「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。   作:会澤迅一

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第12話 メイド服の幼なじみ、フユミ。(後編)

 前回までのあらすじ。

 

 七曜祭初日!

 俺は特進クラスのクレープカフェを訪れ、メイド服姿のフユミと小さなテーブルを囲んでいた。

 

「フユミがいなきゃ、今の俺は無いからね」

 

 自然な会話の流れでそう言ったところ、

 

「アンタほんと、ほんっと! もうホントに、このっ、この女たらし!! スケコマシ!!!」

 

 赤面したフユミにメチャ怒られてしまった。

 周囲の視線に串刺しにされつつ、甘いクレープを頬張る。

 

 フユミは少し落ち着いたのか、ただ黙って俺を見ていた。眩しいものを見るように、目を細めて俺を眺めていた。まるで観音様のような表情である。

 

「――したら、ごちそうさま」

 

 俺はグラスに残った氷水を一気に飲み干し、クレープの包み紙を小さく折り畳む。

 

「あら。もういいの?」

 

「ああ。そろそろクラスに戻らないと」

 

 席を立とうすると、

 

「へえ」

 

 フユミは重い低声を出した。

 か(ぼそ)い白磁のような喉から、どうしてそんなドスの利いた声が出るのだろう(現実逃避)。

 

「コハルに会いに行くわけね?」

 

 フユミの碧眼はさっきまでと同じく細められたまま。しかし放たれる慈愛の眼差しではなく、射抜くように鋭い眼光である。

 

 俺の視界は、額を滴る冷や汗で滲む。

 

「い、いやぁ。出し物を手伝うだけだよ。ウチも人手不足だろうし。他意はない。断じてない」

 

「ふうん。……まあ、いいわ」

 

 フユミは嫣然(えんぜん)と微笑んだ。

 大人っぽい表情だ。手のひらで転がされているような感覚になる。さしづめ俺は飛び回るエテ公か……。しっくり来る自分が虚しい。

 

 フユミは俺を見つめつつ、

 

「出し物のお手伝い、()()()()()()?」

 

 小首を傾げた。さらり。金髪の(ふさ)が、なだらかな肩を滑り落ちる。

 

 あ、圧が……圧がスゴい!!

 

 メイドや執事に扮したフユミのクラスメイトたちが俺を睨みつけている。圧がスゴい!

 

 無関係のお客様方は固唾を飲んで見守っている。ご迷惑をおかけしております!!

 

 これ以上ここに留まるのは危険だ。生存本能がビンビン警鐘を鳴らしている。

 

 俺は逃げるように席を立つ。

 フユミも、ゆったりと立ち上がった。

 

「じゃあ、私もキッチンに戻るから。行ってらっしゃいませ、ご主人様?」

 

 フユミはロングスカートの裾をつまみ上げ、うやうやしく膝を曲げ頭《こうべ》を垂れてみせる。

 

 疑問系の上がり調子に込められた『どうせアンタのことだからコハルもタラしこむんでしょ?』という皮肉っぽい響きは、このさい聞き逃すものとする。

 

 たまには俺も難聴系主人公になって良いだろう。

 

「チッ」

 

 誰かの舌打ち。

 

 チャキ。

 誰かがナイフを手に取る音。

 

 たまには俺も難聴系主人公になって良いだろう!!

 

 踵を返した俺は、決して振り返らない。

 無数の眼光に背中を灼かれつつ、俺は命からがら二年A組を脱出した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 俺は、自分のクラスである2年C組に戻ってきた。

 教室の入り口には、段ボールとベニヤ板で作られた巨大な鳥居がそびえ立っている。

 

 中からは祭囃子のBGMと、呼び込みの威勢のいい声が響いていた。

 

 出し物は『2ーCだよ! 全員集合! 昭和レトロ縁日』だ。

 

 フユミのクラスが洗練された西洋の貴族社会だとするなら、ウチのクラスは昭和の下町だ。

 

 射的、型抜き、輪投げにヨーヨー釣り。

 教室の机を並べ替え、紅白幕を吊るしただけのチープな作りだが、それがかえってノスタルジーを強めている。

 

 熱気だって負けていない。

 

「お、日村。おかえり」

 

 受付をしていた学級委員の男子が、俺に気づいて声をかけてきた。

 

「ごめんイインチョ、遅れちゃったた。すぐ代わるよ」

 

 俺が腕まくりをすると、委員長はひらひらと手を振った。

 

「いや、いいって。お前は自由行動してなよ」

 

「なんで? 人足りないんじゃないの?」

 

「逆、余りまくってる。客の回転が早すぎて、今のシフトだけで十分回るんだよ」

 

「いやでも、俺だけサボるわけにも……」

 

「何言ってんだよ。サボるもなにも、十分働いてただろが」

 

 委員長は呆れたように笑い、受付台の上のシフト表を指先で弾いた。

 

「演劇の準備でキツかったろうに、昨日も最後まで残って看板のペンキ塗りやってくれたじゃねーか。それに今朝だって、誰より早く来て什器の搬入やってくれたろ。みんな感謝してるよ」

 

「あー……それはまあ、たまたま早く目が覚めただけだし。ペンキ塗りは、単純に楽しかったからな」

 

 文化祭でウキウキだったのと、美少女四天王がどう動くかが気になって、ついつい目が覚めてしまったのだ。

 

「はいはい、そういうことにしといてやるよ」

 

 なんか良い方向に勘違いされている。

 まあそっちのか都合いいか。ヨシ!(現場猫)

 

「そしてこちらが労働の対価です。好きに使って」

 

 委員長が校内で使える各種チケットを数枚、俺の胸ポケットにねじ込んだ。

 

「おお、あざす」

 

「うぃ。また人手が足りなくなったらLINEで呼ぶから、それまで英気を養っといて」

 

 背中をパンと叩かれ、俺は教室の中へと押し出された。

 優しくしてもらえてハッピー、と呑気に考えつつ、俺は賑わう教室内を見渡した。

 

 射的コーナーで歓声が上がり、型抜きコーナーでは男子たちが真剣な顔で針を動かしている。

 

 だが、何よりも異様なのは、教室の奥にある輪投げコーナーだった。

 

 そこだけ人口密度がおかしい。

 しかも、群がっているのは男子生徒ではない。

 

「キャーッ! コハルちゃーん! こっち向いてー!」

 

「今日もメイクめっちゃ可愛い! どこのリップ使ってるの!?」

 

「いっしょに写真撮ってくださーい!!」

 

 黄色い歓声の大合唱。

 群がっているのは、他クラス、あるいは他校からやってきた女子生徒たちだ。

 

 スマホを掲げ、目を輝かせながら、一人の少女を取り囲んでいる。

 

 その中心に、コハル──火伏(ひぶせ) 琥春(こはる)はいた。

 

 

 

 

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