『刹那! トランザムは使うなよ!』『了解! トランザム!!』 作:とんこつラーメン
急いで出久君の家に帰って、彼をシャワー室に直行させた後に私達で制服やら鞄やらの準備を整えることで、戻ってきてすぐに出発出来るように全ての準備を整えた。
流石に着替える時は、私は部屋の外で待っていたけど。
別に私は気にしないけど、主に出久君の名誉の為に。
緑谷家を出てから、再びトランザムダッシュを使って地下鉄まで全速力。
お陰で、ある程度の余裕をもって電車に乗ることが出来た。
「ふぅ…取り敢えず、これで安心だな」
「は…早くも疲れた…」
「テメェがモタモタしてるかだろうが。お陰で、デクのお袋さんの方が口から心臓飛び出しそうな顔をしてやがったぞ」
確かに。
私の時は優雅に手を振って送り出してくれたけど、あそこまでバタバタしてたら、やっぱり親として心配なんだろう。
「まぁ…いい感じに体は温まった。お陰で、準備運動などをせずに実技試験に挑めそうだ」
「確かにな。一体どんな試験があるか全く分からねぇ。何が来てもいいように心の準備ぐらいはしておかねぇとな」
「そ…そうだね。噂じゃ、雄英の実技試験の内容って毎年ごとに変えてるって話だし…」
タダでさえ大きくて有名な学校だ。
過度な情報漏洩を避ける為にも、頑張って毎年毎年、試験の内容を考えているんだろう。
そう思うと、雄英の先生たちに無性に頭を下げたくなる。
「ところで、二人は少し前に別会場で行われた筆記試験は大丈夫だったか?」
「あれなら問題ねぇ。マークシートは全部埋め殺してやったわ」
「埋め殺すって…。僕もあれなら大丈夫だったよ。ちゃんと帰ってから答え合わせもして、合格ラインには到達してたし」
「私もだ。だが、流石は雄英だったな。筆記試験一つとっても、かなりレベルが高かった印象だ」
今思い出しても、あれは絶対に普通の高校入試で出すような問題じゃない。
だって、各教科に数問だけ、しれっと大学入試レベルの問題が混ざってたもん。
あれ絶対に正解出来ない前提で出してるでしょ。
ま、私は前世の知識と女の意地で答えて見せましたけどね?
「な…なんか…今から既に緊張してきたかも…」
「まだ雄英に到着もしてねぇのに何言ってんだテメェは…」
「出久。そんな時は深呼吸だ。ほら」
「う…うん…! ヒッヒッフー…ヒッヒッフー…」
出久君の天然ボケに、思わず私と勝己君が同時にズッコケそうになった。
本当に、この子は…!
「アホか! なにお約束のボケをかましとんだ! このヘタレデクが!!」
「出久…それは深呼吸じゃなくてラマーズ法だ…」
「え…あっ!?」
なんだろう…こっちの方が逆に心配になって来た…。
出久君の所のおばさんの気持ちが今になって理解できた気がする…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「「おぉ~…」」
「ここが…」
ここが…雄英高校…!
いやー…もう見た目からして最先端の学校って感じがしますね~。
というか、普通に校舎がデカい。
これ入学したら迷子になりそうだ。
「確か、貰ったパンフレットによると、まずは試験前に講堂で説明会があるらしいな」
「んじゃ、とっとと行くぞ。まだ時間に余裕があるとはいえ、遅く入って席に座れずに立ちっぱなしってのは勘弁だからな」
「そ…そうだね。じゃあ、急ごうか…あ」
ちょっと余所見した瞬間に、出久くんが自分の足に絡まってこけそうになってる。
仕方がないから手を出そうとした…んだけど…。
「あ…あれ?」
「またぞろ、なにやっとんだ。こいつは」
「浮いてる…?」
出久君の体が宙に浮いてる…。
これは一体…?
「大丈夫?」
「わっ!? えっ!?」
私たちに声を掛けてきたのは、なんかゆるふわな感じの女の子。
ここにいるってことは、彼女も私たちと同じ受験生なんだろう。
「はい。着地」
「あ…ども…」
「ごめんね? 私の個性で勝手に。でも、試験前にコケたりしたら縁起悪いもんね」
なんだろうか…出久君の顔が面白いことになってる。
こんな顔を見るのは初めてかもしれない。
「友人が迷惑をかけた。済まなかった」
「ううん。気にしないで。って…わー…カッコいい系の女の子だー…」
カ…カッコいい…。
昔からよく同性に言われてきた言葉…。
昔は余り気にしてなかったけど、流石に中学生ともなると少しは気になる。
可愛いでも、美人でもなく、カッコいい…。
これは果たして喜んでいいものなのだろうか?
「やっぱり、本番前は緊張するよねー」
「そうだな。だが、ここまで来たら、もうやるしかあるまい」
「へ…あ…えと…」
さっきから出久君の様子がおかしいのですが。
てなわけで、我らがかっちゃん、一発お願いします。
「なに呆けとるんだ、このアホは」
「うべ」
勝己君からの軽いチョップ。
これでようやく我に返ったようだ。
「それじゃあ、お互いに頑張ろうね!」
「あぁ…そうだな」
軽い会話の後に、女の子は講堂の中に入っていった。
「か…かっちゃん…刹那ちゃん…」
「「ん?」」
「僕…女の子と話しちゃった!」
「「…………」」
なーに言っとるんだ、この子は。
「…出久の中では、私は女子判定されてなかったのか」
「えっ!? い…いや違うよ!? 別の学校の女の子って意味で言ったわけで…」
「バカやってねぇで、俺らも行くぞ。マジで席取られちまうだろうが」
なんともグダグダな感じで、私たちも講堂に入っていった。
でも、一昔前までは、このグダグダすら無かったのだと思うと、なんだか感慨深かった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
講堂の中に入り、なんとかいい感じの席を確保。
三人並んで座って待っていると、講堂の真ん中にある発表台みたいな所に、一人の派手な格好の男性がやって来た。
あの人…どこかで見たことがあるような…?
『今日は俺のライブへようこそー! エヴィバディセイヘイ!!』
あかん…見事にシーンってなってる。
まるで擬音が形となって出てきそうなほどに。
「あれは…ボイスヒーローの『プレゼント・マイク』だぁ…! 僕、毎週ラジオを聞いてるよぉ…」
「うっせえ」
「あ…思い出した」
「「何を?」」
「私…前にあの人と会ったことがある」
「「どこで?」」
「母さんのコンサート会場で。あの人、どうやらウチの母さんの熱狂的なファンらしくてな。コンサートが終わった後に母さんにサインを強請っていた。その時、私は母さんと一緒にいたから、よく覚えている」
そうか…あの時の人だったのか。
まさか、ヒーローの中にもファンがいたとは…流石は自慢のマリナママだ。
「そうか…刹那のお袋さんは、音楽関係じゃかなりの有名人だったか…」
「僕も刹那ちゃんのお母さんのCD持ってるよ。凄くリラックス出来るんだよね。そっか…音楽繋がりで関係があったんだね…」
どうやら、あのプレゼント・マイクが今回の実技試験の説明をしてくれるようだ。
入学したら、あの人の授業を受けることになるのかな?
やっぱ担当教科は音楽だったり?
『入試要項通り! ここにいるリスナー諸君にはこの後すぐに! 10分間の『模擬市街地演習』を執り行って貰うぜ!! 道具などの持ち込みは基本的に自由! プレゼン後は各自、指定された演習会場へと向かってくれよな!!』
指定された会場へ…か。
確か私はC会場だったっけ。
「…成る程な。同じ学校の連中同士で下手に連携させねぇためか」
「そうか…。今回はあくまで『個々人の実力を測る試験』だから、連携とかされると評価できないんだ」
「恐らくな。それに、私達と同じように、同じ学校の者同士ならば、お互いの個性も知り尽くしている。一緒の会場にいたら無意識のうちにカバーをしてしまう可能性もある」
因みに、私たちはちゃんと周囲の邪魔にならないように、めっちゃ小声で喋ってます。
流石にそれぐらいの常識はあるでござるよ蒼月さん。
「ほら…あそこを見てみろ。私たちと同様に同じ制服の者同士で固まってる」
「あっちもだ。多分、毎年に渡って同じ学校出身者同士で結託しようって連中がいるから、今みたいになったんだろうな」
皆揃って考えることは同じってことか。
ある意味、当然ではあるけど…だからこそ雄英側もちゃんと対策を練ってくる。
これだけで私は雄英にいいイメージを持った。
『演習場にはそれぞれ『仮想
点数制…意外とシンプルなんだな。
けど…なんだ?
妙に何かが引っかかるような…。
『各々なりの個性で『仮想敵』を
今…何て言った?
『破壊』じゃなくて『行動不能』って言ったか…?
「おい…テメェら…今の聞いたか」
「あぁ…聞いた」
「行動不能って言ってたよね…『壊せ』とかじゃなくて」
意味合い的には同じかもしれないが、敢えて『行動不能』という表現をしたのには何か意味があるような気がする。
敢えて、ここで説明してない『最重要項目』を意図的に隠蔽している…的な?
「そういや、道具の持ち込みОKって言われてたけどよ、テメェらは何か持ってきたんか?」
「ぼ…僕は特に何も…持ってくる暇も無かったし…」
「私は一応、木刀を持ってきた」
「「木刀…」」
木刀と思って侮ることなかれ。
これは土産物屋で売ってるような玩具とはわけが違うのですよ奥さん。
私が持ってきたのは所謂『競技用の木刀』。
めっちゃ丈夫で、めっちゃ強力。
『勿論、他者への攻撃や妨害と言ったアンチヒーロー的な好意はご法度だからな!?』
そりゃそうだ。
ここでそんなことをすれば、即座に失格一直線だろう。
「すみませんが、質問をしてもよろしいでしょうか!?」
お? 急に誰かが手を挙げて立ち上がったぞ?
きちんと髪を整えている眼鏡君だ。
「委員長だな」
「委員長だね」
「委員長だ」
この瞬間、私たちの中で彼の渾名が委員長に決定した。
「このプリントには『四種の敵が』と記載されています! もしこれが誤字であるならば、日本最高峰である雄英における恥ずべき行為!! 我々受験者は規範となるヒーローの方々のご指導ご鞭撻を求めて、この場に集っているのです!!」
え? 四種? マジで?
「…あの眼鏡の言ってることはマジだ。ほれ」
「本当だ…」
勝己君が証明するように、自分のパンフレットを私たちに見せてくれた。
すると、そこには確かに『
(これは…どういうことだ? プレゼント・マイクの伝え忘れ? それとも本当の只の誤字?)
なんだろうか…この奇妙な違和感は…。
取り敢えず、今は話を聞くか。
『オーケーオーケー! 受験番号7111番くん、ナイスなお便りサンキュー! その四種類目の敵は、簡単に言っちまえば『
お邪魔虫…?
『ただ只管にリスナー諸君の邪魔をることにのみ特化した、各会場に一体ずつ設置してある所狭しとお暴れしているギミックにして動く障害物だ!!』
動く障害物…成る程。
倒しても良し、無視しても良しってことか。
だが…本当にそれだけか?
ただ邪魔になるだけの存在を、何の意味もなく配置とかするだろうか?
(何となくだが…今言った『お邪魔虫』には何らかの意図…いや、意味が存在している。それが何なのかは分からないが、こうして質問されて初めて説明をしたぐらいだ。絶対に普通じゃない筈だ)
恐らく、『お邪魔虫』の存在こそが今回の試験のカギを握っているんじゃないのか?
じゃないと、あそこまで『お邪魔虫』って言葉を主張しないだろう。
『俺からはこれで以上だ!! 最後にリスナー諸君に我が校の校訓をプレゼントしよう!』
校訓? そんなのもあるのか。
『かの英雄ナポレオン・ボナパルトはこう言った! 『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』であると!!』
ナポレオン…本当にそんな言葉を言ったのか?
少なくとも、歴史の授業じゃそんなのは習わなかったような気が…。
『
更に向こうへ…か。
この言葉…まさにガンダムだな。
『では諸君、良い受難を!!』
こうして、私たちの雄英高校実技試験が始まった。