「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。   作:会澤迅一

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第10話 四天王、仲良くなる。

 コハルがダンスでひとしきり体を動かしてから、一時間ほど経った。

 

「よし、午前の勉強は完了!」

 

 コハルが高らかに宣言した。

 

「おなか空いちゃったから、今回はアタシがガッツリ作っちゃうよ~」

 

 コハルの申し出に対し、アキハ先輩とフユミは『昨日今日でやったから』ということで引き下がった。

 

 ということで、俺とコハルが昼食を担当することになった。

 

 メニューは、豚バラ肉たっぷりのソース焼きそば。

 このオシャレな別荘には似つかわしくないオトコ飯だが、かえって食欲をそそる。

 

「よっしゃトーマ! キャベツは手でちぎる派? 手刀で切る派?」

 

「包丁で切ろうぜ。俺が肉切るから、コハルは野菜おねがい」

 

「りょ!」

 

 コハルの手際は、大雑把だが迷いがなかった。

 ザクザクと豪快に野菜を切り、俺が中華鍋で炒める。

 ジュワッという音と共に、オイスターソースの焦げる香ばしい匂いがキッチンに充満した。

 

「ん! 味見!」

 

 コハルが菜箸で麺をつまみ、フーフーしてから俺の口に放り込む。遠慮するヒマもなかった。

 

「……うん、美味い」

 

「でっしょ〜? やっぱアタマとカラダ動かした後は濃い味っしょ!」

 

 出来上がった焼きそばは、アキハ先輩たちにも大好評で、あっという間に大皿が空になった。

 

 

 

 

 午後は、穏やかな時間が流れた。

 満腹感と、窓から差し込む柔らかな午後の日差し。

 強烈な睡魔が襲ってくる時間帯だが、不思議と誰も脱落しなかった。

 

 カリカリというペンの音だけが、BGMのように響く。

 

「……ねえナッちゃん、ここわかんない。解説求む」

 

「ふむ。これは……三角関数の応用ですね。視点を変えれば──」

 

 コハルの小声の質問に、ナツキが淡々と、しかし丁寧に答えている。

 

 一方、向かいのアキハ先輩が軽く眉間を揉んだ。

 すると、すかさずフユミが立ち上がり、ポットから新しい紅茶を注いで、無言で先輩の前に置いた。

 

「……ありがとう、月澄さん」

 

「ついでよ」

 

 ライバル同士だが、そこには確かなリスペクトがある。

 窓の外の陽が傾き、空が茜色に染まるまで、俺たちは、奇妙な連帯感の中でペンを走らせ続けていた。

 

 そして、夜。

 

 俺たちがキリの良いところまで課題を進めている間に、手が空いたアキハ先輩とフユミが夕食を作ってくれることになった。

 

 キッチンの方からは、香ばしい匂いと共に、賑やかな声が漏れ聞こえてくる。

 

「会長、火が強いです。焦げますよ」

 

「ノンノン、中華は火力が命ですよ、月澄さん。怯えていては美味しいものは作れません」

 

「それは中華鍋の話でしょ! 今は煮込み料理!」

 

「あら、塩と砂糖を間違えかけました」

 

「わざとでしょ! 貸して!」

 

「うふふ、月澄さんは手際が良いですねぇ」

 

 バチバチと言い合いながらも、二人の動きは奇妙にシンクロしていた。

 

 一人が鍋を振れば、もう一人が皿を出す。まるで長年連れ添った喧嘩友達。トムとジェリーのようなドタバタ感と呼吸の良さだ。

 

 そうして食卓に並んだのは、完璧な味付けの酢豚とスープだった。文句を言い合いながらも、この二人の相性は意外と良かったらしい。

 

 

◆ 

 

 

 夜、午後八時半。

 一日のカリキュラムを終え、風呂も済ませた俺は、小腹が空いてキッチンへと向かった。

 

 すると、そこには先客がいた。

 

「……おや、先輩」

 

 ジャージ姿のナツキだ。

 彼女は包丁を片手に、まな板の上のリンゴと睨めっこしていた。

 

「どうした、夜食か?」

 

「ええ。脳が糖分を求めていまして。吸収の早い果糖を摂るためにリンゴでも、と」

 

 言いながら、ナツキが包丁を動かす。

 が。

 

「……ストップ。ストップナツキ、危ない」

 

 その手つきは、見ていられないほど危なっかしかった。包丁の角度がおかしい。なぜ皮ではなく身を削ぎ落とそうとする。

 

「ふふ、体は心の思い通りには動いてくれない。まるで伊藤計劃ですね」

 

「とりあえず包丁を置いて、血みどろになるぞこのままじゃ」

 

 俺が止めに入ろうとした、そのとき。

 

「貸して。見てられないわ」

 

 背後からため息混じりの声がした。フユミだ。

 彼女はナツキの手からヒョイッと包丁を取り上げると、冷蔵庫を開けた。 

 

「夜中に冷たい果物は胃に負担がかかるわ。……座ってて」

 

 フユミは手早くリンゴをすりおろし、生姜とハチミツとオレンジジュースと混ぜて、温めた。

 

 数分後。

 ホットドリンクが三人分、テーブルに並んだ。

 

「……面目ない。私はやはり、ペンより重いものは持てないようです」

 

 ナツキが肩を落とす。

 

「『ありがとう』でいいのよ。食べる専門がいないと、作り甲斐がないでしょ」

 

 フユミはそう言って、顔をそむけた。照れ隠しだった。

 

「あ、ありがとう、ございます……」

 

 ぎくしゃく感謝を伝えるナツキを見て、俺は頬が緩むのをこらえきれなかった。

 

 その後はリビングに皆で集い、ダラダラとテレビを見て、ぼちぼち寝る時間になった。

 

「……ふぁ」

 

 ナツキがあくびをした。

 

「そろそろ良いお時間ですし、寝ましょうか」

 

 アキハ先輩はそう言うと、テレビを消した。

 

「いやー、昨日はどうなることかと思ったけど、なんとかなるもんだな」

 

 ドタバタだったが、充実した一日だった。

 みんなの意外な一面も見れたし、距離もかなり縮まった気がする。

 

「明日は日曜日か。最終日だし、今のうちに帰りの荷物もまとめとこうかな」

 

 俺が何気なくそう呟くと。

 アキハ先輩がキョトンとした顔をした。

 

「帰り? 何を言っているのですか、トーマさん」

 

「え?」

 

「合宿は『中間テストの前日』まで続きますよ? 当然でしょう?」

 

 アキハ先輩は、「太陽は東から昇りますよ」くらいのトーンで言った。

 

「…………はぃ?」

 

 俺の手が止まる。

 中間テストは五月二十八日の木曜日からだ。

 今日は五月十六日の土曜日。

 

 つまり、あと十二泊するということか? 学校はどうするんだ? ここから通うのか?

 

「いやいや、ご冗談を。服だってそんなに持ってきてないですし」

 

「服なら、皆さんの馴染みのブランドから各サイズを取り寄せてあります。明朝には届くでしょう」

 

 サラッと放たれたアキハ先輩の言葉に、俺たち四人はザザーッとドン引きする。

 

「学校までの送迎はリムジンを手配済みですよ。わたくしが毎朝、バスガイドに扮してご案内いたします」

 

 あ、アキハ先輩、ヤバい。ヤベー女すぎる。

 

 SOSの視線をフユミに送るが、意外と平気そうな顔をしている。

 

「ま、そうなるだろうと思ってましたよ」

 

「え、マジで言ってる?」

 

 コハルに問うと、

 

「ま〜当たり前っしょ。部活の長期合宿って二週間くらいあるもんじゃん?」

 

 アッサリとうなずいた。

 

「同意します。短期決戦で成果が出るとは思えません」

 

 ナツキも同調している。

 

 ……嘘だろ。

 俺は四人の顔を見渡した。

 冗談を言っている雰囲気は微塵もない。

 

 美少女四天王の常識、俺の尺度と違いすぎるよ!!

 

 どうやら、この奇妙で贅沢な軟禁生活――もとい、勉強合宿からは、まだまだ解放されそうになかった。

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