『刹那! トランザムは使うなよ!』『了解! トランザム!!』 作:とんこつラーメン
オールマイトと出会った日から、出久君は来る日も来る日も、晴れの日も雨の日も休まずに海浜公園のゴミと向き合い続け、それらを一つずつ確実に処理していった。
私たちも何度かそれを見守り、時には差し入れとかも持って行ったりした。
そして、時は経ち…雄英高校入学試験当日。
時刻…朝六時。
「終わったな…」
「チッ…遅すぎんだよ…クソデクが…」
私と勝己君の目の前には、文字通りチリ一つとして落ちていない、幼き頃に見たまんまの海浜公園が蘇っていた。
積み上げられたゴミの山の上で、全身汗だく状態かつ半裸の格好をした出久君が朝焼けに向かって咆哮を挙げていた。
「おいおいおいおいおいおいおいおい!! 私が指定した区画以外にまで手を伸ばして…マジかよ…! 本当にチリ一つとして無くなってるじゃないか!!! マジかよ!!」
私たちの隣に立っているオールマイトが、驚きの余り『マジかよ』って二回も言った。
重要なことだからなのかもしれない。
「本当の本当に…ギリッギリのギリッギリで仕上げて見せた…
本来ならばしなくていい場所まで片づけた。
それは彼なりの意地であると同時に、決意表明なのかもしれない。
「オーマイ…オーマイ…グッネス!!」
((オーマイグッネス?))
多分、私と勝己君は全く同じことを考えた…ような気がする。多分。
「あ…」
「デク!!」
出久君がフラっとなって落ちそうになった瞬間、オールマイトがマッスルフォームになって受け止めてくれた。
「お疲れさん! 本当によく頑張った!!」
「オールマイト…かっちゃん…刹那ちゃん…僕…出来た…出来ました…!」
凄いよ…出久君…本当に凄い…。
人生で初めて、君は君自身の手で未来を切り開いて見せたんだ。
これは冗談抜きで誇っていいことだ。
「ああ…驚かされたよ!! このエンターテイナーめ! いやはや…本当に十代って素晴らしい!!」
その発言は完全にオッサンだと言いたかったけど、流石に空気を読んでここは大人しく言葉を飲んだ私なのでした。エライ。
「ほら! これを見なよ!!」
「これ…?」
なんかスマホを見せてる?
私たちもちょっとだけ拝見。
「ここに写っているのは、今から10か月前の君さ。そして、今の君は…」
よく観察しなくてもハッキリと分かる。
今の出久君は完全に別人と化していた。
全身にしっかりと筋肉がついているし、腹筋に至ってはまさかのシックスパットだ。
まさか、あの出久君がこんな細マッチョになる日が来るとは思いもしなかった。
「ヘッ…俺や刹那に比べたら、まだまだだけどな」
「かっちゃん…」
「でも…ようやく、俺らの背中ぐらいは見えてきたんじゃねぇか?」
「まだ薄ぼんやりとだけどね…」
「たりめぇだ。たった10か月程度で、俺らの場所まで追いつかれて溜まるかよ」
私たちは10年。
出久君は10か月。
数字だけ見れば桁違いだが、その詰め込まれた努力の量と熱は決して引けは取らないと私は思っている。
彼の顔が、体が、その全てが物語っているから。
「爆豪少年の言う通り、ようやく入り口の蜃気楼がうっすらと見えてきた程度ではあるが…君は確かに器を成した!!」
器を成した…か。
出久君は見事に成し遂げて見せた。
ならば、今度は私の番だな。
(必ずや雄英高校に入学し、私はヒーローに…ガンダムになる…!)
私が『刹那』として生きると決めた時から考えていたこと。
この『世界』にも真の平和をもたらし、そして…。
(誤解無き相互理解…未知との対話…!)
遠い未来…必ずその瞬間は訪れる。
その為なら、私は名も無き礎でも…一向に構わない。
「なんか…ズルいな…僕は…」
「「ん?」」
「あ?」
ズルい? どこが?
「オールマイトに…かっちゃんに…刹那ちゃんに…ここまでして貰えて…僕は…余りにも恵まれすぎている…!」
やっぱり…その癖だけは治らないか。
無意識のうちに自分の事を卑下してしまう性格は。
気持ちは分からなくはないけど、今だけは心から自分を誇ってもいいと思う。
これは間違いなく、出久君の頑張りが成したことだから。
「いずれは、その泣き癖も直さないとな! それじゃあ…待ちに待った『授与式』だ!! 緑谷少年!!」
「は…はい!」
遂に、この時が来たか…!
出久君がオールマイトの個性を継承する瞬間が…って…ん?
気のせいか…なんか自分の髪を一本抜いてないか?
「これは、ある人物からの受け売りなのだが…最初から運よく授かった物と、認められて譲渡された物とでは本質が全く違う!」
確かにそうかもしれない。
それは歴代のガンダム主人公にも言えることかもしれない。
一見すると誰も彼もが偶然にガンダムと出会っているようにも思えるが、ガンダムはそんなに軽い存在では決してない。
ガンダムは…乗り手を選ぶ。
自分の相棒を…運命を共にする者を選んでいる。
あらゆる困難、あらゆる敵、あらゆる戦場を共に潜り抜け、勝利を分かち合う人間を。
正しき心を持つ者が乗ったガンダムは、常に世界の希望であり続けた。
だからこそ、人々はガンダムを受け入れる。
きっと、ヒーローの本質も同じようなものなのだろう。
私は…そう思った。
「よーく肝に銘じておくといい!! これは紛れもなく…君自身が君の手で勝ち取った力だと言うことを!!」
ここからようやく始まる。
私達三人の…夢へと向かう物語が。
「と言うわけで…食べて」
「「「…何を?」」」
「私の髪の毛」
「「「えぇ~…」」」
いきなりの超爆弾発言に、一気にさっきまでの感動が吹き飛んだ。
あぁ…感動系のキラキラトーンまでもが風に吹かれて消えていった…。
「ちょ…ちょっとマジで引かないでっ!? おじさん普通に傷ついちゃうから!?」
「いやだって…なぁ…?」
「いきなり『髪の毛食え』ってのは…ちょっと…」
「流石に引いたな…」
「いやいやいや! 別に私のDNAを体内に取り入れられるなら何でもいいんだけどさ! これが一番手っ取り早いかなって!」
だからって髪の毛食わせるか? 普通…。
「お…思ってたのと違いすぎる…」
だよね。私たちもそうだわ。
もっとこう…仰々しくて重苦しい雰囲気を想像してたわ。
因みに、この時点で入試まであと三時間だったりする。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「よし! ちゃんと食べたね! 髪の毛!」
「はい…」
あぁ…仕方がないとはいえ、本当に食べちゃった…。
衛生面とか大丈夫かな…。
「何にも変化とか見られないんですけど…」
「そりゃそうさ! まだ完全に消化しきれてないからね! ま、入試が始まる頃には実感も沸いていると思うよ」
「はぁ…」
それって本当にギリギリじゃないか?
なんか急に心配になってきた…。
「それと、これだけは言っておく」
「はい?」
「確かに『器』は成したが、それはあくまで急造品に過ぎない。まだ慣らし運転すらも出来ていない…ぶっつけ本番で起きるであろう肉体への反動は覚悟しておけよ?」
「反動…!」
そりゃそうだろうな…。
私達だって、最初から個性を十全に使えていたわけじゃない。
どんなことにも練習と慣れは必要不可欠なんだ。
「もう時間がないから、細かな説明は出来ないが…これだけは言っておく」
「な…なんですか?」
「私の個性…ワン・フォー・オールを使う時は、ケツの穴をグッと引き締めてから、心の中でこう叫べ!!! スマッシュと!!!」
「スマッシュ…!」
要するに気合でどうにかしろってことか。
まぁ、それはそれとして…。
「オールマイト。流石に私の前で『ケツの穴云々』というのはセクハラに該当するんじゃないんだろうか?」
「そうなの!? ご…ごめんね!? そういや、この場には女の子がいるんだった! もうちょっと言葉を選ぶべきだったね!」
本当にちょっとだけ抜けてるんだよなぁ…この人は。
お陰で一気に親近感が沸いたけど。
「おし! 終わったんなら、とっととデクの家に急ぐぞ!! もう入試まで時間がねぇからな!!」
「確かに。私がトランザムで抱えて運ぶから、その間に少しでも休んでてくれ。オールマイト」
「大丈夫! ちゃんと許可は出すさ! 遠慮なく行ってくるといい!」
「感謝する。では、急ぐぞ!」
「え!? ちょ…刹那ちゃ…」
「トランザム発動!!」
はい。今日最初のトランザム発動きました。
発動後の反動に関しては、こっちも今の所は気合で乗り切ることにした。
よくよく考えたら、一分ぐらいなら何とかなるかもしれないし。
「取り敢えず、家に着いたらデクはシャワー浴びて来い!! 普通に汗くせぇんだよ! そんなんじゃ中に入れて貰えねぇぞ!!」
「その間に私と勝己で鞄とかを準備しておく」
「わ…分かった! 二人とも、ありがとう!」
「まだ礼を言うのは早いぞ」
「とにかく今は急ぎやがれ!!」
なんとも慌ただしい入試当日だなぁ…。
けど、それもまた私達らしいや。
まだ朝も早いのに、すっごく楽しい気分になってるし。
この調子なら入試も上手くいくような気がする!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
走り去った三人の少年少女の背中を見届け、オールマイトは改めて綺麗になった海浜公園を見渡す。
「あの貧弱だった少年が…本当に変わったもんだ。きっと、これは背中を支えてくれた友人たちがいてくれたお陰かな…?」
どんなに強いヒーローでも、一人では戦えない。
共に戦う仲間が、友がいてくれるから、どんな恐怖にも、どんな敵にも立ち向かえるのだ。
それは、平和の象徴と言われたオールマイトでさえも例外ではない。
「緑谷少年…爆豪少年…そして、藤原少女…。あの子たちのような若者がいる限り、まだまだ大丈夫かな…」
彼ももう若くはない。
故に後進を育て、それに全てを託して自分はいずれ引退すべきであると考えていた。
だが、世に蔓延るヴィラン達がそれを許してくれない。
彼の力と志を継ぐ者が育つまでの間にも、ヴィランは容赦なく人々を襲い、傷つけていく。
だからこそ、彼はまだ立ち上がり続けなくてはいけない。
それがヒーローとしての彼の使命であり、望みでもあるのだから。
「希望の未来への萌芽は確かに育っている。あの子達三人を見て、それを確信した。私が引退する日も近くなってきたかもしれないな…」
あの三人ならば、これから先にどんな困難が待ち受けていても大丈夫だろう。
強き力、正しき心、無窮の絆がある限り。
「さて…そろそろ私も行くとするかな。次に彼らと会うのは…」
そうして、オールマイトも静かに去っていく。
これが今生の別れでないことを強く願いつつ、彼はトゥルーフォームに戻ってから、駐車場に停めてあった自分の車に乗り、どこかへと向かっていったのだった。