「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。   作:会澤迅一

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第11話 メイド服の幼なじみ、フユミ。(前編)

 前回までのあらすじ。

 

 七曜祭初日!

 フユミの属するクレープカフェにやってきた。

 

「アナタが月澄さんの幼なじみだというのは存じていますが、今はあくまで『お客様』です。月澄さんに過度な接触を図ったり、業務の妨げになるような行為は、厳に慎んでいただきたい」

 

 女子生徒から注意された。

 

 フユミは高嶺の花であるから、俺のような冴えない男が『幼なじみだから』という理由で近づくのは許されないのだろう。

 

 その気持ちはごもっともである。

 

 ちょっと挨拶したら退散するか……と思った矢先。

 

「――お待たせしました」

 

 凛とした、それでいて春の日差しのように柔らかい声が降ってきた。

 

 顔を上げる。

 

 そこにはユミが立っていた。

 

 フリルをふんだんにあしらった、クラシカルなヴィクトリアンメイド。

 黒と白のコントラストの効いたメイド服が、フユミの金髪碧眼を引き立てていた。

 

「ふ、フユミ……」

 

 似合いすぎている。

 絵本の中から飛び出してきたかのような可憐さだ。

 

「はい、いちご生クリーム。生地が熱いから、ヤケドしないようにね」

 

 フユミはトレイからクレープ皿を置くと、当然のように俺の対面の席に腰を下ろした。

 

 瞬間、教室中の空気が凍りついた。

 女子生徒が眼鏡を光らせ、他のメイドや執事たちが給仕の手を止める。

 

 無言ながらも非難轟々。

 

(なんでアイツは月澄様の対面に座れるんだ)

 

(接客係じゃないだろ月澄様は)

 

(民草の目には眩しすぎるからキッチンをお任せしたのに)

 

 という心の声が大音量で聞こえてくる。

 俺って実はサトリ妖怪だったのかもしれん。

 

 このままだと火の粉が降りかかる!!

 

「お、おいフユミ。座ってていいのか? 仕事中だろ?」

 

 俺は小声でいさめるが、フユミは涼しい顔である。

 

「いいのよ。今は休憩時間ってことにしてあるから」

 

 そう言って、フユミは俺をじっと見つめた。

 その青い瞳は、以前よりもずっと深く、湿度を帯びているように見えた。

 

 まるで、俺がそこに存在していること自体を確認し、噛み締めるような、切実な眼差し。

 

 俺は思わず目をそらし、クレープを一口食べる。

 

 美味い。

 

「おいしい?」

 

 フユミが嬉しそうに尋ねてくる。

 

「ああ、美味い。すごく美味しいよ」

 

「よかった。生地、私が焼いたの。盛り付けも私」

 

「へえ、フユミがか。どうりで」

 

「ふふ。……もっと食べて」

 

 フユミは、俺が食べる様子を、一瞬たりとも見逃さないというように見つめ続ける。

 

 周囲からの視線が突き刺さる。殺意に質量があったなら、俺は今ごろ蜂の巣だ。

 

 しかし、目の前のフユミがあまりに幸せそうに笑うので、俺は逃れることもできない。逃れようなんて思えない。

 

「トーマ」

 

「ん?」

 

「来てくれて、ありがとう」

 

 フユミの手が伸びて、俺の頬についたクリームを指先で拭った。

 

 そして、あろうことか、その指を自分の口へ運んだ。

 

「ちょっ!」

 

 ギリリッ!!

 と聞こえたのは誰かの歯ぎしりか、拳を握りしめた音か、はたまた怒りの霊圧で空間が軋む音か。

 

 フユミは指先で口元を拭い、微笑む。

 

 そして、

 

「……生きててくれて、ありがとう」

 

 ごく小さな声でささやいた。

 周囲の雑音にかき消されそうなほどのささやきだったが、その言葉には、万感の思いが込められている気がした。

 

「え、なんで?」

 

「ううん、なんでもない」

 

「なんでもなくはないだろ。『生きててくれてありがとう』はこっちのセリフだよ」

 

 フユミには、物心ついた頃から今に至るまで、ずっとずーっと助けられてきたワケだし。

 

「フユミがいなかったら、今の俺は無いからね」

 

 靴ヒモの結び方も、自転車の乗り方も、フユミに教わった。

 七曜学園に進んだのだって、フユミと同じ学校に行きたかったからだ。必死で勉強しても、フユミと同じ特進コースには進めなかったけれども。

 

 まあ、今こうやって一緒にいれるだけでも十分なのだが。

 

 俺はお冷やを飲み干し、一息ついた。

 

「ってか、フユミも何か飲む? ドリンクのオススメとかある?」

 

 黒板に書き出されたメニュー表を見ながら尋ねるが、フユミは応えない。

 

「フユミ?」

 

 視線を戻す。

 フユミは顔を赤らめ、わなわな震えていた。

 

「あ、アンタねぇ……」

 

「え、な、なに? また俺なんかやっちゃいました?」

 

「アンタほんと、ほんっと! もうホントに、このっ、この女たらし!! スケコマシ!!!」

 

「え、冤罪!!」

 

 今回は別に変なことを言っていないはずなのに。

 

 周囲の視線がヤバい!

 明確に殺意を帯びている!

 凶器があったら躊躇なく使いそうな空気だ!

 

「拳銃があったら……撃ちたい!!」

 

「こんなにも銃刀法を恨んだことはない……!!」

 

 言ってる!!

 今回ばかりはハッキリ言ってる!!

 

「トーマ!」

 

 フユミの声にハッとする。

 

「クレープ、早く食べちゃって。冷めたらもったいないから」

 

「あ、ああ、もちろん」

 

 俺はフユミがうながすままに、夢中でクレープを食べた。

 

 甘い。おいしい。

 クレープはもちろん、なんだかんだで幸せそうなフユミの笑顔も、脳が溶けそうなほどスウィートだ。

 

 二人きりのテーブルは、甘酸っぱい幸せで満ちている。

 

 しかし、その甘酸っぱい幸せは辛辣な殺気に取り囲まれている。俺の首に懸賞金がかかり、校内に貼り出されてもおかしくない勢いだ。

 

 ああフユミ、お前の美しさは罪なのか。

 

 恐怖と多幸感の板挟みで、俺の胃はキリキリと悲鳴を上げていた。

 

 

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