「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。 作:会澤迅一
俺とコハルとナツキが赤点の危機。
それを受けて、アキハ先輩は提案した。
「今日から勉強会をしましょう。全員いっしょに、清く正しく、仲良く楽しく」
フユミが「やっぱりそうなるわよね」とうなずいている。俺としても勉強会自体には異論はない。むしろ願ったり叶ったりだ。
だが、問題が一つ残っている。
「あの、会長。勉強会って言っても、場所はどうするんですか?」
俺は、第三会議室に来る前にコハルやフユミと交わした会話を思い出しながら尋ねる。
「学校には完全下校時刻がありますし、カフェやカラオケなんかだと集中できないしで……」
「ふむ。そうですねえ」
アキハ先輩の声は、どことなく白々しい。あごに手を当てて考え込む素振りを見せているが、おそらく予め答えを決めている。
では、なぜアキハ先輩はわざわざ演技をしているのか。
何か仕掛けるつもりなのだ。
ハチャメチャに嫌な予感がするぞ!!
「日村さんのご自宅はいかがですか? 素敵なところでしたから、ぜひまたお邪魔したいのですが」
「あ゙?」
フユミが反射的に凄んだ。
きゅるんとした美貌のどこからそんな重低音が出るのか、人体の神秘である。金髪のツインテールがやにわに逆立ち、麗しの碧眼は見開かれ、白目に血管が浮き出ている。
背後の空気が陽炎のごとくグニャグニャ歪んでいる気がする。勇次郎? 俺の幼なじみが
このままだと危険がアブない!
とっさにコハルとナツキにSOSの視線を投げかけるが、返ってきたのは不信の目だった。
「「
……そう言えば、コハルとナツキは俺の自宅にアキハ先輩が来たことを知らないんだった。
フユミは表情筋を引きつらせつつ無理やりに笑みを作る。
「会長。
フユミはまるで、俺の家で二人分の夕食を作るのが既定路線であるかのように言った。俺からは、いつも助かっているので何も言えない。
フユミの猛攻に対し、アキハ先輩はたおやかに応じる。
「問題ありませんよ。食材は買っていきます」
フユミが抗弁する前に、
「おつらいようでしたら」
アキハ先輩は優雅に微笑んだ。
「私もキッチンに立ちますから」
「こンの、泥棒猫が……」
フユミの罵声は、隣に座る俺にだけ聞こえるボリュームだった。
こ、こわい。超こわい。
恐怖のあまり小刻みに震え出す俺の足を、対面に座るコハルのつまさきがツンツンつついた。
「ねぇトーマ。
カラッとしたギャルから繰り出される、ジトっとした声と視線。耳目にこびりつくほど濃厚な疑念。蝕むように心を侵される。毒を飲んだように胸が痛い!
「い、いやぁ、お泊まりはしてないよ」
裏返る声でゴマかすと、
「お泊まり
ナツキが低い声で鋭く問うた。
俺のバカ!
女子の前では助詞に気を付けろ!
慌ててバタバタと手を振り、必死こいて取りつくろう。
「た、ただ一緒に夕食を、ね! フユミといっしょに3人で! そうですよね会長!?」
「ええ。実に楽しい時間でした」
アキハ先輩がうなずいた。
ああ良かった、一件落着!
「待って」
フユミが地の底から響くような声で続ける。
「火伏さん、『アキハ先輩
なんで揃いも揃って名探偵なんだよ美少女四天王はよォ!!!
「言ったよ?」
何が悪いとでも言いたげなコハル。
「ゆうべ、トーマが、校舎に宿泊したことについて、詳しく聞いておきたいのだけれど」
詳しく聞かれたら困るのだけれど。
コハルとナツキに夢中でキスして辛抱たまらず暴発しましたなんて暴露したら俺フユミにブチ殺されてしまうのだけれど!!??
コハルへ(どうか上手く受け流してくれ)と視線でアピールする。
が、コハルは俺には一瞥もくれない。
くりくりのおめめでフユミを見つめたまま、余裕しゃくしゃく、強者の態度を崩さない。
「別にいーけど」
コハルはゆっくりした動作でマカロンを手に取り、口へ運ぶ。その間の置き方だけでフユミはヒートアップしていく。ヤバい。
「アタシとナツキちゃんの話、ちゃんと信じてくれんの?」
挑発的なコハルの視線。
対するフユミも一歩も退かない。
「三人それぞれに個別で話を聞けば、みんな本当のことを話してくれるはずでしょう」
「ふっ」
ナツキが大げさに肩をすくめて、鼻で
「まるで取り調べですね。誰が罪を犯したワケでもないのに」
「それを私が確かめるのよ」
「何様のつもりですか?」
「あ゙?」
「は?」
「んん?」
空気が悪いよー!
俺が全面的に悪いとは言え、空気が悪すぎるよ!
バトル漫画で敵組織の幹部が集ってる時みたいになってるよ!!!
俺が悪い。
俺に責任がある。
俺が止めねばならない。
意を決して口を開く。
「あの、」
「「「トーマ(先輩)は黙ってて!!」」ください!!」
「はい」
無理でした。
俺は弱い。
たすけてアキハ先輩!!
上座へ視線をよこすと、そこには
「ふふふ……自分が未成年であることが残念でなりませんね……」
陶然とした面持ちで、心底愉しそうにティーカップを傾けるアキハ先輩の姿があった。
こ、この人……
俺のピンチと美少女四天王の不和をサカナに紅茶を呑んでる……!!
とんでもない変態だ──!!
俺は気が遠くなり、思わず天井を仰いだ。
あゝ、美少女四天王。
俺は想像以上にヤバい女の子たちを愛してしまったようだ。