「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。   作:会澤迅一

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第5話 四天王と金曜ロードショー

 しばらくすると、廊下の方からパタパタと足音が聞こえてきた。

 

「あ〜、さっぱりした〜!」

 

 最初に現れたのはコハルだった。

 その姿を見て、俺は思わずムセ返りそうになった。

 

「ん? トーマ、どしたの?」

 

 コハルは下履きが見えないほどサイズの大きい、ダボッとしたTシャツ一枚という格好だった。

 

 濡れた髪をタオルで拭きながら、健康的な肉感の太ももを惜しげもなく晒している。

 

 いわゆる『彼シャツ』スタイルだが、童顔でスタイルが良いコハルがやると破壊力抜群だった。

 

「あ、トーマもお風呂あがり? 大浴場どうだったー?」

 

「あ、ああ。広かったよ。……コハル、寒くないの?」

 

「んー? ぜ〜んぜん」

 

 コハルがソファの右隣にドカッと座り込む。距離が近い。太ももが眩しい。

 

「おや、お二人ともお揃いで」

 

 続いて現れたのはナツキだ。

 

 ナツキは――なんと、濃紺のジャージ上下だった。

 学校指定のものではないが、サイドに白線が入ったシンプルなデザイン。だが、黒髪ショートボブの美少女が着ると、逆にマニアックな需要を喚起している。かくいう俺はマニアなのでよくわかる。

 

「お、ナッちゃんはジャージかぁ」

 

 コハルの気の抜けた一言に、

 

「機能性を追求した結果、これに行き着きました」

 

 ナツキはキリッとした顔で返す。そして俺の左隣に座った。

 

「個室のお風呂、ずいぶん広かったわね」

 

 そして、フユミがやってきた。

 フユミは自慢の金髪をおろし、パステルピンクのモコモコしたルームウェアに身を包んでいた。

 

 ジェラピケ的な、触り心地の良さそうな生地。ショートパンツから伸びる脚は白く健やかで、女子力の塊のようなオーラを放っている。

 

「あら。トーマ、髪ちゃんと乾かした? アンタいっつもドライヤー下手だから少し髪が傷んでるのよ」

 

 フユミは俺の正面に立ち、当たり前のように頭を撫でる。

 そのあざとかわいい格好と母性的な対応のギャップに、俺の心拍数が上がる。

 

 最後に、二階から優雅な足音が降りてきた。

 

「ふふ、湯上がりの一杯は格別ですね」

 

 アキハ先輩だ。

 アキハ先輩は――予想通りと言うべきか、光沢のあるシルクのネグリジェだった。

 

 その上からガウンを羽織っているが、歩くたびに生地が揺れ、体のラインが艶めかしく浮かび上がる。

 

 手にはなぜか、トマトジュースが入ったワイングラスを持っている。多分カッコいいと思ってやっている。この人ずっと面白いな……。

 

 だぼTギャル。

 ジャージの文学少女。

 モコモコ幼なじみ。

 シルクのお嬢様。

 

 四者四様のパジャマ姿が、俺を取り囲んでいる。

 風呂上がりの湿った空気と、ほの甘い香りが混じり合う。

 

 ここは天国か、それとも理性の処刑場か。

 俺は必死にスポーツドリンクを(あお)ったが、渇きは依然として増すばかりだった。

 

 

 風呂上がりでユルんだ体が、ソファに深く沈み込む。美少女四天王の面々も似たような雰囲気で、普段は見られないスキのある表情をしている。

 

 時刻は午後九時になったところだった。

 

「まだ寝る時刻でもありませんし、テレビでも見ましょうか」

 

 アキハ先輩がリモコンを操作すると、部屋が少し暗くなる。

 そして巨大なテレビ画面に、金曜ロードショーの導入が映し出された。そう言えば今日は金曜日だった。

 

 続けて、知っているタイトルが出てくる。

 

「あ、今日は魔女宅なんだ」

 

 俺が呟くと、

 

「アタシこれ好きなんよね〜」

 

 ダボT姿のコハルがソファから身を乗り出し、ホットココアをちびっと啜った。

 

「何度観ても色褪せない、ビルドゥングスロマンの傑作ですね」

 

 ジャージ姿のナツキは、ポテチの袋をかさかさと漁っている。

 

「懐かしいわね」

 

 モコモコの部屋着のフユミは、お高そうなトリュフチョコをつまんでいる。

 

「ですねぇ」

 

 シルクのネグリジェを着たアキハ先輩は、一人掛けのソファで優雅にトマトジュースを傾けている。

 

 それからは、会話らしい会話はほとんどなかった。

 テレビから流れる穏やかな劇伴と、有名なセリフの数々。

 

 ナツキがポテチを咀嚼するパリパリという音。

 フユミがトリュフチョコをかじるカリカリという音。

 コハルがココアのカップを置くときの、コトっという音。

 

 それぞれが好き勝手な姿勢で、同じ画面をぼんやりと眺めている。

 

 ……なんだろう、この空気感。

 学園では『美少女四天王』なんて呼ばれて、畏敬の念を集めて、なんとなく遠巻きにされたり、雲の上の人のように扱われている。

 

 しかし、こうしてパジャマ姿で、お菓子を食べながら古い映画を観ている4人の姿は、どこにでもいる普通の女子高生だ。

 

 今は、俺に起因する痴情のもつれを全部忘れている。ただ、同じ空間で、同じ時間をダラダラと共有している。

 

 良かったなぁ、と思った。

 俺は、隣で静かに画面を見つめるコハルの横顔を、ちらりと盗み見る。カラーコンタクトを外した瞳は常よりチョット小さくて、三白眼になっている。そっちのほうが可愛いのに、と思うが、伝えるタイミングが見つからずにいる。

 

 そして視線を天井に向けた。

 

 吹き抜けの高い天井では、立派なシーリングファンが、音を立てずにゆっくりと回っていた。

 

 そうこうしているうちに映画はクライマックスを迎え、少女がデッキブラシに乗って空を飛ぶ。

 

 エンドロールが流れ始め、主題歌の優しいメロディがリビングを満たした。

 

「……終わっちゃったねぇ〜」

 

 コハルが大きなあくびをしてから、空になったマグカップを手に取った。

 

「もう十一時ね。そろそろ寝ましょうか」

 

 フユミが立ち上がり、伸びをする。

 

「そうですね。明日に備えて英気を養いましょう」

 

 ナツキも立ち上がり、ポテチの袋を丸めた。

 

「では皆さん、おやすみなさいませ。良い夢を」

 

 アキハ先輩が優雅に微笑み、先に二階へと上がっていく。

 

 俺たちもそれに続き、それぞれの部屋へと向かう。

 嵐のように過ぎ去った合宿初日が、穏やかに幕を閉じようとしていた。

 

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