「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。   作:会澤迅一

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第三章 俺と四天王の勉強合宿編
第1話 五人で合宿、いざ別荘へ。


「本日は〜、木南(きなみ)観光バスをご利用いただき〜、まことにありがとうございま〜す♪」

 

 木南(きなみ)秋葉(あきは)──アキハ先輩の美声が、リムジンの車内に響く。

 

「右手に見えますのは〜、コンビニエンスストアでございま〜す。左手に見えますのは〜、家電量販店でございま〜す」

 

 マイクを片手に、独特の節回しでアナウンスするアキハ先輩。

 

 アキハ先輩は今、バスガイドに扮している。わざわざ、学生服から着替えている。

 制帽、制服、蝶ネクタイ。白い長手袋までハメている。それにしても、この生徒会長ノリノリである。

 

 俺たち五人を乗せた車は、滑るように夕方の国道を走っていた。

 

 車と言っても、ただの車ではない。

 

 リムジンだ。

 映画とかでしか見たことのない、ハチャメチャに長い高級車だ。

 

 運転席に座るのは、木南家の使用人、「タカさん」こと(たか) 貴美子(きみこ)さん。

 

 ムッキムキの巨体を執事服に包み、ツルなしメガネをかけたクールな老女である。

 

 タカさんは、アキハ先輩のハッチャけたガイドを完全にスルーしている。クールである。

 

「運転手さ〜ん、この辺りのオススメスポットは〜?」

 

「ございません」

 

 タカさんはクールである。

 

「からの〜?」

 

「ございません」

 

 タカさんは本当にクールである。

 

「…………」

 

 俺の隣に座るフユミは、口を半開きにしてアキハ先輩を凝視していた。

 

 第三会議室で撒き散らしていた、あのドス黒い殺気はどこへやら。

 

 あまりにも自由奔放な生徒会長の姿に、振り上げた拳の落としどころすら見失ったようだ。

 

「……なんなのかしらね、あの人」

 

 フユミがぽつりと呟いた。呆れ果てた声には、もう敵意の影もなかった。

 

「それは本当にそう」

 

 俺も苦笑するしかない。

 だが、結果オーライだ。アキハ先輩の奇行のおかげで、フユミの怒りの矛先がブレた。

 

 車内には、なんとなく和やかというか、うやむやな空気が漂っている。

 

 コハルとナツキは、備え付けの冷蔵庫からジュースを取り出してキャッキャしている。

 

「ナツキちゃんもコーラでい〜い?」

 

「炭酸は辛いので、オレンジジュースを所望いたします」

 

「りょ〜か〜い」

 

 仲よさげだ。

 

 アキハ先輩も「次は〜、信号待ちでございま〜す」と楽しげに実況を続けている。

 

 いい雰囲気になってる!

 

「しっかし、意外だよなぁ。アキハ先輩にあんな子どもっぽい一面があるなんて」

 

 言いながら背中をシートに預けると、フユミはふんと鼻を鳴らして身を乗り出した。

 

「あの人、昔からそうなのよ。頭の回る享楽主義者、趣味のためなら何でもする。ぜんぜん変わってないわ」

 

「昔から?」

 

「ええ。……中学生の頃、バイオリン教室やフィギュアスケートのスクールで一緒だったの」

 

 フユミが懐かしむように目を細めた。

 そう言えば、フユミも結構なお嬢様だ。アキハ先輩ほどではないだけで。

 

「学年も違うし、向こうは上のクラスだったから、挨拶する程度の顔見知りだったけどね。でも、有名人だったわ」

 

「へえ、やっぱりすごかったのか」

 

「ええ。なんでもかんでも覚えが早すぎるのよ。一度聴いた曲を講師以上に弾きこなすし、アクセルジャンプも簡単に真似してみせた。……他の子をドンドン引き離すから、少し浮いてたわ」

 

 フユミは、楽しげにマイクパフォーマンスを続けるアキハ先輩を見つめている。

 

「周りの大人たちも、最初の方こそ持てはやしていたけれど、そのうちプライドを折られて……」

 

 そこまで言って、フユミはハッとしたように口元を押さえた。

 

「ああヤだ。これじゃ陰口ね。ごめん、忘れて」

 

「まあ、陰口ってほどでもないだろ。……そっか」

 

 俺は納得した。

 アキハ先輩が今、俺たちを巻き込んでこんなに楽しそうにしている理由が、なんとなく分かった気がした。

 

 それと同時に――俺は別の感傷を抱いていた。

 

 中学生の頃、か……。

 

 その頃のフユミは、学校が終わるとすぐに習い事へ向かっていた。

 俺とは疎遠で放課後に遊ぶことはおろか、一緒に帰ることすら少なかった時期だ。

 

 俺の知らない場所で、フユミはバイオリンを弾き、氷上を滑り、アキハ先輩のような人々と切磋琢磨していたのか。

 

 思えば忙しそうだったなぁ、と当時のフユミの背中を思い出す。

 そして、置いてけぼりを食らったようで、少し寂しかった自分の気持ちも思い出す。

 

 そして、タカさんにダル絡みしているアキハ先輩を見つめる。アキハ先輩は中学時代のフユミについて、きっと俺より知っている。

 

 なんだかフクザツな感情になる。

 

「…………」

 

 俺は気付けば黙り込んでいた。

 

 そんな俺の顔を、フユミがじっと覗き込んでいた。

 

「どうしたの? 車酔い?」

 

「ああ、別になんも」

 

 俺は慌てて視線を逸らした。

 

「大丈夫? 酔い止め持ってきたから、飲む?」

 

「や、大丈夫。ありがとう」

 

 俺は手を振ってごまかす。

 まさか「フユミが忙しくて寂しかったことを思い出してた」なんて、口が裂けても言えない。いくらなんでも女々しすぎる。

 

 だが、幼なじみの観察眼は欺けない。

 フユミは俺の心中を見透かし、「ははあ」と笑った。

 

()いてるのね?」

 

「はあ!?」

 

 俺が素っ頓狂な声を上げると、フユミは楽しそうに碧眼を細めた。

 

「アンタほんっとかわいいわよね、そういうとこ。私が会長の話をしたから、トーマくんはスねちゃったのよね〜?」

 

「ち、ちげーよ! 誰がスねるか!」

 

「照れないの。こっちまで恥ずかしくなるわ」

 

 フユミは上機嫌に微笑むと、俺の肩にこつんと頭を預けてきた。

 

 金髪からただよう甘い香りが鼻をくすぐる。

 肩に感じる体温と重みが、俺の動揺を加速させる。

 

 ……まあ、いいか。

 殺気立っていたフユミが機嫌を直してくれたなら、それに越したことはない。

 

 ヨシ!(現場猫)

 リムジンは夜の闇を払うように、別荘へとひた走る。

 

 波乱の合宿は、すぐそこに待ち構えていた。

 

 

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