『刹那! トランザムは使うなよ!』『了解! トランザム!!』   作:とんこつラーメン

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試験終了だトランザム!

 モニターの光量だけが周囲を照らす暗い部屋。

 そこで、多くの雄英の教師たちが試験の様子を窺っていた。

 

「おいおいおいおい! AとBとCの三つの会場で、あの0P敵(デカブツ)に真っ向から立ち向かっていく奴らがいるぞ!」

「ほぉ…?」

 

 各会場の光景が色んな角度から映し出されている中、つい先ほど出現した超巨大な0P仮想敵…通称『お邪魔虫』に、あろうことか真正面から向かっている三人の少年少女。

 他の受験生たちは我先にと逃げていく中、この三人だけが人の波に逆らって、目の前の圧倒的脅威に向かってひた走る。

 

「アイツを倒すことには一切のメリットは存在しない。それは先程の話でキッチリと明言してある。であるにも関わらず、この三人だけは一切の迷いなく立ち向かった」

「これが果たして自棄になっての蛮勇か、それとも全てを分かった上での勇気なのか」

「それは、これから分かるだろう」

「例え、どっちだとしても、アレに向かっていくことだけでも賞賛と評価には十分に値するがな」

 

 一見すると余りにも無謀。

 実際、逃げている受験生の何人かは、三人の事を呆れた顔で見ている者もいた。

 だがしかし、それとは逆に、そんな彼らに奮起され、彼らの背中を追うように逆走するものも少なからずいた。

 

「これは…!」

「あの三人を見て触発されたのか、同じように向かっていく奴らが増えたぞ!」

「言葉ではなく、行動で勇気を示す…か。これもまた、ヒーローとして必要な要素にして才能!」

「これは…決まったか…?」

 

 教師たち全員が彼ら三人に高い評価を下していく中、一人…どこかで見たことがあるような気がする『大柄な男』が、三人を応援するように拳をグッと握り締めていた。

 

(そうだ…それでいいんだ! 三人とも!! 君たちは今日この日の為に必死に努力した! 如何なる困難にも立ち向かっていくだけの勇気もある! 緑谷少年! 爆豪少年! そして…藤原少女! ここにいる教師たちにたっぷりと見せつけてやれ!! 君たちの決意と覚悟を!!)

 

 部屋の中が大いに盛り上がっていく中、モニターを見ていた一人…プレゼント・マイクが徐に大きな声を上げた。

 

「あ…あー!! 思い出した!!」

「いきなり大声を出すな。何を思い出したんだ」

「あの藤原ってリスナーの事だよ! 最初見た時から、どこかで会ったことがあるような気がしてたんだが…ようやく思い出した!」

「会ってたのか?」

「会ってた! めっちゃ会ってた! あの子…俺が超大ファンの世界的超有名ピアニストの藤原真理奈さんの娘さんだ!!」

「あぁ…お前が良く聞いてる、あの…」

「おう! 前にコンサートを聞きに行った時、その帰りにサインを強請ったことがあるんだけどよ…その時に真理奈さんと仲良さげに話してた中学生の女の子がいたんだよ!」

「それが、あいつなのか」

「あぁ! いや~…まさか、あの時の子が雄英を受けに来るなんてな~…。奇妙な偶然もあったもんだぜ…。しかも、あの子…バッリバリの武闘派じゃねぇか…」

「仮想敵の殆どを木刀一本で薙ぎ倒してるしな。そうじゃない時は素手だし」

「まだ個性を使った形跡はねぇし…個性無しでも、こんだけ強いって…」

 

 教師の一人が刹那の資料を見て静かに呟く。

 

「藤原刹那…個性『トランザム』…五分間だけ自身の能力を100倍にすることが出来て、その後は一分間のインターバルの後に個性の再使用が可能。しかし、インターバルの間は自身の能力が半分になってしまう…か」

「本当にスゲェ個性だよな…。一分間だけ能力半分ってのを含めても、明らかに規格外の個性だろ…」

「個性だけじゃない。この資料によると、あいつは幼少期から剣道場に通い、今は剣道四段の腕前らしい」

「有段者かよ!? 確かに今年は中々の豊作だけどよ…この子だけ明らかに他より頭一つ分以上に抜き出てないか?」

「個性もそうだが、幼い頃からの努力が実を結んだ結果だろう。優秀ではあるが、驚くほどの事じゃない」

 

 教師たちが色々と話す中、一人だけそれを聞きながら地味に冷や汗を掻いている者がいた。

 

(え…えぇっ!? ふ…藤原少女って、そんな有名人の娘さんだったの!? ぜ…全然知らなかった…。何回かセクハラ紛いの事をしてしまったの…お母さんに話してないよね…? 場合によっちゃ、私ってば一度家庭訪問した後に正式な謝罪とかしなくちゃいけない…?)

 

 今までの事を思い出し、急に胃が痛くなってしまうナンバー1であった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 僕が超巨大な0P敵に向かっていこうとした時、急に背後から声が聞こえてきた。

 

「ま…待って! 私も一緒に行くよ!」

「き…君はさっきの!?」

 

 それは、ついさっきまで背中を預け合っていた女の子だった。

 てっきり皆と一緒に逃げたんだとばかり…。

 

「もうここまで来たら、合格とか不合格とか関係ない! ここまで来て逃げたら最高にかっこ悪いし! それに!」

「そ…それに?」

「絶対に後悔すると思った!!」

 

 後悔する…か。

 確かに、そうかもしれないな。

 ヒーローには、例え負けると分かっていても立ち向かわないといけない時がある…って、テレビでオールマイトも言ってたし。

 

「ぼ…俺も行くぞ!!」

「「えぇっ!?」」

 

 彼女に釣られるようにやって来たのは、なんと…あの時の眼鏡の人!

 な…なんで!? これは普通に謎だぞっ!?

 

「そこの彼女の言う通りだ! ここで無様を晒して逃げるようならば…ここを受験した意味が無い!! それに…」

「「それに?」」

「俺が尊敬するヒーローならば、絶対に逃げたりしないと思った!!」

 

 そっか…そうだよな…。

 誰にだって、それぞれのナンバー1ヒーローがいて、その人に強く憧れを抱いている。

 それは決して僕だけじゃなかった…!

 

「な…なら! 二人にお願いしたいことがあるんだ! 頼めるかな!?」

「「勿論!!」」

「ありがとう! まずは…」

 

 こうして、僕は頭の中で即座に思い描いた作戦を二人に伝えたのだった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 あのデカブツを一撃でぶちのめすには、ゼロ距離からの最大火力をぶつけるしか方法はねぇ!!

 しかも、下から撃ったんじゃ駄目だ!!

 高くジャンプしてから、野郎の顔面に全力の一撃をぶちかます!!

 

「お…おい! どこに行こうとしてんだよ!? 出口はこっちだぞ!?」

「あぁ!?」

 

 急に俺の肩を掴んで振り返らせた野郎は、金髪のチャラそうな奴だった。

 なんかビリビリしやがるのは気のせいか?

 

「俺は最初から逃げるつもりなんざねぇ!! この手を放しやがれ!!」

「はぁ!? 逃げるつもりじゃないって…じゃあ…まさかっ!?」

「その『まさか』だ!! いいから放せ!!」

 

 ったく…もう残り時間も少ねぇってのに邪魔しやがって!!

 後で絶対に強制日焼けアフロヘア―の刑に処す!!

 

「なんだよ…それ…それ…!」

「ちっ! 段々とこっちに来やがっ…」

「最っ高にグレートでかっぴょいいじゃあねぇか!! コノヤロー!!」

「はぁ!?」

 

 グレート!? かっぴょいい!?

 いきなり何を言ってやがんだ!?

 

「おっし! 決めた!! 俺もおめぇについてくぜ!!」

「勝手にしやがれ!! 邪魔だけはすんじゃねぇぞ!! したらテメェを先にぶっ飛ばす!!」

「怖えぇ怖えぇ…けど! それぐらいじゃないと、あれには向かって行けねぇよな! 本当はかなり怖いけど!!」

 

 だったら最初から来ようとすんじゃねぇ!!

 言ってることが矛盾してんだよ!!

 

「おい。確かテメェ…電気を出す個性だったよな?」

「そ…そうだけど…俺の個性って教えたっけ?」

「さっき見た。で、おめぇが電気出せるんなら話は早えぇ。どこでもいいから、あのデカブツに触って、電気を流してから内部をショートさせろ。どーせ放電するだけで碌にコントロールは出来ねーんだろ? だったら、あのデカブツの中に思い切りぶちかましてやれや!! そうすりゃ、倒れることは無いにしろ、動きを止めることぐらいは出来んだろ!!」

「お…お前…俺の事を観察しすぎだろ…」

「ヒーロー目指すんなら個性の分析ぐらい出来て当たり前だろーがボケが!!」

「御尤もです!! すいませんでした!!」

 

 ったく…これで本当に雄英を受けに来てんのかよ…信じられねぇぜ…。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 私の真正面には、恐ろしく巨大な0Pの仮想敵が。

 うーん…見上げてるだけで首が痛くなってきますなー。

 

「デ…デケェ…!」

「怖気づいたか? 逃げるなら、まだ間に合うが?」

「お…男の言葉に二言はねぇ!!」

「言ったな? もう撤回は出来んぞ?」

「しねぇよ!」

 

 にゃっはっは…純情な男の子をからかうのは面白いの~。

 恐怖と恥ずかしさで面白い顔になってるし。

 

「で…実際問題、どうやってこいつを倒すんだよ?」

「個性を使う」

「個性って…お前の?」

「そうだ。別に温存していたわけじゃなく、予想以上に他の仮想敵が弱すぎて、使う機会が普通に無かった」

「素の身体能力でアレなのかよ…」

「鍛えてるからな」

「その一言で片付けられていい問題じゃないと思う…」

「そうか?」

 

 色々と言っても結局のところ、最終的にはレベルを上げて物理で殴るのが最強よ?

 オールマイトなんて、その理論の極致みたいな存在じゃない。

 

「藤原の個性ってどんなのなんだ?」

「時間が無いので詳しい説明は省くが、俗に言う『身体能力強化系』だ」

「能力強化…俺と似たような感じか…」

「そうなのか?」

「おう! 俺のは…そうだな。防御特化って感じだな! 詳しい説明は後でってことで!」

「了解した。では、これが終わったら改めてお互いに自己紹介でもするか」

「そうだな! はっ…来るぞ藤原!」

 

 切島君の言葉に視線を動かすと、0P敵がゆっくりとではあるが私たち目掛けて動き始める。

 あれはー…確実にこっちを狙ってますな。

 

「アイツの攻撃は俺が全力で受け止める! だから、お前はその隙に!!」

「奴を叩き斬る。任せておけ」

「頼んだぜ! おおおおおおおおお!!!!」

「これは…」

 

 切島君の体がまるで岩みたいになっていく…。

 これが彼の個性なのか…。

 だったら、こっちもちゃんとお披露目しないと失礼だよねぇ!

 

「トランザム…発動!!!」

 

 不思議だな…誰かと一緒ってだけで、心の奥底から力が湧いてくる!!

 木刀を握る手にも力が籠るってもんだ!

 

「な…なんだそれ!? 藤原の全身が真っ赤に光ってるっ!?」

「これが私の個性だ。だが、制限時間は五分だけだ。今は特に気にする必要はないがな」

「確かにな! じゃあ…いくぜ!!」

「了解!! 防御は任せたぞ! 切島鋭児郎!!」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 三人の男女が、それぞれに仲間に支えられながら強大な敵に立ち向かう。

 その光景を見て、逃げ惑っていた受験生たちはいつの間にか自然と足を止め、彼らの事を目で追っていた。

 

「飯田君!! 君の個性で僕の事を思い切り蹴り上げてくれ!! 遠慮はいらないから!!」

「任せてくれ!!」

「麗日さんは、着地の時のフォローをお願い!! 多分、攻撃後はそこまで頭が回らないから!!」

「うん!! 安心して体を預けて!!」

 

 自分に不足している部分を仲間との連携で補い…。

 

「超怖えぇ…超怖えぇ…けど…けど…ここで根性出さねぇと男じゃねぇ!!!」

「タイミングはちゃんと合わせろや!! バッテリー野郎!!」

「全然間違ってないけど、なんか複雑!!」

 

 利用出来るものは何でも利用し…。

 

「来やがれ!! このデカブツ野郎!! そんなので、この俺が簡単に潰れると思ってんじゃねぇぞ!!!」

「切島鋭児郎…お前の勇気…決して無駄にはしない!!」

 

 新たな友を得て、新たな絆と共に強大な障害へと立ち向かう!!

 

「緑谷君!!」

「爆豪!!」

「藤原!!」

「「「いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」」」

 

 違う場所…違う会場であるにも拘らず、三人は全く同じタイミングで飛び上がり、眼前の敵へと力を振るう!!!

 

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」

 

 その拳に『力』が漲り、その掌に『爆炎』が宿り、その剣に『光』が包まれる!!!

 全ての努力! 全ての苦難!! 全ての思いを!!! 今こそ…この一撃に!!!!

 

「SMASH!!!!!」

 

 粉砕!!!!!

 

「ブッ潰れろやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 爆砕!!!!!

 

「ライザァァ…ソォォォォォォォォォォォォド!!!!!」

 

 一刀両断!!!!!

 

 0P(ヴィラン)三体同時撃破!!!!!

 

 そして!!!

 

『終ぅ~了ぉ~!!!!』

 

 実技試験が…終わった。

 

 

 

 

 

 

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