『刹那! トランザムは使うなよ!』『了解! トランザム!!』 作:とんこつラーメン
チーム分けと最初の対戦相手が発表され、急に場に緊張感が走る。
それもその筈で、あのオールマイトの授業であると同時に、生徒同士による模擬戦を今から行うのだから。
ここにいる殆どの子達が人間相手に個性を使った事なんてないだろう。
それこそがこの世界の普通であり、常識なのだから当然なんだけど。
その『タブー』を自分の意思で破る。
例え、これがプロに認められた合法的なことだと分かっていても、今までずっと周囲の大人たちに『ダメ』だと言われ続けたことを行うのだから、それに対して緊張するなと言う方が酷だろう。
前にバルトフェルドさんも言っていたけど、人間とは往々にして『慣れる』生き物だ。
彼は言っていた。
戦場で初めて銃を持ち、人を撃ち殺した時は恐怖で夜も眠れなかった。
けど、上官に『すぐ慣れる』と言われて次の戦場に向かうと、確かに慣れていった。
どれだけ人を撃っても、もう体が震えることは無かったと。
きっと、実戦で個性を使うと言うことも同じなんだろう。
ここで少しでも『人間に対して個性を使う』ことに慣れさせるために、こんな授業内容になったに違いない。
じゃないと、いざ本番って時に『個性が使えません』ってのはお話にならないから。
実戦で震えあがっていたら、倒せる敵も倒せないし、救える人も救えない。
少しでも早く凶悪な敵を倒し、一人でも多く人々を救うために絶対に必要な事だ。
(まぁ…もう既に私は一度、人に向かって個性を使ってるんだけど…)
あれは…カウントされるのかな?
ぶっ飛ばしたヘドロ野郎は木っ端微塵になっても普通に生きてたけど…。
「敵チームは先に建物内に入って作戦を立てたり、セッティングなどを行うように!」
「その時間は?」
「五分だ! その後、ヒーローチームが潜入でスタートする。他の皆は建物の地下にあるモニタールームで観察を行うぞ!」
おぉ…流石は雄英高校。
ここの地下にそんな施設があるのか。
つくづく、ここって凄くお金を使ってるんだなぁ…。
「飯田少年と爆豪少年は、今回の対戦を通じて少しでも敵の思考を学ぶようにな! 今回のこれは限りなく実戦に近い模擬戦だ! 怪我を恐れずにガンガンやってくれ! とはいえ、流石に度が過ぎたら強制中断はするけど…」
「舐めんな。それぐらいの加減は流石に分かるわ」
「僕も…大丈夫です」
本当にいい目をするようになったな…二人とも。
さて…勝己君も出久君も、お互いの事をこれでもかと知り尽くしている。
そんな状態での初めての対戦…どんな結果が待っているのか、同じ幼馴染として少し楽しみですぞ。
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建物内。
敵チームSIDE。
建物の最上階。
そこにある偽物の核兵器を見上げながら、勝己と飯田は話し合っていた。
「幾ら訓練とはいえ、敵を演じることになるのは少し心苦しいな…」
「そればっかりは仕方ねぇだろ。大人しく諦めろや」
「まぁな。それぐらいは俺も分かってるさ」
装備の確認をしながらも、勝己はちゃんと飯田と作戦を立てている。
少し昔の彼からは想像も出来ない光景だった。
「まず、お前はここで核兵器の防衛に専念しとけ。遊撃は俺がする」
「いいのか? それでは爆豪君の負担が大きくなる気がするが…」
「これも仕方ねぇんだよ。よく考えてみろや。オールマイトが、無駄にあそこまで緻密な設定を考えてきたってことは、ここにある核兵器も『本物』であると想定して動けってことになる。ってことは、少なくとも核兵器があるこの部屋じゃ火器は絶対に厳禁ってことだ。そして、俺の個性は『爆破』。どう考えても俺はここじゃ戦えねぇ。爆破を使った瞬間、護ってる筈の核兵器に一瞬で引火しちまうからな」
「そ…そうか! なら、俺達が敵役になった時点でもう…」
「あぁ。お前が守りに、俺が攻めになるのは必然だったってことだ」
「凄いな…この短期間で、そこまで分析するとは…!」
「本気でヒーロー目指すんなら、これぐらいは当然だわ」
と言いつつも、勝己の頭の中では違うことが思い浮かんでいた。
(昔から頭の回転が速いデクなら、今の事も速攻で理解したはずだ。あいつも、前に出るのは俺だって分かってる筈。そして、あいつはいつも抱えてたノートに色んな事をメモしてやがった。その中には恐らく、俺の個性の特徴や弱点、俺自身の癖とかもあったに違いない。俺の考え、俺の動きは最初からお見通しであることを前提に動いた方が良いな…)
必死の努力の末に個性を得た出久を、もう勝己は決して見縊らない。
今の自分の前に立ちはだかる最大の壁と認識することにした。
「それと、この部屋にある瓦礫とかの邪魔物は今のうちに出来るだけ片付けとくぞ」
「麗日さん対策だな」
「あぁ。あいつの個性の発動条件は『触れる』ことだからな。どんなに小さな小石でも、個性を使った状態で触れて、投げれば、それだけで驚異的な投擲武器へと変貌する。無重力ってことは、空気の抵抗や重力の影響も受けないってことだからな。一度でも動き出したら最後、あいつが個性を解除しない限りは無限に加速し続ける。テメェだって聞いたことぐらいはあんだろ。宇宙空間で、とんでもない速度に達した一本のネジが監視衛星を一発でぶっ壊したって話を」
「聞いたことがある…! そうか…要するに麗日さんの個性とは、疑似的な宇宙空間再現能力ということか…」
「多分な。もしかしたら、外にある適当な物を浮かせて、それを伝って窓から奇襲…なんて可能性も十分に有り得る。だから、ここを守る時は上下左右、全ての方向に神経を集中させとけ。特に上下にはな」
「どうして上下なんだ?」
「…前に本で読んだことがある。人間ってのは狩りをする際に地上を走る生き物ばかりを追いかけていたせいで、空からや地中からの奇襲には、どうしても一瞬遅れちまうんだと。特に、上下からの同時攻撃は人間の距離感を惑わせちまう。そうなったら、こっちはもう防御も回避も難しくなる」
そう飯田に説明しながら、勝己は自分の足元にあるコンクリートの床を凝視する。
(もしも俺がデクの立場なら、絶対にこの床を下の階からぶち抜いての奇襲を仕掛ける。その隙に窓から、あの無重力女を突入させて核兵器を確保する。恐らく、俺と実際にぶつかった時も、あいつは俺に攻撃を仕掛けながらも、同時に天井を破壊するように動くはず。一発じゃない…少しずつ…少しずつ…俺に気付かれないようにしながら天井を崩していくだろう。問題は、俺がどのタイミングでデクの天井破壊に気付けるかだな…)
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同時刻 建物外。
ヒーローチームSIDE。
「…ってことを、きっとかっちゃんは考えている筈だよ」
「おぉ~…流石は幼馴染…」
出久の説明を聞き終えたお茶子は、素直に感動しながら小さくパチパチパチと拍手をしていた。
「それに…前に刹那ちゃんに教えて貰ったことがあるんだ」
「教えて貰ったって…何を?」
「戦いの心得…みたいなの。刹那ちゃんって剣道してるから」
目の前のビルを見上げながら、出久は拳を握り締める。
「『闘いとは合わせ鏡のようなものだ。自分の攻め手を自分ならばどう躱すか。更に先を読み、どう追い詰めるのか。相手に成り代わって己の事を完璧に見切ってみせた時、初めて勝利の女神は自分に微笑む』ってさ」
「す…凄い言葉やね…。流石は刹那ちゃん…」
剣道をしているのは本人から聞いたことがあるが、まさかそこまでストイックだったとは思わなかった。
個性を使ったスポーツが主流となりつつある現代で、未だに個性無しで武道を続けているのは非常に珍しい。
しかも、刹那は幼い頃からの努力の末に、ちゃんと段位まで獲得している。
その刹那の勝負に関する明言は、これ以上無い程の説得力を有していた。
「ほぼ間違いなく、僕はかっちゃんとぶつかることになるだろうし、それは向こうも承知しているだろう。だから、その隙に麗日さんは…」
「核兵器がある部屋に向かうんだね!」
「うん。でも、そこには間違いなく飯田君が待ち構えているに違いない。彼の機動力は驚異の一言に尽きるけど、室内じゃ全力は出しにくい筈だ。しかも、傍には防衛対象である核兵器もある。付け入る隙は必ずある筈だよ」
そう説明しながら、出久は以前に刹那の剣道の試合を見た時に彼女が呟いていた言葉を不意に思い出す。
『自分も人間…相手も人間…! チャンスは必ずある筈だ…!』
全く以てその通り。
この世に完璧な人間など存在しない。
人間である以上、必ずどこかに隙はある筈なのだ。
「一番いいのは、無重力の個性を利用して窓からの奇襲だけど…」
「今の私じゃ、ちょっとキャパが厳しいかな…」
「うん。別に無茶をする必要はないよ。それに、窓からの奇襲は向こうも警戒を強くしているだろうしね」
自分が考えていることを、勝己が考えていない筈がない。
身体能力や個性の経験値が劣っているのならば、自分たちは別の部分でそれを補って勝利を目指すだけ。
情報、作戦、地形利用。
使えるものは何でも使う。
爆豪勝己という人間は、出久にとってそこまでさせるだけの相手なのだから。
「とにかく、中に入ったら二手に分かれよう。一番最悪のパターンは、二人揃っての正面対決だ。そうなったらもう、僕たちに勝ち目はない」
「う…うん…! 正直、私も爆豪くんや飯田君に近接戦で勝てる自信は無いし…」
個性把握テストの時に見た、二人の圧倒的な運動能力。
唯一、自分が勝てたのがソフトボール投げだが、それも個性ありきだ。
素の身体能力では絶対に勝てない。
つまり、相手の攻撃範囲に入った瞬間に詰んでしまう。
「二手に分かれたら、自分たちの位置は逐一、この小型無線で伝え合おう。そうじゃないと連携も何もないからね」
「だね。問題は、どう勝つかだけど…」
「勝利条件は二つ。『核兵器を確保する』か、もしくは『対戦相手を確保する』かのどっちか」
「それって、この渡された『確保テープ』を巻き付ければいいんだよね?」
「一応ね。でも、かっちゃんや飯田君にこれを巻き付けられる未来が見えないよ…」
「私も…」
「それをするぐらいなら、最初から素直に核兵器の方を狙った方が良いと思う。制限時間は十五分…その間に核兵器の場所を見つけて確保しないといけない…」
「これって冷静に考えるとさ、ヒーロー側がすっごい不利だよねぇ…」
「かもね。でも、ヒーローってのは常に不利な戦いを強いられるものだって、前にオールマイトもインタビューで言ってたよ」
「そっかぁ…そうだよねぇ…。最初から敵が劣勢状態なら、ヒーローなんて必要ないもんね…」
「そういうこと。もうそろそろ時間だ。行こうか」
「うん! 頑張ろうね、デクくん!!」
こうして、雄英高校に入って初めての実戦、勝己と出久にとっても人生初めての真剣勝負が始まった。