「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。 作:会澤迅一
第1話 五人で合宿、いざ別荘へ。
「本日は〜、
「右手に見えますのは〜、コンビニエンスストアでございま〜す。左手に見えますのは〜、家電量販店でございま〜す」
マイクを片手に、独特の節回しでアナウンスするアキハ先輩。
アキハ先輩は今、バスガイドに扮している。わざわざ、学生服から着替えている。
制帽、制服、蝶ネクタイ。白い長手袋までハメている。それにしても、この生徒会長ノリノリである。
俺たち五人を乗せた車は、滑るように夕方の国道を走っていた。
車と言っても、ただの車ではない。
リムジンだ。
映画とかでしか見たことのない、ハチャメチャに長い高級車だ。
運転席に座るのは、木南家の使用人、「タカさん」こと
ムッキムキの巨体を執事服に包み、ツルなしメガネをかけたクールな老女である。
タカさんは、アキハ先輩のハッチャけたガイドを完全にスルーしている。クールである。
「運転手さ〜ん、この辺りのオススメスポットは〜?」
「ございません」
タカさんはクールである。
「からの〜?」
「ございません」
タカさんは本当にクールである。
「…………」
俺の隣に座るフユミは、口を半開きにしてアキハ先輩を凝視していた。
第三会議室で撒き散らしていた、あのドス黒い殺気はどこへやら。
あまりにも自由奔放な生徒会長の姿に、振り上げた拳の落としどころすら見失ったようだ。
「……なんなのかしらね、あの人」
フユミがぽつりと呟いた。呆れ果てた声には、もう敵意の影もなかった。
「それは本当にそう」
俺も苦笑するしかない。
だが、結果オーライだ。アキハ先輩の奇行のおかげで、フユミの怒りの矛先がブレた。
車内には、なんとなく和やかというか、うやむやな空気が漂っている。
コハルとナツキは、備え付けの冷蔵庫からジュースを取り出してキャッキャしている。
「ナツキちゃんもコーラでい〜い?」
「炭酸は辛いので、オレンジジュースを所望いたします」
「りょ〜か〜い」
仲よさげだ。
アキハ先輩も「次は〜、信号待ちでございま〜す」と楽しげに実況を続けている。
いい雰囲気になってる!
「しっかし、意外だよなぁ。アキハ先輩にあんな子どもっぽい一面があるなんて」
言いながら背中をシートに預けると、フユミはふんと鼻を鳴らして身を乗り出した。
「あの人、昔からそうなのよ。頭の回る享楽主義者、趣味のためなら何でもする。ぜんぜん変わってないわ」
「昔から?」
「ええ。……中学生の頃、バイオリン教室やフィギュアスケートのスクールで一緒だったの」
フユミが懐かしむように目を細めた。
そう言えば、フユミも結構なお嬢様だ。アキハ先輩ほどではないだけで。
「学年も違うし、向こうは上のクラスだったから、挨拶する程度の顔見知りだったけどね。でも、有名人だったわ」
「へえ、やっぱりすごかったのか」
「ええ。なんでもかんでも覚えが早すぎるのよ。一度聴いた曲を講師以上に弾きこなすし、アクセルジャンプも簡単に真似してみせた。……他の子をドンドン引き離すから、少し浮いてたわ」
フユミは、楽しげにマイクパフォーマンスを続けるアキハ先輩を見つめている。
「周りの大人たちも、最初の方こそ持てはやしていたけれど、そのうちプライドを折られて……」
そこまで言って、フユミはハッとしたように口元を押さえた。
「ああヤだ。これじゃ陰口ね。ごめん、忘れて」
「まあ、陰口ってほどでもないだろ。……そっか」
俺は納得した。
アキハ先輩が今、俺たちを巻き込んでこんなに楽しそうにしている理由が、なんとなく分かった気がした。
それと同時に――俺は別の感傷を抱いていた。
中学生の頃、か……。
その頃のフユミは、学校が終わるとすぐに習い事へ向かっていた。
俺とは疎遠で放課後に遊ぶことはおろか、一緒に帰ることすら少なかった時期だ。
俺の知らない場所で、フユミはバイオリンを弾き、氷上を滑り、アキハ先輩のような人々と切磋琢磨していたのか。
思えば忙しそうだったなぁ、と当時のフユミの背中を思い出す。
そして、置いてけぼりを食らったようで、少し寂しかった自分の気持ちも思い出す。
そして、タカさんにダル絡みしているアキハ先輩を見つめる。アキハ先輩は中学時代のフユミについて、きっと俺より知っている。
なんだかフクザツな感情になる。
「…………」
俺は気付けば黙り込んでいた。
そんな俺の顔を、フユミがじっと覗き込んでいた。
「どうしたの? 車酔い?」
「ああ、別になんも」
俺は慌てて視線を逸らした。
「大丈夫? 酔い止め持ってきたから、飲む?」
「や、大丈夫。ありがとう」
俺は手を振ってごまかす。
まさか「フユミが忙しくて寂しかったことを思い出してた」なんて、口が裂けても言えない。いくらなんでも女々しすぎる。
だが、幼なじみの観察眼は欺けない。
フユミは俺の心中を見透かし、「ははあ」と笑った。
「
「はあ!?」
俺が素っ頓狂な声を上げると、フユミは楽しそうに碧眼を細めた。
「アンタほんっとかわいいわよね、そういうとこ。私が会長の話をしたから、トーマくんはスねちゃったのよね〜?」
「ち、ちげーよ! 誰がスねるか!」
「照れないの。こっちまで恥ずかしくなるわ」
フユミは上機嫌に微笑むと、俺の肩にこつんと頭を預けてきた。
金髪からただよう甘い香りが鼻をくすぐる。
肩に感じる体温と重みが、俺の動揺を加速させる。
……まあ、いいか。
殺気立っていたフユミが機嫌を直してくれたなら、それに越したことはない。
ヨシ!(現場猫)
リムジンは夜の闇を払うように、別荘へとひた走る。
波乱の合宿は、すぐそこに待ち構えていた。