「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。   作:会澤迅一

82 / 82
第15話 ナツキとデート(前編)

 前回までのあらすじ!

 

 射的で特賞を当てた俺は、コハルからご褒美が貰えるらしい。

 

「ゴールデンウィークと同じことシてあげる。文化祭が終わったら……ね?」

 

 囁かれた爆弾と、耳たぶへのキス。

 

 教室を出て、俺は人混みの中を泳ぐように進む。

 行き交う生徒たちの笑い声、遠くから響く重低音、ソースの焦げる匂い。

 

 熱気は冷めるどころか、密度を増して肌にまとわりついてくる。

 

「ふぅ……」

 

 心臓は依然、早鐘を打っている。昂ぶる体温と浮遊感を、どこか他人事のように感じる。

 

 フユミとコハル。

 

 対極にある二つのエネルギーに浮かされ、俺の脳ミソは湯気を立てている。

 

 少し、頭を冷やそうか。

 そう思った俺は、人混みをかき分けて階段の踊り場へと向かった。

 

 俺は喧騒から逃れるように、渡り廊下へと続く階段の踊り場へと足を向けた。

 

 ふっ、と喧騒が遠のく。

 熱気も照明も、トーンが一段落ちた気がする。ヒンヤリとした静寂へ沈んでいく。

 

 踊り場には先客がいた。

 窓から差し込む光の中で、壁に背を預けている。

 

「おつかれのようですね、先輩」

 

 我が文芸部の後輩、ナツキ──冷水(しみず) 夏希(なつき)だった。

 

 手元の文庫本をパタンと閉じ、たたずまいを正す。

 黒髪のショートボブが、初夏の風に揺られて浮つく。

 

 校内アナウンスでの凛とした美声も記憶に新しいが、今のナツキはどこか気怠げでアンニュイな空気を纏っている。

 

「どうしたんだ、こんなところで。クラスの出し物は?」

 

「見ての通り、サボりですよ」

 

 ナツキは悪びれもせず、華奢な撫で肩をすくめた。

 

「私の仕事は開会式のアナウンスで終わりましたから。それに、私は幽霊部員ならぬ幽霊クラスメイトです。青春だの団結だのといった言葉を聞くだけで、蕁麻疹(じんましん)が出る体質なんです」

 

 言いながら、文庫本をスカートのポケットへ滑り込ませる。

 

 俺は思わず、苦笑交じりのため息をついた。

 

「ナツキ、よくそれで校内アナウンスなんて出来たな……」

 

「放送は機材という『機械』が相手ですから。それに、報酬としてアキハさんからエロゲ貰えますしね」

 

「白昼堂々エロゲって言うなよ……」

 

 仮にも花の女子高生が、清楚な美貌でなんてことを言うんだ。

 

「ふむ。先輩は『クラナドはエロゲっていうか人生だから』などとクダを巻くタイプの泣きゲー至上主義者ですか?」

 

「とんだ偏見と誤解だよ」

 

 ナツキの軽口は、いつも通りだ。

 そのいつも通りが、妙に懐かしく感じられる。

 

 そしてナツキの奴、さりげなくアキハ先輩のことを名前で呼んでるな……以前までは「木南さん」や「会長」と呼んでいたのに。

 

 あ、そう言えば。

 

「そう言えば、ナツキって何で上級生に()()付けしてんの?」

 

「建前上は敬意があるからですが?」

 

 飄々と言ってのけるナツキ。

 こいつ素で慇懃無礼なんだよな……。

 

「そうじゃなくて、なんで俺だけ先輩なの?」

 

「ああ、英語のミームのニュアンスを込めてるんですよ」

 

 英語のミーム……。“Notice me, senpai”か。

 

 英語圏のオタク界隈において、センパイというのは『恋心に気付いてくれない年上の想い人』というニュアンスで使われ

 

「えっ、あ、そゆこと!?」

 

 動揺した俺を、ナツキは真顔で見つめる。

 

「はい、そういうことです。好き好き大好き愛してます、やっと見つけた王子様、私が生まれてきた理由、それはアナタに出会うため」

 

「ガチ恋口上じゃねえか」

 

 予め覚えてきた台本を読み上げるような白々しさ。澄まし顔のナツキは俺から目を逸らさない。

 

 逸らせないのだ。

 ナツキは、なんでもないような表情とは裏腹に、耳も頬もリンゴ飴のように赤らめている。

 

「ということで、デートしましょう」

 

 言うが早いか、ナツキはするりと俺の懐に潜り込み、密着する。

 

 右腕に、柔らかな温もりが伝わる。

 小さく薄く細い肢体の頼りなさが、逆に俺の心臓を締め付ける。

 

 そんな俺の動揺を知ってか知らずか、ナツキは上目遣いで挑発的に微笑む。

 

「フユミさんもコハルさんもアキハさんも、今はお忙しいでしょうから。しばらくは私が先輩を独り占めしちゃいます。お嫌なら一人寂しく帰るので、是非おっしゃってください」

 

「嫌なわけないだろ」

 

「そう言うと思ってましたよ」

 

 ナツキは勝ち誇ったように、無邪気に笑った。

 先ほどまでのコケティッシュな雰囲気はどこへやら、年相応の少女の顔だ。

 

「では、行きましょう。ラブラブしましょう。イチャイチャしましょう。ゾンビ映画で真っ先に殺されるバカップルみたいに」

 

 ナツキは俺の腕をくいくいと引っ張る。ナツキとしては力を込めているのだろうが、素で弱すぎてあんまり引かれてる感じがない。

 

「なんなんだよその不謹慎な例え」

 

「最高に愚かで、最高に幸せで、私たちにピッタリでしょう?」

 

 したり顔のナツキは、それはそれは愛らしかった。

 

 

 ナツキと俺は腕を組んだまま、人の波を泳いだ。

 

 そこからの時間は、なんというか、「普通」だった。

 

 お化け屋敷――2年D組主催『戦慄病院』。

 

 ベニヤ板で作られた迷路の中、俺が「うおっ!?」と情けない悲鳴を上げる横で、ナツキは真顔で「ふむ」と呟いた。

 

「血糊の彩度が高すぎますね。酸化した血液はもっと黒ずみます」

 

「そこまで分析すんなよ」

 

「あと死体役の息遣いが大きすぎます」

 

「そこまで求めてやるなよ」

 

 お化け屋敷の後は、中庭の特設ステージ。

 

 お笑いライブが開催中だ。

 テレビでたまに見る若手芸人が、男子高校生たちにイジられながらネタを披露している。

 

「ふふっ。あのツッコミの間、絶妙に外してますね」

 

「手厳しいな、ナツキ」

 

「いえいえ、『テンポ感が悪いのが逆に面白い』という意味ですよ。……あははっ、今のボケはちょっと好きかも」

 

 ナツキは俺の腕にしがみついたまま、コロコロと笑う。

 屋台で買った大盛り焼きそばを半分こして、タピオカミルクティーを回し飲みして。

 

 他愛のないことで笑い合い、ツッコミを入れる。

 そこには、湿度も重力も、複雑な五角関係も無い。

 

 ただの仲の良い先輩後輩。

 あるいは、端から見れば『バカップル』そのものだったのかもしれない。

 

 あまりに自然すぎて、俺は忘れかけていた。

 この安らぎが、ゾンビ映画の序盤のような――破滅の前の静けさであることを。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【休載】好感度が見えても上手くいくとは限らない(作者:かませ犬S)(オリジナル現代/恋愛)

好感度が見えたら家族が崩壊した。そんな話▼※複数サイト様にマルチ投稿しております


総合評価:848/評価:7.05/連載:25話/更新日時:2026年05月06日(水) 07:04 小説情報

魔法少女世界で俺のエンカテーブルがクール系に偏り過ぎてるんだが(作者:TSから逃げるなぁぁ!!卑怯者おぉ!!)(オリジナル現代/冒険・バトル)

「大変だお前ら!魔物が現れ」「私には関係無い。」「騒ぎ立てる程の事ではないわ」「私が出る必要が無い…」「…………」「貴様に言われずとも分かっている!」「たぞああぁあああぁああッんああああぁあぁああ」


総合評価:829/評価:8.65/連載:6話/更新日時:2026年06月14日(日) 19:00 小説情報

数多の世界のヤンデレ親友とのバッドエンドを見届けた俺、全ての記憶を引き継いでもう一週……え?!バッドエンドの方の親友達も記憶引き継いでるんですか?!  (作者:ハンノーナシ)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

▼とある男、ライア・リーベルには愛する親友達が居た。▼個性的で、才能があって。▼そんな親友に囲まれた幸せな人生は、大人になるにつれ転機を迎える。▼親友達との才能の差、立場の差。▼そんな物がライアと、親友達さえ苦しめる。▼そんな些細な事から始まり、終わった『バッドエンド』達。▼ライアは過去に戻り、親友達を救う……。▼「えっ、別々の世界が過去に逆流した事によって…


総合評価:589/評価:7.91/連載:11話/更新日時:2026年05月31日(日) 20:49 小説情報

【完結】鶴が恩返ししないんだが(作者:エタリオウ)(オリジナル現代/コメディ)

生まれつき鳥に好かれやすい高校生・佐鳥鳳介の家に、ある雪の夜、一人の美少女が訪ねてきた。▼これはまさか、現代版・鶴の恩返し――?▼だが、その日を境に鳳介の日常は一変する。▼彼を守ろうとする謎の居候、距離感のおかしいクラスメイト、完璧すぎる幼馴染、そして彼の過去へ踏み込んでくる後輩。▼鳥に愛され、鳥に狙われ、鳥に振り回される。▼普通の高校生活を望む少年に襲いか…


総合評価:4472/評価:8.86/完結:17話/更新日時:2026年06月02日(火) 20:37 小説情報

火遊びはよくない(作者:竹藪焼けた)(オリジナル現代/恋愛)

金の絡んだ火遊びをするのが大好きだった一人の男が、大変なことになる話。▼


総合評価:1846/評価:8.89/連載:9話/更新日時:2026年06月14日(日) 23:05 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>