『刹那! トランザムは使うなよ!』『了解! トランザム!!』 作:とんこつラーメン
いきなり走り出したオールマイトの背中を追う形で、私たちも猛ダッシュ。
背後では、いきなり現れたオールマイトを探しているマスコミ連中がウロウロとしているが、そんなのは気にしない。
よく聞き耳を立てたら、私の事も探してるっぽいけど…んなことは知らん。
因みに、他のヒーロー達は私がぶっ飛ばしたヘドロマン(私命名)の回収を行っている。
傍から見ていると、ヒーローってよりは廃棄物処理業者みたいだ。
「さ…流石はオールマイト…足が速すぎる…!」
「全力疾走にも限度があるだろうがよ! ちゃんと法定速度守りやがれ!」
「生身で走るのに法定速度があるのだろうか…?」
でも、オールマイト程の速度ならば普通に適応されそうだ。
流石に緊急時は免除されるだろうけど。
「仕方ねぇ…刹那!」
「どうした?」
「テメェの事だ…もう使えるようになってんだろ! 個性!!」
「無論だ」
この言い方…もしかして?
「オールマイトが許可して、その本人がついて来いって言ってんだ。なら、ここで使っても問題ねぇだろ! 違うか!?」
「いいや…違わない!」
「え? かっちゃん? 刹那ちゃん? も…もしかして…?」
このままじゃ完全に見失う。
ならもう…使うしかないよねぇ?
「トランザム…発動!!」
「やっぱりぃぃっ!?」
個性を発動させ、勝己君と出久君の体を抱えてからの超全力ダッシュ!!
勿論、ちゃんと周囲には気を使ってコントロールしてるけど!
「う…うぉぉぉぉぉっ!? これが刹那ちゃんの全力ダッシュゥゥゥ!?」
「時間限定の全身体能力100倍化…直に体験するとよく分かる…! 超強個性じゃねぇか…!」
「余り喋っていると舌を噛むぞ?」
お客様、走行中の私語は慎んでくださーい…ってか?
別に何かを運転しているわけじゃないけどね。
「背中が見えた…あそこだ!」
「路地を曲がったぞ!」
「やっぱり…誰にも見られない場所に…」
ん? 誰にも見られない場所?
なんで、そんな所に?
ま…いっか。
今はとにかくダッシュあるのみ!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
つ…着いた…!
オールマイトと同じ方向に路地を曲がると、その奥で彼は腕組仁王立ちで待っていた。
流石はナンバー1…立ってるだけで迫力があるなぁ…。
「待っていたよ…と言いたいけど、思ったよりも早かったね?」
「また個性を使わせてもらった。あのままでは、あなたを見失いかねなかったからな」
「そうだったのか! いや…すまないね! こっちも慌ててたもんだからさ!」
慌ててたって…何を?
彼ほどの男が一体何を慌てると言うのだろうか?
「おい…刹那。そろそろ降ろせや」
「そうだな」
二人を降ろしたタイミングで個性のタイムリミットである5分が終わった。
と言っても、またすぐに使えるようにはなるんだけど。
「…本当に凄いね…君の個性は。同級生二人…しかも男の子を抱えた状態で私に追いつくだなんて…普通は出来るもんじゃないよ」
「まぁ…そうだろうな」
自分で言うのもなんだけど、この個性は明らかに普通じゃないからな。
なんせ、専門医すらも初見だったぐらいだ。
「そりゃ、こいつの個性は下手すりゃ、オールマイト級の超強個性に該当するしな」
「そうなのかい!? その…一応、念の為に教えて貰うことは…」
「別に構わない。他の者ならばいざ知らず、貴方ほどの人物に教えない道理はない」
ってなわけで、私の個性の説明タ~イム。
前にも説明はしてあるし、ここは省略してかくかくしかじか、かくかくうまうま。
「…というわけだ」
「五分間限定で自分の全身体能力を100倍にまで上昇させる…確かに、とてつもなく強い個性だ…!」
遂にはプロ中のプロからお墨付きを貰っちゃいましたよ。
どーしましょ。
「し…しかも! 刹那ちゃんは小さな頃からずっと個性の特訓をしてて、その一時間のタイムラグを徐々に短くしていってるんです!」
「本当かい!?」
「本当だ。でだな…それに関して、実は少し報告がある…」
「「「報告?」」」
これは言えるうちに言った方が良いだろうな。
二人は私の念願を知っているから。
「ついさっき…あのヘドロのヴィランをぶっ飛ばしたのが原因だと思うのだが…遂に個性のインターバルが目標時間に到達した…ようなんだ」
「なんだとっ!? じゃあ…もう…」
「あぁ…使える。1時間必要だったインターバルが60分の1…つまり、1分になった」
「えぇっ!? ほ…本当にッ!?」
「あれ程の力を1分で再使用出来るように!? そ…それは…」
小さな頃は目標として定めていた時間だけど、こうして達成してみて改めて実感する。
この個性の再使用時間が1分になる…それは相当にヤバい事なんじゃないかと。
努力の甲斐あって…と言えばそれまでだが、だとしてもチート過ぎる。
別に私はなろう系主人公になるつもりは無かったのに…。
「遂にやりやがったか…それぐらいじゃないと面白くねぇ!」
「さ…流石はかっちゃん…めげないどころか、逆に闘志を燃やしてる…!」
やっぱり凄いね、男の子は。
ちょっとだけ羨ましくなる。
「目標は高ければ高いほどいい…か。青春だなぁ~……うっ!」
「「「え?」」」
オールマイト…急にどうした?
いきなり胸を抑えたりして…。
「や…やっぱり限界だったんじゃ…?」
「ちょっと頑張ったんだけどね…流石にね…無茶しすぎたかな…?」
無茶って…一体何を…?
「丁度いいさ…この二人にも話したいと思っていたからね…」
「い…いいんですか? その…」
「構わないさ…君の大切な友人なんだろう? それに、彼らの強さもさっきたっぷりと見させて貰った。問題は無いよ…ぐっ…!」
「オ…オールマイト!?」
彼の全身から煙が出て…縮まって…いや、細くなっていく…!?
これは一体…?
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
数秒後、筋骨隆々なオールマイトはいなくなり、その代わりにガイコツみたいに細くなった男が目の前に立っていた。
「な…んだよ…こりゃあ…!?」
流石の勝己君もこれには驚きを隠せないみたいだ。
無理もないよ…私もマジで驚いてる。
「これが…今の私の本来の姿…トゥルーフォームさ」
「「「トゥルーフォーム…」」」
そんな、仮面ライダーのフォームチェンジみたいな言い方…。
そうして、私たちは彼の口から、この姿になった経緯を教えて貰った。
今から五年ぐらい前、とあるヴィランと戦った時の大怪我の後遺症が原因で、十全に個性が使えない体になってしまった事。
今では個性を使える時間は約三時間程度でしかなく、それ以外の時は基本的に今の姿になっている事。
「五年前って…アンタがそんな目に遭うような事件…知らねぇぞ…」
「それもそうさ。私の方から報道規制をして貰っていたからね。理由は…君たちなら分かるだろう?」
「あぁ…なんとなく…だが…」
ヴィラン達に弱みを見せない為…だろうな。
オールマイトと言えば、人々から『平和の象徴』とまで称されている人物。
彼のお陰でヴィランの犯罪発生率は年々低下の一途を辿り、その存在そのものが『犯罪への抑止力』となっている。
ある意味、私の中で最も『ガンダム』に近い男…!
「しかしね…私だって人間だ。いつまでも現役ではいられない。いつ日か必ず後継に全てを託して、引退をしなければいけない日がやってくる」
「そりゃ…そうだろうな…」
どんなに強い人間だって、老いには勝てない。
どこかで衰えは始まり、そこから徐々に弱体化していく。
それはオールマイトでさえも決して例外ではない…ということか。
「私はずっと探していたんだ…私の全てを…この『個性』を託せる…そんな人間を」
「個性を…」
「託す…?」
「それは…一体…?」
個性って…誰かに受け継がせたり出来るもんなのか?
今まで聞いたことが無いんだけど…。
「普通はそんなことは出来ないさ。でもね…私の個性には出来るんだよ…。自分の持つ力の全てを…別に誰かに受け継がせることを」
継承…それがオールマイトの個性なのか…。
今までずっと謎とされていたが、その答えが今…明らかになった…。
「一つずつ説明…して貰えるんだろうな…?」
「勿論だとも。その為に君たちを呼んだんだからね」
矢張りか…。
何となくもう分かった。
彼が何を考えているのか。
どうして私たちを…いや、出久くんを呼んだのか。
「この個性自体も、元々は私自身の物じゃない。これもまた、先代とも言うべき人物から聖火のように引き継いだものなのさ」
聖火ってよりは、私的にはマラソンのタスキを想像してしまったけど。
ここでそれを言うのは無粋か。
「誰かが力を培い、その力を別に誰かへと譲渡し、また培ってから別の誰かへ…。そうして、救いを求める人々の声と義勇の精神が連綿と紡いできた…力の結晶!!!」
受け継がれる力…結晶…。
これもまた…ガンダム…!
やっぱり…オールマイトもガンダムだったのか…!
「個性を譲渡する個性…それこそが、この私の持つ…受け継いだ個性…その名も…」
ワン・フォー・オール
(
名は体を表すとはよく言ったもんだ。
まさに『受け継ぐ個性』なんだな。
「受け継ぐ個性…そんなのが、この世に存在しているだなんて…。で…でも…どうして、そんな話を僕たちに…」
「んなの…話の流れ的に答えは一つしかねぇだろうが」
「相変わらず、変な所で鈍いんだな、出久は」
「え? えぇ?」
分からないのは本人だけってのは中々に面白い。
そんな顔をされると、ちょっとだけ悪戯心を刺激されますよ?
「その言い方…君たちにはもう、私が何を言おうとしているのか分かってるみたいだね」
「あぁ」
「当然だ」
「えー…?」
あぁ…こりゃ駄目だ。
今の出久くんは、典型的なラノベの鈍感難聴ハーレム系主人公になってる。
これはハッキリと言わないと駄目だわ。
「えーっと…そう言えば、まだ君たちの名前を聞いてなかったね」
「み…緑谷出久です」
「…爆豪勝己」
「藤原刹那だ」
ここまで話して、まだ碌に自己紹介もしてなかったってのは凄いな。
ある意味で私たちも鈍感だ。
「では改めて…緑谷少年!」
「は…はい!」
なんだろう…私の方がドキドキしてきた…。
顔には出さないけど。
「私のこの個性…受け継いでみないか?」
「……………………………はい?」
反応が遅い!!
どこぞの天狗のお面の人にビンタされちゃうぞ!?
「ど…どうして…ぼ…僕なんかに…?」
「そんなの決まってるじゃないか」
急に近づいてきて、オールマイトが力強く出久君の肩を掴んだ。
そして、彼の心にハッキリと響くように宣言した。
「君に…私が渡したいと思ったからさ」
「僕に…オールマイトが…?」
「そうさ。今日君と出会って、話をして、そして…さっきの事件。絶望の淵から立ち上がり、友の手を取り、勇気を振り絞って駆け出した…。今日の君は…あの場にいる誰よりも立派なヒーローだった!!」
「僕が…ヒーロー…?」
やっと気が付いたか…勝己君も言ってたけど、遅いんだよ。
私も彼も、ずっと昔から知ってたんだよ。
本当は君が誰よりも勇気を持つ男の子だってことを。
知らないのは、自覚が無いのは本人だけだった。
「その上で敢えて言わせてほしい。緑谷少年」
「は…はい!」
ここはちょっとオールマイトに便乗しましょうかね。
少しでも出久君の心を強く揺さぶるために。
「テメェは」
「お前は」
「君は」
「「「ヒーローになれる」」」
「………!?」
その瞬間、出久君は無言で涙を流しながら膝をつき崩れ落ちた。
ずっと誰かに言って欲しかったであろう言葉。
ずっと私たちが彼に言わなければいけなかった言葉。
ようやく…それが言えた。
随分と遅れてしまってゴメン…。
そして…おめでとう。