『刹那! トランザムは使うなよ!』『了解! トランザム!!』 作:とんこつラーメン
恐ろしく濃密な波乱の入学初日が終了し、次の日から本格的に私たちの高校生活が幕を開けた。
「んじゃ、次の英文のうち、間違っているのはどれだ?」
まず、午前中は普通の高校でもよくある必修科目である基本五教科の授業。
因みに、今はプレゼント・マイクの英語の授業だったりする。
(なんと言うか…物凄く普通だな…)
正直、昨日の危うさが嘘みたいに、非常に普通の授業内容だった。
というか、この人って音楽とかじゃなくて英語の教師だったのか…意外過ぎて逆に面白い。
あの顔で実は家庭科の先生とかだったら、普段から可能な限り鉄面皮を貫いている私も爆笑していたかもしれない。
しかし…この人が英語だったら、相澤先生の担当教科は一体何なんだろう?
なんとなーくだけど、雰囲気的に国語とか? 後は歴史。
授業終了後、マイク先生からめっちゃ、お母さんのことについて聞かれまくった。
今度のコンサートも既に予約済みらしい。
すげーな…ウチのマリナママは…。
前にサインを貰いに来てた時も思ったけど、現役のプロヒーローにファンがいるなんて。
もしかして、私が思っている以上にマリナママの周囲って守りが盤石だったりする?
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午前の授業が終わると、当然だがお昼休みになる。
基本的に私たちのような生徒は校舎内にある大食堂で、クックヒーローと呼ばれているランチラッシュって人の一流の料理が食べられる。
これ全部、実は出久君のからの情報です。
私はあんまりヒーローには詳しくないからなぁ…。
ランチラッシュって人も初めて知ったし。
「待たせた」
「全然大丈夫だよ、刹那ちゃん」
「こんだけ込んでんだ。多少の遅延はしゃーねーだろ」
もう完全に幼馴染組三人で行動するようになっていて、今回も私の事を二人が待っていてくれた。
他の皆は先に席を確保しに向かって行ってくれている。
「刹那ちゃんは何を頼んだの?」
「唐揚げ定食だ。出久は?」
「僕は無難に日替わり定食。今日は焼き魚と納豆のセットだね。かっちゃんは?」
「俺は当然、激辛麻婆定食一択だ」
「相変わらずだな」
「だね…」
昔から勝己君は何故か激辛料理が大好きで、暇さえあれば自分でもよく作って食べてるんだとか。
勝己君のお母さんから良く愚痴のように聞かされてるから知ってる。
私も前に一度だけ食べたことがあるんだけど、これがまぁ辛いのなんの。
かなり長い間、ずーっと舌がヒリヒリしっぱなしでした。
出久君に至っては、牛乳を丸々一本がぶ飲みしてたしね。
「というか、ちゃんとあったんだな…激辛麻婆定食が」
「あぁ。正直、俺も見た時はマジで驚いた」
「だろうね…」
流石はクックヒーロー…。
ありとあらゆるニーズに応えられるようにしているのか。
なら、明日以降は私も、もう少し冒険してみようかな?
因みに、今日食べた唐揚げは冗談抜きで超絶品でした。
あのサックサクの歯応えと溢れ出る肉汁…あれをこれから三年間ずっと味わえると思うと、それだけでも頑張った甲斐があったかもしれない。
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昼食を食べ終え、その後にのんびりとしたお昼休みを終えると、午後からは…。
「わーたーしーがー!!」
誰もが皆、待っていたであろうヒーロー基礎学のお時間だ。
「普通にドアから来た!!!」
どうしよう…これ…ツッコんだ方が良いのかな…。
ごく普通の事を大声を出しながら主張して、オールマイトが入って来たんだけど…。
しかも、なんか派手なヒーロースーツを着た状態で。
「オ…オールマイトだ…!! すげぇや! 本当にここで先生をやってるんだな…!!!」
「しかもあれ、確か『
「が…画風が違いすぎて鳥肌が…」
画風が違いすぎるのはよーく分かるし共感もするけど、シルバーエイジとはなんぞや?
え? アルバトロ・ナル・エイジ・アスカのご親戚か何か?
あのコスを着ている状態のオールマイトは『VーMAX』が発動できちゃうとか?
だとしたら、もうあの人を止められる奴はどこにもいないでしょ…。
「ヒーロー基礎学! それは、ヒーローの素地を作る為に必要な様々な訓練を行う課目だ!! 当然、単位数も他の課目よりも遥かに多いぞ!!」
知ってまーす。
昨日、貰った書類に全部書いてあったからね。
マリナママと一緒に頑張って熟読しましたとも。
「早速だが…今日やることはコレ!! 戦闘訓練だ!!!」
「「「「戦闘…!」」」」
「「「「訓練…!」」」」
マジかー…最初から飛ばすねー。
それでこそヒーロー科…なのかな?
ちゃんと律義に手に『BATTLE』と書かれたカードまで持っちゃって。
あれも今日の為に用意したんかな?
「そして、それに伴って…こちら!!!」
お…おぉ?
オールマイトが手に持ってるリモコンのボタンを押したら、急に教室の壁の一部がせり出してきた?
すげー…ハイテクだー…。
近未来ーって感じ?
「入学前に君たちから送って貰った『個性届』と『要望』にそって特別にあつらえた…君たちだけの『
「「「「おおおおお!!!!」」」」
確かに私も雄英側に送ったけど…もう着れるの!?
っていうか、そんな簡単に出来上がるもんなの!?
プロの仕事ってスゲー…。
こりゃ、これからはコス制作の業者さんに足を向けて寝られないわ。
せり出してきた棚には、出席番号と思われる数字が書かれた袋が入っていた。
一応、私のはかなり詳細にデザインをして、それを専用のUSBに入れて業者さんに送ったんだけど…大丈夫だったかな?
私の理想通りのコスチュームになってるといいんだけど…ちょっと心配。
「これから男女それぞれに更衣室へと行き、それに着替えたら順次、グラウンドβに集合するように!!」
「「「「はーい!!!」」」」
「了解した」
皆の大声にかき消されて、私の了解は絶対に聞こえてなかっただろうなぁ…グスン。
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初日からやった個性把握テストのお陰で更衣室の場所は把握してある。
なので、ここまでは迷わず来ることが出来た。
これからは、ずっとお世話になる場所なんだろうな。
ちゃんと綺麗に使わないとな。
更衣室に入り、一番奥のロッカーを開けてから、私のコスが入っているであろう袋の中身を覗いてみる。
「…流石に、開けただけでは分からないか」
ちゃんと出して確かめてみないとね。
おぉ…ビニール袋に丁寧に梱包してある…。
この柄…そして、この色は…間違いない…!
「フッ…流石はプロだな。私の注文通りに仕上げてくれている」
私が注文したコスチュームは、物凄く簡単に説明すれば、機動戦士ガンダムOOのセカンドシーズンや劇場版で刹那が着用していた、ソレスタルビーイングの制服だ。
勿論、色は刹那のパーソナルカラーである青で。ちゃんと手袋も付属している。
今の私は男じゃなくて女だから、スメラギさんみたいに胸が出るけど、そこまぁ気にしない。
いつの日か、スメラギさんのように魅力的でセクシーな女性になれるように願いつつ、私の為だけに作られたコスチュームに着替えることに。
「サイズも合っている。申し分ない仕上がりだな。…ん?」
「ほわぁ…刹那ちゃん…スタイリッシュでカッコいいなぁ…」
「…そうか?」
そういう、お茶子ちゃんのコスも可愛らしくていいと思うんだけどなぁ…。
デザインもカラーも、本人に凄く良く合ってると思う。
「こんなことになるなら、ちゃんと要望を書いておけばよかったよ…。お陰で、パッツパツなスーツになっちゃった…たはは…」
「私は、とても動き易くていいと思うが。それに、良く似合っている」
「そ…そう? 刹那ちゃんにそう言われると…なんか照れちゃうね…」
同性なのに照れるとは、これいかに?
男の子から褒められたとかなら、まだ気持ちも分かるんだけど…。
うーん…乙女心は難しいですなぁ…。
「ほわぁ!? な…なにそれ刹那!?」
「ん? 芦戸三奈か。どうした」
「いやいやいや…どうしたじゃないから! 幾ら何でも似合いすぎでしょ…! めーっちゃ絵になる格好だし…。やっば…もしこれ、刹那が男の子だったら絶対に惚れてるわ…」
おいこらそこ。
しれっと、とんでもない爆弾発言をするんじゃありません。
確かにオリジナルの刹那はめっちゃイケメンだけどさ。
「いや…これもう性別とか関係なくね? そんなのを超越したカッコよさがあるんだけど…」
「褒めすぎだ。そういう芦戸三奈の格好も、良く似合っている」
「くぁー! ありきたりだけど、そんなセリフを素面で言えるところが刹那の魅力なんだよなぁ~!!」
「…そうか」
まだ会って少ししか経ってないのに、もう魅力に関して語られ始めてるんですが。
そんな言葉、今まで誰にも言われたこと…あるかもしれない。
私が覚えてないだけで…主に中学時代のクラスの女子や、後輩の女の子達とかから…。
「みなさん! お喋りはそこまでにして、着替え終わったら急いでグラウンドに向かいますわよ!」
「そうだったな。済まない、八百万百」
「分かってくださればいいのです…って、もう私の名前を憶えて…?」
「あぁ。昨日の個性把握テストの最中に全員分の名前は覚えた」
「あ…あの時に…!? 私たちが結果を出すのに必死だった時に…藤原さんは同時に私たちの名前を憶えてくださろうと…」
な…なんか八百万さんに感動されてるんですが…?
私ってば…何か変な事でも言ったかな…?
単純に、昔から暗記系の課目が得意だって話しなだけなんだけどな…。
結局、なんかワチャワチャしながら私たちは少し遅れて更衣室を後にした。
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廊下を走るのは本当は良くないことだが、今は時間が迫っているので特別に許して貰おう…というのは流石に烏滸がましいか。
ちゃんと後で素直に怒られましょう。
少し急いだお陰で、途中でちゃんと着替え終わった男子たちと合流し、そのまま一緒にグラウンドへと行くことが出来た。
「…それがテメェのコスチュームか」
「あぁ。勝己のは…」
なんつーか…凄く荒々しいコスですな…。
両腕にはデッカイ手榴弾が、腰にも小さい手榴弾があるし。
全身から爆発する気満々じゃありませんか。
「凄く『らしい』な」
「そういうオメェもな。無駄を極力省いた…そんな感じがする」
「誉め言葉として受け取っておこう」
実際には単なるコスプレなんだけどね。
けど、材質などは実戦を想定した本物だから大丈夫。
「うぉ!? 誰かと思ったら…藤原かよ!?」
「切島鋭児郎か……」
えっと…切島君は……ツッコみ待ち?
顔面には刺々しいマスクを着けて、上半身は殆ど裸…。
これ、場合によっちゃセクハラ認定されるよ?
筋肉を自慢したい気持ちは分からなくはないけどさ…せめて両腕ぐらいに抑えられなかったの?
初心な女の子とかには確実に毒だな…。
切島くん、割とイケメン側な顔してるし。
「…………いいんじゃないか。お前らしくて」
「その間は一体何?」
察しろよ。
私だって花も恥じらう女の子だぞコノヤロウ。
「成る程。藤原君のはまさに『スーツ』と言った感じだな」
「お前は…飯田天哉か?」
いやこれ…確かにこれは滅茶苦茶カッコいいけどさ…これはもう『スーツ』というよりは、完全に『鎧』になってませんかね?
でも…デザインはめっちゃ好き!
特に、その頭部を覆い尽くしているマスク!
ガンダムっぽくて超好みです!!
「なんと言うか…凄くいいと思うぞ。お前の個性に良く合っている」
「そ…そうか。一応、兄のコスチュームに似せて作って貰ったんだが…そうか…」
フルフェイスだから分かりにくいけど…もしかして照れてる?
というか、お兄さんがいたんだ…初めて知った。
飯田君は弟キャラだったのか。
「そう言えば、出久は…」
「デクなら後ろにいる」
「後ろ?」
勝己君に言われて振り返ると、確かに最後尾に出久君がいた。
多分、着替えるのに手間取ってしまったんだろう。
それにしても…。
(憧れと趣味が丸出しだよ…。けど、だから気に入った)
暗くて分かりにくいけど、それが君の求めた、君だけのコスチュームなんだな。
いいじゃないか…実に君らしくて。
「フッ…」
「どうした? 藤原」
「いや…これが『成長』と言うものか…と思ってな…」
「成長…?」
切島君は小首を傾げているけど…まぁ、流石に彼には分からないか。
こればっかりは、私と勝己君…幼馴染だけが分かることだから。
グラウンドへと向かいながら、これからの事に思いを馳せていると、先に到着していたオールマイトがこちらを見ながらいつもの笑みを浮かべていた。
「恰好から入るってのも意外と大切な事なんだぜ! 少年少女諸君!!」
グラウンドに到着するや否や、いきなりのご高説。
今日のオールマイトはいつにも増してテンションが高い気がするなぁ。
「自覚するのだ!!!! 今日この瞬間から、自分は…ヒーローなのだと!!」
ヒーロー…か。
この私が、本当に本気でヒーローを目指している…。
転生した直後からは考えられなかったな…。
「さぁ…始めようか!! 有精卵共!!」
けど、その表現は流石にどうかと思う。
有精卵て。
せめて『ヒヨッコ』辺りが良かったです。