『刹那! トランザムは使うなよ!』『了解! トランザム!!』 作:とんこつラーメン
「おいおい…マジかよ…!」
「二人して最初から飛ばしすぎだろ…」
こちら、地下モニタールームのせっちゃんです。
なんか後ろで皆が騒いでますが、実は私も全く同じ感想だったりします。
いくらテンションが爆上がりしてるからって、初っ端からここまでしますかね…。
牽制もジャブもあったもんじゃないな…こりゃ。
「爆豪少年の、人間の心理の裏の更に裏を突いた見事な奇襲! そして、それをギリギリの所で防ぎ、直撃を避けて見せた緑谷少年の反応速度! これは最初から怒涛の展開だな! おじさん、これが授業だと分かっていても普通に興奮してるよ!?」
あ…オールマイトのめっちゃいい笑顔になってるし。
これはあれですな。
もしこの場にビールとポップコーンがあれば、迷わず両手に持って観戦してますな。
だって、今のオールマイトの顔…完全に大好きな野球チームの試合中継を見ているお父さんそのものだもん。
テレビのチャンネルを独占して、子供のアニメタイムを妨害するまでがワンセットね。
因みに、私は別にアニメとか見ません。
そこまで興味とか無いし、現実にもっと凄いヒーローが一杯いるし。
「藤原少女はどうだい? 二人の幼馴染として」
「そうですね…」
正直な話、勝己君のあの奇襲攻撃を完璧に防いで見せるとは思わなかった。
仮に防御出来たとしても、少しぐらいはダメージを負うだろうと予想していた。
だが、実際に蓋を開けてみれば、完全に互角の膠着状態。
それだけ出久君が大きく、強く成長したって証なのか。
「…感動しています。あの二人が、こんな風になる日が来るとは思わなかったので」
「…そうか! 確かに、君からすれば、幼馴染二人の成長を形として見られるのは感無量だろうね!」
「えぇ…だからこそ、同時に私も負けてはいられないと言う気持ちにもなる」
「それでいい。その気持ちこそが大事なんだ藤原少女。君のそのストイックな精神は掛け替えのない財産だ。それさえ忘れなければ、君は必ず素晴らしいヒーローになれる!」
「はい…ありがとうございます」
なんかまたオールマイトに褒められた。
やっぱ、自身の後継者として選出した出久君や、そのライバルとも言うべき勝己君と一緒にいたことで私も色々と気に掛けられてるんだろうか。
あのヘドロ怪人を全力全開トランザムライザーしちゃったのが原因かなぁ…。
後で知ったことなんだけど、あれってしれっと新聞とかに載ってたりしたんだよね…。
流石に未成年だから名前はぼかされてたけど。
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・・・
・・
・
出久と睨み合いながらも、ほんの一瞬だけ通路の向こうに消えたお茶子の姿を確認した勝己。
それを見てすぐに首元につけてある通信機を使い、小声で三階にいる飯田に連絡をする。
(おい…聞こえるかメガネ)
(爆豪君か! 作戦はどうなったんだ!?)
(奇襲作戦自体は上手くいった。だが、攻撃は防がれちまった。今はデクと睨み合い状態だ)
(なんだって!? じゃあ…)
(あぁ。もう一人の無重力女がそっちに向かってる。戦闘力自体は大したことは無いが、かなりトリッキーな個性だ。油断すんじゃねぇぞ)
(分かっているとも! 彼女の個性は試験の時にたっぷりと見ているからな!)
(そうか。んじゃ、俺はデクの方に集中する。そっちは任せるぞ)
(了解だ! 健闘を祈る!)
(お互いにな)
通信終了。
話をしながらも、彼の目は一瞬たりとも出久から目を離していなかった。
「確保テープ…なんてもんは、俺らの間には不要だろ」
「そうだね。もし仮にこれを使って決着をつけたとしても、お互いに消化不良になるだろうし」
そう言うと、二人は揃ってポケットから確保テープを取り出し、それを同時に床へと投げ捨てた。
時間にしてほんの一瞬。
だが、何故かそれは凄くスローに見えた。
ゆっくりと…静かにテープが重力に従って落ちる。
それが床に触れた…瞬間。
「オラァッ!!!」
「おぉぉっ!!!」
まるで、それが合図だったと言わんばかりに、西部劇の決闘のように同時に飛び出し、互いの右腕をぶつけた。
その衝撃と炸裂音はビル全体に反響し、振動する。
「やるじゃあねぇか…! インパクトの瞬間だけ個性を発動させて負荷を最小限に軽減させてやがんな!!」
「まぁね! ゲームのコントローラーのボタンをイメージするようにしたら出来るようになったんだ!」
「ボタン長押しで長時間発動! 一瞬だけ押して個性も一瞬発動ってか!?」
「御明察…だよ!!」
更に追加で個性を発動。
パワーで一気に勝己を弾き飛ばそうとする。
だが、それもまた彼は読んでいたのか、押されると同時に自分からバックステップした。
「くっ…浅い!」
「避けるだけじゃ…終わんねぇぞ!!」
小さな爆破を利用して空中で態勢を変え、出久の顔面目掛けての横蹴り。
出久もまた、咄嗟に腕を縮めてからのガードで防ぐ。
間髪入れずに、そこから勝己の足を掴んでから、そのまま遠心力を使って投げ飛ばそうとする。
「こぉれぇでぇ!!」
「舐めんなぁぁっ!!」
勝己の体が床に激突する…その瞬間、まさかの方法でダメージを防いだ。
「おらぁぁっ!!!」
「いっ!?」
なんと、ぶつかる寸前に両手を頭の上に掲げ、個性による爆発を起こすことで全ての衝撃を相殺してダメージを見事にゼロに抑え込んで見せた。
「な…」
『『な…』』
(((なんちゅーやっちゃねん…)))
実際に攻撃した出久だけでなく、モニター越しに見ていたオールマイトと刹那も思わず関西弁になってしまうほどに驚き、思わず冷や汗を流してしまっていた。
「い…一体どんな反応速度をしてるんだよ…かっちゃん…」
「舐めんなっつたろーがよ。忘れたんか。俺が目標にしてんのは刹那だぞ。トランザム発動中のアイツなら、これぐらいは簡単にやってみせるわ」
「た…確かに…刹那ちゃんなら出来るだろうね…」
「だったら、俺もこれぐらいはやってみせなきゃ、一生掛かってもアイツに追いつけねーだろうがよ」
「ふふ…そうだね。僕らの幼馴染の女の子は…僕らの想像を遥かに上回るほどに強いから…」
「俺らも、この程度で満足しちゃいらねぇ」
立ち上がりながらも、二人はまるで普段と変わらぬ口調で話し続ける。
今が対戦中だと言うことを忘れてしまいそうなほどに平坦な口調だった。
「んじゃまぁ…」
「続きを始めようか!」
・・・・・
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・・
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こちら、再びモニタールームの刹那ちゃんです。
二人のさっきの攻防戦に目を奪われ、皆揃ってモニターに釘付け状態です。
「投げ攻撃を爆破で相殺って…どんな頭してりゃ、そんな発想に至んだよ…」
「緑谷ちゃん…大人しそうな顔をして、その内には熱いものを秘めていたのね」
後ろでは、上鳴くんがドン引きして、蛙吹さんが素直に感心していた。
だが、今の私にはそれ以上に気になることがありまして…。
「ん? あれ? 藤原…なんか顔が赤くねぇか? どうした?」
「切島鋭児郎か…いや…なんでもない。ただ…」
「ただ?」
「あの二人から、あんな風に言われたのは初めてでな…少し気恥しいと言うか…」
「そ…そうか…。てか、藤原を照れさせるって、何を言ってたんだ…あの二人…?」
うぅ~…私に声が聞こえてないと思って、好き放題言ってくれちゃって~!
幼馴染系ヒロインは負けヒロインなんじゃないのか!?
なんなのこの展開はッ!?
転生してから初めてなんですが!?
こんなにも恥ずかしい気持ちになったのは!!
「…………」
「な…なんだ…急に黙ったりして…」
「あ…いや…藤原って、そんな可愛い顔も出来たんだなって思って…」
「か…かわ…!?」
きゅ…急にいきなり何を言っとんのじゃ!?
この全身カチカチ半裸マンは!?
「刹那が普通の女の子してる…確かに可愛いかも…」
「つーか、それをストレートに本人に言う切島も切島だよな…」
「俺達は一体何のラブコメを見せられてんだ…?」
はいそこー! うるさいよー!
特に芦戸さんは、目をキラキラさせながらこっちを見なーい!
君が何を考えているのか、私のイノベイターアイは見逃さないよー!
「あの藤原少女が年相応の女の子らしく…う~ん! 青春だなぁ~!」
オールマイトもオールマイトで感動しない!
完全に発言がおじさんになってるから!
ほら、お茶子ちゃん達の方もちゃんと動き始めてるから!
てなわけで、現場にお返ししまーす!
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お茶子が三階に急いでいる最中、突如としてビル全体が大きく揺れ、同時に聞き覚えのある爆発音が聞こえてきた。
「今のは…爆豪君の個性による爆発!? だ…大丈夫かな…」
向こうの事は完全に出久に任せ、自分は目標である核兵器へと向かう。
相手の足止めと目標の確保。
どちらも重要なことに変わりは無いが、それでも相手が相手なだけに、出久の方が明らかに負担が大きいと思ってしまう。
「…早く私も上に行って核兵器を確保しないと! これ以上、デク君に負担を掛けてはいられない!」
焦りながら周囲を見渡すと、視界の端に上へと続く階段を発見。
お茶子は迷わずにそこへと向かい、足早に駆け上がっていく。
(もしかしたら、この階段に飯田君が待ち構えているかもしれない。だって、向こうは核兵器のある部屋で待機していればいいだけなんだから! その気になれば幾らでも罠も仕掛けられるし、奇襲もし放題! けど、私だって無策で走ってるわけじゃないから!)
必死に走るお茶子の手には、いくつかの小さなコンクリートの破片が握られている。
これは、彼女が出久と別れる際に密かに手に入れていた、勝己が破壊したビルの壁の欠片。
何かに使えるかもと思い、咄嗟に持ってきていたのだ。
(石の数は両手に三つずつ…合計で六つ! 長時間の浮遊は今はまだ難しいけど、一瞬足場にするぐらいなら大丈夫な筈! 使いどころを間違えないようにしないと!)
正面からの戦闘では飯田には絶対に勝てない。
ならば、どうやって勝ち筋を見出すか。
『戦闘』で勝てないのならば、『ルール』で勝つしかない。
それ即ち、迅速な核兵器の確保。
(ここが気合と根性の見せ時だぞ…私…!)
下の階で幼馴染同士の対決が繰り広げられている中、上の階では少女の孤独な戦いが始まろうとしていた。