『刹那! トランザムは使うなよ!』『了解! トランザム!!』   作:とんこつラーメン

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強行軍だトランザム!

「思い切り泣いてスッキリしたか?」

「うん…うん…!」

 

 流石に声は挙げてなかったけど、それでも全力で泣いたせいか、出久君の目が真っ赤になっていた。

 ま、後で目薬でも差しておけばいいだろう。

 

「どうやら、今まで溜め込んでいたものを涙と一緒に全部出し切ったようだね。藤原少女の言う通り、とてもスッキリとした顔になっているよ」

「お陰様で…」

 

 ホント…ここまで長かった…。

 やっと、私達三人で歩いて行けるんだな。

 この日をどれだけ待っていたことか。

 

「さっき、緑谷少年にも言ったことだが、それは君たちにも言えると私は思っているよ」

「「え?」」

 

 私たちにもって…まさか?

 

「爆豪少年。そして、藤原少女。君たち二人も、間違いなく立派なヒーローになれる。この私が保証するよ!」

「立派なヒーローに…か…」

 

 あぁ…それは…ズルいだろ…。

 こんなのもう…グニャグニャだった決意が一気に固まっちゃうじゃん…。

 

「たりめぇだ。つーか、俺が目指すのは『立派なヒーロー』なんて曖昧なもんじゃねぇ」

「と言うと?」

「俺が目指してんのはただ一つ…誰にも負けねぇ、最強のナンバー1ヒーローだ! 当然、アンタもいつか超える!!」

「私すらも超える…か。いいじゃないか! 目標と言うのは高ければ高いほどいい! それぐらいの気概があってこそ若者と言うものだ!」

 

 勝己君は何と言いますか…こんな時もブレないねぇ~。

 まぁ…だからこそ『らしい』って思うんだけどね。

 

「それで…だ。私の個性を受け継いでくれるのはいいが、その前に絶対にやっておかなければいけないことがある。それは…」

「自分の体を鍛え上げて、個性を受け取れるだけの『器』を作り上げること…ですよね?」

「その通りだ、緑谷少年! 話が早くて助かる!」

 

 一度冷静になると頭の回転がめっちゃ速くなるのが出久君なんだよな。

 ある意味、私たちの中じゃ頭脳担当かもしれない。

 

「君のトレーニングに関しては私に任せてくれ! ほんの少しだけ時間を貰うが、必ず立派なトレーニングメニューを考えてこよう!」

 

 あのオールマイトの考えるトレーニングメニュー…か。

 ちょっとだけ興味あるな。

 

「ところで君たちは、どこの高校を受験する気なのかな?」

「いきなりだな。ま、俺は雄英のヒーロー科一択だ」

「ぼ…僕もそうです! というか、それしか考えてませんでした!」

「そうかそうか! で、藤原少女は?」

「私は…」

 

 高校受験…もうここまで来たら…答えは決まったも当然だ。

 というか、ここまでの短くも濃厚な出来事が、私の気持ちを完全に固めてくれた。

 

「私も…二人と一緒に雄英に行く」

「刹那…!」

「君なら、きっとそう言うと思ってたよ!」

 

 私の心を後押ししてくれたのが、この二人だってことは…今はまだ内緒にしておこうか。

 だって恥ずかしいし。

 

「正直言うと、最初は迷っていた。だが…勝己や出久を見ていて、オールマイトと実際に話をして…心が決まった。何より、二人が憧れて、ナンバー1が卒業したという学校に興味が湧いた」

「そうか…!」

 

 オールマイト…なんか、めっちゃ嬉しそうだな。

 別に、そこまで大したことじゃないだろうに。

 

「緑谷少年のトレーニングは私が行うが、君たちはどうするんだい?」

「こっちのことなら心配いらねぇよ。俺らは中1の頃からジム通いしてるし、刹那に至っては小1の頃から剣道をやってる」

「えっ!? 藤原少女って剣道やってるのかい!? もしかして…有段者?」

「あぁ。少し前に剣道二段になった。道場は中学卒業と同時に離れるつもりだが、剣道自体はこれからも続ける気でいる。いつかは一番上である八段を目指してみたいな」

「藤原少女が想像以上に金の卵だった!! これは本当に将来が楽しみだぞ!!」

 

 と言ってもな…目指すとは言っても、剣道八段になるには最低でも満48歳以上で、七段受有後に10年以上の時間が経過しておかなければいけない。

 ついでに言うと、八段の合格確率は驚異の1%未満。

 剣道界では最難関と言われ、うちの師範代でも七段で止まっている。

 それでも十分すぎる程に超絶凄いんだけど。

 

「君たちが通っているジムと言うのは、もしかしてあの『ヒーロートレーニングジム』かい?」

「そうだけどよ…知ってるんか?」

「勿論さ! 若い頃は私も毎日のように通っていたし、今でも有名なヒーロー達が何人もあそこで体を鍛えてるんだぜ!?」

 

 確かに、あそこにはテレビで見たようなヒーロー達をチラホラと見かけたことが有ったけど、そんなに凄い所だったのか…知らんカッター。

 

「どうやら、君たちに関しては心配は無用のようだね! じゃあ、私は緑谷少年を鍛え上げることだけに集中しよう!」

「お願いします!!」

 

 これは…私たちも負けてられないな。

 中学校生活は今年で最後だが、だからと言って気は抜けない。

 文字通り、最後の一瞬まで気合を入れて頑張ろう。

 

「緑谷少年…聡明な君ならば理解しているとは思うが、今から雄英受験までの間の期間…約10か月。この一年にも満たない短い時間で個性に耐えうる体を作り上げなければいけない。それは決して容易い道のりじゃない」

「分かってます。僕は余りにも遅れ過ぎた。今から刹那ちゃんやかっちゃんに追いつくためには、普通の人達の何倍も…何十倍も頑張らないといけない。それがどんな地獄のような道のりであったとしても…僕は必ずやり遂げて見せます!! もう二度と…情けない『デク』には戻りたくはないから!!」

 

 言うじゃないか…マジで見直したよ。

 今までに出久君とはまるで別人だ。

 これは本当に、これからの彼の活躍に期待だな。

 

「よく言った!! ならば、私も遠慮なく地獄の訓練メニューを作りあげようじゃあないか!」

「はい!!!」

 

 こうして、私達三人の最後の中学校生活…そして、人生で最初の試練が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 オールマイトとの出会いから一週間後。

 いつものように登校している…のだが…。

 

「…………」

「えっと…出久はどうしたんだ?」

「例のトレーニングが想像以上にハードだったんだと」

 

 ハードとな。

 確かにオールマイトは『地獄の訓練メニュー』と言っていたけど…こんな魂が抜ける程だったのか…。

 

「そのトレーニングの内容はなんなんだ? 言っても大丈夫なやつか?」

「え? あぁ…全然いいよ?」

 

 私の声で我に返った。

 流石に歩きながらの幽体離脱は感心しない。

 

「ほら、少し離れた所に海浜公園ってあるでしょ?」

「あぁ…大量の粗大ゴミが散乱している場所か」

 

 特殊な海流のせいで海外からの漂着物と言う名のゴミが流れついて、それにつけ込む形で遠くから不法投棄する不届き者まで現れる始末。

 そんなのか繰り返されていた結果、地元民が誰も寄り付かないプチ夢の島的な場所が出来上がってしまいましたとさ。

 私も、滅多なことじゃあそこには近寄らない。

 夜には馬鹿丸だしな不良グループがたむろしていると言う噂まであるしな。

 

「あそこのゴミを全部片づけて、あの区画一帯の水平線を蘇らせる…それが目標なんだ」

「あれをか…」

「成る程な。あそこにゃ多種多様のデカいゴミが所狭しと捨ててあるからな。どれもこれもが形が違うから、運ぼうとするだけで色んな場所の筋肉を使うことになる。確かに、良いトレーニングにはなるな」

 

 流石はオールマイトと言うべきか。

 街の美化をしつつ、出久君のトレーニングまでしてしまうとは。

 これこそまさに一石二鳥。

 

「タイムリミットは10か月って言ってたけど、実際にはもっと短いと思うんだ。最低でも入試一週間前に仕上げ終わるのが理想だろうし。そうなると、残りの日数は294日…筋肉の超回復とかを考慮すると二日ぐらいのインターバルを置くとして…」

 

 あらら…出久君がまた例のブツブツモードになっちゃった。

 一度でも思考の海に入ると、簡単には出てこれないんだよなぁ~。

 

「歩きながらブツブツ言ってんじゃねぇ。普通に周りから引かれてんぞ」

「え? あ!?」

 

 勝己君の言葉で我に返ったのか、出久君の顔が真っ赤になっていた。

 自覚があるなら、ちゃんと直そうね。

 

「そういや、この前やった模試の結果…どうだったよ?」

「私はA判定だった。勝己は?」

「俺も当然、A判定だったわ。デクはどうなんだよ」

「僕もギリギリAだったかな…本当にギリギリもギリギリだったんだけど…」

 

 ギリギリでもA判定なのは地味に凄くない?

 忘れがちだけど、出久君って頭は普通にいい方なんだよね。

 テストでもいつも平均点以上は普通に取ってるし。

 少なくとも、私は彼が赤点を取った所を一度も見たことは無い。

 

「ま、そっち方面じゃ特に心配はしてねぇよ。問題なのは、例の実技試験だからな」

「あれか…私もネットの噂や、前に買った雄英卒業生のインタビュー本で知った」

「僕も…勉強の合間の休憩がてらに少し調べたよ」

 

 詳しい内容は流石に伏せられていたが、雄英の実技試験は相当にハードらしい。

 人によっては、実技試験の内容を実際に体験して、その想像以上の壁の高さに絶望して心が折れてしまったとか。

 

「雄英高校…特にヒーロー科ともなりゃ、その倍率は軽く300を超えるらしいからな。多分、その倍率の異常なまでの高さの原因の殆どが実技試験なんだろうよ」

「敢えてハード過ぎる試験をすることで、受験生たちをふるいにかけているのだろう」

「中途半端な実力者が入学しないようにする為…か」

 

 雄英高校ヒーロー科の卒業者からは、一人の例外もなく全員がプロヒーローになっている。

 オールマイトは当然だが、ビルボード・チャート常連組の殆どが雄英高校ヒーロー科の出身者という凄いデータもあるほどだ。

 それ程までに、雄英高校ヒーロー科卒業という肩書は絶大な効力を持つ。

 

「どんな試験内容であろうとも関係ない。私たちは必ず共に合格し、一緒にヒーローになる…そうだろう?」

「たりめぇだ。んなこと今更言うんじゃねぇ」

「そうだね。その為にも、もっと沢山頑張らないと!!」

 

 因みに、私が雄英高校を受験したいと言ったら、マリナママは泣いて喜んでくれた。

 泣きながら私に抱き着き、何度も何度も頭を撫でながら『全力で応援する』と言ってくれた。

 流石はマリナママ…刹那ロールをしている私でさえも一発で魅了する包容力…。

 その後、シーリンそっくりマネージャーである根谷さんを誘って外食をした。

 何故か私…あの人にも妙に可愛がられてるんだよなぁ…。

 更に余談だけど、実は根谷さんは既に結婚もしていて、夫はあのクラウスそっくりな男の人らしい。

 この世界は本当に…私の知ってる人のそっくりさんだらけだ。

 だからこそ気に入ってるんだけど。

 

 

 

 

 

 

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