「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。   作:会澤迅一

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第13話 コハルのために射的(前編)

 前回までのあらすじ!

 

 七曜祭初日!

 自クラスの出し物・縁日を手伝おうとしたが、

 

「お前は十分働いたから、自由行動でいいよ」

 

 と、委員長から言われた。

 

 手持ち無沙汰になった。

 そう思った瞬間に教室の奥から、

 

「キャーッ! コハルちゃーん! こっち向いてー!」  

 

「今日もメイクめっちゃ可愛い! どこのリップ使ってるの!?」

 

「いっしょに写真撮ってくださーい!!」

 

 黄色い歓声の大合唱が響き渡る。

 視線を向けると、女子高生が集まっていた。

 

 その中心に、

 

「コハルでーす! どーもどーも、今日もヨロシク!」

 

 コハル──火伏(ひぶせ) 琥春(こはる)がいた。

 

 クラスTシャツの裾を大胆に結び、引き締まったウエストを露出させたヘソ出しルック。

 ボトムスは動きやすいショートパンツで、健康的な美脚が眩しい。

 自慢のプラチナブロンドはポニーテールにまとめ、ねじり鉢巻をリボンのように巻いている。

 

 

 お祭りの看板娘だ。

 

「はーい、リップは新作のティントだよ! あとでインスタに載せとくね!」

 

 コハルは指でハートを作る。

 

「写真オッケー! でもツーショは輪投げ成功した人限定だからガンバって〜!」

 

 コハルは笑顔を振りまきながらも、媚びることは決してしない。

 握手を求められれば応じる。しかし一定の距離感を崩さない。チヤホヤされて舞い上がることはない。かといって、冷たくあしらうこともない。

 

 そこにいるのは、「クラスメイトの火伏《ひぶせ》さん」というより、「インフルエンサーのコハル」だった。

 

 コハルのSNSフォロワー数は桁外れだ。

 特に同世代の女子からの支持が厚いとは聞いていたが、こうして目の当たりにすると圧倒される。

 

 彼女は、自分という商品をどう魅せるか最も価値が出るか、骨身にしみて理解しているのだ。

 

 スゲーな……

 

 プロフェッショナルだ。

 

 俺が感心して眺めていると、コハルがふと顔を上げた。

 数多のカメラレンズに合わされていた焦点が、人混みの奥の俺を捉えた。

 

「あ」

 

 瞬間、コハルの表情が変る。

 完璧なアイドルの笑顔から、年相応のイタズラっぽいクラスメイトの顔になる。

 

「ちょっとタイム! 休憩入りまーす!」

 

 コハルは集まったファンたちに手を合わせると、ひらりと身を翻した。

 

 えーっ、という残念がる声を軽やかにかわし、人波をかき分けて俺の元へと一直線に歩いてくる。

 

「トーマ! おっそい!」

 

 開口一番、不満げに頬を膨らませる。

 

「ごめん、ちょっとA組の方に行ってた」

 

「……ふーん」

 

 コハルは一歩踏み込んだ。息がかかる距離。近いよ〜。

 ココナッツの甘い香りがする。コハルは小鼻をすん、と鳴らす。俺の制服の匂いを嗅いでいるようだ。ハズい。

 

「女の子の匂い……フユちゃんでしょ」

 

「な、なんでわかんの?」

 

「女の子だから」

 

 妙な説得力があった。

 

 コハルはジト目で俺を睨み上げると、皮肉っぽく口角を上げた。

 

「A組のクレープ、美味しかった?」

 

「ああ、美味かったよ。フユミが焼いてくれたやつだったし」

 

「ふーん? 『フユミが焼いてくれたやつ』、ね」

 

 ヤバい、口を滑らせた。

 

「トーマっていっつもそうだよね。いやまあ、アタシは許せるほうだけどさぁ? ふぅ〜ん……」

 

 コハルは頬を膨らませ、腕を組もうとする。

 

「胸がジャマで腕組めないわ、ごめん」

 

「俺に謝ったとてだろ」

 

「揉むと大きくなるって言うよね」

 

「それも俺に言ったとてだろ」

 

 そして既に十分大きいだろ。

 俺がコハルの軽口をかわしていると、周囲のファンガールズがザワめき始めた。

 

「え、誰?」

 

「コハルちゃんと仲良さそう……」

 

「カレシ? 違うよね? マネージャーさんとか?」

 

 ヤバい。

 A組では特進クラスの殺気を浴び、C組ではコハルファンの好奇の目に晒される。

 

 今日はどこに行っても針のムシロか。

 

「ま、いいや。フユちゃんのお上品なカフェとは正反対の魅力を見せてあげましょー」

 

 コハルは俺の腕を掴むと、グイグイ引っ張り込む。

 

「こっちはお祭りだよ、お・ま・つ・り! しめっぽいのはナシ!」

 

「ちょ、どこ行くんだよ」

 

「決まってんじゃん、射的!」

 

 連れて行かれたのは、教室の隅にある射的コーナーだった。

 

 コルク銃と、お菓子やオモチャが並べられた棚。

 コハルは受付の男子からコルク銃を受け取ると、俺の胸に押し付けた。

 

「はいコレ!」

 

「え、俺がやるの?」

 

「そ。トーマ、こういうの得意でしょ?」

 

「まあ、人並みには」

 

 子供の頃、夏祭りでフユミのために景品を取りまくって、テキ屋のオジさんに嫌な顔をされた記憶がある。

 

「じゃあ勝負しよっか」

 

 コハルはカウンターに身を乗り出し、一番上の棚にある特賞の景品――『特大うまい棒パック』を指差した。

 

「あれ、取って」

 

「あれを? ずいぶん安上がりなリクエストだな」

 

「いーの! 私が今食べたいんだから!」

 

 コハルは俺の隣に並び、挑発的に笑う。

 

「一発で取れたら、ご褒美あげる」

 

「ご褒美?」

 

「そ、ご褒美」

 

 コハルは人差し指を唇に当て、わざとらしく思案顔を作ったあと、俺の耳元に唇を寄せた。

 

「……ゴールデンウィークにシたこと、もっかいシたげる」

 

 ささやかれた爆弾に、俺の心臓が跳ね上がる。

 

「おっ、おま、まだ朝なんだぞ!?」

 

「あーっはっは、チョー受ける!!」

 

 コハルはイタズラ成功、といった顔でケラケラ笑っている。

 

 だが、それ以上に俺の闘志に火をつけたのは、彼女の瞳だった。

 

『まさか外さないよね?』

 

 そう語りかけるような、挑発的な瞳。

 フユミの湿度の高い瞳とは違う。カラッと晴れた夏空のような、直球の期待。

 

 ここで引いては男が廃る。

 俺の男は廃りっぱなしだが、今はそれを忘れる。

 

「わかった。一発で仕留める」

 

「お、言ったね〜! よっ、男伊達!」

 

 コハルが(はや)し立てる。

 周囲の女子ファンたちも、何が始まるのかと固唾を飲んで見守っている。

 

 俺はコルク銃を構えた。

 狙うは特大うまい棒。

 重心はやや高めにある。コルクの軌道は山なりになるはずだ。

 

 息を吐き、狙いを定める。

 

 喧騒が遠のく。

 視界の中心に、ターゲットだけが浮かび上がる。

 

 パンッ!

 

 乾いた音が響き、コルクが放たれた。

 

 

 

 

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