アキハ先輩は微笑むのみである。なんか怪しい。
「さて、さっそくですが話し合いたいことがございます。お三方とも、どうぞ席へ」
促され、俺たちは椅子に腰を下ろす。
俺の隣にフユミ、対面にコハルが座った。
アキハ先輩は書類を脇に置き、話し始めた。
「ご存知の通り、我々生徒会および実行委員会は、七曜祭に向けて準備を進めています。その広報活動の一環であるPV制作……これは、素晴らしい結果が出ています。先日公開された
「……ありがとうございます」
やや恥ずかしげに縮こまるフユミと、
「当然のことですよ」
ドヤ顔で胸を張るナツキ。
アキハ先輩は二人の反応を見て、満足げにうなずいた。
「もちろん、プロデューサーとカメラマンの力も大きいでしょう。火伏さんと日村さんも、ありがとうございます」
「えぇ〜そんなぁ〜褒めてもナニも出ませんよ〜」
しまりのない笑顔を見せるコハル。
「被写体とコハルのセンスが良かっただけですよ」
端的に事実を述べる俺。
いやはや、それにしても、ほっとした。
てっきり怒られるのかと思ったが、現状整理と進捗確認がメイン。
しかも褒められる話だった。
今回の四天王会合は円満に終えられそうだ。
アキハ先輩もたおやかに笑ってるし。──いや待て、これはフラグじゃないか?
「ですが」
アキハ先輩の目が鋭くなる。フラグ回収はえーよ。
「学生の本分を忘れてはなりませんね」
俺とコハルの肩が同時に跳ねた。
フユミは小さく、呆れのため息をつく。
「今月末の中間テストについて、対策の必要性を強く感じています」
アキハ先輩の涼やかな視線が、俺とコハルとをとらえている。
「もし及第点を下回り、補習となれば……日村さんと火伏さんの稼働時間は大幅に削られます。PV制作は滞り、七曜祭の広報戦略に多大な支障をきたします。そのリスクは、生徒会長として看過できません」
正論である。返す言葉もない。
俺とコハルは黙り込み縮こまる。静寂の中、ナツキが紅茶を注ぐ音だけがイヤに響く。
「大変ですね、お二人とも」
澄まし顔で目を閉じ、湯気の香りを楽しむナツキ。
しかし、アキハ先輩の視線はナツキへも向けられた。
「
「はぇっ?」
ナツキの動きが止まった。
「シミズさんも、理数科目の成績を伸ばす必要があるでしょう。特に数学。中等部の頃から成績が芳しくないとの情報を得ています」
「ど、どうしてそれを……」
「ふむ、事実なのですね」
アキハ先輩、さらっとカマをかけたようだ。
「そ、それは……私は根っからの人文系ですので、数学的な能力は今後の人生において不要かと――」
「そうとも限らないでしょう」
秋葉先輩は即座に切り捨てた。
「かのルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインをご存知ですね。【論理哲学論考】や【哲学探究】を著した彼は、もともと工学を学び、数学の基礎を論理学に求め、哲学へたどり着きました」
「う」
「ルイス・キャロルもそうですね。【不思議の国のアリス】や【スナーク狩り】で知られる彼も、オックスフォード大学で数学の教授を務めていました」
「うぐ」
「優れた文芸も理論によって成り立っています。数学的思考が必要不可欠とまでは言えませんが、役立つことは間違いないでしょう」
「うぐっ」
「何より、神童・
「う、うぐ、うぐぐ……」
ナツキはうめき声を上げて沈黙した。
痛いところ突っつき回した直後に、期待を込めた激励。さしものナツキでさえ、返す言葉もないらしい。
さすがは天下の
「というわけで、今日から勉強会をしましょう。全員いっしょに、清く正しく、仲良く楽しく」
アキハ先輩は、端的に結論を述べた。